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エクシリアmore -過ちを犯したからこそ足掻くRPG-

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第三十話 再会と笑顔

/Victor

 教会の外に出た。雪が一面に降り積もっている。雪か。源霊匣(オリジン)が普及した後でも、エレンピオスではあまり見られない天候だった。

 と、ゆっくりもしていられない。プレザとアグリアが出て来てしまった。
 静かに、音を殺して、建物の陰に回り込んで隠れた。

 別にベッドのある部屋でもよかったんだが、あそこはいつ誰が襲げ――もとい訪れるか分からないからな。

 長く息を吐き出した。白い呼気が風に流されて消えた。

 ジュードを無関係者にした責任だと思って、今日まで断界殻(シェル)を壊すために動いてきたが。

 手袋を外す。透けている。
 はは、我が手ながら不気味なものだ。この分だと服の下もどうなっているか分かったもんじゃない。

 ――正史世界で同じものは同時に存在できない。断界殻の向こうには〈俺〉と〈妖精〉がいる。断界殻が消失してエレンピオスと完全に繋がれば、私とフェイリオは消滅する。

 それ以上に、〈オリジンの審判〉だ。
 こちら側には豊富に〈道標〉がある。少なくともウィンガルとミュゼを殺せば〈ロンダウの虚塵〉と〈マクスウェルの次元刀〉は手に入る。それをあちら側に渡すことができれば〈審判〉の勝率は跳ね上がる。

 ――だが、こんな形だけの審判に勝って何になる?

 クロノスのことだ、どうせまた〈オリジンの審判〉に似た試練を用意するに決まってる。
 奴らが言う「ヒトの価値」とやらを奴らが納得できるまで。人類は精霊に弄ばれ続ける。

 ならいっそリーゼ・マクシアは閉じたままに、ここだけを人の棲み処にしてしまえばいいんじゃないか?
 人と精霊を完全に分断すれば、ずっと楽に生きていける。リーゼ・マクシアは〈審判〉の結果いかんによらず維持されるんだ。





/Alvin

 俺の正面にはプレザとアグリア。俺が用があるのはプレザのほう。

 ヴィクトルに「言いたいことは言える内に言わないと後悔するぞ」なんて脅されて声かけに来たはいいものの、何から言えばいいやら。

「あ~……なかなか縁切れねえな、俺らも」
「そうね。私としては、さっさと切れてほしいんだけど」

 まあ、こういう答えになるわな。えーと、他に話題、話題……

「――ジャオは」
「死んだわよ。あの状況から生還できると思う?」

 だよな。

「聞いたぜ~。あのヌイグルミのガキを庇って死んだんだってな~。マヌケのおっさんに似合いの死に様だぜ」

 その笑い方やめろよアグリア、気色わりぃ。

 この場にエリーゼがいなくてよかったぜ。あとイバルも。エリーゼが聴いたら確実に気に病んで面倒になったろうからな。

 傭兵にせよ正規兵にせよ、戦場にいりゃあ必ず知り合いの死に目を見る。カナシイかとかツライかとかは訊くだけ無駄だ。けどこいつは――プレザは、こっから曲者揃いの四象刃(フォーヴ)の舵取りを独りでやってくんだよな。

 特に俺が何か言えるわけなんてねえ。二重、いや、三重の意味で。
 分かってる。でも、でもよ。

「プレ――」
「似合いの死に様とは何じゃ。若い娘があまり汚い口を利くもんではないぞ」

 プレザもアグリアも凄まじい勢いで後ろをふり返った。
 おいおい、冗談だろ?

「ジャオ!?」
「オッサン生きてたのかよ!」
「この世に未練がたっぷりあるでの。そこなマクスウェルに命を拾われたわい」

 ジャオが指したのは呑気にヴィクトルんとこに行くフェイ。いや無事だったのは俺も嬉しいんだけど。何なのあの「最初からいました」感。なじむの早すぎね?

「あー…ジャオ。そのマクスウェルのことなんだけど……」

 分かる。すっげえ分かるぞ、プレザ、その迷い。俺でさえどー説明していいか分かんなかったんだから。

「はあ。もう。そのことも含めて説明するから、とにかく陛下にご報告しましょ。アグリア、貴女もいらっしゃい」

 プレザたちは教会に入って――いくってとこで、プレザがジャオをふり仰いだ。

「ああ、そうだわ。――お帰りなさい。また会えて嬉しいわよ」

 ジャオが福福しく笑い返した。
 今度こそプレザたちはぞろぞろと教会の中に入ってった。

 さっき、プレザ、笑ったよな。愛想笑いじゃなくて、本心からだったよな。

 よかった。
 お前、今笑えてるんだな、ジル。

 ああ、きっと俺今すっげえ締まんねえ顔してる。でもさ、本当によかったって思ったんだ、思えたんだよ。
 俺が裏切って俺が傷つけた女。俺を初めて心から愛してくれたリーゼ・マクシア人。

 俺に安心する資格なんてねえって分かってるさ。けどどうしても、嬉しい。笑ってるお前を見れたのが。お前に居場所があるのが。

 このろくでもない世界にも神様とやらがいるんなら、今だけ礼を言ってやる。
 ジルを見離さないでくれて、ありがとう。





/Victor

 俺は今初めてフェイリオを見ている。ラルの写し身ではない、エルの妹ではない、「俺の娘」のフェイリオ。

 眩んでいた視界がクリアになっていくのが分かった。徐々に輪郭を明瞭にしていく娘の姿をつぶさに見る。

 瞳の色。昔ラルとエルが口を揃えてヘリオロープだと言った。菫よりもっと薄い紫色。姉妹でもエルとは真逆。
 髪が長いのだって、きちんと伸ばしたわけじゃなく、伸ばし過ぎた髪を適当にザクザク切り落としただけだ。証拠に毛先は見事に傷んで跳ねてしまってるじゃないか。
 ああ、肌の質もエルより白いんだな。触らずとも分かる。色も凹凸も光の当たり具合も。ずっと軟禁されていたんだ、青白くて骨張った皮膚になってもしょうがない。今はスレンダーのおかげで巫女装束がサマになっているが。

 何だろうこれは。フェイリオのことなのに。ラルを奪ったとあんなに拒んでいたフェイのことを考えているのに。

 これじゃ私がただの父親みたいじゃないか。

 なれるのか、私が? 憎み拒み、ラルの身代わりに求めた、そんな私が。今さらフェイリオの父親になれるのか? なっていいのか?

 フェイを見返した。その目が、待っていると伝えてくる。私のほうからの言葉でなければ、この最後の距離はゼロにならない。

「おかえり、フェイ」
「……うん。ただいま、パパ」

 フェイリオは泣きそうな顔でくしゃりと笑った。


「まぎれもなく父娘の感動の再会ですな」

 この場にいるはずのない声に反射的に身構え――アルヴィンともども揃って大口を開けた。

 声をかけてきたのは、ラ・シュガルでクレインのそばにいるはずの、ローエンだった。

「ラ・シュガルが仮の王、クレイン様より言いつかり、ガイアス王と四象刃の方々、そして皆さんを迎えに上がりました」

 ローエンは恭しく礼をし、あのかくしゃくとした笑顔を浮かべた。 
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