七夕のラプソディー
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第八章
第八章
「それでは」
「ええ、じゃあ」
その弘樹の手から竹を受け取る。その時に短冊に気付いた。七夕にはお決まりの願い事を書く短冊である。そこにはこう書かれていた。
『麻美ちゃんが何時までも幸せでありますように』
『麻美ちゃんの家族の人達は何時までも仲良くありますように』
『麻美ちゃんがずっと健康でありますように』
『麻美ちゃんの周りの人達が皆いい人達でありますように』
『麻美ちゃんが永遠に笑顔でいられますように』
世界平和やそうしたことも書かれているが目立つのは彼女についてのことだった。自分自身のことは全く書かれていなかった。
その短冊を見てだ。麻美はうっすらと笑ってこう言うのであった。
「だから好きなのよ」
うっすらとであったが温かい笑みであった。
「こうだからね」
「今何と」
「好きなのよ」
その言葉を彼に対しても隠さなかった。
「弘樹君が」
「私のことが」
「そうよ。好きよ」
夜の月明かりの中で微笑んで彼自身にも告げた。
「大好きよ。ずっとね」
「有り難い。その言葉こそが」
「ずっと一緒にいましょう」
麻美は彼にさらに言ってきた。その両手に彼の心がそのまま込められた竹を持ちながら。
「ずっとね」
「そうだ、私達は何時までも一緒だ」
その弘樹も言う。
「この七夕に誓って」
「ええ。それにしても」
ここで上をちらりと見るとだった。麻美は気付いたのである。
「見て、弘樹君」
「何が」
「ほら、お空だけれど」
彼に空を見上げるように告げたのである。
「お空。見て」
「むっ!?」
彼女の言葉を聞いて彼もまた上を見る。するとだった。
白い満月の他に天の川もあった。それは空を奇麗に流れていた。無数の星達の瞬きがそのまま濃紫の空に流れていた。
「天の川・・・・・・そうか」
「そうよ。七夕だからね」
「美しい」
彼もまたその美しさに見惚れた。
「何か心が洗われるようだ」
「そうよね。とてもね」
二人でその天の川を見ながらの言葉だった。
「この天の川もずっとね」
「見よう」
また二人で誓い合うのだった。七夕の騒動は最後は静かに幕を降ろしたのであった。それまでの騒動がまるで嘘であったかの様に。
七夕のラプソディー 完
2009・11・9
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