黒猫が撃つ!
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二弾 再会する者、企む者、怒る者⁉︎
中に足を踏み入れると中には ベタな観葉植物と校長のデスクがあり______
「はい、はい。ようこそ。緑松です」
にっこりと笑う、お兄さんともおじさんともつかない男がデスクについていた。
(この、男が______この学校の校長か)
目の前のデスクに着いている男ははっきり言うと特徴がない。
こういう人だ!という感想すら抱けない。あまりに特徴がなさすぎて。
存在感がない。なさすぎる。
クリードの仲間だった、血を操る黒マント以上に存在感がねえ。
いや、まあ。これは冗談だけど……。
「ほら、ハートネット君。挨拶して」
俺をここまで引率して連れてきた高天原教諭の声により、我に返った俺は自己紹介を始めた。
「……トレイン・ハートネットだ」
「はい、はい。私はこの学校の校長をしてます。緑松です。
君のことは水無月さんや武偵局の方、さらには上の方々からいろいろ聞いてますよ」
「上の方々?」
身に覚えがない、俺は思わず聞き返してしまった。
「ええ。つい先ほど、到着しましてね。もうそろそろ来るはずなんですが」
校長がそう言いかけたその時______
______トントン。
校長室をノックする音が聞こえ、校長が返事をした。
「はい、はい。開いてますよ」
ガチャっと部屋の戸が開かれ数人、スーツ姿をした役人っぽい奴らが入ってきた。
その内の一人と目が合った俺は驚きのあまり膠着してしまった。
俺と目が合ったその人物の格好は白いスーツに、黒いシャツを着用し、頭には白い帽子を被り右目に眼帯をかけている。
髪の色は緑色だ。
「な、何してんだー、スヴェン⁉︎」
「久しぶりだな……トレイン」
俺の前に現れた数人の男達。その内の一人は俺がよく知る人物だった。
「スヴェン、お前、一人か?
姫っちは?」
スヴェンがここにいるのなら姫こと、イヴも近くにいるはずだ!
そう思い、スヴェンに聞いたがスヴェンはその表情を曇らせた。
「それは……」
「そこからは私がお話ししましょう。
初めまして、『黒猫』。
私は警視庁公安部、公安第0課の影山という者です」
影山と名乗った優男は長い黒髪を首の後ろで一つに結っている。
肌は褐色で瞳も赤い。
身長は160センチ後半くらいか?
どことなく、雰囲気がNO.Xのヤローに似ている。
「警視庁公安部?」
警察はわかるけど公安部の0課って何だ?
「ええ。我々はこの国の治安を護る為に組織されている法規部隊ですよ。
もっとも、ここにいる武偵達と違って我々には『殺しのライセンス』が与えられていますけど」
「……何でそんな奴らとスヴェンが一緒にいるんだ?」
俺は表情を曇らせたままのスヴェンに問いかけたがスヴェンは顔を俯かせて答えない。
「何、簡単なことですよ。
彼と取引をしていましてね。
貴方と話し合いの場を設けて、そこで貴方を説得する代わりに貴方のお仲間の命を救う。
そういう約束をしているのですよ」
「仲間?
お前ら、姫っちに何をしやがった‼︎」
気がつけば俺は装飾銃を抜いていた。
俺の殺気に警戒してか、周りの奴らも隠し持っていた銃を抜いて銃口を俺に向けてきた。
「やめろ!止めてくれ!
トレイン。お前も落ち着け!
ここで暴れたらイヴが……」
スヴェンが静止してくるが、周りの奴らは聞きそうにねえ。
それより、姫っちを人質に取られているのか。
なら、ここで暴れるわけにはいかねえか。
どうする。どうすれば切り抜けられる。
「姫っちに何しやがったんだ‼︎」
「我々は何もしていませんよ。
ただ、彼女は現在、原因不明の病に侵されて入院しています。
聞けば彼女はナノマシンという未知の技術を操れる特殊な人物とのこと。
彼女をすぐに治療することは今の我々にはできません。
ですが……」
そこで一度、言葉を止めて俺のすぐ目の前に近寄ってきた。
「貴方が力を貸してくださればある組織を潰せます。
その組織のリーダーなら治療法に心当たりがある、かもしれません。
どうです。我々と同盟を結びませんか?」
「同盟?」
「ええ。我々や武偵局の人間とで編成する混合チームの一員として一緒に戦ってほしいのです。
準備に手間取ってまして、決行するのは夏の終わり頃を予定してますが殲滅チームの一員として力を貸していただけませんか?」
この申し出は受けるべきか。それとも断るべきか……。
脳内にふと、かつてクリードが根城にしていた星の使徒のアジトを攻めた時の記憶が浮かんだ。
あの時、確か掃除屋同士で同盟を結んだよな。
後から聞いた話じゃあ、あれは囮で本命は……。
「ああ、いいぜ!」
「トレイン⁉︎」
「ほう。これはさすがに予想外です。
……即決ですか」
さすがに即答したのは予想外だったせいか、かなり驚いている。
スヴェンが呆れ顔をしているのが気になるが今は気にしている場合じゃねえ。
「姫っちを助ける為だからな。
その代わり俺達も本隊の方に入れろよ、NO.X‼︎」
「ふっ……やっぱりバレてましたか」
ふっ、と微笑みを浮かべた影山は右手で自身の顔、頬を摘んで思いっきり引っ張った。
______ベリベリッ。
顔に付けた特殊メイクを剥いで中から出てきたのは俺の予想通り時の番人の一人で『魔術師』の異名を持つ、優男だった。
「久しぶりですね。
NO.XIIIさん」
「なっ、ナンバーズだと?」
スヴェンが驚きの声を上げているが、どうやら見抜けなかったみたいだ。
無理もねえか。
突然異世界に来て、さらに姫っちが倒れたんじゃあ、考える余裕なんてなかっただろうしな。
「自信作だったんですけど……さすがは生きる伝説『黒猫』ですね!」
「へっ、お前は相変わらずだな。
お前がこっちに来てるって事は他の時の番人も来てんのか?」
「はい。
といっても実際に会ったのは貴方を含めて4人ですけど」
「残りの3人は誰だ?」
「セフィリアさんとジェノスさん、後はベルーガさんです」
セフィリアとジョネス?
彼奴らもこっちに来てるのかー。
「ま、待て!
リンスレットから聞いたがあの戦いの前にベルーガは死んだ筈じゃ……」
ショックから復活したスヴェンが思い出しかのように言ってきた。
「ええ。確かにあっちではベルーガさんは死にましたよ。
ですが、ほら。
こっちにも死んだ筈の人が生きているじゃないですか。
だから不思議じゃありませんよ」
そう言ってニコッと微笑むが、コイツの口からサヤの事を知っているかのような発言が出た事につい、警戒をしてしまう。
「あ、安心してください。
今の僕は彼女の家とは仲良くさせていただいてますから。
彼女が僕達と敵対でもしない限り何もしませんよ」
まるで、敵対したら容赦しない、かのような言い方だな。
相変わらず容赦がなくて、謎なヤローだ。
「あ、そうそう。
こっちの人達にスヴェンさんの身柄は預けますから、予め話した通りにしてください。
では僕達、0課の人間は今日は帰ります。
イヴちゃんの入院先はスヴェンさんから聞いてください。
ではまた。夏にお会いしましょう!」
そう言って、NO.Xを先頭にぞろぞろと男達が帰っていった。
「……面倒な奴が出てきたなー」
「クソッ。まんまと騙された……」
「どうやら話し合いは終わったようですね。
彼ら0課は内閣総理大臣直下のエージェント達ですから、我々とはまた違う組織なんですが……まあ、今はその辺の話しはいいでしょう。
さて、トレイン・ハートネット君。
君のような人達は実は昔から稀にこの国に迷い込んできました。
様々な童謡や劇、書籍にも登場しています。
『迷い人』としてですね。
武偵制度が出来てからでは、過去に全国で15人。
ここ、東京武偵高に限ればOBを含めて君で4人目です。
ですから君のような人達を受け入れる体制も用意できてます。
まあ、さすがにそのような姿になっていたのは想定外ですが……」
校長が状況の説明を始めた。
最初は真面目に聞いていたが段々面倒になってきた。
スヴェンに丸投げしよう。
校長の話しを聞き流しているとふと、思った。
「そういや、どうすれば元の体に戻れんだっけ?」と。
以前なった時は確か、元の姿をイメージする訓練をすることで元に戻れたけど、今回も同じ方法で戻れるのか?
試してみるか?
ええい、戻れー!
「元の姿……元の姿……元の姿……」
「ですので、ボルフィード先生には強襲科と装備科を兼任していただきます。
それとそちらにいる、高天原先生のクラスの副担任として……」
校長がスヴェンと何か話し合っているが気にしてる場合じゃねえ。
早く戻らねえと……集中。
……集中……集中……。
「元の姿〜」
……集中……集中……元の姿……元の姿……。
______ハッ!
「あっれェ⁉︎
浮かばねーっ」
数日後。とある学生寮。
「元の姿……元の姿……元の姿……ああ、どうやりゃあ戻るんだ⁉︎」
「おい、トレイン。
聞いてるのか?」
ウンウン唸っていると相棒に声をかけられた。
元の体に戻る為にイメージトレーニングをしていた俺は体をスヴェンに向けて、頭の中では元の体のイメージを思い浮かべながらスヴェンに返事を返す。
「……ああ。今日の晩飯なら海鮮料理がいいぜ!」
「そんなこと聞いてねえだろ⁉︎」
「えーと、ミルクは瓶のやつな!」
「何の話だ⁉︎」
スヴェンが怒鳴ってきたが怒鳴られるのはいつもの事なのでスルーしながら元の体を思い浮かべる。
元の体……元の体……元の体……。
「まあ、いい。
俺はしばらくこの学校の教師として働きながらイヴを救う手立てを考えるからトレイン、お前は早く元の体に戻れるようにお前はお前で行動しろ」
「だあぁぁぁー浮かばねえー!」
俺がそう叫んだその時______
______ゴッ‼︎
「紳士パーンチ‼︎
聞けよ、人の話を!」
俺の頬を強い衝撃が襲い、俺は床にドサッと倒された。
「教務課に呼ばれてるから帰りは遅くなる。
お前の入学手続きの件でどこの学科に入れるか揉めてるようだからあまり外を彷徨って騒ぎを起こすな。
それと同居人にも迷惑かけるなよ!言っても無駄だと思うがトラブルに巻き込むな。
何度も言うが数日以内に強襲科以外の学科の試験を行うからそれまで、くれぐれも騒ぎを起こすなよ!」
もう何度も聞いたことを繰り返し言ってスヴェンは部屋を出ていった。
俺とスヴェンが邂逅を果たした日から2日が立った。
あの後、校長室を出た俺達は教務課に連れて行かれて、そこで今後の学生生活を送る上での注意点や武偵が守る決まりを知らされ当面の間、寝床となる寮を紹介された。
ルームメイトは俺達の他に一名。
探偵科の二年生。当然ながら男だ。
「さて、と。このまま唸ってても仕方ねえし、ちょっくら外を散歩してくるかな」
玄関に向かい靴を履いた俺が扉を開けるとこの部屋の扉の前、通路に、長いピンク色の髪をツインテールに結んだ小柄な少女が扉の前に立っていた。
「あら、トレインじゃない。
出かけるの?」
「ああ。ミルク買うついでに散歩して来る」
「ふーん。
なら帰りにコンビニで桃まん買って来なさい!」
何で命令口調なんだよ?
と思うが口に出すと大型拳銃で銃撃されるので口には出さずに頷いておいた。
ここ数日、この少女と過ごしたが何か言えば口より先に銃撃してくるので大人しく従うことにした。
本当ならやり返してやりたいところだが子供の体で挑んでも満足に動けないのと、サヤの一言、『アリアちゃんに手を出したらわかるよね?』の背筋が凍るような言葉により反撃ができないのが現状だ。
「それとこの間言ったこと考えてくれた?」
「この間?」
「私の奴隷になることよ!」
______ピキッ。
俺の中でアリアに対する怒りの感情が浮かぶが相手は小ちゃな幼女。奴隷の意味も知らない子供が言ってることだと言い聞かせて無視してアリアを押しのけて玄関から通路に出て通路を歩く。
歩き出した俺の後をトコトコと付いてくる幼女。
「ちょっと待ちなさいよ!」
「……」
「待ちなさいっていってるでしょ!
トレイン!」
「……なんだよ」
「なんだよ、じゃないわよ!
アンタ人の話しを聞いてないでしょう」
「はあ〜」
アリアの言葉をそっくりそのまま返してやりたいと思う。
お前も人の話を聞かねえだろう⁉︎
「今はそんな子供みたいな姿になってるけど本当のアンタはかなりの強者よ!
私の直感だとSランク。
ううん、もしかすると世界で7人しかいないRランクと同じくらい強いのかもしれないわ」
何が嬉しいのか、興奮した顔で俺に話しかけてくるアリア。
正直、アリアが言うランクとかどうでもいい俺はあまり興味がないんだけどな。
「何がなんでもアンタ達にはあたしの奴隷になってもらうわ。
アンタと金次ならあたしのパートナーになれるかもしれないの!」
「……パートナー?」
俺が呟くとアリアは「あっ、しまった」みたいな顔をした。
「何で言っちゃたのかしらあたし」とか呟いたアリアが辺りをキョロキョロと見渡した後、俺の側に駆け寄ってくると耳打ちしてきた。
「アンタには話しておくべきね。
今夜、あたしの部屋に来て。パートナー候補のアンタには話しておきたい事があるわ」
「えー嫌だ」
「何でよ⁉︎」
「絶対ロクな目にあわね「美味しいミルクあるわよ」よし、何時がいい?」
アリアは見かけによらず上品な育ちの良さがある。きっといいところのお嬢さんなんだろう。
そんなお嬢様なアリアがオススメするミルク。きっとメチャクチャ美味いミルクなんだろう。
親指を立てて微笑んだ俺に呆れた目でアリアが見つめてきたがミルク飲めるのならアリアの部屋に行くくらいどうって事ねえ!
「……そうね。トレインだし……それじゃあ、8時に女子寮の温室前まで来て」
「8時だな!
ミルクに合う茶菓子とか用意しておいてくれ!」
そう言って寮の入り口から外に出たがアリアは何を思ったのか俺の後をついてきた。
追い返すのもどうかと思った俺はアリアを連れてコンビニに向かった。
アリアと並んでコンビニに入った俺は飲み物売り場に向かった。
様々な商品が並ぶ中、牛乳売り場にある紙パックの牛乳を手に取る。
本当は瓶に入ったミルクがいいのだがこの辺りのコンビニにはおいていないので仕方なく紙パックの物で我慢している。買い物カゴの中にミルクと魚肉ソーセージや寿司を入れてアリアがいるデザートコーナーに向かう。アリアは大量の桃まんをその小さな手で取れるだけ持ち俺が持つカゴの中に入れた。
一、二、三……合計13個もの桃まんがカゴの中に入れられた。
これ一人で食べれるのか、という疑問を最初は持ったがアリアと出会ってから数日でその疑問が愚問だと身にしみた。アリアは大量の桃まんを次々と小さな口の中に入れてあっという間に平らげてしまうからだ。
会計を済ませて(金はスヴェンから渡された小遣いがある)店を出た俺達は直ぐに寮には帰らずに武偵高があるこの島『学園島』を散策することにした。
紙パックのミルクを片手にがぶ飲みしながら歩いているとチラホラ視線を感じた。
視線の先にはアリアと同じ制服を着た女子生徒達がいた。
微笑ましいものを見るような目でこちらを見てくる。
『あの子、可愛い!』『隣りの子は彼女?』『最近の小学生達は進んでるのねー』などと言った声があちこちで聞こえてきた。
「か、彼女⁉︎」
アリアは彼女呼ばわりされたのが嫌なのか顔を真っ赤にして俯いていたが「小学生」の言葉を聞いた途端、スカートの中、太ももにあるホルスターから銃を抜いて烈火のごとく怒り狂った。
「あ、あたしは……あ た し は 高 2 だ‼︎」
そう叫んだアリアは銃のトリガーを引き______
______ばぎゅぎゅん。
俺の足元に銃弾を撃ち込んだ。
……ってちょっと待ってくれ!
「ちょっと待て!
俺は何も言ってねえ!」
そう叫ぶ俺の声を無視してアリアは叫び返した。
「風穴開けてやる!」
「俺関係ねえだろう⁉︎」
「うるさい、うるさい、うるさーい」
女生徒達の『小学生発言』に対してアリアが喚く。
アリアにとって身体的な特徴を侮辱されるのは鬼門のようだ。
その怒りの矛先を発言した女生徒達には向けずにその場にいただけの俺に向けてくる理由は解らないが、とにかくアリアが持つ大型の自動拳銃、あれを取り上げないとまた俺は撃たれる。そんな予感がした。
「あんたがそんな姿してるから私まで子供扱いされるのよ。
早く元に戻らないと風穴開けるわよ」
「無茶苦茶だろ!」
随分と無茶な事を言ってくるな、この少女は。
俺もできるなら今すぐ元の姿に戻りてえよ!
「お前が小学生みたいな背丈してるのが悪いんだろうが」
「なっ、だ、誰の背丈が小学生よ‼︎」
あっ、言っちまった。
______バッキューン。
______バチィッ。
あっ、と思った時には時遅く。
二発目の銃弾は俺の右肩に向かって飛んできたが、俺は装飾銃の爪を使って銃身で弾を滑らせて弾道を変えてから叩くようにして爪で飛んできた銃弾を弾き返した。
「オイ、アリア。撃ったからには覚悟できてるんだよな?」
「何の覚悟よ?」
「撃ち返される、やり返される覚悟だ‼︎」
「そんなの当たり前でしょ!武偵なら撃つ覚悟も撃たれる覚悟も当然あるわよ」
周りの奴ら(アリアと同じ制服の少女達)も頷いている。どうやらここでは撃ったら撃たれるというのは当然の事のように思われているようだ。
「俺に撃たれて倒されても文句言うなよ」
「ふん、上等よ!風穴開けてやるわ」
「ならお前に不吉を届けてやるよ!」
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