霹靂の錬金術師
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PRINCE OF SHIN
私がガーフィールさんのお店で泊り込みで働くようになってから数日。力仕事があまり得意ではない私は専ら収支報告書なんかをまとめている。
そして今日もまたお仕事だ。
ガーフィールさんのお店は朝八時から開店準備をする。だから早起きの私としては毎朝三時間ほどを持て余すことになる。その時間はだいたい本を読むか身だしなみを整えるのに使っている。
今日も二時間ほど本を読んでから、部屋に置いてある大きな姿見の前に寝間着のまま立つ。そこに映る顔はいつもと変わらない私。乳白色のふわっとしたボブカット。これは父から貰った。薄茶色の瞳がこちらを見返している。これは母から。本来は優しい光を讃えているそれは、今は丸眼鏡によって半分ほどになっている。全体的に大人しめな顔だ。
こんなのが『霹靂』なんて物騒な二つ名を背負っているなんてお笑いぐさだ。
次に胸に目を向ける。そこには慎ましい胸があった。ここだけは母のものを受け継ぎたくなかった。まぁ私ももうかれこれ二十三歳だ。この辺にはもう折り合いをつけたから気にしない。
さっと寝間着を脱ぐ。そして椅子に置いてある普段着を身にまとう。ラッシュバレーは暑いので、灰色の薄手のロングスカートに白いカットシャツ。それをカーキのベルトで締める。続けてブラウンのショートブーツを履く。そしてベルトに私の錬成道具である三十cmほどの杖を差して完成だ。
お店に出ていくともう既にガーフィールさんとウィンリィさんがいた。二人ともなんだか浮かない顔だ。
「おはようございます。どうしたんですか?」
「おはよ、ソフィアちゃん。それがねぇ」
どうやら機械鎧を造る機械の一つが壊れてしまったようだ。それは重要なものでこれがないと今日は営業が出来ないそうだ。こういう時に私の出番だろう。
「見せてください。これでも一応国家錬金術師ですから」
ガーフィールさんから見せてもらったそれは、かなり大きな立方体だった。機械鎧の神経を造る機械だそうだ。167cmある私よりなお大きい。
それを周りを回りながらいじっていく。原因は直に分かった。
「これバッテリーがきれてますね」
いわゆるバッテリー寿命だった。
私の言葉に、ガーフィールさんは頬に手を当てあらん、困ったわと言った。
「任せてください」
バッテリーを抜き机の上に置く。そして杖をベルトから抜きバッテリーに向ける。そして練成を開始する。
杖から青い電気が三条ほど出てバッテリーと架け橋を作った。1分ほどそれをしてから杖を振り橋を切る。
「終わりです。これで動きますよ。中を丸々洗いました」
バッテリーを元の場所に入れながら言った。
ガーフィールさんは驚いた顔をしながら電源を入れ、動いたことによりさらに顔を驚きに染めた。
「ソフィアちゃんありがと〜。助かったわ〜」
「いえ、大衆のためにあれ、が錬金術師ですから」
「それにしても凄いですよね、ソフィアさんの錬金術。あいつらがそういうのやったの見たことないです」
あいつらとはエルリック兄弟のことだろうか。
「一応私が時間をかけて独自に作ったものですから」
「へぇ〜凄いなぁ。私とそんな変わらないのに」
「え?」
「え?」
微妙な空気が私たちの間を流れる。
ウィンリィさんは私のことをいくつだと思っているのだろうか。
「ウィンリィさん、私二十三だよ?」
「えぇぇぇー!?」
ウィンリィさんいわく同年代に見えたそうだ。さん付けがそれに拍車を掛けたという。まぁ確かに少し童顔なのは認めるが、ウィンリィさんと同年代には見えないはずだ。見えて欲しくはない。
その後、ウィンリィさんに謝られ、お店の準備に改めて取り掛かった。
そうそうウィンリィさんには説明できなかったから私の錬金術について少しだけ。
私の錬金術は大気から電気を造ることだ。
説明すると、大気中には常に電場と言うものがある。さらに電離作用によりイオンが作られる。それらにより大気には常に一定の電気が流れているのだ。しかしそれは微弱なものだ。とてもじゃないが実用化は難しかった。しかしここである二つの物質が出てくる。シリカ粒子とリン酸アルミニウムだ。大気中に含まれるこの二つは湿度が上がれば上がるほど電気を帯びるようになる。それを私の錬金術で上手いこと調整してやり、目に見えるほどの電気を作り出しているのだ。
しかし逆に言えば乾燥した日は雨の日のマスタングさんではないが、無能に近くなってしまうのだ。
#
開店をしてにわかに忙しくなったお店に意外な人物が訪ねてきた。
エドワード君とアルフォンス君だ。
エドワード君が機械鎧を壊してしまい、それを修理しに来たそうだ。笑いながら怒るウィンリィさんは怖かった。
私は挨拶をしたあとは会計の仕事に勤しんだ。その間にエドワード君たち三人は中央に行くことに決めたそうだ。私も中央には近々一度帰らなくちゃと思っていたので便乗させてもらう。
その後エドワード君とアルフォンス君は街に出てヒマを潰しに行った。お店が心無しか静かになる。あの二人、主にエドワード君が居ると場が賑やかになるのは何故だろう?そんなことを考えながら仕事を進めていると、ガーフィールさんが何かを拾ってきた。それは男の人だった。
「あの、ガーフィールさん、それは…?」
「お店の前に倒れてたのよね。可哀相だから拾ってきちゃった」
ガーフィールさん、そんな猫を拾う感覚で人を拾ってこないでください。
「ソフィアちゃん、悪いんだけどこの子に何か食べさせてあげてくれる?凄いお腹すいてるみたいなのよ」
「…分かりました。キッチンを使わせていただいても?」
「いいわよ。任せたわね」
店の奥のキッチンで簡単なサンドイッチを四つとお茶を沸かしてテーブルの上に突っ伏している彼の前に置く。すると勢い良く食べ始めて、みるみるうちにサンドイッチが消えていく。その後もう四つサンドイッチを作った程だ。
満足そうな彼を確認したあと仕事に戻ろうとしたのだが、彼に捕まってしまった。そして今は二人でお茶を飲みながら会話している。
彼の名前はリン・ヤオ。大砂漠の向こうにある東の大国シンから来たという。鉄道ルートがあるのだが砂に埋もれて使えなくなっていて馬とラクダを乗り継いで来たそうだ。かなり辛そうな旅だ。
そんなこんなで意外に話し上手なリン君との会話を楽しんでいると、エドワード君とアルフォンス君が帰ってきた。そしてリン君を見た途端嫌そうな顔をする。二人のあいだに何かあったのだろうか。そう言えばエドワード君の機械鎧が出ていく時よりも状態が悪化している。本当になにがあったのだろうか。
後書き
とんでも理論出ました。つっこみながら読んだと思います。作者にはこれが限界です。どうぞ心の奥に。
感想待ってます。
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