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IF番外 プリヤ編
前書き
長らく放置が続いてしまって申し訳ありません。どうにも少し書いては破棄やお蔵入りが続いています。今回のこの話もうまくまとまらずにお蔵入りしていたのですが…年末ですし番外編と言う事で掲載します。少しでも楽しんでもらえたら幸いです。
イリヤがその体を賭して彼女を変革させてから10年。
彼女はそれでも8年ほど眠っていた。
おそらく融合によるショック状態なのだろう。
その間の成長はほぼ止まっていて、記憶も混濁が見られた。
アインツベルンの城の事は殆ど覚えていないと言っていい。
毎日元気良く小学校に通っている彼女を見ると、イリヤとの違いをまざまざと見せ付けられる。
切嗣とアイリスフィールはあの冬の城に戻ることは無く、冬木に居を構えた。
心機一転と、あの朽ち果てた武家屋敷風の長屋ではなく、普通の一戸建てを新しい住まいにしたようだ。
報復に現れたホムンクルスを返り討ちにする過程で襲ってきたホムンクルスであるセラとリズを家政婦として匿う事になるとは、因果なものだ。
セラとリズに家を任せて切嗣とアイリスフィールは長い間家を開けるようになった。
どこで何をしているのか。しかし、それがイリヤの…家族の為と考えての行動であった。
まぁ、俺達がイリヤの傍に居るのだ。万が一は有り得ないと安心して家を空けているのだろう。
それくらいの信用はしてもらっている。
そして、経緯は省くがあの衛宮士郎も切嗣は連れてきた。
それが運命とでも言うように…
それでも穏やかな生活が続く。
そんな生活が一変したのは冬木の街におかしな魔力反応が現れて少ししてからの事だ。
霊体化していると言っても風呂やトイレなどの、本当のプライベートスペースには立ち入らない。
しかし、それが仇になろうとは…
風呂場での物音の後、イリヤが魔法少女になっていた。
何を言っているのかと思うかもしれないが、本当の事だ。
羽の付いた、いかにもカードを封印するあれのような形をした杖を持ち、ピンクの魔法装束に身を包んだイリヤは見まごう事なき魔法少女だった…
何がどうなって入浴中に魔法少女になる展開があるよ…
で、説明に現れたこの世界の遠坂凛。
どうやら冬木に現れたカードを回収するのに魔法少女…正確には魔術礼装であるカレイドステッキが必要らしい。
このカレイドステッキが意思を持っており、前の持ち主であった凛を見限り、イリヤを魔法少女にしたようだ。
取り上げるのは簡単だ。だが、魔術の世界を知らずに生きてきたイリヤに自衛手段が出来たのだ。むやみに取り上げて良いものだろうか。
守ると言う事と、彼女の行動を尊重しないのは別物だ。真綿で包む様に守る事が良い事だとは思えない。
と考えていたのだが。まさかカード回収の相手が黒化英霊だったなんて、予想外だ。
いや、黒化サーヴァントと言った方が近いかもしれない。
ただの魔術師ならば…今のイリヤから魔力供給の無い俺でも遅れは取らないだろう…しかし…
凛と共にイリヤが世界の鏡面の狭間に転移したそこに待っていたのは黒化したメドゥーサのサーヴァントだ。ライダーだろう。
意思のようなものは感じられず、目の前の者を襲うと言う命令で動いている人形と言う感じだが、サーヴァント相手に魔力供給無しでは不利だ。特に俺達は燃費が悪い。…せめてイリヤから魔力が供給されていれば…
今の俺達はリンや偶に帰ってくるアイリスフィールから正規ルート以外で魔力を補給している。
当然正規ルートではないのでロスが大きい。受け渡しに使う魔力の一割も吸収出来ればいい方だ。まぁ単独行動Aのおかげで存在するだけならそんなに魔力も消費しない。そのため今日まで問題は無かった。
イリヤは始めての事に、それでも善戦しライダーを追い詰める。
が、しかし。ライダーが宝具のチャージに入った。
ヤバ…さすがにあれはっ!
と、最悪魔力切れ覚悟でとっさに顕現しようとした時、一陣の風が通り過ぎる。
それは赤い閃光のようであった。
赤い軌跡はそれが当然とばかりにライダーの心臓を穿つ。
青い魔法少女だった。
その彼女が持つのはゲイ・ボルグ。
かのクーフーリンの魔槍だった。
彼女、あとで美遊・エーデルフェルトと名乗る少女の乱入であっけなくライダーは退場し、カードだけが残る。
なんか、さらに後ろから高笑いをする金髪ドリル…ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトと言うらしい少女が現れたが、瑣末な事か。
日を置いた二戦目はキャスター、メディアだ。メンバーは四人。凛とルヴィアは反目しているようだが、目的が一緒の為に自然と一緒に鏡面世界へと行く事になった。
撃ち出される魔法による閃光。
あまりの弾幕の量にたまらずと撤退する。
空を飛ぶキャスターに手も足も出なかったと言って良い。
やはり飛行はすごいアドバンテージだ。
飛んでいる相手にはこちらも飛んだほうが相手をしやすい。
魔法少女は空想の力なんだそうだ。思いが力になるアレだ。
イリヤは簡単に空を飛んで見せた。
唖然とする一同にイリヤの一言。
「魔法少女って、飛ぶものでしょう?」
至言です。
サブカルチャーに染まっているこのイリヤだからこその言葉なのかもしれない。
変わってもう一人の魔法少女である美遊はと言えば…
「人間は飛べません…」
こちらは現実主義だった。
再戦は明日にして、美遊はどうにか飛行をマスターしてくる事が課題となり、その日は解散した。
結局、美遊は飛べず、魔力で足場を作って飛び上がると言う方式で何とか空へと上がる事を可能にしていた。
明ける二戦目。
何とかキャスターにはイリヤの砲撃魔法と美遊のゲイ・ボルグの連携攻撃で撃破。
ようやく一息ついたその時、鏡面世界を移動していないはずなのに、そこに現れたセイバー。
一つの鏡面世界に一人のサーヴァントと言う法則じみた前例が続いたからだろう。油断していた。
一つの鏡面世界に一人のサーヴァントとは限らない。
その油断の中で凛とルヴィアがセイバーに斬り付けられて負傷した。
連戦による消耗と、凛とルヴィアの負傷を目の当たりにしてイリヤは思うように動けない。
さらに相手が強すぎた。
抗魔力Aを持ち、魔法少女の攻撃をことごとく無効化する敵に、それでも有効手段であるはずのランサーのカードはインターバル…クールタイムに入ったために使えない。
ゲームで言えばリキャスト時間30分と言う事だろう。
イリヤと美遊ではセイバーに対して有効打が無いと悟り、手に持ったカレイドステッキを放り投げた。
戦意喪失したわけではない。本来の持ち主に返したのだ。
カレイドステッキの力を借りて負傷を直し、力強く現れたのは赤と青の二人の魔法少女。…凛とルヴィアだ。
しかし、ネコ耳ネコ尻尾とキツネ耳キツネ尻尾はどうなのよ?趣味なの?
イリヤが有る意味現代風魔法少女なのに対してあれはどうなの?
とは言え、魔術師としての力量とカレイドステッキの力でセイバーを押し始める。
が、しかし…
黒い極光が駆け抜ける。
セイバーの宝具、エクスカリバーだ。その光は凛とルヴィアを包み込み…
圧倒的な破壊の後がその視界に写る。
「うっあ…あ…」
恐怖におののくイリヤの声が聞こえる。
イリヤも美遊も今は魔法少女の姿ではない。このままあの敵の前にいるのは自殺以外の何者でもない。
「たすけて…」
と、イリヤの声。
「誰か助けてよ…ねぇ…」
イリヤの体から魔力が漏れ出してきた。
「ねぇ…助けてよっ!…チャンピオンっ」
っ!
その声に俺の体に久しぶりに魔力が充足する。
「何を言っているの、速く逃げて、イリヤスフィールっ!」
美遊の叫び声。
コツンと地面に着地する音が聞こえる。
俺の脚が地面に着いた音だ。
「誰?」
と、問うたのは美遊だ。
セイバーは俺の登場に動きを止め隙を伺っている。
「遅かったわね、チャンピオン」
そう声を掛けたのは雰囲気の変わったイリヤだ。
「魔力供給が不足していたからね。ただの魔術師ならどうとでもなったが…流石にあれらはね」
と返す。
「サーヴァント、セイバー。黒化していては騎士王の名も廃れるわ。エクスカリバーが可愛そうよ。意思の無い人形に負けることは許さないわ。やっちゃって、チャンピオン」
「了解した。マスター」
ソルを上段に構え、切っ先を互いに向け合う。
セイバーの抗魔力はA。つまりバインドやシューター、バスターは効果が見込めない。
互いに出方を伺う。
ジリッと地面を擦る音が聞こえてセイバーが駆け出した。
お互いの剣がぶつかり…合わなかった。
「がぁっ…!」
「なっ!?」
横に薙がれた大太刀。
セイバーの悲鳴と美遊の驚愕が聞こえる。
「チャンピオン…それは流石に卑怯だわ…」
イリヤの呆れた声が後ろから聞こえてきた。
「必殺技を一撃目にやって何が悪い。弱らせてから(いたぶってから)放つ必殺技など非効率も良いところだぞ」
俺はソルを振り下ろしてさえいない。陰で見えにくくしていたスサノオの十拳剣でセイバーを一刀で両断したのだ。
「イリヤスフィール…?」
美遊がイリヤを呼んだ。
「何?美遊」
「あなたはイリヤスフィールなの?…それにそっちは…?」
「わたしはイリヤスフィールよ、美遊」
いたずらっぽく笑うイリヤ。
「そして、わたしのサーヴァント、チャンピオン」
と、俺を紹介した。
「サーヴァント…?」
「時間切れみたい。色々お話したいけれど、また今度ね」
「イリヤスフィール?」
怪訝な顔を浮かべる美遊。
「チャンピオンも、またね」
「また会えるのか?」
「きっと会えるわ。だからそれまでまたこの子をお願い…」
そう言うとふっと意識を手放したイリヤスフィールは地面に倒れこみそうになる。
倒れこみそうになるそれを俺は優しく受け止め、そのまま地面に横たえると魔力供給も途切れたため、そのまま実体化を解いて霊体へと戻った。
後には意識を失ったイリヤスフィールと、いまいち展開に付いていけない美遊。それとセイバーのカードだけが残った。
セイバーとの戦いが終わった後、ルヴィアの家に一同集合していた。
被告人の立ち位置にイリヤスフィールが座り、弁護人のように美遊が立つ。その正面に裁判官よろしく凛とルヴィアが座っていた。
どうやら二人とも生きていたらしい。運が良いと言うか、しぶといと言うか。
「それで、件のセイバーを倒したと言うチャンピオンの事だけれど…」
そ、凛が問い始める。
「イリヤ、あなた本当に何も覚えてないの?」
「ううー…あの時気がついたら美遊に抱えられるように倒れてたから…」
「まったく役にたちませんわねっ」
ルヴィアが呆れたように言い放つ。
「サーヴァント(使い魔)って言っていたのよね?」
と凛は確認と美遊に問いかけた。
「はい…確かにサーヴァントとチャンピオンと言っていました」
「チャンピオン…勝者…選手…サーヴァントの名前と言うより名称のようですわね」
「で、突然現れて、霞の如く消えていったのよね」
と凛がルヴィアの言葉を待って言った。
「聞く限りゴーストライナー…降霊術の使役に近い感じがするわ。ルヴィア、どう?」
「ええ、わたくしも同じ考えでしてよ」
『そんなしちめんどうくさいこと考えたってしょうがないじゃないですか~。肝心なのはそのチャンピオンと言う方が味方なのか敵なのかって事じゃないですか~』
と、人をこバカにしたようなトーンの声が会話に混ざる。
『姉さん…』
会話に混ざってきたのはカレイドステッキであるルビーとサファイアだ。
「ルビー…あんたねぇ」
『良く考えてみてください。そのチャンピオンと言うサーヴァントはイリヤさんを害する事は無かったんですよ?だったら彼がどう言う存在だって良いじゃないですか~』
「そう言う問題じゃ無くてよ」
とルヴィア。
『世の中敵か味方かで十分ですよ。ささイリヤさん、帰りましょうか。早く帰らないとお楽しみの深夜アニメが終わっちゃうじゃないですか』
「そんな物、録画しておけば良いでしょうっ!」
と凛が吠える。
『録画はもちろん標準画質でしていますよ~。ですけど、アニメはリアルタイムで見るのが良いんじゃないですか~。さ、帰りましょう、イリヤさん』
「あ、うん…それじゃあ…」
ルビーの言葉に場がしらけ、なんとなく解散ムードとなった。
『あ、それでも次に会う事があるかもしれませんから、対策はお二人で考えて置いてくださいね。睡眠不足は美容の天敵と言いますけど、まさか魔術師のお二人が不安材料をそのままになんかしておかないですよね~』
「う…」
「も、もちろんですわっ」
ルビーが爆弾を落として会議は終了。イリヤは帰宅、その場は解散となった。
不安材料は有ってもまずはカードの回収が最優先。
不安を押して鏡面世界へと移動した。
次の相手はアサシンの黒化英霊のようだ。
しかし、その数は数十を数える。…なるほど、四次のアサシンか。
鏡面世界に移るとそこは既にアサシンに囲まれていて絶体絶命だ。
気配遮断スキルから繰り出される攻撃…場所が林であった事も不利を増徴させている。
キィン
イリヤの首筋を狙ったダークの一撃を一瞬だけ現した腕で弾く。
「え?」
「こら、イリヤっ!油断しない」
「あ、うん…」
迫り来るダークを物理障壁でガードしながら応戦。
「うー…散弾っ!」
イリヤが細切れの魔力弾を撃ち出す。
「イリヤっ!むやみに撃っても効果は無いわっ!」
と凛の激が飛ぶ。
「はっ!」
美遊も美遊で砲撃で応戦しているが、やはり効果は薄い。
「この状況で使えるカードは有りますの?」
「ライダーのカードもセイバーのカードも対軍宝具以上の威力は有るでしょうけど、この状況じゃ決定打にはならないわ」
囲まれる前に撃ちだせば、それこそ対軍宝具としての効果を発揮しただろう。だが、直線放射型宝具では囲まれている今に至っては難しい。
「ランサーは対人宝具ですが…一撃必殺の魔槍。一撃でこの数は相手に出来ませんわっ!」
「アーチャーのカードは役にたたない…手詰まりね」
暗殺者の身のこなしと気配遮断スキル、それと数の暴力に圧倒的に不利な状況に追い込まれていた。
◇
どうしようどうしようどうしよう…
四方八方から短剣が襲い掛かる。
「もう、なんでこんな時にチャンピオンは現れないのよっ!」
凛さんが悪態をつく。
前回わたしが気を失った時に現れたと言うチャンピオンと言う男の人。その人はあのセイバーを一撃で倒しちゃったんだって。
「現れるかどうかも分からない相手を頼ってどうするのですっ」
毅然とした態度でルヴィアさんが言った。
だけど、追い詰められているのも確かで…
「散弾っ!」
ばら撒く魔砲弾。飛び交う魔術。
「イリヤっあぶないっ!」
美遊がわたしの前で障壁を展開した。
「あ、ありがとう…」
『でもこれは確かにまずいことになりましたねぇ』
『一時撤退を提案します』
とルビーとサファイア。
ドサリ、ドサリと二回何かが倒れる音がした。
「凛さんっ!ルヴィアさんっ!」
わたしは叫びながら倒れた二人に近づこうとする。
「油断しましたわ…」
「まさか毒が塗ってあるとはね…」
と悔しそうに地に付している凛さんとルヴィアさん。
しかし、わたしは彼女達に近づくことも出来ない。なぜならダークがわたしと凛さん達を分断するからだ。
「限定展開セイバー」
美遊がセイバーのカードを限定展開してサファイアが青に金の装飾の施された西洋剣に変わった。
「エクス…カリバーっ!」
振り下ろした剣から撃ち出される極光。それは前方にいたアサシンをことごとく打ち倒したが、それで役目を終えたとセイバーのカードが接続解除される。
切り札の一枚を使いってしまった。
「次っ!」
畳み掛けるとでも言わんばかりに美遊はランサーのカードを限定展開。
「ゲイ…ボルグっ!」
投げ放たれた赤い魔槍は美遊が視界に納めていたアサシンを吹き飛ばしたが、これでランサーも使い切りだ。
「…くっ」
どうしよう…どうしたら…
わたしはどうにか近づけた凛さん達の隣で障壁を張り続けることしか出来ない。
どうしてもっと強くないんだろう…もっと強ければ皆を守れるのに…
『やばいですよ~、お二人とも毒が回ってきちゃってます』
「どうすればっ!?」
『わたしとサファイヤちゃんがこの前のようにお二人を転身させれば肉体活性で毒を分解する事も出来るのですが』
「それじゃぁっ!」
とわたしはルビーを手放そうとする。
『でも、それじゃあ障壁を張る人が居なくなっちゃいますね~』
困りましたとルビー。口調は軽いが緊迫しているみたい。
今障壁を解除すればわたしたちは死ぬ。…でも、解除しなくても凛さん達は助からない。
どしたら…どうしたらいいの!?
(あー、もう。めんどうくさいわね、あなた)
え?
突如わたしの中から声が聞こえてきた。
空耳?
(空耳じゃないわ。良いから少しわたしに代わりなさい)
え、…いや。なんか分からないけれど、それはいやだ。
(わたしが表に出ないとラインが細くてチャンピオンが全力戦闘出来ないのよ)
な、何?何の事?
(まぁ、わたしが表に出ても本来肉体の無い彼が全力戦闘する事は出来ないんだけどね。チャンピオン、燃費悪いし)
だから何の事なのっ!?
混乱が加速する。
(代わらないならイリヤスフィール、あなたが何とかしなさい)
でも、だからどうやってっ!?
出来ないからこんなに慌てているのにっ!
(そのスッテッキ、英霊の宝具を置換させる事が出来るのよね?)
あのルビーが武器に変わるやつね。
(だったら、英霊そのものをあなたに置換出来るはずだわ)
は?
(チャンピオンも良いわね、力をかして)
次の瞬間、わたしの口から言葉が漏れる。
「夢幻憑依、チャンピオン」
瞬間、光が包み込む。
次の瞬間、銀の竜鱗の軽鎧を纏い、右手にリボルバーの付いた日本刀を持った姿に変わっていた。
「な、なんなのーーーーーーっ!?」
ルビーに会った初日のような大絶叫。
「イリヤ?」
美遊も心配そうな声を上げる。
(時間が無いわよ。防御魔法、使えるわね?)
「え、…うん。ルビーお願い」
『サークルプロテクションって言うんですか?これ~。便利ですね~』
言いながら凛さんとルヴィアさんの周りを障壁が囲う。
(まず、しっかり敵を見なさい。今のあなたはどんなに速くても見失うことは無いわ)
「う、うん…」
「イリヤ…その目は…」
『魔眼の類です、美遊さま。ランクは不明』
美遊とサファイアは何に驚いているんだろう。
(戦い方は分かるわね。英霊そのものを憑依させているのだもの、その戦闘経験もフィードバックされている)
う、うん…
「美遊、二人をお願い…」
「イリヤは…?」
「わたしはあいつらを倒してくるから」
地面を蹴る。
走る速度はランサーのサーヴァントもかくやと言った感じだ。
一瞬で正面まで移動すると、日本刀型のルビーを袈裟切りに振るう。
「はぁっ!」
「がぁっ…」
一刀両断。霞となってアサシンは霧散した。
二体、三体、四体と切り倒していくが、一向に数が減らない。
そこでわたしは十字に指を組み上げた。多数には多数だ。
「影分身の術」
ポワンと現れたもう一人のわたし。
「あら、へえ、こう言う感じで外に出られるとはね」
「あなたはっ!?」
「わたしはあなた。…まぁ今はどうでも良いじゃない。そんな事よりも、行くわよ」
「あ、うん…」
もう一人のわたしが先行するようにアサシンを狩る。だが、まだ減る様子が無い。
「ダメね。数が多くて面倒になったわ」
「でも相手も無限では無いはずっ倒していけばいつかはっ」
「アサシンは元より耐久は低い…だったら」
と言った直後、もう一人のわたしは姿を消した。
「え?ええっ!?」
何処にと見渡せば彼女はいつの間にか美遊達の傍にいた。
「鏡面世界から出てって」
「なっ!?」
「あなた達が邪魔なのよ。あなた達が居る所為で広域殲滅魔法が使えない」
『美遊さま、撤退を進言します。まずあのお二人が邪魔です。お二人には早急な治療も必要です。心配なら美遊さまだけ治療を終えて直ぐに戻ってくれば良いのです』
「サファイア…分かった」
『鏡界回廊一部反転』
「離界」
そして二人を連れて美遊は鏡面世界を脱出していった。
彼女は空中に移動すると、足元に巨大な魔法陣が展開され、その下に巨大な何かが現れる。
同時にわたしの中の何かが彼女に流れて行っている感じだ。
『な、何なんですか~、あれは』
「ルビー?」
『純魔力攻撃ですよあれ。いやー参りましたね、あの規模ですと直撃したら生きてられないかもですね~』
アハーと軽い言葉でとんでもない事を言う。
「ちょ、ちょっとっ!どう言う事っ!?」
『どうもこうもイリヤさんもアレが何なのか分かっているでしょ~』
はっとなって意識を向ければ憑依させたチャンピオンの記憶が知っていた。
「ブレイカー級魔法っ」
『大せいか~い。あんな量の魔力、普通の魔術師では用意も制御も出来ないはずなんですけどねぇ…さすがルビーちゃんですね』
魔力無制限から用意される魔力を逐一あの球体に集めていっているようだ。
「イリヤっ」
「み…美遊っ!?タイミング悪いよっ!?」
「は?」
このタイミングで鏡面世界に戻ってくる美遊。戻ってくるのが速すぎだ。
「なに…あの月は…」
「月じゃないのっ!魔力の塊だよ、あれはっ!」
【ほらほら、邪魔よ。そこに居たら纏めてふっ飛ばしちゃうから】
と自身の内に聞こえる声。
えっと…念話って言うのか。ってそうじゃないっ。
「み、美遊、直ぐに上に跳んでっ、速くっ!」
「…わかった」
わたしは飛び上がり、美遊は駆け上がってどうにか高度を取ると、邪魔者は消えたと彼女は剣を振り下ろした。
「スターライト…ブレイカーーーーー」
ドウッ
風を割る轟音と共に極光は大地を穿ち回りを閃光で埋めていく。
「る、ルビー!?」
『障壁はさっきからマックスで張ってますよ~』
閃光が止むとそこは草木一本生えていない焦土が広がっていた。
「アサシンのカードね…」
地面に降りた彼女はそれをつまらなそうに拾い上げた。
わたしと美遊もそれを見て地面に降り立った。
「イリヤ…?」
「初めまして、美遊。わたしはイリヤスフィール・フォン・アインツベルンよ」
少々剣呑が混ざった鋭い表情とは裏腹にちょこんと膝を曲げてドレスをつまむ仕草で挨拶をした。イリヤスフィール…
「まぁこんな荒事は久しぶりだから疲れたわ…チャンピオン。限界まで魔力を吸っても問題ないわ。カートリッジも作り置きしておきなさいね」
「ぐっ…また…」
「イリヤっ」
支える実遊の腕にもたれかかる。
『供給する端から魔力が流れて行ってますね~』
「わかるなら供給をカットすれば…」
と、美遊。
『いまカットすればイリヤさんが干からびてしまいますよ』
「くっ…」
いつの間にかもう一人のわたしは煙のように消えていた。
しばらくして脱力感から開放されてからわたし達はアサシンのカードを回収し、鏡面世界を脱出するのだった。
◇
なんやかんやイリヤが分裂したことや、俺を憑依させた事を魔術師の二人を交えて話し合っているが、まぁ答えは出ないだろう。
それよりも優先されるのはやはり最後のカードの回収だ。
最後のカードはバーサーカーであろう。
鏡面世界にジャンプする前に俺は実体化して彼女達の前に出る。
「あなたっ」
問い詰めようとする凛を視線で黙らせると本題に入る。
「行くのはイリヤと美遊だけだ」
「なっ…」
「そんな事認められませんわ」
絶句する凛と抗議するルヴィア。
「前回の事で分からなかったか?英霊相手に魔術師程度では勝てない。はっきり言って自分の身も守れない相手は足手まといだ。本当はイリヤ達も行かせたくは無い」
行かせたくないが、鏡面世界への侵入は俺よりも彼女達の方が上手だ。
「わたくし達が二流とでも言いたいのですのっ!?」
「そうじゃない。君達は一流の魔術師だ。だが、君達は魔術師として清純すぎる。君達は神秘を学び、研究し消化させる学者みたいな物だろう。荒事を専門にこなす戦闘屋じゃない」
最初の二枚を回収したと言う魔術師ならばあるいは…だが、彼女達じゃ荷が勝ちすぎる。
「今回で最後なのだろう?俺は先日魔力をもらえたのでね。久しぶりに全力戦闘が出来そうだ。イリヤとあとその青いヤツくらいは守ってやろう」
「…あなた、イリヤの何?」
と、凛が言う。
「彼女の盾であり、剣だ。彼女を守る約束もしている」
「誰と?」
その言葉に俺は答えない。
『イリヤさん~。いつの間に年上の男性をたらしこんだのですか~。隅に置けないですね、このこの~』
「る、ルビーっ!人聞きの悪いことを言わないでっ!」
外野が盛り上がっているが、彼女達を連れて行く訳にも行くまい。
おそらく最後の敵はバーサーカー、ヘラクレス。宝具は『十二の試練』であり、効果は蘇生魔法の重ねがけ。十二の命のストックがある。
「ここで実力行使に出ても構わないが?…ああ、一つ言っておく。俺に魔術は一切効かない」
「なっ!?」
一切とは大きく出たが、実際抗魔力Aを持ち、現代魔術師の魔術では総て無力化されるためあながち嘘ではない。
「ルヴィアさま。ここは彼の言う事が正しいです」
「な、美遊っ!?」
「カレイドの魔法少女なら多少の事では傷つきません…ですが…」
「わたくしは魔術師として、いつも死を覚悟していますわっ!それに、あなたを一人で死地に行かせるなんて事、このルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトができようはずもありませんっ」
「ルヴィアさま…」
美しい主従愛だが、美遊の説得も効果が薄かった。
確かに、ルヴィアの言葉は使える者にしてみればうれしい言葉であり、普通は言える言葉ではない。
「あの、凛さん…?」
「も、もちろん、私もあなたを一人でなんて行かせないんだからねっ」
「へー…」
「な、なによっ!」
イリヤと凛は微妙そうだ。
「ま、問答をするつもりは最初からない。実力行使と行かせて貰おう」
と言うと俺は彼女達にバインドを行使。
「なっ!?」
「こ、これは…!?」
彼女達の四肢を縛り上げる。
「凛さんっ!?」
「ルヴィアさまっ!?」
「いいから放って置いて、行こうか」
二人の背中を押して凛たちから離れる。
背中に罵声が聞こえるが気にしない。
ビルの屋上から鏡面世界に移動すると、今回のエリアはほぼビル一個分と狭い。
「今回は全力戦闘で行く」
「全力…この間のアレですか?」
聞いたのは美遊だ。この間のと言うのはあのスターライトブレイカーの事だろう。
「いや…」
と、会話をしている暇すらなかった。
ドスンとコンクリートを踏み砕きながら現れるバーサーカー、ヘラクレス。
「■■■■■■ーーーーーーーー」
「ひっ…」
「っ…」
雄たけびにイリヤと美遊がすくんだところに一気に駆け寄ってくる。
振り下ろされる大斧。
それを一瞬で現したスサノオのヤタノカガミで受け止める。
「これは…?」
「もしかしてあの時の…?」
と、イリヤと美遊がつぶやいた。
イリヤの表情が変わる。
「別人とは言え、こんなバーサーカーは見たくないわ。チャンピオン、お願い…バーサーカーを倒して」
「イリヤ…あなた、また…」
美遊がいぶかしむが俺の答えは決まっていた。
「了解した、イリヤ」
ガキンガキンと斧を打ち付けるバーサーカー。だが、ヤタノカガミはびくともしない。
逆にスサノオの十拳剣を横に薙ぐ。
「■■■■ーーーー」
理性も無い…いや、黒化英霊には意思すら無いのだが、直感のような物で十拳剣を避けた。
「おっと、良い所に逃げたな」
『クリスタルケージ』
ピラミッド型に捕縛魔法がバーサーカーを束縛する。
巨体を壁面が圧迫し、自慢の腕力も自在に扱えない。
「まあ数秒ももたないかもしれないけれど…」
だが、その数秒あれば良い。
俺は一気に十拳剣を突き入れた。
「■■■■ーーーーー」
そして封印術が行使される。
その巨体を抵抗する事許さずに酔夢の世界へと吸い込んだ。とは言え、吸い込んだのは外装だけだ。
核であるクラスカードだけがその場に残る。
「………」
「………え、終わり?」
イリヤはすでに元に戻っているようだ。
「本物のサーヴァントであるバーサーカーならもっと手ごわかっただろうよ」
ただ、相手は意思も無い黒化英霊だ。直感スキルも大幅にダウンしていたに違いない。
でなければこんなにあっけなく封印されたりはしない。
「さて、帰ろうか」
「あ、はい…」
「う、うん…」
鏡界回廊を開き現実へ。
「はやっ!?」
「終わりましたのっ!?」
出迎えるのは未だ脱出を計れていない二人だ。
俺はすでに霊体化している。
「う、うん…」
そう言っておずおずとバーサーカーのカードを差し出すイリヤ。
なぜかそれをひったくる様に奪い取るルヴィアとそれを追いかける凛との骨肉を争う戦いが勃発したが、クラスカードをめぐる争いは一時の解決を見せた。
ステッキたちは自らの意思でイリヤ達の傍を選び、しばらくの時が過ぎる。
七月上旬。プールが解禁し、イリヤ達もプールの授業。
何の変哲も無い日常が、不意に非日常へと変わる。
それはただプールに飛び込んだと言う事象が、まさか世界を跨ぐとは、イリヤ達はおろか、俺にすら予想は出来なかった。
ズザザーとコンクリートに顔を擦り付けるイリヤと美遊。
「いっ……たああああああい、顔中いたい、何これっ!?」
「っ…」
痛さにパニックの声を上げるイリヤと静かに痛がっている美遊。
周りを見れば、上下逆さま、ごちゃ混ぜに建物が浮かび上がっている。
ルビーの説明を聞けば、複数の空間がごちゃ混ぜにくっついているとの事。
取り合えず、現況を見つけて叩けとの事らしい。
二人は転身して飛び上がりつつ、現況をさがす。
「犯人さーーーー…」
そんな呼びかけで現況が出てきたら世話がないとおもっていたのだが…
「…ん!?」
ドシンと言う音を立てて、背後に着地する何か。どろの塊のように不定形な何かだった。
「うわわわっ!?どうしよう、…取り合えず、ミユっ!」
「わかってる」
「「放射」」
二条の光がモンスターを直撃するが…
「な、なんでっ!?」
元に戻るモンスター。一撃ですべてを吹き飛ばす位じゃなければダメのようだ。
「効いてないっ効いてないよっ!」
慌てて逃げ惑うイリヤと美遊。
実体化するかと意識したその時、上空に魔力反応が感知された。
視線を上げれば、なんか懐かしい人物。…いや、あの彼女にはあった事は無いのだけれど。
「いくよ、レイジングハート」
『オーライ、マスター』
「ディバイーーン、バスターーーーっ!」
ゴウッと光の本流がモンスターを包み込み、押し流す。
「一瞬で蒸発したっ!?」
驚愕の表情を浮かべるイリヤと美遊の元に降り立つ彼女。
「すみません、威力は調節したつもりなんですけど、お怪我はありませんか?」
と言う茶髪を両サイドでまとめ上げ、どこかの制服のような魔法衣を着ている誰かが言った。
「ほ…」
ほ?
「本物だーーーーーっ!?」
イリヤの絶叫。
「本物の魔法少女だよっ、ミユっ!」
「う、うん…イリヤ…」
「あの…此処がどこか分かりませんか?」
と、彼女が言う。
「いや、わたし達も気がついたら迷いこんでいただけだから…」
「こまったなぁ…どうやったら元の世界に戻れるんだろう…」
と言ってため息を吐く彼女にイリヤが尋ねる。
「あのー…それで、あなたは…いったい?」
「あ、すみません。申し送れました。わたしは高町なのは。小学三年生です。訳あって…その…魔法少女とかやっているのですが…えと、でもあなた達も魔法少女なんですよね?他の魔法少女に会えるなんて、こんな事になったけれど、少しラッキーかな?」
と言ってぱっと笑うなのは。
「お、おお…」
イリヤと美遊はその神々しいオーラに当てられ気味だ。
何か精神にダメージを追ったように傷心している。
ルビー曰く、イリヤのMS(まほうしょうじょ)力が一万ならなのはは五十三万らしい。
そのプレッシャーにイリヤもたじたじと言う訳だ。
「あのー、もう一人女の子を見かけませんでしたか?」
そうなのはが問いかける。
「え?見てないけど、どうかしたの?」
イリヤは質問の意味をよく理解していないが、とりあえず見ては居ないと答える。
「その子も多分わたしと一緒に巻き込まれたからこの世界に居ると思うんです」
「その子、お友達なの?」
「いえ、でも…」
となのはは少しうつむいてから顔を上げた。
「友達になれたらって思うんです」
その言葉にポっと顔を赤らめるイリヤと美遊。
「そっか、わかった。ならわたしも一緒にさがしてあげる」
「え、良いんですか?」
「どのみちこの騒動の犯人も捜さなきゃだしね」
「イリヤ…」
「いいよね、ミユ?」
「うん」
イリヤの言葉に頷く美遊。
「それじゃ、魔法少女同盟結成と言う事で」
「はいっ」
三人は手を合わせる。
「目標はもう一人の女の子の捜索と、犯人を突き止めること。皆で力を合わせて脱出ようっ!」
イリヤの力強い宣言に、美遊となのはも決意を新たにする。
しかし、良い場面には落ちが付き物。
どどどどっ
「なっなに!?」
背後の地面が突如として隆起、世界に衝撃がはしった。
「わわわわわっ!?何あれっ!デカイっ!そしてヤバイっ!」
視界には先ほどよりも大きなどろどろのモンスターが竜巻や雷を起こしつつこちらを視認しているようだ。
その数は見えるだけで3体ほど。
慌ててその場を飛び去るイリヤ達。
「限定展開、ランサー」
イリヤはランサーのクラスカードを限定解除。その手に持ったルビーが赤い魔槍に変わる。
「ゲイ…ボルグっ!」
投げ放たれる赤槍。
モンスター一体を粉みじんに吹き飛ばす。
美遊も極大の砲撃で一匹を吹き飛ばしたところだ。
しかし、この空間は不安定なもの、この不思議空間の流動が加速を増した。
「なのはちゃんっ!?」
バスターのチャージを開始していたなのはの背後に巨大なビルが迫る。
「あっ…」
ちっ…なのはでは間に合わない。イリヤや美遊でもだ。
俺は一瞬で実体化し、駆ける。
なのはをかばうように前にでて、部分展開した十拳剣を一閃。
上下に分裂するビル。
「あ、あの…ありがとうございました」
と、礼を述べるなのは。
「あー、あなたはっ!」
イリヤが吠えているが、仕方ない。別人であっても彼女を見捨てるのは気分が悪かったのだ。
真っ二つになったビルの向こうでぱちくりと驚きの表情を浮かべ、どこか手持ち無沙汰に大鎌を構えていた少女。
「フェイトちゃんっ!」
彼女の瞳はなのはより、俺の方へと強い視線を向けていた。
「俺に君と敵対する意思はないよ。取り合えずこの世界からの脱出だな」
コクリと取り合えずはと頷くフェイト。
そして指を指したのは逆さまになった時計塔だ。
「あそこだけこの世界の中でまったく動いていない」
「なるほど、あそこに現況が居るわけね」
またもコクリと頷く。…うーん、感情にとぼしいなぁ。
「けど、塔自体に高度な防御結界が張ってあるねぇ…これは中々難しいかもしれない」
と言う言葉になのはが大丈夫だと言い切った。
「大丈夫ですよ。一人でダメなら皆でやればいいんですっ」
そう言ったなのははカノンモードで砲撃準備に入った。
「なるほど、そう言う事なら。『セイバー』限定展開。タイミングは任せます」
と美遊はセイバーのカードを使い魔力をチャージする。エクスカリバーを使うのだろう。
それを見てフェイトもチャージに入る。
「うう…みんな何か必殺技の雰囲気だよ~」
『イリヤさんはさっきランサーのカードを使っちゃいましたからね~』
「ルビーのイジワル。それでもわたしもやるしかないじゃない、…雰囲気的に」
『しょぼいですけどね~』
イリヤとルビーのコントを聞きながら俺は彼女達の背後に迫る。
「今回は俺が力を貸してやる。魔力供給もなく俺も大技を出すわけにはいかないからな」
「チャンピオンっ!?それって…」
「夢幻憑依。覚えているだろう?」
「な、なんとなくだけど…」
「まぁ、失敗したらしょぼいビームになるわけだが」
「絶対成功させるわっ!」
「その意気だ」
イリヤは気合を入れると俺と同調し始める。
「夢幻憑依チャンピオン」
ふっと、俺の意識がイリヤの中に吸い込まれていった。
ふっ、どうせなら少しイタズラしてやろう。
◇
「で、できたーっ!」
「イリヤ…?」
「なに、ミユ?」
何かおかしい所があるだろうかと自分の格好を確認すると…
「なにこれーーーーっ!?」
「はわわっ…わ、わたしとそっくりですっ」
と、なのはちゃんの声が聞こえる。
『なんて言うか、2Pカラーって感じですね』
着ている服がなのはちゃんとそっくりだった。手に持つルビーの格好もほぼ一緒。…相違点を挙げればリボルバーが付いている所位か。
「ど、どう言う事っ!?」
『さあ?これもチャンピオンの能力なんじゃないですか?形態模写能力とでも言うんですかね?』
「わ、分からないけど、今は取り合えず…ルビーお願い」
『はいは~い。バスターカノンモード、いっちゃいますよ~』
ガシャンと音を立てて変形する。
槍が伸び、補助スティックが現れ、握ればトリガー部分が指に触れた。
『ちゃっちゃと行きますよ~』
わたしの足元に魔法陣が現れる。
「ちょ、ルビーっ!チャージ速いよっ!?それと何をチャージしてるの!?」
『大丈夫ですよ、その右指に当たっている引き金を引けばディバインバスターが発射されます。はりきっていきましょ~』
「かるいっ!ルビー、ノリがかるすぎるよっ!?て言うかディバインバスターって…あれ…知ってるや」
『今の状態は彼の戦闘技術をトレース出来ますからね~。その知識も当然トレースできてますよ~』
「とりあえず、チャージは十分。行けるよっ!」
今、この場で最も必要なのはあの塔を破壊することだ。
「それじゃあ…せーーーーーーーのっ!」
「「ディバイーンバスター」」
「エクスカリバー」
「サンダースマッシャー」
なのはの掛け声で四人が必殺技を時計塔に向かって撃ちだした。
互いの攻撃が絡み合い、威力を上げて時計塔を破壊する。
砕かれた外壁の中から、威力が強すぎたのか意識を失った人影が二人落ちてきた。
「え?凛さんとルヴィアさん?」
『まったく…何処の世界の彼女達かは知りませんが、まったくはた迷惑なのは変わりませんね~』
「どこの世界?」
『少なくともわたしたちの世界の彼女達じゃあありませんね~。あの人たちは時計塔には帰られて居ませんから』
ちょっと…どころか大分意味が分からないが、現況はあの人たちだったのだろう。
「時計塔の中が光ってる…」
『今の攻撃で世界の融合がとけましたね~。今ならあの光に入れば(たぶん)元の世界に戻れますよ』
「なんか今不穏な空気を感じたんだけど?」
『気のせいですよイリヤさん』
もう一人の魔法少女。…名前なんていったかな。その彼女がすぅっと光の中に消えていく。
「先に行く」
「ま、まって、フェイトちゃんっ!」
追いかけるように飛ぼうとしてなのはちゃんはこちらを振り返った。
「友達になれると良いね」
と私は言う。
「う、うん…また、どこかで会えると良いね」
そう言うとなのはちゃんも光の中に消えていった。
「イリヤ、わたし達も行こうか」
「あ、うん…あの二人は?」
『適当にあの中に投げ込んでおけば良いんですよ。それで(たぶん)大丈夫なはずです』
と言うルビーの言葉で凛さんとルヴィアさんと光の中に投げ入れた。
さて、わたし達も帰ろう。
と、光の中に飛び込む直前。なのはちゃんが居た。
「…どうしたの?なのはちゃん」
「そう言えば、お名前まで聞いてなかったなって」
ああ、そう言えばそうだったかも。
『イリヤさ~ん、自分は聞いといて、名乗らないとか。マナーがなっていませんね』
ムカッと来るルビーの物言いにも我慢だ。確かにマナーがなってない。
「わたしはイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。小学校四年生だよ」
「美遊・エーデルフェルト。イリヤと同じ、小学四年生」
「そっか、ありがとうございます、教えてくれて。…それじゃ今度こそ、またね」
そう言って三人一緒に光を潜る。
『あ、一緒に潜るとどうなるか分かりませんよ?』
「え?」
ルビーのつぶやきに反応できず。すでに私の体は光の中に入っていた。
飛び出した先は学校のプール…では無く、知らない街だ。
「あれ、お二人とも海鳴にお住まいなんですね」
と、なのはちゃんの声が聞こえた。
「いやいやいや…」
ぶんぶんと左右に首を振る。
「でもまあ日本みたいだし、ひとっ飛びで帰れるよ」
日本みたいだし、問題ないおね。
「じゃあ、今度こそ、バイバイ」
「はい、またどこかで」
と、そう言ってなのはちゃんと別れる。
「で、冬木ってどっちかな?」
「さあ?」
「さあって。ミユ…ううん、なのはちゃんに聞いておけば良かったかな」
まぁ現在地を知る事くらい現代日本では難しくない。
その時のわたしはどうやってプールの授業を抜け出したのかの言い訳を考えるので手一杯で、もっと事態が深刻だと分かったのはこの直ぐ後の事だ。
…
…
…
後書き
INリリカルを妄想し、くどいかとお蔵入り。まぁ続きはどうなるか分かりません。いっそ、リリカルじゃない世界に行ったと言う事にした方が広がるかもしれませんね。…ほんとどうしようか。とあとがきを纏めつつ。本年もありがとうございました。
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