バレンタインは一色じゃない
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6部分:第六章
第六章
「何を入れたらいいのかって。それで」
「どうしたのかな、これは」
そのツリーを手に取りながら彼女に尋ねる。
「中に入れたのはアーモンドよ」
「緑だけれど。ああ」
少し考えてわかったのだった。
「木からできるからかな」
「そういうことよ。それでいいかなって思ったけれど」
「いや、かなりいいよ」
彰浩もそれに同意して頷くのだった。
「美味しいよ、これって」
「そう言ってもらえると助かるわ。頑張ったかいがあったわ」
「美味しいよ。ただ」
「ただ?」
ここで話が変わるのであった。麻紀子もそれに顔を向ける。
「最初から気になっていたけれど」
「ええ」
「この色はどうなっているのかな」
それであった。話の核心であると言えるものであり彰浩も当然そこに話をやるのであった。
「ホワイトチョコはわかるけれど」
「アメリカ式よ」
麻紀子はにこりと笑ってこう言ってきた。
「アメリカ式!?」
「そう、着色料を使ったのよ」
そう彰浩に対して述べた。
「それで色をつけたのよ」
「チョコレートの中に混ぜて?」
「ニューヨークとかのお菓子はそうなのよ」
こうも説明する。
「ドーナツでもね。こうして色を着けたりするのよ」
「ドーナツっていうかさ」
彰浩はふとあるお菓子を思い出したのであった。
「何かマーブルと同じだよね」
「そうね。そういえば」
麻紀子もそれを言われてふと気付くのだった。
「このピンクの桃と同じ色もあるし」
「この中に入っているのは桃だね」
「そうよ。桃色だからそうしたの」
これは全く悩まなかったようである。やはりピンク色といえばそれしかない。そういうことであった。これも中々いい味になっていた。
「けれど。そうなるわね」
「そうだよね。考えたら同じよね」
「だけど味は全然違うでしょ」
少なくともマーブルとは全く違っていた。味だけでなくその外見もだ。
「美味しいでしょ」
「うん。確かに最初はかなり驚いたけれどね」
それは彼も認める。
「美味しいよ、本当に」
「黒いチョコレートじゃ何か面白くなかったから」
麻紀子は微笑む。自信を漂わせた微笑みであった。
「それで作ったのよ。けれど気に入ってもらえたみたいね」
「うん。確かに最初は驚いたけれどね」
「じゃあ成功ね」
この言葉も実に麻紀子らしかった。
「驚いてもらえたらね」
「やっぱりそれなんだ」
「普通のなんて全然面白くないじゃない」
それに応える顔も平然としていた。
「それでなのよ。私が作るチョコは絶対に」
「普通のじゃないんだ」
「そういうこと。わかっていたんじゃないの?」
「まあね」
それは事実だ。だから何が出るか怖くて仕方がなかったのである。
「けれど。美味しかったよ」
「美味しかったの」
「塩とか入っていたらって思うと。それがなくて」
「美味しさも普通のにはしないわよ」
それについても決して普通を目指しはしない麻紀子であった。
「私はね」
「それはいいかな」
「いいでしょ。じゃあホワイトデーにはね」
話が一ヶ月先のことにまでいっていた。
「また楽しみにしておいてね」
「ちょっと待って」
今の言葉にふと気付いた。それは。
「楽しみにって。ホワイトデーは」
「だから。今度はマシュマロよね」
「そうだけれど」
話が噛み合わないのを感じていた。それは何故かというのもわかっていた。
「ホワイトデーって普通男がお返しするものだけれど」
「だから。普通じゃないのよ」
ここでまた麻紀子は言うのだった。
「私が普通にするわけないじゃない。だから」
「またプレゼントしてくれるんだ、僕に」
「そういうことよ。それじゃあ」
話が動く。一ヶ月先に向かって。
「その時も。楽しみにしておいてね」
「わかったよ。まあ何が起こるかは」
「その時になってわかるわ」
とりあえず今はそのカラフルなチョコを楽しむだけであった。だが一ヶ月先に何が起こるかを考えると。どうにもこうにも不安になるがそれを何とか抑えてチョコレートを楽しむのであった。
バレンタインは一色じゃない 完
2008・1・10
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