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剣の世界で拳を振るう

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第一層ボス攻略

さて、デスゲーム開始から一ヶ月が経過した。
未だに一層目は攻略されておらず、プレイヤーも2000人が死んだとされている。
βの時は序盤、1日一層と言うスピードで攻略していったと言うのに、正式プレイでは全く進まない。
理由は簡単。
βの時代よりも難易度が上方修正されたからだ。
モンスターのステータス、経験値習得率、スキルの熟練度。
まさに攻略に時間を賭けるようにしたとしか思えない手腕である。

そんな中、第一層『トールバーナ』で初の攻略会議が開かれることになったのだ。
召集をかけたのは言うまでもなくディアベルと言う男プレイヤー。

そんな(トールバーナ)の噴水広場。
噴水から水が滾々と湧き出ているその場所はすり鉢上の地形となっており、階段みたいになっている。
そこには俺を含み、約40人強のプレイヤーが集まっていた。

「はーい!そろそろ始めまーす!」

指定時間五分押し。
漸く青髪のプレイヤーが声を張り上げて喧騒を押さえる。
この場にいる全プレイヤーが注目する中で、青髪プレイヤーは再び声を張り上げる。

「俺の名前はディアベル。職業は気持ち的に騎士(ナイト)やってます!」

その自己紹介により、周りはさまざまな発言で冷やかすがディアベルが手で制す事で急に真剣な雰囲気になった。

「今日、俺達のパーティーがボスの部屋を発見した」

その言葉に周りがどよめく。

「一ヶ月……ここまで辿り着くまで大分時間が掛かった。
だけど、俺達は示さなきゃならない!ボスを倒して第二層に到達してこのゲームはクリア出来るんだって始まりの街で怯えている人達に!それが!この場にいる俺達の義務なんだ!そうだろ、みんな!!」

素晴らしい演説だと思う。
裏がなければ尚良かったのだが。

プレイヤー達はその言葉を聞き、やがて拍手などのエールを送り始める。

「ちょお待ってんかナイトはん!」

頭を反転して声が聞こえた方向を見るとそこにはサボテン頭の男が立っていた。
そして小刻みにジャンプして広場の中央に着くと、言った。

「そん前にこれだけは言わしてもらわんと、お仲間ごっこはでけへんな」

その言葉を聞いたディアベルはサボテン頭に言う。

「これって言うのは何のことかな?
まぁ何にしろ意見は大歓迎だよ。でも意見するなら名乗って貰えるかな?」

その言葉を聞いてサボテン頭は口を開いた。

「ワイはキバオウってもんや」

やけに威圧しながら自己紹介をするキバオウ。
小物臭漂う名前である。

「そんなん決まっとるやろ!
こん中に今までに死んでいった二千人に詫び入れなあかん奴等がおるはずや!」

この場の空気が静まりかえる。

「キバオウさん、奴らって言うのは…βテスターの事かな?」

「そうや!
β上がりどもは、こんクソゲームが始まったとその日にダッシュで消えよった!
右も左も判らん九千何百人のビギナーを見捨ててや。奴らは狩り場やらクエストやらを独り占めして、ジブンらだけポンポン強うなって、その後も知らんぷりや!
こん中にもおるはずやで!
β上がりっちゅうことを隠して、ボス攻略に加わろう思おてる奴らが!
わいはそいつらに土下座させて、溜め込んだアイテムやら金やらを吐き出してもらわな、パーティーメンバーとして命は預けられんし、預かれん!」

ちょうどいいや。
聞いてみたかったことがあったし。

「はいはーい、質問ー」

「なんやお前!」

「俺はドナ○ド!
アンタに質問がある」

こう言うときに偽名を使えるのは良い。
ネームで探される心配も無いんだから気が楽だ。

「仮にβテスターがいて、ソイツからアイテムを取り上げたとする。
そのアイテムは何処に行くんだ?」

「そんなんワイの勝手やろが!」

「何そのジャイアニズム。
初心者への寄付なら分かるけどさぁ、アンタ一人のために使われるのはおかしいことじゃ無いのか?
もしそうなれば、アンタの見解のβテスターより余程たちが悪いと思うのは俺だけ?」

まぁ理由は分かっているんだけどな。

「実はそのβテスターに検討が付いていて、尚且つソイツがレアな装備を持っていると知っていて、
この場でディスる上にその装備を拝借しようとしている……とか?」

「なっ!?言いがかりや!
何処にそない証拠があるんや!」

「その言葉が証拠と言っても良いんじゃねぇの?
まぁ、そんなこと言われて自己の死ぬ確率を上げてしまうのは自明の理。
まず渡すどころか名乗りもしないだろうけどな」

「ぐ…ぬぬぬぬ!」

キバオウは俺を睨み付け、今にも噛みつかんばかりに唸る。

「発言良いか?」

今度は色黒のスキンヘッドなプレイヤーが挙手をする。
そのプレイヤーはキバオウの元まで歩き、その背の高さから見下ろすようにキバオウを見た。

「俺の名前はエギルだ。キバオウさん、あんたの言いたい事はつまり、元βテスターが面倒を見なかったから大勢のビギナーが死んだ。その責任をとって謝罪、賠償しろ、と言う事だな」

「そ……そうや」

 明らかに自分の意見に賛同してくれてる雰囲気ではない。
それが判ってかキバオウは一瞬だけ気圧され、片足を引きかけるも、すぐにエギルを睨み返し声を張り上げる。

「あいつらが見捨てへんかったら死なずに済んだ二千人や!
しかもただの二千ちゃうで、殆ど全部が他のMMOじゃトップ張ってたベテランやったんやぞ!
β上がり共がちゃんと情報やらアイテムやら金やら分け合うとったら、今頃此処にはこの十倍の人数が……ちゃう、今頃は二層やら三層まで突破できとったに違いないんや!」

一体何処にそんな根拠があるのか。
βテスターの殆どは原作でキリトの言ったように、新しいもの好きの左右の分からないような奴らばかりだったし。

「あんたはそう言うがキバオウさん。金やアイテムはともかく情報はあったと思うぞ」

 そう言ってエギルが取り出したのはもはやお馴染みアルゴのガイドブック。
これは他の町で無料配布されている一品だ。
ちなみに俺は買ってない。

「このガイドブック、アンタだって貰っただろう。
ホルンカやメダイの道具屋で無料配布していたものだ」

「貰たで、それが何や」

「このガイドは、俺が新しい村や町に着くと必ず置いてあった。
あんたもそうだったろ、情報が早すぎる、とは思わなかったか?」

「せやから、早かったから何やっちゅうんや!」

「こいつに載ってるクエストや、フィールド、モンスターのデータを情報屋に提供したのは元βテスターたちって事だ」

 その事実に辺りが大きくざわめき出す。そしてキバオウも何も言えず、歯を食い縛りながらエギルを睨み付ける事しか出来ない

「いいか、情報はあったんだ。
なのに沢山のプレイヤーが死んだ…その理由は彼らがMMOのベテランだったからと俺は考えている。
このSAOを他のタイトルの物差しで計り、退くべきポイントを見誤った。
だが今はその責任を追及している場合じゃないだろう。
俺達自身がそうなるかどうか、それがこの会議で左右されると俺はそう思っているんだがな」

「………へんっ!」

何も言えなくなったキバオウは、ズカズカと手前のイスに座り、腕組をして目を閉じた。

「みんな、それぞれに思うところはあるだろうけど、今だけはこの第一層を突破する為に力を合わせて欲しい。どうしても元テスターと一緒に戦えないって人は、残念だけど、抜けてくれても構わないよ。ボス戦ではチームワークが大事だからさ」

最後に改めてキバオウを真顔でじっと見つめた。
キバオウまたフンッと鼻を鳴らし目を逸らして言う。

「もうええわ。ここはあんさんに従うたる。
でもな、ボス戦終わったら、きっちり白黒つけさせてもらうでっ!!」

もう既についていると思うのは俺だけだろうか。

「よしっ、それじゃあ最後にここに居るメンバーで6人のパーティを作ってくれ!」

「おっとぉ……忘れてましたよこの場面……不味い。非常に不味い」

俺は急いで周囲の確認をする。
すると逆サイドの外れ辺りに、赤いフードのプレイヤーに話しかけるキリトを発見した。
俺はそちらへと歩みより、

「我輩も入れてもらって良いだろうか?」

「え?」

「ケン!?やっぱりケンだったのか!」

声をかけたら驚かれた。
何だよ、俺の顔はそんなに厳ついのか?

「それで、入れてもらえるのか?キリト」

「あ、あぁ」

「私は構わない」

すると俺の目の前にパーティー勧誘のウインドウが表示される。
俺は迷いなく丸を押し、目線左上に二本の体力ゲージが追加された。

「宜しくな」

「ええ、暫定パーティーだけどね」

「あの、さ…ケン」

「気にしてないぞ」

気まずそうに声をかけてくるキリト。
大方俺をこの世界に連れてこなければデスゲームに参加することもなかっただろうと考えているんだろう。

「だから後で俺と決闘な」

「気にしてんだろそれ!」

「ばっかお前、俺が気にしてないのはこの世界に来たことだ。
気にしているのはこの世界に来るときの行程なのだよキリト君」

「行程……まさか」

「よくもまぁ母さんをけしかけてくれたじゃねぇか。
お陰でますますホラーが駄目になっちまったよ」

「す、すまん」

別にいいけどさ。
だがこれからの展開を考えるとこのキリトは少々メンタルが低いと思う。
即ち『ビーター』の称号を会得できるかわからない。

「ケン、終わったぞ?」

「ん?おお…あれ?赤フードは?」

「もう行っちゃったよ」

む、そうか。
なら俺も帰るとしよう。の、前に…

「さてキリト。俺と決闘(デュエル)しろよ」

「…悪い、今カード持ってないから」

「そのデュエルじゃねえよ!」

久しぶりなボケをかましてくれるキリト。

「えぇ~…マジでやるのか?」

「俺はログイン初日に誓ったんだ。
必ずお前に決闘(デュエル)を申し込むと!」

ぶっちゃけ俺の方がレベル上だろうし、ステータスも余裕で上回ってるだろうな。

「せ、せめてボス攻略が終わってからにしてくれよ…」

「む、…良いだろう。忘れるなよ!」

「分かった分かった。忘れないよ」

ならばボスを倒すことに専念しようではないか。
<イルファング・ザ・コボルト・ロード>か。
野太刀には気を付けなきゃならんよな。

そんなことを考えながら、借りている民宿へと歩いていくのだった。












――――――第一層迷宮区最上階。

ボスの扉の前には昨日集まっていたプレイヤー達が揃っていた。
勿論例外なく、キバオウやエギルもいる。

”カィンッ”

全員の前に立ち、自前の剣を地面に突き立てるディアベル。
そして一度全プレイヤーを見回して言った。

「皆!今日、ここに誰一人欠けることなく昨日のプレイヤーが集まった!
だからこそ、勝とうぜ!」

”ギィィィ…………”

ボスの扉が開かれる。
そして奥に位置する玉座から飛んでくるモンスター。
言うまでもなく<イルファング・ザ・コボルト・ロード>だ。

「うわぁ…熊みてぇ」

犬だか熊だかは定かではないものの、βの時とボス事態は変わっていない。
だがやはりと言うか、その腰には『タルワール』ではなく『野太刀』が装備されている。

「奴の腰にあるのはタルワールじゃない!野太刀だ!」

「何っ!?」

大声で情報を言って、この後の展開を和らげる事にする。
これは昨日の夜に決めたことだ。
原作がどうのとかは俺がいるから関係はない。
それどころか気にしない方が良いのだと判断した。

「くっ…作戦は続行!戦闘開始!
レッドゾーンに入ったときは気を付けろ!」

良い判断だ。
ディアベルの指示でプレイヤー達が一斉に走り出した。

「ケン、俺達は…」

「分かってるさ。取り巻き潰しだろ」

「結構いる。早く」

「はいはい…」

集合した俺、キリト、アスナは一番近い取り巻き、<ルイン・コボルト・センチネル>に向かって走り出した。

「はあぁっ!スイッチ!」

キリトはセンチネルのハンマーを剣で切り上げてその場から飛び退く。
その後ろから赤フード…もうアスナでいいや。

「ああああ!」

――が、飛び出して無数の突きをお見舞いした。

「……グッジョブ」

「――じゃねぇよ。俺必要ないだろが」

何なのあの娘?俺の出番無いじゃん。
そこまで弱いのセンチネル?










なんやかんやで結構経った。
もうすぐでロードのHPは赤ゲージに突入する。

「気を付けろ!もうすぐだぞ!」

ディアベルが全員に呼び掛ける。

「もろたで!」

そんな声を聞かないトゲ頭のキバオウは、パーティーを連れて真正面に突撃していった。
そしてロードのHPは既に赤ゲージ。

「キバオウさん!」

「駄目だ!全力で後ろに飛べぇ!」

無慈悲に降り下ろされた野太刀はキバオウに襲い掛かる。
キバオウはビビってしゃがみ、横降りに振るわれた野太刀はキバオウの横にいたプレイヤーを
上、下半身に分けた。
そしてその直後に破裂し、ガラスのように消え去った。

「やっば!」

しかし、ボスにそんなことは関係ない。
次のモーションに入ろうとしているそれを見た俺は直ぐ様走り出す。

「エギル!黙ってその場で正面に棍棒降り下ろせぇ!」

「ぇあぁ…おお!」

俺が言った通りにロードを正面にしてその場で武器を降り下ろすエギル。
俺はその降り下ろされる瞬間に飛び上がり、エギルの頭上を通過する武器を足場にした。

「飛ばせぇぇぇ!!」

「うおおおおお!」

勢いの付いた俺は真っ直ぐロードの元へと飛んでいく。
ロードは既に野太刀を振り上げていた。

「行くぜ奥義!超究覇王!電影弾!!」

飛びながら俺はトルネードし、弾丸と化した俺はロードの顔面へとぶち当たった。

『グォォオオ!』

「ご!がふっ!?」

俺はゴロゴロと地面を転がり、そのまま壁に激突した。

「目……が…おえっ」

「ケン!無茶するなよ!」

ばっか…原作キャラが死んでも良いとまでは覚悟してねぇんだよ。

「キバオウさん!下がるんだ!」

「え……あ…」

腰を抜かしたのかその場から動かないキバオウ。

「あのヤロ!エギール!」

「もう一回か!」

「違ぇよ!次の弾丸はキバオウだ!扉までぶん投げろ!」

「オーライ!」

幸い近くにいたエギルはキバオウの襟首を掴み、そのまま扉までぶん投げた。

「全員突撃ぃ!
ディアベルは指示を飛ばせぇ!」

俺の叫びに固まっていたプレイヤーが動き出す。
キバオウ?扉の所で気絶してんじゃねぇの?

「キリト!アスナとスイッチ!」

「やあああ!」

「C、E、F隊!スキルを使って攻め込め!
B、D隊はブロック!」

「アスナ!スイッチ!」

「はいっ!」

「おおおおらあああ!」

プレイヤー全員での総攻撃は、どんどんロードのHPを削っていき、残り数ドットと言うところまで減少する。

「これで決めらぁ!殺劇舞荒剣!」

斬り上げ、斬り下ろし、斬り失せ、回転斬り、そして――

朱疸(スタン)ンンンン!!」

上空からの牙突をロードの喉仏に決め込んだ。
それと同時にガラスとなって弾け飛ぶロード。

「はぁっはぁっ……っしゃおらぁ!」

俺は右手を上に突き上げ、ガッツポーズをする。
それと同時にその上空に《congratulations!!》の表記が現れ、
それを見たプレイヤー達も歓声を上げた。

「やったなケン」

「congratulations!この勝利はアンタの物だ」

賞賛を送ってくれるキリトとエギル。
その後ろにはアスナがいた。

「ばっかお前、この勝利は皆がやったお陰だろが」

俺はそう言って喜ぶプレイヤー達を見回す。
ディアベルは数人のプレイヤーに囲まれて口々に喜びを言い合っている。

「静粛にぃ!」

俺は立ち上がって声を張り上げる。
近くにいたキリト、エギル、アスナは目を丸くして俺を見ていた。

静かになったプレイヤー達は俺を注視する。

「俺達はボスを倒した!それは間違えようのない事実だ!
しかし、戦死したプレイヤーが一人居たことを忘れてはいけない!
しっかりと胸に刻み付け、次の層へと向かわなくちゃならない!」

「そうだ…そうだな!
皆!黙祷!」

いや、別に黙祷しろとか言ってないけどさ、
単純に起き上がって俺を睨んでたキバオウを牽制しとこうって言う魂胆だったんだけど。

「……さぁ、2層の門を開門(アクティベート)しにいこう!」

「「「「おおっ!」」」」

やがて黙祷も終了し、ディアベルの号令でプレイヤー達はゾロゾロと玉座奥の階段から2層へと歩いていった。

「……何か言いたいことでも?」

――――キバオウを覗いて。

この場にいるのは俺、キリト、アスナ、そしてキバオウだ。
エギルはレイドのパーティーと一緒に歩いていった。

「…礼を言うで…おおきに」

「………」

「何やその目は。ワイがお礼言ったらおかしいんか!」

「いや、意外だった」

何が起きたキバオウ。
助けられて改心したのか!

「そんだけやっ!」

それだけ言うとキバオウも同じように階段を上っていく。

「さ、俺らも行くか」

「待って」

俺も2層へ向かおうとしたところで今度はアスナに呼び止められた。

「名前呼びの件なら顔を動かさずに目線だけ動かし、
左上に並ぶHPバーを見ればわかるぞ」

何で…と言いながらも指定した場所を見るアスナ。

「キリ…ト、ケン……これが貴方達の名前?」

「気づいてなかったのか…」

「そうなるな」

その後、些細なことに気づいたアスナは笑い、それに釣られるように俺とキリトも笑うのだった。 
 

 
後書き
朱疸?ほら、いるでしょ?
朱疸(スタン)江流論(エルロン)さんが。
………すみません、調子に乗りました。 
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