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寄生捕喰者とツインテール

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次なる案と危機たる報

 何事かを叫ぶ声がする。

 ガツガツと叩く音が耳に入る。

 呻き声が微かに響く。

 齧りついた様な怪音が聞こえる。

 そしてそれらは……啜り泣きへと変わった。




「……使えない……何で使えないのっ……」
「愛香、お前いい加減諦めろよ。トゥアールから説明聞いたろ?」



 喫茶店『アドレシェンツァ』の地下にあるツインテイルズ秘密基地、そのコンソールルーム。そこには総二、愛香、トゥアールが居り、愛香は今だテイルブルー姿のままで、諦めきれないのか半べそのままブレスレット部分をあーでもないこーでもないと、体中使っていじっている。


 一体何が使えないのかというと……それは先の戦いで手に入れた、バッファローギルディの巨乳属性(ラージバスト)の属性玉の事で、しかも役に立たないのでは無く使用できないという事なのである。

 トゥアールの考察によると、何でも属性玉には純度があり、それが低いと使用できないのだとか。エレメリアンも生物なので、長く生きれば他の属性に目移りもする。しかしそうなると人間とは違い属性力そのもので形作られている彼等の場合、後から備えた属性力が大きくなればなるほどに本体の核となる属性力の純度が低くなってしまうのだ。



「あのなぁ、お前仮に使えたとしても今までその属性の名称通りの効果だった事無いだろ? 髪紐属性(リボン)は翼だし、人形属性(ドール)は同じ人形属性に効果を及ぼすってのだし、兎耳属性(ラビット)は跳躍力だったじゃねぇか。大方巨乳属性だって腕とかが肥大化するか、弾力のあるバリアーとかが出てくるだけだと思うぜ?」

「それでもっ……アタシには最後の希望だったのよォォォッ!!!」



 総二が言ったように今まで使ってきた物は全く違うとはいえずとも全て名目通りなそのままの効果では無く、使えたとしても戦闘に役立つ効果としてしか発揮されない事は明白だ。
 それに、もし巨乳属性を何らかの形で人体にそのまま取り込めるとしても、ラースが言っていたように彼女には巨乳属性を使える器は無いので、どのように転ぼうとも何も変わりはしない。

 結果如何なる策を用意した所で、テイルブルーへ……愛香へ待っているのは、凶悪な顔を隠すことなくひけらかして世間に醜態をさらし爪弾きにあうという、何時も通りなものしか待っていない。

 ……そういう面がなければ、実力に侵略者への対応など、テイルレッドよりも評価できる戦士なのだが。


 愛香の悲痛な叫びを聞いた総二だが、彼自身は胸が無いたってツインテールがあれば良いじゃないかとしか考えておらずどうにもならないので、そっとしておく事に決めテーブルへと戻った。



「愛香の件で気が付いたけども、そう言えば今までとってきた中で使える属性玉って案外少ないんだよな」
「グラトニーちゃんに食べられた分に使える玉が含まれていたかもしれないと思うと、ちょっと残念というか悔しい気持ちになりますね」
「アイツだって事情があるんだろうけど……いや、こっちも私情に近いか。幾らツインテールを守る為だとは言えさ」



 そこは人々を守る為ではなかろうか? まあ、私情という点では近いどころか、私情そのものだと言う考えに変えてから大いに賛同したいところだが。

 真面目に言うならば、戦力的にも確かに補助効果を付与する属性玉はあればある程戦闘を有利に運ぶ事が出来る。そこは何より大きな利点だ。
 しかしながら、属性玉を主に使っているのは実は愛香の方であり、総二はツインテールに対する並みならぬこだわりがある為、(コレ)一本で戦い続けたいと決めているのである。

 精神力を力に変える異常、その気持ちも戦闘の役には経つが、使う方と比べると柔軟さに欠け危機を及ぼしやすくなる事も含まれている。

 アルティメギルのノリに一々付き合ってしまう事もだが、これからの事も考えてこだわりの頂点も下げた方がいいのではないかとも思ってしまう。



「にしても……アルティメギルの奴等、新しい幹部を迎えたみたいだよな。主の為に巨乳を~っっていってたし」
「タイガギルディとは明らかに違う属性ですから、その考えは正しいと思われます。恐らくはアルティメギルは多数の分隊を抱えていてそれぞれ別世界へ侵略、イレギュラーが起きた際には効率の悪い世界からきりあげ増援を向かわせる、そういった組織だと考えても問題は無いかと」



 倒しても倒しても補充部隊はいくらでもやってくる、終わりの無い戦いだといっても過言ではない。しかも、向こうの戦力の全体は見えていない。

 大樹の一葉に過ぎぬ舞台を撃退した所で、再び現れる者達に対処出来るのだろうか、そういった不安が総二の心の中に生まれる。

 もっと言うならば、自分達の戦いに割り込んで掻っ攫って……もとい掻っ喰らって行くグラトニーに、ドラグギルディを倒した謎の青年エレメリアン。彼等の目的も依然不明なままだ。もしかするとグラトニーは兎も角、青年エレメリアンは何か企んでいるのかもしれない。


 膨れ上がっていく総二の恐怖心にも近くなっていくソレを見抜いたか、トゥアールがにこやかに優しく声をかけてきた。



「大丈夫ですよ総二様! ツインテールは最強なんです! それにツインテールを愛する心に限界は無いんですから!!」
「そうか……そうだな」



 下手に仰々しい言葉を掛けるよりも、総二にとっては自身の一番大事なものに当て嵌めて鼓舞される方が、大分士気を回復できる。

 自分の事を分かってくれているトゥアールに礼を言ってから、もう見過ごせておけなくなったか、実はもう一人いた椅子に腰かける人物へ、うんざりした表情で口を開いた。



「母さん、毎回思うけど何で当たり前みたいに混ざってんだよ!」
「あら、別にいいじゃない」
「そうですよ総二様。それに闘う物だけでは視野が狭まりがち、日常側の人物にも意見を聞くのがよろしいのです」
「何処が日常だよめっちゃこっち側に傾いてんだろうが!! しかもその格好!!」



 如何やら総二がうんざりした表情となっている原因は、ここに自分の母親が来ている事よりも、母親が着ている衣装に問題があるらしい。

 だが、問題視するのも分かる……なぜなら彼の母親・未春は自作の悪の組織女幹部のコスプレをして座っているのだ。しかもかなりノリノリで。


 他人にしてみれば年にしては若めに見える女性のコスプレなどに会う似合わないの言葉だけで済むが、息子本人としてはノリノリテンションでの三十代母親のコスプレをまざまざ見せつけられるなど、いっそ苦行にも近い光景だ。

 コレでもし美人でなかったら……余計に寒気立ってくる。


 必死に目を逸らそうとしている総二を放って、未春はトゥアールへ自分が思い付いた事も発言した。



「属性玉の件で私も思ったのだけれど、謎の青年エレメリアンに倒された、ドラグギルディの属性玉。アレは利用できる筈よね?」
「出来るでしょうね。アッサリやられ過ぎとはいえ、アレは単にドラグギルディと青年エレメリアンの実力に大き過ぎる開きがあったせいだと思います。現に属性玉の純度はかなりの物でしたから」
「なら、ソレを使ってパワーアップとかできないかしら?」
「それはちょっとやめておいた方がいいかもしれません。ツインテール属性は核にの使われている属性なのでパワーアップという効果で間違いないとは思いますが、核に使われている分も使用者の分も属性玉も何分強いので、暴走の危険があるんです。だから、今はセーフティロックを掛けて使えない様にしているんですよ」
「……色々やってくれているんだな」
「まだヤッて無い事もありますけどね?」



 何やら怪しげな含みを持った言葉に総二は首を傾げた。そして不意にみ春の方へと視線が行き、胃の辺りに激痛が走ったか抑えて苦しそうにする。

 そりゃ息子にとっては苦しくなる光景だ、仕方がない。

 そんな、腹を痛めて生んだ息子が自分が原因で自らの腹を痛めて居るともつゆ知らず、未春は残念そうな顔をした。



「勿体ないわね、折角高純度の属性玉なんだもの、何かに使えれば良いと思うんだけれどねー。トドメは横から持って行かれたとはいえ、総ちゃんが闘って苦戦した紛れも無く最初の相手なんだもの。出来ればグランドブレイザーで逆転して欲しかったけど、謎の戦士登場も場合によっては言いシチュエーションよねー」
「この身を掛けた戦いをどっかの物語の筋書きみたいに言うなぁぁああァッ!? そして技名ちゃっり暗記してるしこの人!」



 我が母が要らん所でいらん事を覚えている事に苦しみながら、その苦しみが引き金になったか総二の頭に一つの案が浮かんできた。



「あのさ、そのツインテール属性を使って新たなテイルギアを作れないか?」
「それはつまり、新しく仲間を増やすって事? 総ちゃん」
「……母さんには絶対に付けさせないからな」
「あら、心配しなくても私にはツインテール属性がないでしょ? それに息子が戦っている以上、母の役目は見守る事よ」
「ならもう少し普通の格好で見てくれないか!? もう贅沢は言わないから!」



 そういいながらも、総二は自分のアイデアは中々のモノだと思っていた。

 新たに戦力が増えるのならそれに越した事は無い。一人より二人、二人より三人、そして三人より四人だ。

 どの道グラトニーを仲間に引き込むのは困難を極めるし、紆余曲折挟んでよしんば引き込めたとしても好き勝手行動するのは目に見えている……そもそも何処に居るのかすらわからない。

 相手も戦力を増やすのならば、此方も戦力を追加する。確かにいいアイデアだろう。


 だが……肝心の開発者であるトゥアールは肩を震わせて、愛香も悲哀に暮れた表情を消してて立ち上がり、突然総二に詰め寄ってきた。



「いけません総二様! これ以上人を戦いに巻き込むのは反対です!」
「そうよそーじ! あんたは誰とも知れない女の子を変態共と闘わせていいと思ってるの!?」
「いや、でもグラトニーは望み薄だし、この先の事を考えて確実に仲間は増やしておいた方が……」
「「ぜーったいにダメっ!!」」
「そ、そうっすか……」



 二人が反対する理由は尤もではあるが、しかし彼女等にとって大部分を占める理由は『これ以上恋のライバルが増えて欲しくない』もしくは『コレ異常別のツインテールの現を抜かさせたくない』といったものだろう。

 自分達の勝手な事情にもかかわらず拒否の姿勢を頑として崩さない。何ともまあかなりの私情が混じった反対があったものだ。

 現実的に言うならば相手が戦力増強をしてきている以上、そんなこだわりなどはある程度捨てなければ、予想外に対処できず勝てる戦も勝てなくなると言うのに。


 すると、トゥアールはリモコンを取ってモニターの電源を付け、テレビモードに切り替えてニュースは探し始めた。



「それよりも見てくださいよ総二様。今日のテイルブルーはとんでもない顔してましたからねぇ? きっとニュースでも面白い事になっていますよぉ?」
「うぐっ……そうだった、カメラいっぱいある所で私は……!?」


 ようやく自分の犯した失態に気が付いた愛香は頭を抱えた。

 ただでさえテイルブルーは不人気なのに、その不人気ぶりに拍車をかける事を、よりにもよって自分自身がしてしまっているのだから。


「さーてどの局かな? どの局に猛獣映ってるでしょうかね? あ、どの曲にも映ってますよね! 彼女の蛮族的な表情とアイドルと対比される貧乳が」
「嫌な事思い出させてくれるなぁっ!!」
「まぶらっぽ!?」



 そう言えばあのオープンコンテストで愛香は瘴気が濃い言いながら自分で瘴気を放っていたなぁ……と総二が思い返しながら、何時の間にやら母の手に握られているリモコンに目をやり、電源を切る事を諦めてもう既に流れ始めたニュースに目をやる。



《続いてのニュースです。今日の午後、アイドルグラビアコンテストの会場にエレメリアンが現れ、ソレをツインテイルズが撃退しました》

「……何時も通りのニュース……じゃあない?」
「そうね。何時もなら興奮気味に伝える筈だものね」



 明らかにお茶らけてはおらず、あくまで真剣な表情を崩さないニュースキャスターを不審に思う総二と未春。

 ……普通はそれが当たり前なのだが、ツインテイルズもといテイルレッドの事では皆が興奮してやまないのが当たり前なので、だからこそ違和感を感じているのだ。


 そして、その原因であろうニュースの続きが紡がれる。



『しかしその後……謎のエレメリアンが会場に突如として現れ、アイドル達へと襲いかかったという事件が起きました。危害を及ぼす気があったとしか考えられないその行動は、今までのエレメリアン達の常識を大きく覆すものであり、また軽傷ですが怪我人が出たという報告も入っています』


「なっ!?」
「あら……!?」
「えっ! うそ!?」
「そんな……」



 余りにも無視できない且つありえない事件の内用に、総二は勿論未春もそれなりに驚き、キャットファイトという名の一方的な攻め苦を繰り広げていた二人も、争いを止めてモニターの方へ顔を向ける。



《危うい所で、ツインテイルズには属さない謎の少女・グラトニーが割って入りそのエレメリアンは撃退されたものの、周囲の建物は全壊・半壊したもの全て含めて十数棟。コンテストステージは粉々にされ、道路は一部ですが大胆にめくりあげられ交通の便に支障が出ています。幸いな事に全壊した建物に人はおらず、半壊した建物の住人や従業員も救出され、死人は出ていません》



 次に現場の映像へと切り替わり、ツインテールなモンスター娘・グラトニーと、腕が肥大化し顔の口から上が無く、下半身が存在していない異形の化け物が、当たりをやたらめったら打ち壊しながら闘い続ける光景へと移った。

 明らかに全力で放たれるグラトニーの攻撃を受けて即死しない辺り、そこらのエレメリアンよりも抜きん出ている事が分かる。

 その後、隙を作り出し放たれたグラトニーの一撃で、謎のエレメリアンは腕一本を残して消えさった。



《アルティメギルと名乗った組織に属するエレメリアンはこのような行動には未だ出ていなかった事と、グラトニー自身も変態性の無いエレメリアンであることから、アルティメギルとはまた違う第三の勢力ではないかと噂され、専門家は真相解明を急いでいます》



 エレメリアンの専門家が一体何を研究しているのか気になるが、少なくともイレギュラーである事を見抜いていることから、一般人もまだまだ侮れない。

 結局またテイルレッドのニュースへと戻ったが、ニュースが終わりに近付こうとも先の事件を蔑にする事は無かった。

 当然だ……人の命にかかわる事なのだから。


 ニュースが終わっても数分間話も無く沈黙が支配し、やっと最初に口を開いたのは総二だった。



「あいつ……あの腕のでかいエレメリアン、なんだったんだ?」
「知らないわよ」
「でも、イレギュラーなのは明確ね。普通、アルティメギルは一般人を気絶させる事はあっても怪我を負わせる事は無いもの」
「いやほんとお母様はよく見てらっしゃいますね!?」



 一般人代表では無くなってきている未春へのツッコミを総二は忘れなかった。

 だがそれは場の空気を軽くすることさえままならない。

 トゥアールも普段の様なエセシリアス的な表情ではなかった。



「……グラトニーといい、右手に刃を湛えた青年エレメリアンといい、そして今回の両腕のエレメリアンといい……強過ぎる奴等がここんとこ出過ぎてるよな……」
「しかも詳細不明ですからね。グラトニーちゃんなら何か知っているでしょうけども」
「でもどうやって話聞くの? ちょっと前に交渉2回目をやって、失敗した事を踏まえるとアイツ交渉にはもう応じなさそうだし、グラトニーの拠点も分からないし」



 対処すべき問題なのに、ここで話し合っても何も決まらない。そのもどかしさから、総二は苦しげな表情で頭をかいた。

 自分達の知らない所で何かが進んでいて、それを詳細も敵か味方かも分からない人物が知っているかも知れず、しかしそれも希望的観測でそもそも居場所が分からない。


 ただ二つ理解出来たことは……“奴等”は『どの個体でもそれなりに強く』、更にアルティメギル所属のエレメリアンとは違い、『殺す事もいとわず襲いかかってくる』という、極めて厄介な事実だけである。



「兎も角、今度グラトニーに出会ったら聞くしか無いでしょ。現状それしか取れる方法が無いんだし」
「……そうだな。何をやるにも、まずはグラトニーか」
「いい台詞ですね! ばっちり録音させてもらいましたよ総二様! 何をヤるにもまずはグラトニーってね!」
「ヤバいかも知れないってのに何やとんじゃ己はァッ!!」
「おぱっぴーーーーッ!?」



 奇妙な叫び声を上げて、トゥアールは斬りもみ回転しながらジャイロボールの如く壁まですっ飛んで行き、跳ね返ってきた所を四番打者のスイングもかくやの蹴りで打ち返されて天井の隅に突き刺さる様にぶつかって落下した。



「こういう展開燃えるわね……甘々な敵ばかりで油断していたら、まさかの容赦の無い第三勢力! とっても良いシチュエーションだわ!」
「……頼むから最初から最後までシリアスにしててくれよ……」



 先程までは溜めていたのか、未春も全く見当違いなことを口走る。


 恐らくツインテールを守る事と謎のエレメリアンの詳細判明の次に願っているだろう事を、総二はもう嫌だといった表情で口にして項垂れるのであった。

 
 

 
後書き
……俺ツイのあの世界観、何処行ったんでしょうか……? 
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