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戦国異伝

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第百八十八話 宇喜多直家その五

「それがしが僭越ながら」
「先陣をじゃな」
「務めさせて頂いて宜しいでしょうか」
「これからの戦でじゃな」
「はい、そうさせて頂きたいのですが」
「そうして御主の初陣を飾るのじゃな」
 信長は秀家がまだ初陣を済ませていないことも知っていた、そのうえでの言葉だ。それを秀家にも言ったのである。
「そのつもりじゃな」
「左様です、そうして宜しいでしょうか」
「やってみよ」
 信長は秀家に笑みを浮かべて返した。
「そうして見事初陣を飾ってみせよ」
「さすれば」
「そういうことじゃ、では次の戦の先陣は宇喜多家とじゃ」
 そしてだった。
「備前、美作の者達とする」
「畏まりました」
 軍の奉行を務める林が信長に応える。
「それではその様に」
「うむ、それではな」
「ではそれがしは」
 宇喜多直家がここであらためて言って来た。
「この場で」
「髪を剃りか」
「出家させて頂きたいのですが」
「わかった、それではな」
 信長も宇喜多のその言葉を容れた、そうしてだった。
 宇喜多は織田家の陣中で出家し僧衣に着替えた、そのうえで雲水になり秀家と忠家に対して告げたのだった。
「では後は頼んだぞ」
「父上、それでは」
「御主ならば恨まれることもない」
 我が子に対して微笑みさえ浮かべて言うのだった。
「宇喜多の家も御主と」
「それがしですか」
「うむ、御主もいればな」
 忠家も見て言うのだった。
「安心じゃ」
「それでは」
「後は頼んだ」
 これで、というのだ。
「わしはこれでな」
「寺に入られますか」
「そうする、既に入る寺も決めてある」
「では」
「達者でな」
 最後にこう言ってだった、そのうえで。
 宇喜多直家は自身の領地に戻ることなく寺に向かった。そうして後には秀家と忠家の二人が残ったのだった。
 その秀家がだ、忠家に言った。
「では叔父上」
「うむ、ではこれからはな」
「我等で、ですな」
「宇喜多の家を守っていこう」
「父上はその為に」
「確かにわしもな」
 ここでだ、忠家は甥にこのことを話した。
「兄上とお会いする時は常に服の下に鎖帷子を着ていた」
「用心の為に」
「兄上はそうした方であられた」
 例え実の弟でもだ。
「家を害すると思われたならな」
「容赦なくですな」
「消された」
 そうする男だったというのだ。
「そうした方であられた。しかし」
「それは全て家を守る為」
「宇喜多のな」
「だからですな」
「宇喜多家が織田家に加わったからにはな」
 それならというのだ。 
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