剣の世界で拳を振るう
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デスゲーム開始
さて、とうとうやって来てしまったこの世界。
もう帰ることなど出来ない状況にあるのだ。
ログイン直後にログアウトを探してみるも、やはり消滅しているのだ。
「……レベル上げるか」
俺は直ぐ様走り出す。
目指すのはβ時代に誰も知らなかったレベリングのスポット。
俺しか知ることのなかったあの場所で強制収集までひたすらにレベルを上げるのだ。
「ふっ!はぁっ!せ!は!はぁ!」
誰もいないこの場所。
町から出て真っ直ぐ行き、小さい浮島の下でジャンプすると浮島の上に転送される。
そこには何もなく、モンスターが一体ずつPOPする。
まさに草原リングの勝ち抜き戦闘である。
「とあっ!だぁりゃあ!」
そして今、漸く67体目のモンスターを切り伏せた。
俺の戦闘スタイルは本来ならば格闘に混ぜだ剣術だ。
相手を殴り、蹴り、隙をつくって抜刀の要領で切り込む。
反撃があればかわし、流し、受けることだけは絶対にしない。
補足とするならば、殴るなどしてでもダメージはあるのだが、
スキルの『体術』を持っていなければダメージはその半分程である。
精々筋力に比例するダメージである。
「てあ!」
レベルアップには振り分け出来るステータスポイントが存在する。
レベルが上がればステータスも上がるのだが、それに加えてボーナスを振り分けられると言う感じだ。
「…ふう」
俺はロングソードを腰につけた鞘へと戻す。
こうすればモンスターはPOPしてこないからだ。
「レベル…8か」
最初こそは上がりが早かったが、やはりと言うかレベルが高いと経験値にケチが付いてくる。
例えばレベル1の時には28だったのが、今のレベル8だと12位しか貰えない。
「……夕方になったか。もうすぐだな…」
そろそろ収集の鐘が鳴る頃だろう。
そこからが本当のデスゲーム開始となる。
”ゴーン…ゴーン…ゴーン……”
「っ!来た!」
俺は素早く立ち上がり、直立する。
それと同時に足元から光が立ち上がり、俺を飲み込んで転送させた。
始まりの町の広場。
ログインの初めは例外なくここへと来る場所だ。
そこへと集められたプレイヤー達はざわざわと騒いでいる。
やれ、この後約束があるのに。
やれ、戦闘の途中だったのに。
やれ、GM出てこい。
パニックとは何処にでもあるもので、一人が不安を煽れば忽ちにして周りに広がっていくのだ。
「…上か…」
そう呟いて上空を見上げる。
そこには赤く染まった空よりもさらに赤い表記。
≪System Announcement WARNING≫
そして次の瞬間、その表記が空一面に広がった。
エリア別に空一面区切られるように、その境界線から血の様な赤い液体が滴り落ちてくる。
まるでそれは意思を持つ生命のように、一箇所へと集まる。
そして最後には赤いフードで顔が見えない巨大な人間の姿へと変貌した。
その場の人間全員がこの光景に驚愕を示した。
驚くもの、怖がるもの、楽観視するものと、様々な反応だ。
そして巨大な魔法使いのような姿の人間は両手を広げ―――
『プレイヤーの諸君……私の世界へそうこそ……』
――街中に響き渡るような声量で話し出した。
「私の世界……ね」
『私の名前は茅場明彦……いまやこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』
茅場明彦。
このゲームを購入した者なら誰もが買っているであろうナーヴギアについての本。
そして、ゲーム界の新星と謳われている人物だとすぐに理解できる。
場の人間の殆ども知っている存在なのだ。
『プレイヤー諸君は…既にメインメニューからログアウトボタンが消滅している事に気づいていると思う。
しかし、これはゲームの不具合では無い。繰り返す、不具合ではなくSAO本来の仕様である。』
「いや、不具合だろ。ログアウトさせろよ」
俺は一人突っ込みをして俺自身のメンタルの上昇を試みる。
『諸君は自発的にログアウトする事は出来ない。
また、外部の人間の手によるナーヴギアの停止、あるいは解除もありえない。
もしそれが試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが諸君らの脳を破壊し、生命活動を停止させる』
そんな言葉。
ログアウトしようものなら、現実世界ででもログアウトするよう設定させられているとのことだった。
しかし、いきなりそんな事を言われても人と言う生き物は信じることができない。
場を盛り上げる演出だろうと結論付け、何名かは動き出した。
だが、混乱するがゆえに……この場を立ち去りたいとも思うのだろう。
そのメンバーにつられるように他の何名かも立ち去ろうとしたが、広場から出る事は叶わず、見えない壁に阻まれた。
所謂、行動規制措置だ。
これの本来の使い方は、侵入禁止エリアだったり、システム的にそこを通るとゲーム不備が発生する地点に置かれているものだ。
『……より具体的には十分間の外部電源切断、二時間のネットワーク回線切断、ナーヴギア本体のロック解除または分解または破壊の試み――以上の3点だ。
これら、いずれかの条件によって脳破壊シークエンスが実行される。
……ちなみに現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視してナーヴギアの強制解除を試みた例が少なからずあり、その結果――――』
茅場であろう魔法使いは一呼吸置く。
その間が、聞いている側からしたら物凄く長いと知っていてやるかのように。
『――残念ながらすでに213名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している』
この言葉に場は一気に静まり返った。
まさに茅場であろう人物の独壇場。
『諸君が、向こう側に置いてきた肉体の心配をする必要はない』
そう言うと、上空にウインドウで各メディアのWEBページが出現した。
『ご覧の通り、現在あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を多数の死者が出ていることも含め、繰り返し報道している。
諸君のナーヴギアが強引に解除される危険はすでに低くなっていると言ってよかろう。
今後、諸君の現実の体はナーヴギアを装着したまま二時間の回線切断猶予時間のうちに病院その他の施設へと搬送され、厳重な介護施設のもとに置かれるはずだ。
この世界を作った上で、いきなり全プレイヤーがログアウトするような理不尽はしない。
……諸君には、安心してゲーム攻略に励んでほしい』
その冷徹に聞こえる言葉に、周囲のプレイヤー達が騒ぎ出した。
「ふざけんな!そんなのもうゲームじゃないだろ!」
「そ、そうだ!どうせ何かのイベントだろ!」
「長いんだよ!さっさと終わらせろ!」
「ログアウトさせてよ!」
しかし茅場は一切耳を貸す気配はない。
それどころか更に現実を突きつける言葉を連ねる。
『しかし充分に留意してもらいたい。
諸君にとって、<ソードアート・オンライン>はただのゲームではなくなった。
それはもう一つの現実であると言うことに他ならない。
今後、ゲームにおいてあらゆる蘇生手段は機能しない。
HP(ヒットポイント)がゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に――――』
――諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される……』
記憶通りの答えだった。
俺は何かに釣られるように目線を動かし、左上に位置するHPゲージをみた。
そのHP……ヒットポイントは708/708と記されている。
これが文字通り、命の数字となるのだ。
「最早死刑宣告だな」
そもそもオンラインゲームでの死なない事の難しさは皆が知っていることだ。
簡単に攻略できるものなら、直ぐに全てを攻略できる。
もしもそうならば、ゲームユーザーはゲームから離れ、他のゲームへと抜けていくだろう。
そういったことにならないように、運営はゲームバランスを考え、大型アップデート、難易度の調節措置をとるのだ。
それは長きに渡ってゲームをプレイしてもらう為であり、悪く言えば利益にする為だ。
それが、それこそがオンラインゲームと言うものなのだ。
『諸君がこのゲームから解放される条件はたった一つ。
先に述べたとおり、アインクラッド最上部第100層まで辿り着き、そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすればよい。
以前のテスターとは違い……誰か1人でも倒すことが出来ればその瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされることを保証しよう』
し……ん、と約1万人のプレイヤーが沈黙した。
一瞬だが……場が本当に静まり返ったのだ。
この城の頂までたどり着くという言葉の真意を……皆が理解したのだろう。
この城とは……。
僕たちを最下層に飲み込み、さらに頭上に99もの層を重ね空に浮かび続ける巨大な浮遊城。
【アインクラッド】を指していたのだ。
「クリア……第100層だとぉ!?」
どこかで叫び声が聞こえる。
この声クラインじゃなかったか?
「で、できるわきゃねぇだろうが!!ベータじゃろくに上がれなかったんだろうが!!」
そりゃそうだ。
俺だって13層までしか行けなかったし。
『それでは、最後に諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。
諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれたまえ』
それを聞くと、自然の動作で、ほとんどのプレイヤーが右手の指二本揃えて真下に向けて振った。
当然だ。皆が茅場の説明に頭がいっぱいなのだ。
そして、誰かが開けば次に自分もと混乱してはいても、連鎖的に続いていった。
それにより、広場いっぱいに電子的な鈴の音のサウンドエフェクトが鳴り響く……。
そして出現したメインメニューから、アイテム欄のタブを叩くと、
……表示された所持品リストに1つだけアイテムがあった。
そのアイテムの名前は≪手鏡≫。
使用者のアバターを現実の姿に戻すアイテムだ。
「いざ出陣~なんつって」
俺は手鏡を取り、覗き込んだ。
そして次の瞬間、突然周りのアバターを白い光が包んだ。
それは時間にして数秒だったが……混乱させるには十分すぎる時間だった。
そして光がやむと、現実の俺の姿のままになっていた。
『諸君は今、何故と思っているだろう。
何故、ソードアート・オンラインおよびナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか?
私の目的はすでに達せられている。
この世界を創り出し、鑑賞するために私はソードアート・オンラインを作った…』
何に変えてでも作りたかったもの。
それを実現させ……そして その世界に自分自身のリアルを築きたかった…と、そんなところだろうな。
ただもう少し迷惑とか考えてほしかったな。
『……以上で<ソードアート・オンライン>正式サービスのチュートリアルを終了する。
プレイヤー諸君の健闘を祈る』
最後の一言で、残響を引き消えた。
その巨大なローブ姿が音もなく上昇し、フードの先端から空を埋めるシステムメッセージに溶け込むように同化していくように消えて行った。
肩・胸、そして両手と足が血の色をした天の水面に沈み、最後にひとつだけ波紋が広がった。
その波紋が消えると殆ど同時に空一面に並ぶメッセージも現れた時と同じ様に唐突に消滅した。
「さて、いきますか…」
俺は踵を返して歩き始める。
向かう先はホルンカ…つまりは次の町だ。
和人……いや、キリトはクラインを連れ、裏路地にでも行っていることだろう。
「先ずは…連徹で刈りまくるかねぇ」
俺は背後から聞こえてくる喧騒や悲鳴をBGMにしながら草原へと走り出した。
後書き
PN.Ken:LV8
片手長剣:ロングソード(STR+30.VIT+15.AGI+5.DEX+10)
STR:218(188)
VIT:222(207)
DEX:133(123)
AGI:157(152)
初期値:100
Skill
片手長剣(124)
投剣(38)
索敵(243)
ステータス振り分け基準
STR+5
VIT+2
DEX+0
AGI+3
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