普通だった少年の憑依&転移転生物語
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ゼロ魔編
048 予定に溺れる夏休み その4
前書き
4連続投稿です。
4/4
これで最後です。
SIDE 平賀 才人
ド・キリクリ。云うまでもなくユーノの実家が在る土地で、男爵家にしては多少大きめといったところか。一番最初に入った村──ユーノと待ち合わせをしている村の感じを見てみると、経営状態は良好の様だ。……尤も、俺が〝今まで見てきた村と比較して〟──とな注釈がつくが。
「あ、お待たせ」
「いや、そこまでは待ってないよ」
「……おぉ、貴方がユーノお嬢様の…」
ユーノが待ち合わせに指定した村──ネーデ村の宿にてユーノと合流する。……後から気付いたがそれは正しく恋人の様で、俺達の、様子を見ていたこの宿の主人が意味ありげな──感慨深そうな顔でうんうん、と何度も頷いていた事にはツッコまない。
「……ロイドさん、サイトの事は──」
「判っています。〝他言無用〟でしょう?」
「いや、他言無用は他言無用だけど〝時機〟が来るまでだよ」
(……ん?)
ロイドと呼ばれたこの宿の主らしき人物と談笑しているユーノを見て、ふと違和感。……その違和感の正体は平民相手ですら畏まった態度をとっているユーノが、ロイドさんには幾分か解れた態度をとっている事か。
「……では私めはこれにて。……ごゆるりと」
そう、ロイドさんは意味ありげなセリフを──これまた意味ありげな顔で残して、部屋からそそくさと退室していった。……なので現在この部屋にはユーノと俺の二人きり。
「なぁ、ユーノ──」
「……サイトの言いたい事は判るよ。彼はこの村──ネーデ村の村長兼この宿の主であるロイドさん。口調についてはロイドさんは観察力に優れているらしくて、なぜかネコ被りが13歳の時に初見で見抜かれた」
ユーノは巻くしたてるかの様に俺が知りたかった情報を教えてくれる。……やはり付き合いが長いと、この程度なら以心伝心で判るのだろう。……だがそれは俺も同じであり、ユーノが何を望んでいるのかは判る──判ってしまう。
「サイト、どうする?」
「〝どうする〟って…。これは所謂、〝据え膳喰わずは武士の恥〟だろう?」
「ふふっ、それもそうだよね」
〝そう云う期待〟をしていたのか、ユーノは艶やかに笑う。俺が先にも言った通りだが、〝据え膳喰わずは武士の恥〟。……これからの事に言葉は不要。だが敢えてユーノの言葉を借りて云うのなら、〝この後滅茶苦茶──
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「なぁ、ユーノ」
「なぁに、サイト?」
「俺いつも思うんだけど、貴族の本邸とかってどうしてあんなに広いんだ? ハウスキーパーとか雇ったりする事を考えると、館の維持も楽では無いんだよな」
ユーノと合流して、ユーノと一夜を明かした翌日。ド・キリクリの本邸の前でユーノに訊ねる。
話は逸れるが、ロイドさんから〝ゆうべ は おたのしみ でしたね〟とか、【ドラクエ】みたいな事を言われた。……その後ユーノは顔を朱に染めながら教えてくれたが、ロイドさんのあのセリフは、所謂〝お約束〟というモノらしい。ユーノがロイドさんに遊び半分でそのセリフを教えて、ユーノがロイドさんにそのセリフを言われるとは思わなかったのだろう。
……俺? ……俺はバレッタさんにそっち方面でイジられる事も多いから、多少の耐性は出来ていた。……だが〝そう云う〟イジリにユーノは慣れていなかったらしく、テンパるユーノを見てホッコリとした気分になった。
閑話休題。
「まぁね。でも、ボクも前気になって父上に訊いてみたんだけど、父上曰く〝貴族の本邸が矢鱈と大きいのは、主に己の財力を判りやすく提示するため〟らしいよ」
「あ~、なんか納得した」
ユーノが俺の質問に答えてくれる。〝成る程〟と、ユーノの理屈がストレートに頭の中に入った。……〝自分の財力を大きく見せたい〟──見栄っ張りなハルケギニアの貴族らしい、判りやすい理屈だった。
(……いや、貴族が見栄っ張りなのは地球でも一緒だったか)
「さぁ、行くよ。……父上には単に〝ボーイフレンドを連れてくる〟って言ってあるだけだから。……最終確認だけど、父上は〝トリステイン貴族〟だからね」
どうでもいい事を考えていると、いつの間にやら庭を抜けていた様で、キリクリ邸の扉の前に辿り着いていた。……邸宅の扉を前に、ユーノは一度だけ俺に目配せをして注意を促すと、その重厚そうな扉を開いた。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE OTHER
ラ・ヴァリエールに向かう道中。馬車の中で才人とユーノは四方山話をしていた。……なぜユーノもラ・ヴァリエールに同行しているかと云うと、それは偏にユーノの父親がユーノの地雷を踏んだからに過ぎない。……例えば――
―お前の事は王宮で聞いているぞ、平民上がり風情が。……夢を見すぎだな―
―家の娘が最低位と…? ……片腹痛いわ―
などと、ひたすらに才人を扱き下ろし続けたからだ。……ユーノからしたら確かに父親の言うことも尤もだと思ったが、然りとて納得は出来なかった様で、ユーノは自室に隠しておいたヘソクリを持ち出すと、そのまま本邸を飛び出したのだった。
「ラ・ヴァリエールに行くのは久しぶりかな」
「行ったこと有ったんだな。……でも、本当に良かったのか? 家出なんかして…」
「まぁね。学院を卒業するまではネーデ村の宿で小間使いかなんかして過ごすよ。……どっちにしろ早いか遅いかの違いだよ。アルビオンに行くのな、いずれは家を出る事になっていたしね。……ああ、ラ・ヴァリエールには昔に──〝私〟が〝ボク〟になる前にルイズの誕生パーティーで訪れた事が有るんだ」
「……でもユーノ──いや、そこまで考えてるなら俺から言える事は無いのか? ……いや、1つ有ったな。ユーノ、言うまでも無いとは思うが後悔だけは〝あまり〟しない方が良いぞ」
ユーノは触れられたく無かった話題なのか、誤魔化す様に一気に巻くし立てる。……才人はそんなユーノに某かは言いたかった様だが、才人はその言葉が喉から出かかったところで呑み込んだ。……〝家族間の問題には突っ込むまい〟、〝ユーノにも考えがあっての事なのだろう〟と、最終的にはユーノの言葉を信じたのだった。
「……家を出るなら、何かと要り用にもなるだろ。〝これ〟を持ってくと良い」
「……このネックレスは?」
「“フェイス・チェンジ”が掛けてある。……まぁ、そこまで値も張ってない物だし、軽い贈り物だと思ってくれ。……まぁ今からルイズに会いに行くんだから着けるのはまた今度な」
才人はいつぞや──ティファニアの時と同様に懐から出したネックレスをユーノに渡した。
「ありがとう。……一生大切にする」
「そんな大袈裟な…」
……ユーノはそのネックレスを宝物と云わんばかりに両手で包み込み、礼を言ってからそのネックレスをポケットへと入れた。……云うまでも無いが、馬車の中には桃色空間がいつの間にか展開されていた。
SIDE OTHER
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール
サイトから書簡が届いた。ド・キリクリに寄った時の、ちょっとしたアクシデントでユーノを連れ立って来る事になったらしい。……お母様の説得が大変そうだ。サイトからも[是非ルイズからもカリーヌ様に口添えしてくれ]という一文も有った。
「サイトへ。始祖の御導きがありますように──」
「……死んで…無いん…だが…。勝手に…殺さ…ない…で…くれ…」
サイトはお母様に〝婚約者の実家にガールフレンドを連れてくるとは良い度胸ですね〟、と鍛練場に連れていかれた。……でサイトは死に体で生還してきた。
……お母様の本気の〝オシオキ〟でその程度で戻って来たという事はサイトも大分人間を止めてるらしい。……お母様? お母様は何かしらにカテゴライズしなければならないとするなら、文字通り〝天災〟が一番近いか。……ツェルプストー曰く、〝フォン・ツェルプストー〟にも、お母様の自然破壊の──鍛練の被害が及んでいるらしい。
閑話休題。
「全く、サイト君もしっかりしなさい」
「はい。……“ヒール”」
サイトは傷付いた部分を右手でなぞりながら、触媒を使わない簡単な治癒魔法で治す。……どうにもサイトは杖を埋め込んでいるらしく、サイトは杖を持たずとも魔法を使えるとの事。……その辺の事で少し複雑な気分にはなるが、サイトは〝貴族としての誇り? なにそれ美味しいの?〟状態だから何を言っても無駄だと判った。
「……そ、それにしても、サイトは芸が細かいですよね」
「まぁな。……どうなるか判らなかった都合上、出来る事を──手札を増やしていくしか無かったからな。……まぁ手札を増やしすぎた所為で、1つ1つの修練度はそこまで高くは無いが」
サイトの惨状を見て頬を引き吊らせながらも讃えるユーノに、サイトは苦笑いしながら謙遜する。……そんなこんなで談笑しながら、ラ・ヴァリエールでの日々を──ユーノからしたら少し肩身の狭いであろう日々を過ごすのだった。
……ちなみにそのユーノだが、父親とサイトとの関係で〝少々〟揉めていて実家に帰り難いらしく、帰りはサイトにユーノの身を匿ってくれるド・キリクリのネーデ村という村まで送って貰うらしい。……後、ユーノはサイトから変装用のマジック・アイテムとは云えネックレスを貰ったらしい。ユーノが羨ましかったのは内緒だ。
SIDE END
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