戦国異伝
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第百八十八話 宇喜多直家その三
宇喜多直家は一族や重臣達を連れてだ、そのうえで。
先に進みだ、信長の前に来てだった。
膝をつき頭を垂れた。信長はその彼等に声をかけて頭を上げさせた。それからその暗い目の男に対して問うた。
「宇喜多直家じゃな」
「左様です」
その通りだとだ、男も答える。
「それがしが宇喜多直家です」
「そうじゃな、そしてわしの前に来た理由は」
「はい、この度織田家の末席に加えて頂きたく」
「馳せ参じて来たというのじゃな」
「そうです」
まさにその通りだというのだ。
「そうして頂きたく」
「では織田家に入り」
「以後織田家に忠誠を誓います」
宇喜多のこの言葉にはだ、織田家の者は誰もがだった。
心の中で嘘を吐け、と言った。流石に誰も言葉には出さないが顔に出ている者も多かった。
「そして何があろうとも」
「織田家を裏切らぬか」
「その通りです」
「そうか。しかしじゃ」
「しかしとは」
「御主はこれまで色々とあったな」
信長は宇喜多のその目を見て問うた。
「そうじゃな」
「謀のことですか」
「その通りじゃ。幾多の者を殺めてきたな」
「その通りです」
宇喜多はこのことを信長に隠すことなく答えた。
「そうしてきました」
「それは何故じゃ」
「家の為です」
宇喜多家の、というのだ。
「家を守る為に」
「その為にか」
「戦は兵法の常、敗れてしまう時もあります」
「だからか」
「それよりも謀を使いました」
そうしてきたというのだ。
「そしてその中で」
「多くの者を殺めてきたというのじゃあ」
「左様です」
「そうか、ではじゃ」
ここでだ、信長は宇喜多にこうも問うた。
「御主は天下はどうじゃ」
「天下ですか」
「天下を求めるか」
宇喜多の目を見据えてだ、信長は問うた。
「それはどうじゃ」
「天下はそれがしには大き過ぎます」
これが宇喜多の返事だった。
「とても」
「だからか」
「はい、ですから」
それでだというのだ。
「それがしはこれで充分です」
「だから織田家にいてもじゃな」
「家さえ守れれば」
「よいか、ではじゃ」
ここまで聞いてまた問うた信長だった。
「若しわしが宇喜多家を滅ぼそうとすればどうする」
「その時はですか」
「御主はどうする」
「策を使います」
はっきりとだ、宇喜多は信長に答えた。
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