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正夢

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3部分:第三章


第三章

 その中の一室に入る。すると保正はシャワーも浴びずに服を脱ぎはじめた。真理子はそんな夫を見て少し驚きを感じてしまった。
「シャワーは」
「いいよ」
 服を脱ぎ続けながらそれはいいというのである。
「それはね。もういいよ」
「いいって」
「それよりも」
 そして妻にも言ってきたのであった。
「君も脱いでよ」
「私も?」
「何かその気になってきたからね」
 だからだというのである。
「僕はだけれど」
「あなたは」
「君はどうかな。何ならお風呂の中で」
 今度の言葉はこれ以上はないまでに直接的な言葉だった。
「それでもいいけれど」
「それは」
 少し抵抗を感じた真理子だった。風呂場はこうしたホテルの常で鏡張りになっていてその中がよく見える。今はダブルベッドの置かれている場所にいるがそこから実によく見える。それがまたこの手の場所に共通の独特の淫靡なものも醸し出しているのであった。
 その淫靡さを感じてだった。彼女は夢のことをさらに思い出して。そのうえで夫に答えた。
「そうね」
「いいかな」
「ええ」
 彼の問いにこくりと頷くのだった。
「それじゃあ」
 そうしてであった。服を脱いで自分から灯りを消して夫を抱き締めベッドに押し倒して。二人だけの淫らな宴に入るのであった。
 意識してはいた。だがその動作は自然だった。夫に対して自分が夢に見たそのことをそのまましていく。すると夫もそれに応えて彼女が夢で見たそのことをしてきたのである。それこそがまさに彼女が夢で見たそのことに他ならなかったのであった。
 そしてそれが終わってからだった。一息ついたベッドの中で。彼女は夫に対して告げた。
「はじめてよ」
「こうした場所に来るのが?」
「それははじめてじゃないじゃない」
 夫の今の言葉には思わず笑って返してしまった。
「結婚する前は二人で何度も来たじゃない」
「そうだったかな」
「このホテルじゃないけれどね」
「そうだろ?じゃあ何がはじめてなんだい?」
「ここまでしたことがよ」
 それがはじめてだというのである。
「なかったわよね、それは」
「そうだったね。それは僕もだよ」
「あなたもなの」
「少なくとも覚えている限りはね」
 そうだったというのであった。
「そして」
「そして?」
「こんな君もはじめてだったよ」
 今度は真理子に対する言葉であった。
「ここまで乱れた君はね」
「そうよね」
 夫に言われてこのことをさらに自覚するのだった。ベッドの中で満ち足りた気持ちで言葉のやり取りをしている。それは夢と重なり合ってもいた。
「それはね」
「何でかな」
 また言う保正だった。
「僕もここまでするなんて」
「私がしたからよね」
「それもね。不思議だよ」
 二人共天井を見ている。そこは鏡張りになっている。その鏡を使ってお互いを見ながらそれぞれ話す。二人共情事の後特有の満ち足りた、それでいて何処かけだるい顔になっていた。
 
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