フェイト・イミテーション ~異世界に集う英雄たち~
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プロローグ①
男はただ、立っていた。いや、男はもはや満身創痍であった。血走った目を持つ顔やダラリと下げた腕からは血を流し、服や髪を赤黒く濡らしていた。
男がいる場所はどこかの建物の地下である。薄暗い中、男の乱れた呼吸音だけがこの空間の唯一の音源だった。
男の周りにはたくさんの何かが転がっていた。それも一つや二つではない。その数は十数にも及んだ。
―――――人
死体かどうかは分からない。もしかしたら気絶しているだけかもしれない。分かることは全員男同様に傷だらけであること、そしてこの惨状をつくり出したのは男自身だということであった。
(・・・ああ)
男は朦朧とする意識の中、心の中で呟いた。そして虚ろな視線を傍らに向けた。
(結局――――――――お前を守ってやれなかった・・・)
そこにいたのは、この場で唯一の少女。年はおそらく男の二つほど下だろうか。ただし、その様子はほかの男たちと同様ただ倒れこんでいる。頭から流した出血を見る限り、死体ではなかったとしてももはや助かる可能性は低いだろう。
男の胸にあるのは後悔だけ。やがては自分も傍らの女性と同じ状態になることは自覚していたが、それに対しては何の思いもなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――!!!
どこからか声が聞こえてきたような気がする。が、すでに限界の近い男は反応することはなかった。
――――――――――ケルーーーーーーーーー!!!」
さっきよりも声が近くなっている。男は聞き覚えのあるその声に僅かに耳を傾け、地下の入り口であるドアの方に目を向ける。
「架ーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
さらにはっきりと聞こえてくる。それは誰かを呼ぶ声だった。
聞こえてきた声に男は口もとを歪ませる。それは紛れもなく、親友が自分の名を呼ぶものだった。
すると突然、ドアがバン!と開け放たれた。
現れたのは金髪碧眼のやや小柄な女性。女性は男の姿を見ると、安堵した表情をするが、男と傍らの少女、さらに現場の惨状を認識した瞬間、一気に顔を引き締めた。
「シロウっ! こちらですっ!!」
女性は大声でドアの外に向かって叫んだ。そして男に向かって駆け寄ってくる。
男は自分が信頼する人が来てくれたのにほっとしたのか、安堵した表情でゆっくりと体が崩れ落ちていく。それを女性はギリギリのところで受け止めた。
「カケル!気をしっかりと持つのです!カケル!」
女性は男に向かって懸命に呼びかけた。しかし、もはや限界を迎えた男の意識はどんどん遠のいていく。
(―――――――――――――――?何だ?)
しかし、薄れゆくその意識に男は違和感を感じた。何かが自分の中で起こっている。
(――――――引っ張られている?)
自分の意識がどこかに引き寄せられている。いや、それはもっと強引な「力任せに引き寄せている」という表現の方が正しかった。
と、男が考えていると・・・
「架っ!!」
先ほど女性が現れたドアから更に一組の男女が飛び込んできた。
男性の方は赤銅色の短髪であり、年は男と同じくらいであった。先程から男の名を叫んでいた声の主であろう。息を切らし、汗だくなその様子から必死に探し回ってくれたことが窺える。
黒髪で赤い服を着た女性も隣の男性ほどの乱れはないが、必死の顔でこちらに駆け寄ってきた。
「架っ!しっかりしろ!おい!!」
「シロウ、一先ず手当てを!」
「ちょっと!どういう状況よ、これ!?」
そんな自分の周りで何か大声で言っている親友とその仲間たちの声を聞きながら・・・
(―――――――――ああ、本当にこいつらは・・・)
未だ強く引っ張る何かに身を任せ、ついにその意識を手放した。
後書き
初っ端からわかりづらいシリアスですいません・・・。
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