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チューニング†ソウル

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酷暑のイベント

「どうしてこうなった…」


 俺は今、両手に中身の重さで変形したエコバッグを持ち、炎天下を一人歩いている。
 日光から熱を吸収したアスファルトが容赦なく熱気を立ち昇ってくる。
 道路の白線はその日光を乱反射させ、遠くの景色は陽炎に揺らめいて、視覚からも暑さを感じさせてくる上に、セミの鳴き声が聴覚をもいじめている。
 暑さに唸りそうになるのをなんとか堪え、黒の半袖を捲り少しでも多く熱を発散しようと試みる。
 さて、どうしてこうなったかと言うと、十五分ほど遡る………




『米とお茶切れた。ちょっと買ってきて』

『パス』


 何故このクソ暑い夏空の下へ米(無洗米)とお茶を買うためだけに出陣しなければならないのか。
 インドア最高!と声高に叫ぼうではないか。


『そっか…大好きな妹を炎天下に放り出すのね…』


 おっと、泣き落としか妹よ。
 そう言う春美の腕には明らかに鳥肌が立っており、嫌々言っていることを隠しきれていなかったのだが。


『わーったよ、行ってくる。その代わりにアイス買ってもいいか?』

『子供かっ!……まぁ、行ってくれるんならいいけど。あ、ついでにカレーの材料も買ってきて』

『ふ、増えた……』




 とまあ、そんなわけで、俺は買い物の帰路についているのであった。
 買った物は米(無洗米)三キロと大きいペットボトルのウーロン茶、カレールーとカレーの材料の豚肉と人参と玉ねぎにじゃがいもとニンニク。それとチョコレートがかかった八本入りのバニラバー。
 一本だけ買うと思ったか?さすがに俺もそこまで子供じゃない。それに一本のアイスの方が確実に値が張る。
 そうして脳内でどこかの誰かに抗議しながら歩いていると、道の先から何かがこちらに向かってきているのが見えた。
 一般の通行人だったら気にも留めなかっただろうが、まず、人ではなかった。
 白い布に包まれた《それ》はジグザグに跳ねながら進み、どんどんこちらに近づいてくる。


「すみませんっ!そいつ、捕まえてください!」


 このまま進むべきか迷い辺りを見回していると、同じく前方から走ってくる人影があり、手を振って大声で謎の《それ》を捕らえるように頼んできた。
 恐らく、ペットの動物の顔に布がかかってしまい、そのペットが混乱してしまっているのだろう。


「うぉっ!?マジか!?」


 右へ左へと跳ね回る動きから見て、犬ではないだろう。ならば猫かと思ったが、なんとなくそれではない感じがする。
 他にこんな動きをする動物がいたか考えると、ある動物が思い浮かんだ。
 幸い、現在俺はその動物、ウサギの好物を持っている。
 エコバッグの中を探り、緑黄色野菜の代表とも言える野菜、人参を取り出してしゃがみこみ、そのウサギに向けて差し出した。


「とーととと」


 それはニワトリを呼ぶときの声じゃなかったか、と一瞬不安になったが、うまく人参の匂いを嗅ぎつけたのかこちらへ向かって進み始めた。


「あっ!?やっぱりいいです!触らないでっ!」

「しーっ…騒がないでくれ…また逃げられちゃうぞ…」


 ジェスチャーで静かにするように伝え、そのウサギを受け止める準備を整える。
 声の感じからして女の子だろう。だんだん近づいてくるにつれて、服装がはっきり見えるようになってきた。
 白のワンピースに大きめの麦わら帽子。サンダルを履いているため、追いかけて走るのに難儀していたようだ。
 このイベントをきっかけに『あの、お名前は……』とか始まるのだろうか。


「っ!避けてください!」

「え?」


 彼女いない歴=年齢の俺は、くだらない妄想に集中し過ぎた。



 いつの間にか眼前に迫るウサギ。


 いや、違う。


 風によって白のヴェールが取り払われた下にいたのは、光の、玉。


 何を言っているのか意味不明だろうが、《それ》は本当に、力無く輝く、球体だったのだ。


 咄嗟に身を捻るが、インドア派の俺にそんな反射神経が備わっているわけがなく、光の玉が視界いっぱいに広がって……… 
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