昼は天使、夜は悪魔
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第五章
第五章
「何て言うかさ。つまり」
「しかし今の御前見てると」
「かなり怖いぞ」
「そうかな」
自分では自覚がない。巨体でモジモジとして話すのがかなり不気味である。顔は真っ赤で表情がはにかんでいるだけでもかなりのものがあった。
「自分ではそうは思わないけれど」
「思えって」
「とにかく。かなり進展したみたいだな」
「答えられないけれどね」
一応はこう言う。
「まあ。その」
「ああ、その先は言わなくていい」
一人がそれは右手を前に出してストップさせた。あえて。
「それはな。紳士協定だ」
「紳士協定なんだ」
「お互いそういう話には踏み込まない」
彼はそこを強調してきた。
「それでいいな」
「うん、じゃあ」
「それでだ」68
そのうえで話を戻してきた。
「顔が二つって何なんだよ」
「そうそう、それそれ」
「それだよ」
皆もそこに突っ込みを入れる。
「橘さんに顔が二つあるのか?」
「だったら妖怪ポストに連絡しろよ」
「そうじゃないよ」
だが彼はそれは否定した。
「弥生さんはれっきとした天使だよ。妖怪なんかじゃ」
「また天使かよ」
「いつもと同じか?だったら」
「問題なしか」
彼等はここまで聞いてこう思った。しかしこれは違っていたのだった。恵一はそのうえでまた言ってきたのだった。しかも正反対の言葉を。
「昼は天使だよ」
「ああ」
「けれど夜は悪魔なんだ」
「悪魔!?」
「うん、そうなんだ」
こう皆に話すのだった。
「夜はね。悪魔になるんだよ」
「天使と悪魔か」
「デビルオアエンジェル」
「エロイムエッサイム」
またふざけている奴がいた。どうにもノリが軽い。
「けれどやっぱりわからないぞ」
「夜は悪魔って何なんだよ」
「そうだよな」
皆それがわからないのだった。首を傾げることしきりだ。
「悪魔!?橘さんが」
「天使っていうのはあれだが夜は悪魔って何なんだよ」
「召還でもするのか?」
「違うよ」
話が滅茶苦茶になってきているのでそれは否定する恵一だった。どうにも周りもあまり尋常ではないものがあったが彼もそうなので違和感はない。赤の中では紅も同じだ。
「そういうことはないから」
「じゃあ何なんだ」
「夜は悪魔っていうのは」
「昼は清楚だけれどね」
またおのろけだった。
「夜は本当に」
「何かわかってきたな」
「そうだな」
皆ここに至ってようやく察してきた。察すると真剣さが増してくるから不思議だ。
「そういうことか」
「橘さんもか」
「あれっ、驚かないんだ」
「誰だって同じなんだよ」
仲間内の一人がまた言ってきた。当然といった顔で。
「誰でもな」
「っていうと?」
「皆昼と夜じゃ違うんだよ」
「そうなんだ」
「そうだよ。それでも御前」
ここで彼はあらためて恵一の顔を見る。それで呆れたように溜息を吐き出すのだった。
「それでも変わらないな」
「何がだい?」
「のろけた顔のままじゃないか」
「そうかな」
「そうだよ」
その顔でまた彼に言うのだった。
「全く。呆れたっていうか何かっていうかな」
「だってさ。本当に可愛いし奇麗で」
これは変わらないのだった。やはり目をピンクのハートマークにさせている。その顔は全く変わらずにただただのろけが続いていた。
「天使でも悪魔でも。本当に」
「岩尾君」
噂をすればだった。ここで。
「ちょっといい?」
「あっ、弥生さん」
恵一は素早く声の方に顔を向けた。信じられない速さだった。
「何かな」
「今度の日曜だけれどね」
「うん」
今の弥生は眼鏡をかけて三つ編みにしている。天使の顔だった。
「遊園地でいいわよね」
「うん、何処でもいいよ」
相変わらずハートマークの目で彼女に応える。
「何処でも。本当に構わないから」
「そうなの。それじゃあまずはそこで」
「その次は」
「それはね」
二人だけの話になる。皆はもう放っておかれた。それでも皆はそんな彼を見ながらも怒ってはいない。呆れてはいるが微笑んでこう言うのだった。
「まあそれでも」
「好きなのならいいか、あそこまでな」
「そうだな」
何だかんだで恵一を暖かく見守っていた。天使と悪魔の顔の間でとろけそうになっている彼を。温かく見守っているのであった。
昼は天使、夜は悪魔 完
2008・5・12
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