ひねくれヒーロー
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愛する者に欺かれている方が、幸福である。
愛する者に欺かれている方が、時として真実を知らされるより幸福である。
——ラ・ロシュフーコー——
「両足と切り傷は大体治せたが・・・手のほうは時間をかけて治療することになった
・・・とにかく、目覚めてよかったわい」
かろうじて動かせた右腕を見てそう言った
顔周りに飛び散った血を、タオルで拭い取ってくれる
何から話せばいいのか、何がどうなっているのか
混乱しすぎて分らない
「お前さんは—そうじゃな、5日ほど昏睡状態でな
わしの知り合いの医療忍者に治療されてようやく落ち着いたんだ」
知り合いの、医療忍者?ツナデか?
「あとは、お前さんが何者なのかというのも知っておる
・・・のう、並行世界の人柱力よ」
「はぁ!?
ちょ、げほっぐぇっ・・・並行世界だと!?」
好々爺とした表情が一転、剣呑としたものに切り替わる
どういうことだ?何故俺が人柱力だということを知られている?
しかも並行世界?なんなんだ、ここはどこだ?
「お、おじえでくれ!
ごごはづき、月隠れの里、もじぐはぞの周辺だろうっ」
喉を痛めているからかろくな発音にならない
またもや血が飛び散り、それを拭ってもらう
「落ち着けい、体に障る
・・・ここは湯隠れの里にある湯治施設だ
御主がいう月隠れの里とやらは存在せん」
なんで湯隠れ・・・あぁ、覗きか変態仙人
布団の傍にあった水を飲ませてもらう
血が混じった嫌な味がしたが、幾分か喉の痛みが和らいだ
「・・・なんで、あんだはぞれを知っている?」
「五日ほど前、わしが山道にて倒れた御主を見つけた
パルコと名乗った九尾が、わしに全てを教えた」
パルコさん、貴方何をしてらっしゃいますか
自来也はまっすぐ俺を見て、5日前の出来事を語りだした
「わしは自来也といっての、物書きとして取材旅行をしておった
ここ湯隠れの里は良い観光地で、若いおなgげふん・・・インスピレーションを湧きたてる場所だ
しばらく通い続けた湯治場から、隠れた名店たるこの施設のことを聞いてのう
新たなネタを、と思い山道を勇み歩いておった
そしてわしは見た、鮮やかな金色の光が空間を引き裂いた瞬間を
金色の光が、炎で出来た卵を庇うかのように包み込んでおった
空間の裂目からは黒い禍々しい炎が、光を追いつめるかのように溢れ出た
裂目自体は直に消え去ったのだが、残りの黒炎は光に一太刀浴びせてから消えよった
そのうちに光は狐の姿をとり、わしに気づいて交渉を持ちかけた
もはや息絶える寸前の者の願いを切り捨てるほど、冷酷ではないんでの
わしはパルコの願いを聞き入れ、引き換えに知識を渡された」
喉が渇いたからか、それとも、次の言葉に悩んだためかここで自来也は言葉をつぐんだ
「・・・知識?」
「うむ・・・
日の国、太陽教、地下神殿、そして・・・暁のことだ
お前さんが人柱力で虚弱体質だということも教えられた」
「・・・炎の、卵っで?」
「お前さんにはパルコの2本の尾が入っておる
そのうちの一本が防衛機能として作りだしたのが炎・・・そうじゃの、狐火、とでも言おうかの」
もう一つは生命維持に使われておる
遠い目をしながら説明される
思わず右手で腹を撫でた
・・・命が助かったことよりも、それに対する謝罪よりも先に思い浮かんだのは疑問
何故、と声に出さず呟く
答えは返ってこない
「・・・パルコはの、こうも言っておった
あまりにも不憫だったのだと、思わず憐れんでしまったのだと、な」
思考が停止した
憐れみ?
あぁ、そうだな、いつだってあいつは俺をひ弱だの、未熟だの、可哀想だのとのたまいやがる
そうか、不憫か
不憫な境遇になったのはてめぇの存在だと知ってて抜かしたか
自来也の目が、ひどく冷めたように見えて、哀れんでいるようで憤った
「・・・見返したいか?」
自来也の手が俺の目を覆った
じんわりとした暖かさが体に染み渡る
何だろうこれは、どこかで感じたことがあるのだけれど分らない
「今までチャクラが扱えなかったそうだの
しかし、パルコのチャクラがお前に力を与えた
これからわしが修行を見てやる、パルコの巫子よ、忍者になれ」
思わず涙があふれた
大声で泣きわめくことはなかったが、それから小一時間は泣き続けていたと思う
泣き疲れて眠るころに俺はぼんやりと誓った
パルコの守りが、狐火が必要ないぐらい強く生きよう
チャクラが使えなくても、忍者になれると、証明して見返してやろう
眠りに落ちた時、金色のお日様が笑った気がした
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