Sword Art Online 月に閃く魔剣士の刃
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5 死染めの街
亡者の叫びが辺りを満たす。
褪せた銀の鎧を纏う。
死して尚、己の誇りを果たさんと刃を構える。
空は漆黒の闇に呑まれ、輝く月も鳴りを潜める。
そんな中、一片の閃きが死を切り裂いた。
「さて、一騎当千の始まりだ」
静かに呟くと身を沈め駆け出した。前方には一塊の騎士達がいた。
手前3人の槍を瞬時にすり抜けると、斬撃の嵐を形成する。右の剣で薙ぎ払い、左の円月刃を振り抜く。
―――――もっと疾く―――――
身を捩り、捻り、時に翻しながら行く手を塞ぐ騎士を一閃の下に屠っていく。
―――――もっと鋭く―――――
閃く刃が、鮮血のごとく散っていくダメージエフェクトが、闇一色の街に死と色をもたらした。
そして立っている者が数える程に減ってきた頃だ。突如、圧倒的な威圧感を発するナニカが闇夜より姿を現した・
返り血で朱に染まった鎧を纏う一人の騎士。その兜に隠れた双眼は周りの有象無象には一瞥すらくれず、唯々双刃を振るう蒼き剣士を捉えていた。
お互いの存在を知りながら、その距離は遅々として詰まらない。極限まで尖らせた感覚が時の歩みを引き伸ばす。
そして、立っている者がついに二つになった。
ようやく二人は構え合う
「お前で最後か」
剣士は独り、誰にともなく呟いたつもりだった。しかし
「あんな有象無象などと一緒にするな。」
騎士は不快感を露にして吐き捨てた。
「失礼したな。・・・俺はシュンだ、お前の名は?」
何故だかは分からない。しかし、自分でも無意識に、ごく自然に一人の剣士として相手への敬意を表し非礼を詫びていた。
「シュンか・・・いい名だ」
騎士はポツリと呟く。その瞬間、鋭い殺気をさらに尖らせ腰に差した長剣を抜き放った。
「我が名はエオン!行くぞ!!」
名乗った刹那、大上段で斬りかかってきた。右手の長剣が相手の長剣と切り結ぶ。
しかし金属音が弾けた次の瞬間には両者ともに流れるように次の一撃を繰り出している。
剣士が右の長剣を突き出すと騎士は僅かに身を逸らし、手にした剣を袈裟懸けに振り下ろす。その一撃を剣士は左の円月刃で横に弾くと右の剣で横に薙ぎ、また騎士はその横斬りを受け止めるとバックステップで距離をとった。
この間僅か数瞬、まるで演舞のような斬撃の応酬である。
刃が触れ合う音が周りに響き渡り、散った火花が辺りを薄明るく照らした。
しかしそんな剣舞は数瞬で幕を降ろした。
一際甲高い金属音の後、地面に突き立っていたのは騎士が振るっていたあの剣だった
「・・・私の負けか。」
騎士は小さく呟くと兜をとって素顔を晒した。
その奇妙な動作に剣士がより一層の集中力で相手を見据えたのは言うまでもない。
騎士は手に持っていた兜をその場に放り落とすと、
「生涯無敗を誇ったはずの俺だったが...。流石に上には上がいるものなのだな。」
自嘲気味に笑いながら言った。
「あの剣はくれてやる。俺の騎士としての最期の誇りだったが...。お前に受け取られるのならば本望だ。」
「遺す言葉があれば聞かせろ」
剣士は腰に左手の円月刃を収めるとそう聞いた。
「・・・最期に貴様と闘えた事に心から感謝し、誇りに思う」
そう言ってふっと笑うと、騎士は眼を閉じた。
「俺もお前に敬意を表し、この言葉を贈らせてもらう。...敵ながら見事だった。」
噛み締めるようにそう言い放つと長剣を振り下ろした。その一撃が騎士を斬り伏せる。
鎧に包まれたその体はポリゴンの欠片となって散っていった。
長剣を納めると地面に突き立ったままの剣を抜いた。
吸い込まれるように美しく、スラリと伸びた直剣を鞘に納めインベントリにしまう。
と、クエストの完了通知が視界に飛び込んだ
空を覆っていた闇が晴れ、日の光が差し込める
「第25層【サンフィオール】、開放完了」
夜明けとともに輝く太陽を眺めながら、独りそう呟いた。
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