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霹靂の錬金術師

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NO,66

私は中央に居る間は実家で過ごす。
すでに両親は他界しているからここには私以外住むものはいない。
そんな私も常に国内を旅しているので実家にいることはほとんどない。だから、電気、水道は一応通しているもののそれ以外は契約を切っている。当然、新聞なんかもとっていない。
だから私がヒューズ中佐殺害の犯人を知るのが遅れたのは半ば必然と言えるだろう。
ようやく私が犯人を知ることになるのは、マリア・ロスと言う女性が嫌疑をかけられ拘留された刑務所から脱走中、マスタングさんにより焼かれた後のことになる。
それも知ったのはたまたま出かけた先の喫茶店でお茶を飲んでいる時に隣の席の人たちの会話からだ。だから知った時期も大分遅い。
それを知った私はすぐにマスタングさんの所に向かった。詳しい話が知りたかった。



軍法会議所に向かうとちょうどマスタングさんが飛び出してくるところだった。かなり焦っているように見える。

「マスタングさん!」

「! ソフィアか!ちょうどいい、君も来い」

それだけを歩きながら言うと猛然と走り出してしまった。どうやら向かう先は駐車場のようだ。

「え? え!?どういうことですかー!?」

困惑しながらも着いていく。
そしてマスタングさんに続いて車の助手席に乗り込んでしまった。急いでシートベルトを締める。
マスタングさんはそれ確認すると車を急発進させる。思わず座席にしがみつく。
勢いに任せてここまで来てしまったが大佐は一体何がしたいのだろう。運転している横顔を見るとかなり焦燥に駆られているのが良く分かる。
声をかけるのは躊躇われたが、そんなことを言っている場合ではなかった。

「マスタングさん! どうしたんですか!?」

「ソフィア、悪いが君には私の計画に協力してもらう」

「計画!?何ですか!?それ!?」

その時にわかに空が明るくなる。座席から身を乗り出してフロントガラスから見ると夕暮れの空に軍の使う信号団のようなものが白く発光していた。

「!! くそ… 間に合ってくれよ……!!」

それを見たマスタングさんの焦りがついに口をついて出た。
あれに一体何の意味があるのだろう。
しかしこのマスタングさんの焦りは尋常ではない。イシュヴァールの時にも見たことがない。
ここはとりあえず流れに身を任せて、事が終わったら説明を求めよう。
マスタングさんは時間を知らせる鐘がついた塔の前に車を乱暴に止めた。

「君は塔の裏手に回ってくれ!!」

言うが早いかマスタングさんは塔の中に入っていってしまった。訳がわからないなりに私も急いで塔の裏手に回る。
着くと上から爆発音が聞こえた。この音はイシュヴァールの時に何度も聞いた。マスタングさんの発火布による爆発だ。
上を見上げるとちょうど何かが降ってくるところだった。そしてそれは私よりやや離れた場所に落ちる。

「………のバカ!!何で焼豚になってんだよ!!」

落ちてきたのは二人の人だった。こちらにはまだ気づいていないようだ。
あの高さから落ちてきたのに何で無事なんだろうと思いつつも話しかけようとする。が、私の目の前で信じられないことが起きた。
ひょろりとしたおそらく少年が、白い犬に変わったのだ。

「なっ!?」

そのまま犬は走り去ろうとするが、その犬の前に鎧仮面が現れた。あれはリン君のおつきのランファンさんだ。なんでここに?

「姿を変えても無駄ダ」

クナイを構えるランファンさん。
さらにそこにアルフォンス君とリン君も現れる。それに犬は焦ったような顔をする。そんな犬の顔にランファンさんのクナイが叩き込まれた。犬は呻き声を漏らしながら元の人の姿になる。

「!!??」

もう何が何だかわからない。あれは何なの?人?犬?それとも別の何か?
それはアルフォンス君たちも同様なようで驚きの声をあげていた。
四つん這いの少年になったそれは恨めしげな声をあげた。

「このっ… ブッ…殺… 潰してやるぞ!!」

そこにリン君が身を乗り出す。

「? こちらさん変わった中身してるネ」

「……………この次から次へと始末しなきゃならない奴が増えやがって…」

殺人宣言をした彼の後ろで落てきたもう一人がふっかーつ、と勢い良く起き上がる。それは転がせば転がっていくのでは、と思うほどの樽のような体型をしている。
ピクリとも動かないから死んだとばかりに思っていたのに。
それが細身の男にエンヴィー、と話しかける。

「こいつら食べていいの?」

「よっしゃ行け!食え!丸かじれ!」

細身の男の合図でリン君とランファンさんに迫り来る樽男。しかし二人はたじろぐどころかランファンさんの話からそれが不老不死へと繋がると分かり、むしろ果敢に挑んでいった。この時の二人の目は目の前に金銀財宝があらんばかりの輝きだった。
一方のアルフォンス君は何を思ったか、どこかに向かって走り出してしまう。

「んー!…… 待ってアルフォンス君!」

どちらに行くか少し迷ったが結局アルフォンス君の方へ行くことにした。アルフォンス君は大柄で足が長いから追いつくのが少し大変だった。

「ソフィアさん! 何でここに?」

「私にも分からないの! マスタングさんに無理矢理連れてこられたから!何がどうなってるの!?」

「ごめん、今は時間がないから大佐から説明してもらって!」

「…………」

納得は出来ないが黙ろう。確かに今は時間がなさそうだ。
塔の前に戻るとちょうどマスタングさんが車に乗り込むところだった。そばにはファルマン准尉と覆面の男が立っていた。そばに駆け寄ると覆面の男から煙草の強い匂いがした。これはたぶんハボック少尉だ。

「ヒューズさんの件と関係があるんでしょう?」

アルフォンス君が確信めいた口調でマスタングさんに問いかける。

「……………来るか?」

「はい!」

私を置いてけぼりで話を進める二人。マスタングさん、私をここに連れてきたのは貴方ですよね。

「待ってください!私を忘れないで下さい」

マスタングさんが私に目を向ける。特に悪びれた風はない。

「あぁ、ソフィア。無論君は来るだろ?」

「! 分かりました!」

何だ、来ることが当然になっていたんだ。何か嬉しくなる。



私、マスタングさん、ホークアイさん、アルフォンス君、ハボック少尉。計五人が乗って手狭になってしまった車中でいろいろと説明を受ける。
マリア・ロスはヒューズさんを殺した犯人ではないこと。
マスタングさんが焼いたのはダミーの死体で、マリア・ロスは今頃大砂漠にいること。
バリーザチョッパーと言う死刑囚を使いヒューズさんを殺した真犯人をあぶりだしていること。隣を併走している鎧はバリーザチョッパーらしい。
そして今は引っかかった敵を追跡中ということ。
次にアルフォンス君から衝撃の情報が報告される。

「人造人間だった」

これには車中の全員が絶句してしまった。
アルフォンス君曰く、さっきの細身の男と樽男と兄弟が南部で会ったという者達が全員、人造人間だという。
そう言えば、先日マスタングさんと兄弟はそんな会話をしていた。その時はマスタングさんもおざなりに対応していたから、私も冗談だと思っていた。それに兄弟が探す、賢者の石は伝説級だ。それの前に人造人間のインパクトも薄れてしまっていたのだろう。
そのあとは私とアルフォンス君とホークアイさんの証言により人造人間の存在が裏付けされる。
人造人間。
細身の男は人から犬へ。犬から人へと一瞬で形態を変化させていた。それにランファンさんのクナイによる傷も一瞬で治っていた。その再生力のおかげで塔から落ちても死ななかったのだろう。
マスタングさんの言う通り、まさにデタラメ人間の万国ビックリショーだ。  
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