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魔法少女リリカルなのは~その者の行く末は…………~

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  volume-5 new year

 
前書き




年末年始。



 

 




 十二月三十一日。
 世間一般的には大晦日と呼ばれ、今年一年を振り返り労う日。それはまた喫茶店翠屋でも変わりなかった。


「もう今年も終わっちゃうね」
「本当、あっという間だよね。毎年思うけど、学校と管理局の仕事を両立してると本当にあっという間だよね」
「ほんまやで。中学三年間もこれといって青春もしてないし……」


 はやての言葉に反応する人はいなかった。綺麗にスルーされたことに若干傷ついたが、別にいつものことだったりするのでもう慣れたものだったりする。だが、フェイトの言うことには全面的に同意だった。


 管理局に入局してからは、学校と仕事の両立が大変でリンディやレティが学校の期末考査で低い点数と取ったらそれ相応の対処をすると、もはや脅しに近いことをされていたりしたので、必死に頑張っていたらいつの間にか中学三年の冬休みである。
 中学生らしいことは何一つとしてやっていない気もするが、別にそれでもいいかなって思ったりしているのがこの三人だった。
 ただなのはに至っては、働きすぎて体に負荷をかけ過ぎて大事なところで体が動かずに重傷を負ってしまっていた。もう魔導師として復帰することはできないかもしれないと言われていたが、必死のリハビリで何とか元のように空を飛ぶことが出来るようになっていた。その際に、自分とのつながりが魔法しかないと思い込んでしまっていたのをフェイトたちが直したこともあった。それも今となっては思い出になっている。二度と起こしたくない、思い出したくない、心の底に閉じ込めておきたいものとなってしまっているが。


 でも、こうして三人はこたつに入ってのんびりとすることが出来ている。昨日まで仕事が入っていて疲れているのもあるのかもしれないが、まず間違いなく休みを取るようになったのは過去と比べて良くなった方だった。
 まだ迷惑を両親にかけるかもしれないけど、もう心配はかけたくないとなのはは思う。
 ちょっと昔のことを思い出して気持ちがしんみりしたけど、昔は昔で割り切ってしまう。もう一度やってしまったことは取り返しがつかないことでもやり直せるわけがないのだから、となのはは自分に言い聞かせて話に戻る。


「それでどうする? 初詣までまだ結構時間があるんだけど……」
「何時にここを出るんだっけ?」
「えーっと……何時だっけ? あはは……忘れちゃったからちょっとお母さんに聞いてくるね」
「なんや、なのはちゃんはおっちょこちょいやなあ」
「昔からそういうところは直らないよね、なのはって」


 炬燵の上に置いてある蜜柑をはやてが手に取り、皮をむいて一房取り口に運んでいく。口の中に広がる瑞々しさと甘さを楽しみながら次々口に蜜柑を入れる。そしてあっという間に食べ終わってもう一つ食べようと手に取ろうとしたところでなのはが戻ってきた。
 戻ってきたなのはを見て、少し残念そうに蜜柑から手を引っ込めて話を聞こうとする。はやての向かい側では、口につけていたお茶を静かに炬燵に置くフェイト。


「神社が少し遠いから三時半だって。初の日の出見たいでしょ?」
「見たい見たい。でも、今から寝るにはちょっと早いかも」
「そうかぁ? うーん……別にうちは今から寝ても二時ぐらいには起きれるで」
「えっ、いやいやいや。そんなのはやてちゃんだけだって」
「私も寝れなくはないけど……はやてみたいには、起きれないかな」
「……ん? うちが可笑しい……いや、別にこれが普通だったりしたから大丈夫なんやけど」


 今の時刻は午後十一時四十五分。今から寝て二時に起きるとなれば、睡眠時間は二時間弱だ。そんな生活を続けていたらしいはやてをなのはは有り得ない物を見るような目で見る。そんな目にはやては傷つきつつ、さらに話を続けていく。


「多分、アインスの方がもっと大変やと思うで。だってもう一年ぐらいあってないし」
「ええっ!?」


 はやての更なる爆弾発言になのははもっと驚く。フェイトも一年も会っていないというところに反応する。流石にそれはやり過ぎなのではないのか。と管理局に疑問を持ってしまうフェイトだったが、管理局という巨大な組織となれば一枚岩というわけでもないのだからこういうことがやはり起こってしまうのだろう。執務官として許せないが、まだまだ未熟者。もっと力をつけなくてはとフェイトはこれからに意気込む。


 ――――こうして三人の大晦日は終わり、新たな一年が始まるのだ。部屋には話し声が止まず、結局夜通し起きてしまったようだ。思春期の少女としてはどうなのかと言いたくもなるが、これでもミッドチルダでちゃんと働いているのだからいいのかもしれない。
 ただいえることは、彼女たちは充実して毎日を過ごしているということだ。


 ◯


「うわあ、やっぱり混んでるね」
「仕方ないよ。それより早く並んでお参りしちゃおうよ」
「そうやね。行こか」


 なのはたち三人はお参りの列に並ぶ。その後ろには高町家の面々もいる。フェイトとはやての家族はどうしても仕事を休むことが出来ず、やむなく不参加となってしまった。それでも二人の表情に陰りは見えない。何だかんだで三人でいることが一番楽しいのかもしれない。まあ、こうして美少女が三人もいれば注目の的となってしまうのも仕方のないことなのかもしれない。別に毎年のことで慣れてしまった三人は気にすることなく、話を続ける。


 特に特筆することも起こらずにお参りを済ませた三人は、士郎たちと別行動にうつる。少し歩いて屋台をいくつか回ったところで三人の前から見知った顔の人がやって来て、三人を見つけると人をかき分けてこっちまで来る。


「はやて!!」
「アインス!?」


 一年ぶりの再会で感極まったのかアインスがはやてに抱きつく。どうしてここにアインスがいるか理解が追い付かないはやてはまだ混乱していた。
 なのはもフェイトも二人の再会に目に熱いものを感じていた。空気を読んでこの場から離れようとしたが、アインスがそんなに遠慮されても困ると二人に言うので二人も一緒にいることにする。
 ようやく落ち着いたのかはやてから離れたアインスは早速まわろうとはやての手を引っ張ろうとするが、はやてはアインスがここにいる理由を知りたくて待ったをかける。もし仕事から逃げてきたのであれば、心を鬼にして送り返さなければならない。寂しいが、ただでさえ立場が危ういものであるため、多少の我慢が必要なのだ。


「大丈夫です。たまたまこの近くに来まして、三時間だけ休憩時間を貰うことが出来たので来ました。ここにいることは来る前にシグナムと桃子さんから聞いていたんです」


 それを聞いて嬉しくないわけがないはやて。喜び過ぎていつもよりテンションが高い。けれどもそんなはやてを見るのは久しぶりななのはとフェイトは温かく見守る。
 前をはやてとアインスが並んで歩き、その後ろになのはとフェイトが続く。いつもの三人にさらに美女が増えたことでもっと注目を浴びてしまうこととなってしまったが、その恥ずかしさもはやての心の底からの笑顔を見てどこかに吹き飛んでしまっていた。


 そんな四人の姿を遠くから眺める影が一つ。それは男のものであった。
 視線に敏感なフェイトも今は周りの視線のせいで気づくことはない。


「はあ。やっぱり、あの前に出るのは無理か。逃げるようにしていなくなった手前、今更出て行こうという勇気もない。……それにしても六年もたつのか。時間の流れは早いものだな」


 そう独り言を呟いてその場から移動する男。その姿は、銀髪に左右で色の違う瞳であるためにこれもまた注目を浴びる結果となってしまっていることを男は気付かなかった。
 周りからの視線に疑問を抱くもついぞその原因を知ることはなかった。


「あっ、おっちゃん、焼きそば大盛りひとつください」
「毎度ありっ! 六百円だ」


 ◯


「どうだった、リインフォース。久しぶりの再会は」
「ええ、はやてもお変わりないようで安心しました。本当ならば、はやての隣で彼女の支えになってあげたいのですが……それも叶わない話。私は私で自分の仕事を全うするだけです」
「……すまないな。こんな部隊に配属されたばかりに。すべて極秘で表沙汰にするわけにはいかないからな」
「あ、いえいえ。別にあなたが悪いというわけでもないんですから謝られても困ります。私の上司らしくしっかりとしてください」


 はやてと久しぶりに再会することを果たしたリインフォース。彼女は、所属している部隊の仕事上休みもほとんどなく、家に帰れるのはいつになるか分からない状態でとても劣悪な職場環境である。それに加えて、リインフォースの部隊にはあともう一人男が所属するだけとなっているのだ。部隊所属人数二人。
 彼女たちの仕事内容はここで明かすわけにはいかないが、話の内容から裏の仕事に関わることなのだろうか。あまり深入りしてしまうのはよくないため、ここらで話を切る。


 今回たまたま仕事で地球の近くまで来て、三時間だけ時間が取れたため急遽休息を取ることにしたのだ。疲れもたまって来ていたし、精神的にもくるものがあったため、男としてはいずれ休憩を取るつもりでいたが、意外な形で取ることが出来た。これは嬉しいことである。


 あの三人とリインフォースはあったようだが、男にはその資格はないと自分で思っている。何も言わずに勝手に三人の前から姿を消してしまったことに罪悪感を感じているのだ。今更どの面下げて会いに行けばいいのだろうか。そんな後ろめたさも手伝って再会には至らなかった。
 最後にここから見える海鳴市の眺めを目に焼き付けておく。どこかのビルの屋上から見える海鳴市は、初日に照らされてきらきらと輝いていた。そんな街の姿に涙がこみ上げそうになる。リインフォースが目の前にいるためぐっと堪えるが。それでも、心のどこかに感じていた寂しさが埋められていくような気がした。――――さて。


「リインフォース、先に戻っていてくれないか? 俺は人と会う」
「……そうですか。では、すぐに出られるように準備して待ってます」
「ああ、頼む」


 そう言ってリインフォースは、光に包まれてビルの屋上から姿を消した。男と乗る次元巡航艦に転移していったのだ。残ったのは銀髪の男一人だけ。転移した際に何か言いたそうにしていたが、何かを察してくれたのか何も言わずに転移していった。男はいい相棒に巡り合うことが出来たのかもしれない。
 だが、すぐに屋上の扉が開かれて誰かが出てきた。その人は男の姿を視界に収めるとその男のもとへと向かう。


「……出来ることなら誰にも会いたくなかった。まあ、何だ、その……久しぶりだな、恭也」
「なんだ久しぶりに会ったと思ったら、ずいぶんと歯切れの悪い言い方をするようになったな、燐夜」


 屋上に残っていた銀髪の男は、六年前に海鳴市から急に姿を消した三桜燐夜だった。容姿はそんなに変わっていないように思えるが、唯一、瞳の色が左右で違っていた。昔はどちらも同じ色であったのに今は、右目が青に左目が赤になっていた。その理由は恭也には分かるわけがなかったが、ナハトヴァールの力の影響で左が赤に。アルダーヴァレリオンとか言う古代最強のドラゴンの力を多用しすぎたことで右目が青に染まっているのだ。
 屋上にやってきたのは、高町恭也。昔手加減なしで戦いあい、関係も最悪であったが、どういうわけかこうしてまた会っている。


「なのはには……なのはたちには会って行かないのか?」
「ああ。まだ今の俺には会う資格はない。自分の気持ちの整理もついていないんだ。だから、まだ、だ」
「そうか……。お前がそれでいいなら、別にいいがな。少しはなのはたちのことを考えてやれ」
「まさかそんなことをお前に言われる日が来るなんて思っても見なかった。……でもまあ、心に刻んでおくよ」


 燐夜は寂しそうに力なく笑うと恭也に言う。


「…………悪いけど、今日ここで会ったことは誰にも言わないでくれないか?」
「なのはにもか?」
「ああ、そうだ」
「……まあ、いいだろう。こっちも迂闊にお前と会ったなんて口を滑らせてあいつらに追及されるのも面倒だからな。次はないからな」
「……恩に着る」


 燐夜には恭也を気絶させて記憶を抜き取るといった方法も取れたが、そうなってくると恭也を相手にするのはかなり無理があった。燐夜自身万全の状態ではないため、おそらく押し負けると予想していた。だったら最初から頼んだ方が早い。そんな思惑もあったりするのだが、正直言ってすんなり聞き入れてくれて肩を空かされた。手間が省けて助かったのだが。
 恭弥も照れくさくなったのか、燐夜から背ける。背けたところで燐夜に聞きたいことがあった恭也は振り返る。


 だが、そこに燐夜はいなかった。動いた気配も感じなかったが、おそらく魔法という奴でどこかに行ってしまったのだろう。なんだかやるせない気持ちになったが、そろそろ家に帰るかと気持ちを切り替えて屋上から出て行く。
 誰もいなくなったビルの屋上は、先ほどまで人がいたとは思えないほど静まり返っていた。
 朝日に照らされて少しずつ閑静な住宅街から人の声が聞こえ始めていた――――。





 
 

 
後書き



謹賀新年。
今年もよろしくお願いします。
……この更新が私からのお年玉ということで。……よろしいでしょうか?


 
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