バニーガール
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第六章
第六章
「無理に誘ったせいでこうなったんだからな」
「いや、それは」
「もう無理には誘わないからな」
そうしてこう言ってきた。
「これ以上はな」
「そうなのか」
「今日のことは忘れるなって言っても無理だろうがな」
流石にそれを言うのは図々しいと思うのだった。
「それでもな。実際のところ」
「気にしないさ」
高谷君も彼の心境を察して言葉を返した。
「だから気にしないでくれよ」
「悪いな」
二人は後味の悪いコーヒーになったがとりあえず気を鎮めていた。だが真理奈と和歌子の方はそうはいかなかったのだ。
「もう終わりじゃない」
真理奈は店の奥の倉庫で大泣きだった。泣いて泣いて仕方がない有様だった。
「高谷君とのデートの為だったのにその高谷君と」
「確かに痛いわね」
心配して側にいる和歌子が彼女に言う。倉庫の中には二人の他に誰もいない。ダンボールの山が積み重ねられているだけである。
「まさか彼まで来るなんて」
「折角お金が溜まってもこれじゃあ何の意味もないじゃない」
真理奈は泣き続けたまま言う。
「どうしたらいいのよ。お金があっても仕方ないわよ」
「落ち着いて」
しかし和歌子はここで真理奈を落ち着かせるのだった。そっと彼女の両肩を抱いて。
「ここはね」
「落ち着いてどうにかなるの?」
真っ赤になった目でその和歌子に問う。
「もう完全に終わりじゃない。どうすればどうにかなるのよ」
「私に任せて」
しかし和歌子はそれでも言う。
「上手くいくから」
「いくの?本当に?」
「私に任せて」
和歌子は優しい声で真理奈に囁いてきた。
「絶対に上手くいくから」
「本当に?」
「ええ、確実にね」
彼女の言葉には強さがあった。全てがわかっているような。
「上手くいくわよ」
「高谷君と?」
「そうよ。だから安心して」
また真理奈に囁く。
「安心していていいから。真理奈は」
「高谷君とデートできるの?」
そのことだけを考えていた。それだけに彼女も必死だった。その必死な顔で和歌子に対して問うのだった。まるで神様にすがるように。
「それで」
「そうよ。真理奈は何の心配もいらないから」
「嘘じゃないわよね」
「私が嘘を言ってことがあるかしら」
和歌子の言葉は何時になく真剣だった。その真剣さは真理奈にも伝わった。
「ないわよね」
「え、ええ」
和歌子のその言葉に対して頷く。
「だからよ。真理奈はこのまま待っていればいいから」
「待っていれば」
「それだけでいいの」
和歌子の声が穏やかなものになった。
「わかったわね。任せて」
「わかったわ。それじゃあ」
真理奈も和歌子のことはわかっている。だからこその親友なのだ。そして真理奈は友人を信じるタイプだ。それなら、と決めたのであった。
「御願いね」
「ええ。一週間経ったらね」
「一週間ね」
「それだけあれば充分だから」
そうも言ってみせる和歌子であった。
「任せてね」
「ええ」
こうして真理奈は一旦は落ち着いた。そうしてアルバイトを再開するのだった。とりあえずお金は溜まっていく。しかしだ。彼女は心の中に不安を抱き続けていた。
「和歌子はああ言ってくれているし」
とりあえずは和歌子を信じていた。しかしそれでも。
「上手くいくのかしら、本当に」
不安の理由はそれであった。どうしても上手くいくとは思えなかったのだ。その相反する気持ちが心の中でせめぎ合っていたのだ。
「高谷君と。デートを」
あれこれ考えているうちに一週間経った。すると和歌子が彼女に声をかけてきた。
「今日よ」
「一週間よね」
「ええ。それでね」
和歌子は言う。
「お店に来て欲しいのよ」
「お店に?」
「そういうこと。いいわね」
真理奈に対して告げるのだった。
「それだけでいいから」
「お店に行くだけでいいのね」
「真理奈はね」
また真理奈に言うのだった。
「それだけでいいから」
「私はそれだけでいいって」
何か引っ掛かるものがあった。真理奈も目をきょとんとさせてそれから首を捻る。
「どういうことなのよ」
「少なくともハッピーエンドは期待していて」
彼女は真理奈にこう告げて安心させた。
「わかったわね」
「ええ」
何が何なのかわからないまま和歌子の言葉に頷く。
「それで上手くいくのなら」
「一つ言っておくことがあるわ」
和歌子はここで真理奈に静かに告げてきた。
「何を?」
「女の子が必死に誰かの為にすることは全部正しいのよ」
珍しくくすりと笑ったうえでの言葉であった。
「特に好きな人の為にすることはね」
「そうなのよ」
「そうよ」
そう真理奈に答えた。
「それが神様が女の子に与えてくれた最大の贈り物なんだから」
「贈り物って」
「必死にすることが正しくなるってことよ」
和歌子はまたそれを真理奈に告げた。
「いいわね。それを信じればいいのよ」
「じゃあ今は」
「安心してお金稼ぐのよ」
和歌子が言いたいことは結局のところそれであった。
「今はね。わかったわね」
「わかったわ。それじゃあ」
まだ不安が心の中を支配していたがそれでもであった。真理奈も頷くことにした。
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