| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

十兵衛の眼

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第二章

「真相はな」
「そしてそれがしも」
「気付いたな」
「はい、やはりその眼は」
「ははは、みなまで言うな」
 弟にそこから先は言わせなかった。
「よいな」
「そうですな、こうしたことは」
「言わぬ方が面白い」
「左様でありますな」
「まあわしはこのままでおる」
 眼帯をしていくというのだ。
「そういうことでな」
「ではこれからもですな」
「武芸に励む」
 その剣にというのだ。
「何処までもな」
「ではその剣も」
「うむ、しかしな」
「しかし、ですな」
「わしはまだまだじゃ」
 ここでこうも言うのだった。
「剣はな」
「既に父上を超えられたと」
「父上が言っておられたのじゃな」
「それがしもそう思いますが」
「いや、父上は心眼を持たれておられる」
 またこのことを言う十兵衛だった。
「わしはそれがないからな」
「だからですか」
「わしはまだ父上には及ばぬ」
 こう弟に言うのだった。
「それに和尚殿にもな」
「だからですな」
「このまま進む、わしはな」
 眼帯をしたままでと言うのだった。
「心の眼を持つ為に」
「兄上も心眼を持たれますか」
「どういったものかはわからぬ」
 持っていない、だからだ。
「しかしじゃ」
「持つ様になられるのですね」
「そうする」
 こう弟にもいい鍛錬を続けるのだった、そして数多くの相手と勝負もしてきた。その強さは日増しにそうなっていっているものだった。
 その十兵衛にだ、ある日沢庵が声をかけた。丁渡家の庭で一人木刀を振っていた彼のところに来たうえで。
「いつもながら精が出るのよ」
「おお、これは和尚」
 十兵衛は沢庵に顔を向けて応えた。
「よく来られた」
「気付いていなかったのか」
「いや、家の玄関に来た時にな」
 その時にというのだ。
「来られたことはわかった」
「気配でじゃな」
「それがわかる様になった」
「それは何より、これまでは声をかけるまでだったな」
「うむ、わからなかった」
 こう沢庵に答える、その通りだと。
「中々な」
「備わってきたか」
「どうだろうな、わしのそれは」
「はっきりとはわからぬか」
「和尚や父上の様にはまだな」
 至っていないというのだ。
「わし自身はそう思っておる」
「左様か、しかしな」
「それでもと言うのか」
「わしが玄関に来た時にわかったのなら」
 その時はというのだ。
「近いわ」
「心眼を備える時は」
「その時に御主はわしを超えるな」
 沢庵は微笑んで十兵衛に告げた。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧