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戦国異伝

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第百八十八話 宇喜多直家その十

 その彼がだ、旗本達の話を聞いてこう言うのだった。
「最初にこの城に来て驚いたが」
「はい、我等もです」
「気付いたその時には」
 既にだったというのだ。
「城内の兵糧の殆どが買い占められ」
「塩まで買われていました」
「塩もありませぬ」
「そして武具も」
「何もないか」
 そこまで徹底していたのだ、羽柴と秀長の買い占めは。
 それでその結果だ、今の鳥取城はというと。
「飯も塩も武具も」
「何もありませぬ」
「しかも兵は増えており」
「女房衆まで多く」
「余計にです」
 その足りない兵糧も塩もだというのだ。
「なくなっていき」
「今ではです」
「あと一日か二日です」
「それ位しか持ちませぬ」
「既に因幡の殆どは織田家のものとなっておる」
 経家はこのことも言った。
「鳥取城だけじゃ」
「因幡に毛利に残っているのは」
「最早そう言っていいですな」
「籠城してもな」
 例えだ、それをしてもだった。
「餓えるだけじゃ」
「ではどうされますか」
「ここは」
「援軍が来るのなら籠城をするが」
 戦の常道だ、そうすることは。
「しかしこのまま城にいてもな」
「ただ餓えるだけで」
「何にもなりませぬか」
「そうなりますか」
「それが今の我等ですか」
「既に飯も塩もないのじゃ」
 実際にだった、食べるだけのものはなくなっていた。水は井戸から得られるが水だけで生きていられないことも明白だ。
 それでだ、経家は言うのだ。
「織田家に餓え死にさせられるやもな」
「このまま」
「そうなりますか」
「そうなればじゃ」
 経家は意を決した顔で旗本達に言った。
「うって出るか若しくは」
「若しくはとは」
「どうされるのですか」
「わしが腹を切りじゃ」
「経家様がですか」
「そうされてですか」
「御主達の命を助けてもらう」
 そうするというのだ。
「わかったな」
「いえ、それは」
「経家様が腹を切られることはありませぬ」
 旗本達は経家のその言葉を受けてだ、必死の顔で言った。
「それならばうって出てです」
「そして死ぬまで戦いましょう」
「このまま餓えるよりはです」
「その方がましです」
「そう言ってくれるか、しかし御主達はまだ毛利の為に働くのじゃ」
 そうあって欲しいからというのだ。
「だからじゃ」
「生きよと」
「そう仰るのですか」
「我等に」
「そうせよと」
「そうじゃ、御主達は生きよ」
 是非にというのだ。
「わかったのう」
「では」
「間もなく」
「決める」
 うって出るにしても腹を切るにしてもというのだ。
「わかったな」
「さすれば」
「その時は」
「織田信長、いや羽柴秀吉か」
 誰が兵糧を買い占めたのかをだ、経家は既に察していた。そのうえで険しい顔になってこう言うのだった。
「ここまでして兵糧攻めにするとは恐ろしき者よ」
「羽柴はそこまでしてですか」
「攻めるのですか」
「そしてそれが」
「織田家の者ですか」
「織田家は人が多い」
 このことは毛利家においてもよく知られている、それ故に今天下に覇を唱える家になっているということもだ。
「その中にはな」
「ああした者もいますか」
「羽柴の様な者も」
「恐ろしい家じゃ」
 こうまで言うのだった。
「まことにな」
「ですな、間違ってもうつけではありませぬな」
「手強い家です」
「このことを肌で感じておる」
 戦っているだけにだった。
 経家は囲まれた中で己の運命が終わろうとしていると思っていた、そしてその外ではだ。羽柴が次の手を打とうとしていた。


第百八十八話   完


                        2014・7・2 
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