| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

剣の世界で拳を振るう

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

SAOの終演

「てあぁ!」

戦闘を開始してすぐ。
俺は一直線に北見へと走った。

「遅いよ拳士君!」

「リアルネームで呼ぶんじゃねぇよ!」

北見の外見は運動不足な体をしている。
いったいどこにそんな力があるのか、俺の攻撃は全て止められる。

「やあっ!」

その背後からアスナがレイピアで何度か打ち込んだが、HPにはなんら変化も現れず、
振り返り様に振るわれた裏拳がアスナを打ち飛ばす。

「スターバースト・ストリーム!」

キリトは双剣の最高スキルである、《スターバースト・ストリーム》を放った。
しかし一撃目が当たる瞬間、北見はキリトの後ろに消え、背後から殴ってキリトを攻撃した。

「何なんだあいつは!」

「見りゃわかんだろ!マナーも糞もないチートのオンパレードだ!
無理ゲーにも程があるだろが!」

飛んできたキリトを受け止めて北見を警戒する。
その北見は――

「ふっ!」

一瞬の間に俺の目の前まで走ってきて、ローリングソバットを腹に食い込ませた。

「がはっ!?ぐっ…んなろぉ!」

苦し紛れに拳を振るうが、やはり当たる前に移動されてしまい、空を切った。

「くっそ…ウェスカーじゃあるまいし!
調子に乗んなよこらぁ!」

俺は敏捷にものを言わせて突っ込み、北見の腹部目掛けて肘打ちを仕掛ける。

「伯打張肘!」

「おはぁ?」

やった!

「ぐあっ!があっ!?」

そう思ったのもつかの間、北見は対してダメージが無いようで普通に反撃をしてきた。
顔面を殴られた俺は地面を転がって壁に激突する。

「アスナ!」

「うん!」

キリトとアスナが北見を左右から攻撃しようと突貫する。

「旦那!俺らも!」

「おう!」

クラインとエギルも武器を構えて突貫し、気合いを入れて切り裂いた。

「わはははは!脆い!脆いぞ諸君!」

先程と同様、ダメージなど最初から無かったかのように反撃し、
攻撃した4人は吹き飛ばされて壁に激突した。

「ヒヒ…あはぁ……」

涎を垂れ流し、目は重点を示さない。
まるで薬をやっているやつらのようだ。
しかし、攻撃が通らない状態でダメージなどは無縁の状態。
そんな奴にどう対処すれば良いんだ……?

「休んでて良いのかなぁ?」

「なっ!?があっ!」

俺は思考の最中に後ろから地面に叩きつけられた。

「ケン!ちくしょぉ!」

そこへ追撃をさせないとばかりにキリトが斬りかかる。
しかし、キリトは一瞬で北見を見失い、何処に行ったと辺りを見回す。

「キリト君後ろ!」

そんなキリトを見てアスナが叫ぶが遅かった。

「1人脱落ぅ…ひはぁ!」

北見は腕を横凪ぎに振るい、キリトを殴り飛ばした。
飛んでいくキリトはただ勢いに乗って壁に向かって行く。

「キリト君!」

キリトが壁にぶつかる寸前にアスナが抱き止め、勢いを殺してダメージをなくす。

「てめぇぇ!」

クラインがキレて刀を振り上げ、ソードスキルを打つ。
しかし、北見の体に当たった瞬間に衝撃波の様な者で弾かれ、エギルが居るところまで押し戻された。

「こんな相手…どうやって勝つんだよぉ!」

「持てる全てを行使しろ!それしかない!」

クラインか泣きを見て、それに俺が活を入れる。

「アスナ!キリトは無事か!」

「う、うん!だけどダメージが…」

その言葉に振り向いて見ると、確かにキリトのHPが赤のギリギリで残っているのがわかる。
俺が貰ったら一発で終わる!

「エギル、クライン!キリトを守れ!うおぁあ!」

俺は二人に指示をだし、単身で北見に突っ込んだ。

「ひゃはぁ!へりゃあ!はっはぁ!」

「くの!ちっ!だぁりゃあ!」

殴っては受け止められて反撃される。
その反撃をかわしてまた攻撃。

「しぶといねぇ!」

「てめえもなぁ!」

お互いに譲らない攻防を繰り広げ、殴る音と空気を切る音が鳴り響く。

「ひひゃあ!」

下から掬い上げるように腕を振るった北見。
俺はそれを利用して後退し、距離をとって深呼吸する。

「くっそ……打つ手がねぇ…」

俺は頬の汗を拭い、構え直す。

「そんなにゆっくりしてて良いのかなぁ?ほおら」

北見の頭上に現れるウインドウ。
先程と変わらずプレイヤー達が戦っている。

「なっ!?」

「そんなっ……!」

そしてとうとう、1人プレイヤーが倒されてしまう。
それを見た俺達は、恐怖と焦りに追いたてられる。

「ここまでで死んだプレイヤーはぁ…?
何と!8人死んでるねぇ!」

「てんめぇ………!」

笑い、楽しむように言う北見に俺は怒りを覚えた。

「出来たぞケン君!」

突如、ヒースクリフが声をあげ、合図を送ってきた。

「っしゃあ!これで俺達のHPは減らなくなった!今のお前と同じ状況だ!」

「なぁるほど。だが私に勝てるわけではなぁい!」

「それはどうかな?総員突撃!」

俺は全員に突貫の指示を出して走り出した。
起き上がったキリトも復帰し、文字どおり全員が北見に向かって走る。

「ああああああああああ!!!」

北見は迎え撃たんとばかりに勢いをつけ、俺に向かって拳を突き出す。

「がら空きだぁ!」

クラインが開いた腹部に切り込む。

「足元がお留守だぜ!」

エギルが武器で力任せに足を払う。

「おおおっらぁ!!」

キリトが倒れた北見に数撃切り込む。

「てやぁあ!」

その後ろから追撃でアスナが無数の突きを放ち、

「ふっ!はぁっ!はぁ!」

ヒースクリフが攻撃した。

だが、北見のHPに変化は見られない。
当たり前だろう。
お互いに無敵なのだから。
しかし俺の狙いはHPを減らすことではなく、拳を叩き込むことである。

「こいつで……どうだ!」

俺は体重をのせて拳を振り下ろし、北見の鳩尾へとめり込ませた。

「ぐおぉ!」

北見は地面に陥没して、俺達は警戒で距離をあける。
見れば北見のHPは半分ほど減っており、作戦は成功したことを表していた。

「今お前に打ち込んだ拳には強制的なシステムダウンが仕込まれていた。
これはお前に対するシステム補正が一切働かないようになっている!」

現実にてこうなることを見越して組み上げたプログラムだ。
これなら無敵属性の敵も攻撃が通るようになる。

「さぁすがだよ拳士君!
ならば第二フェイズへと移ろうじゃないか!」

そう言うと北見は腕を振り、素早い手付きでコンソールに何かを打ち込んだ。
そして空中に現れる何かの表示。
これは…まさか――――!

「ペインアブソーバーを0へぇぇぇぇ!」

「全員攻撃を受けるな!
受けたら現実に影響が出るぞ!」

ペインアブソーバー。
フェアリィ・ダンス編でキリトが苦しむ素養の一つ。
それが0ならば、現実の体にも影響を及ぼす危険なシステムだ。

「来るぞ!」

「ひゃははぁ!」

北見は体制を低くして走り出す。
まるで世間で言われるウェスカーダッシュのようで、瞬き一つで目の前まで接近される。

「キリト!」

北見の狙いはキリトだった。

「ぐぅ…ぼぁ…!?」

キリトの腹部に打ち込まれた拳がメリメリと音をたてて食い込み、
次の瞬間には壁にたたきつけらていた。

「アスナはキリトの介護を頼む!
クラインとエギルはヒースクリフの護衛!
頼んだぞ!」

そう言って俺は北見に向かって走り出す。

「思えば君は不思議だったぁ!」

北見は俺を迎撃するために向き直り、拳を振り上げた。

「中学生の分際で我々の研究所に入り浸りぃ!」

素人のような殴り方で、ブンブンと拳を振るう北見。
俺はそれを避けながら北見の言葉に耳を傾けた。

「余計なアドバイスで我々の仕事を邪魔するぅ!」

「ふっ!ぅうらっ!」

北見は敵意むき出しで俺を睨み付け、それでいて凶器に染まった顔をしている。
もはや救いようがない人間のそれで、俺は覚悟を決める。

「現実に戻れば何事もなく生きているぅ!お前は一体何なんだよぉ!」

「神様ボディ嘗めんな!
中学生ごときにアドバイスされるあんたら大人が駄目なんだよ!」

「だまれぇ!!」

俺は足を八の字にして直立し、両腕を逆八の字に構える。
それに構わず走ってくる北見は、もう何も見えていないようだった。

「不動…砂塵暴!」

北見が射程距離内に入ったのを見計らい、師匠直伝のこの技を放つ。

「ぐぼぉあがぁああ!?!?」

北見の見た目には何ら外相はない。
しかし現実ではどうなのだろうか?

この技は衝撃を内部で爆発させる技で、師匠は空手会の禁じ手と言っていた。
北見のHPはレッドゾーン。それも数ミリしか残っていない。

「北見君…」

俺の隣にヒースクリフが立ち、未だ痛がる北見を見下ろす。

「北見君。君の敗けだ。これでゲームはクリアされる」

そう言うとヒースクリフはウインドウを開いて一つのボタンを押した。
すると北見の体が光る。

「私の権限を返してもらう。
北見君。君とは二度と会うことは無いだろう」

ヒースクリフは静かに剣を抜いた。
そして俺に目配せをして、俺はそれに答え、数歩さがる。

「去らばだ、北見君!」

ヒースクリフは剣を振りかざし、北見の頭部へと真っ直ぐに振り下ろした。
北見はポリゴンの欠片にもならず、まるでそこに体があるかのように息絶えた。

「……良かったのか?」

「……勿論だとも。さぁ、これでゲームはクリアだ。
今すぐ全プレイヤーをログアウトさせよう」

ヒースクリフは右手出はなく左手を振り、システムウインドウを開いた。
その色は青ではなく紫で、これがプレイヤーと管理者の違いなのかと思った。

「……よし。
時期、我々もログアウトする。
キリト君、アスナ君、クライン君、エギル君、そして拳士君…向こうで会おう」

「ちょっと待て!何で俺だけリアルネームなんd………!」

最後まで言い切れず、俺の…俺達の姿は光に包まれてその場から消えた。
最後にみたヒースクリフの顔は、とても暖かな顔をしていた。














「ん………ふぅ…」

「拳ちゃん!」

目が覚める。
何時かの薬品の匂いと清潔感のある病室。

「ただいま母さん。
あれ?研究所にいたんじゃ…」

「また長くなると思って病院に搬送したのよ。
それで、起きたって事は…」

「ああ、クリアしたよ。
多分茅場さんも起きてる」

「…そう。よかったわ」

母さんはそう言うと携帯を取りだし、何処かへと掛け始めた。
俺は着替えを始めて一息つく。

兎に角これでSAOは終わったと見て良いだろう。
だが恐らくアスナを含んだ300のプレイヤーは戻ってない。
…フェアリィ・ダンス……か。
行くしかないな。

「拳ちゃん!茅場主任のところへ行くわよ!」

「は?急に何だよ母さん。
俺これから用事が…!」

「いいの!さ、はやく!」

俺は母さんに手を捕まれて連れていかれる。
場所は決まって研究所。
茅場さんが寝ているプライベートルームだ。



「…さっきぶりだね、ケン君」

茅場さんは腕に点滴を取り付け、病室と変わらない形で俺と母さんを待っていた。

「何でこっちだとキャラネームなんだよ…。嫌がらせか?」

「なに、私の顔に落書きをしてくれたお礼と思いたまえ」

あれ?そう言えば落書きが消えてる…。
つーか何故俺だと分かった!

「円君に教えてもらったのだよ」

「母さん……」

「えへっ⭐」

テヘペロ…良い歳した人がそれやるのはちょっとなぁ…。

「さて、そんな君にとても大切な話をしよう。
今後に関わる重要な話だ」

急に顔を鋭くさせる茅場さん。
これはもしかして、帰ってきていないプレイヤーの事だろうか?

「私は円君と結婚することに決めた」

「シリアス返せこらぁ!つーか何言ってくれてんの!?
義父さんて呼ぶこと期待してんのか!そうなのか!?
つーか結婚!?聞いてないぞ母さん!」

そう言って母さんを見れば……

「うふふ…」

両手を顔に当てていやんいやんとクネクネしている。
そう言えばβテストのとき母さんが『もしかしたら義父さんになるかもね!』って言ってたな…。
まさか本当だったとは…。

「拳士君。私は君の気持ちを優先的に考えたい。
私のような男が父親となれば、間違いなく違和感を覚えるだろう。
だから君の気持ちを…意見を聞かせてはくれないか?」

そういった茅場さんは真っ直ぐに俺の目を見ている。
俺の…俺の答えは――――――

 
 

 
後書き
以外と早く書けましたぁ。
戦闘シーンを持続させるのがこんなにも難しいとは思いませんでした…。
さて、次からはフェアリィ・ダンス編です。
多分短いでしょうが、お付き合いいただけると幸いです。




少し修正を加えました。
感想ありがとうございます。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧