渋さの裏
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第四章
「お腹の辺りがね」
「痩せてると思うがなあ」
「案外そうでもないの。とにかくね」
「ああ、晩御飯だな」
和田はテーブルに着くと白い御飯にエビフライとロシア風のポテトサラダ、そして玉葱や人参をたっぷりとと入れたボルシチがあった。その献立はというと。
「お母さん有り難うね」
「私達の好きなメニューで」
「嬉しいわ」
「当たり前でしょ、三人共年頃なんだから」
それでとだ、母は娘達に笑顔で答えた。音tの方は見ずに。
「好きなもの、それも身体にいいものならね」
「作ってくれるのね」
「こうして」
「そうよ、だからたっぷりと食べなさい」
娘達に甘い顔だった。
「いいわね」
「うん、そうするね」
「今日も有り難うね」
「あの、ママ」
和田もここで妻に言う。
「明日は焼き魚頼めるかな」
「ムニエル?」
妻は夫にクエスチョンマーク付きで返してきた。
「それ?」
「いや、普通の焼き魚だよ」
「ああ、そっちね」
妻は夫の説明を聞いてだった、まずは実に嫌そうな顔になった。そのうえでこう彼に答えたのであった。
「駄目よ」
「娘達が嫌いだからか」
「ええ、煮魚ならいい?」
娘達の好物はこっちである。
「そっちで」
「ああ、じゃあな」
和田は自分の好みは殺してこう答えた。
「それでな」
「じゃあ明日は煮魚ね」
「やったわ、私煮魚大好きなの」
「私も」
「やっぱりお魚は煮魚よね」
娘達は母の言葉に笑顔になった、父の言葉ではなく。
「明日は和食よね」
「和食もいいわよね」
「そっちもね」
「まあそうだな」
和田は娘達の言葉を聞きながら少し寂しく笑って述べた。
「和食はいいな」
「じゃあお父さんもね」
妻がまた言って来た。
「煮魚でね」
「ああ、わかったよ」
「そういうことでね。あとね」
「あと?」
「今月からお小遣い減らすから」
衝撃の宣告だった、これは。
「消費税上がってうちも生活苦しいから」
「えっ、またか」
「そう、またよ」
妻の夫への言葉は実に残酷かつ冷酷なものだった。素っ気ないが。
「だって家計はちゃんとね」
「そうか、仕方ないな」
夫はこう答えるしか出来なかった。
「それじゃあな」
「お義母さんからお小遣い貰ってるでしょ」
「ママのことは言うなよ、ママ」
「どっちがママなのよ」
「そ、それはな」
そう聞かれるとだった、彼にしても返答に困ってしまった。御飯を食べるその口も手もそこで止まってしまった。
「ママはママだよ」
「それだとわからないでしょ」
「ま、まあそうだな」
「とにかく、うちは娘三人いて犬もいてお家のローンもまだ払ってるし」
「そこに消費税もあってか」
「そう、だからね」
そうした様々な要因が重なって、というのだ。
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