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イリス ~罪火に朽ちる花と虹~

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Interview6 End meets Start Ⅱ
  「エルはわたしが守りますから」

 エリーゼは困惑してあちこちを見回した。
 景色は変わらないのに、肌がざわつく。

(今、ほんの少しだけど、次元の裂け目を通った時に似た感じがした。この子、一体)

 エルは両手で耳を押さえて蹲っている。
 エリーゼはエルの横にしゃがんで、背中に手を置いた。

「エル、大丈夫。もうやみましたよ」

 翠眼がエリーゼに向けられる。両手はまだ耳を塞いだままだ。
 笑顔を維持しつつ待っていると、しばらくしてエルはそろそろと両手を下ろした。

「内緒だけど、わたしも雷は苦手です」
「エリーゼも?」
「はい」
「そっか……」

 エルはそれで納得したらしく、立ち上がった。エリーゼも立ち上がる。

(さっきの感じ。気のせいならいいけど、そうじゃないなら。わたしが何とかしなきゃ)

 リュックサックを下ろし、向き合うように持ち上げる。隣でエルが首を傾げている。

 エリーゼはすう、と息を吸い込んで。


「ティポ。起きて」


 ――所有者の声が、ただのヌイグルミを呼び覚ますキー。

『おはよー、エリーゼ! 会いたかったー』

 ティポはエリーゼの心を増幅して代弁する。つまりは自分も、まだティポがいなくて寂しいという気持ちがどこかにあったということだ。

(がんばってもっと強くならなきゃ、ですね)

 苦笑してから、ティポを抱き上げてエルに見せた。

「ティポってゆーんですよ。仲良くしてね?」『ね~』
「……変なの!」

 エルはぷいとよそを向いた。しかたがない。ゆっくり距離を縮めて行こう。

「とりあえず、他のみんなを探しませんか? わたしたちだけ、はぐれちゃったみたいですから」
「ん、いーよ」
「ナァ~」

 バランから見学前に貰った、見学用の研究所案内図を取り出した。この案内図の順路通りに行けば、バランや学校の友達に追いつけるはずだ。

 いざ歩き出そうとした時、廊下の角から慌ただしい足音が聞こえた。バランが気づいて迎えに来てくれたのかもしれない。一時はそう思ったエリーゼだが、おかしな点に気づいた。

 まず、足音が複数。そして、足音だけでなく、重い金属が振動する音も同時に聞こえた。1年前まで闘争の巷にいたエリーゼには、金属音が兵器だということが分かった。

「エル、下がって」

 エルとルルが離れたところで術式を展開した。あの足音がこちらに近づききる前に――

 道の角から姿を現したのは、案の定、黒匣(ジン)兵器を持った兵士たちだった。

「『ピコハン!!』」

 ピコピコハンマーがいくつも落ち、兵士たちの頭にクリティカルヒットした。

 エリーゼは愕然とした。気絶した兵士は軒並み、オレンジのスカーフ――アルクノアの印を身に着けていたからだ。

「エル、走って!」
「う、うん」

 エリーゼはエルと手を繋いで走り出した。ティポとルルがそれに続く。

(アルクノアのテロには気をつけてって、ジュードもレイアもメールで言ってた。やっぱりティポを持って来ててよかった。学校のみんなにバランさん。戦えるくらい精霊術が使えるのはわたしだけ。わたしがやらなきゃ)


「ね、ねえエリーゼっ、これ、なにっ?」
「きっとアルクノアのテロです。大丈夫、エルはわたしが守りますから」

 ――前だけ見て走っていたエリーゼは気づけなかった。
 ちょうど十字路になった道の、横側。そこにもアルクノアがいて、黒匣(ジン)兵器で通る人間を狙っていたのだと。

『リーゼ・マクシア人は出て行け!』
「え? ――あっ」

 術式展開が間に合わない。エリーゼはとっさにエルを抱き締め、自身を傷つけるであろう兵器に背中を向けた。

 だが、恐れた痛みはやって来ない。エリーゼは恐る恐る顔を上げた。

 エリーゼとエルを庇う位置で、一人の女が立っていた。
 野戦でも経てきたのではないかと疑うほどにボロボロに崩れた迷彩服。エルとよく似た翠色の瞳はやわらかくこちらを見つめている。

「怪我はない? エル、それと小さな精霊術士さん」
「は、はい! ……ありがとうございます。あなたは?」
「イリス! 前にエルたちのこと助けてくれたの」

 エルはイリスに駆け寄るが、イリスはさりげなくエルから距離を取った。子供が苦手な人なのかもしれない。

「そうなんですか。――わたし、エリーゼ・ルタスです。リーゼ・マクシアのカラハ・シャールから来た、親善使節です」『ティポだよー。よろしくね~、イリス』
「よろしく、エリーゼ、ティポ」

 イリスは整った笑みで応えた。
 瞬時に悟る。この人はエリーゼに何の関心も持っていない。

 現にイリスの翠眼はエリーゼもティポも映していない。むしろ、接触を避けたエルをこそ、イリスは真剣に見ていた。 
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