リリカルアドベンチャーGT~奇跡と優しさの軌跡~
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第十七話 闇の双剣士
前書き
大輔達がプレシアの元に向かおうとしている時、はやての家に異変が起きていた。
なのは「あれ?私一人だけ!?えっと…リリカルアドベンチャー、始まります!!」
はやては賢がいない間、部屋の整理をしていた。
しかし下半身が麻痺しているため、簡単なことしか出来ないが。
はやて「あ」
ふと、はやては、一冊の書物を落としてしまった。
その本は物心付いた時からあったもので、綺麗な本だったから今まで大切に保管していたもの。
拾おうとした時、バチンという音がした。
ブレーカーが落ちたのだ。
はやて「停電?」
首を傾げたはやてがブレーカーのある場所にまで向かおうとしたその時である。
ズォオオオ…。
はやて「へ?」
奇妙な音が背後から聞こえ、恐る恐る後ろを向いた。
落ちている書物の近くには黒い靄が集まっていた。
はやて「………」
思わずはやては冷や汗を流し、ゴクリと唾を飲んだ。
人間が生れつき持つ本能が警鐘を鳴らす。
しかし、どこかでこれは大丈夫だと感じていた。
これは多分彼女が…。
はやて「何やの…?」
靄が徐々に人に近い形を作っていく。
そして靄が完全な肉体を手にして現れた。
人間の成人男性くらいの体格。
殆ど闇に溶けそうな鎧を纏い、対照的に煌びやかな美しい金髪をなびかせる。
腕の尖端には手の代わりに恐竜の類の頭蓋骨を模したものが取り付けられており、その喉の奥から真紅の長剣が伸びている。
[…ふ、襲ったりするつもりはない……そうする価値は無いからな。お前は何者だ?]
はやて「へ?あ、はやて、八神はやて言います…えっと、それであなたは?」
[…俺の名はダスクモンだ。デジモンの中でもかなりの異端の存在だ。お前には分からないことだろうが]
はやて「デジモン?あなたもデジモンなんか?」
ダスクモン[何?]
ダスクモンが真紅の瞳を僅かに見開いた。
はやて「えっと…うちにもデジモンがいるんよ。ワームモンって言うんや」
ダスクモン[驚いた…まさか現実世界に存在するデジモンが既にいたとはな。]
はやて「えっとダスクモンやったっけ?」
ダスクモン[そうだ]
はやて「異端って言っとったけどどういうことや?ワームモンとかと違うんか?」
ダスクモン[大多数のデジモンからすると、俺の存在は異常に思えるだろうな。フォービドゥンデータで肉体の殆どが構成されているのだから]
はやて「フォービドゥンデータ?」
ダスクモン[フォービドゥンデータとは、怨恨の塊やら残虐非道な内容のデータのことだ。それには進化の過程で滅びたデジモンの無念も含まれている]
はやての瞳が少し見開かれた。
ダスクモンの恐ろしげな生い立ちに何と言えばいいのか分からない。
しかし、何故ここに現れたのかを聞かなくてはならない。
はやて「ダスクモンはどうして、現実世界に…此処に現れたんや?」
ダスクモン[この書物だ]
はやて「へ?」
ダスクモンが指の代わりに真紅の長剣、ブルートエボルツィオンで書物を指す。
ダスクモン[この書物の闇と俺のデータが共鳴を起こし、俺を此処に呼び寄せた。それまではダークエリアの深淵で眠っていた俺を]
しかし、はやては困ったような表情を浮かべた。
はやて「そ、そないなこと言われても、これはうちが物心ついた時にあったんやで?」
ダスクモン[お前にも分からないのか?]
はやて「う、うん…」
ダスクモン[そうか…]
溜め息を吐いたダスクモンにはやてが問う。
はやて「ダスクモンは…行くとこあるんか?」
ダスクモン[……何度もダークエリアに戻ろうとしているが、無理のようだ。闇に溶け込むことは出来るようだが…]
はやて「だったら…」
ダスクモン[?]
はやて「うちで一緒に暮らさへん?」
ダスクモン[何?]
はやて「ほら?ダスクモンはこの本に呼ばれたんやろ?だったらここにいた方がええやないか」
本を手に取り、ダスクモンに見せながら言うはやてにダスクモンは思案する。
ダークエリアに戻れない今、闇に溶け込むことは出来ても常にとはいかない。
出来れば身体を休められる場所が欲しい。
書物のことも気にしているダスクモンにとってはやての提案は喜ばしいことだ。
しかし…。
ダスクモン[何故そこまでする?お前にとって俺は何の関係もないただの他人だ]
はやて「うちな…物心つく前から両親亡くしてるから、賢兄達が来るまで独りぼっちだったんよ。だから…」
ダスクモン[独り…か…]
生まれてから自分以外は誰一人存在しないダークエリアで生きてきた自分と、物心つく前に家族を失い孤独だった目の前の少女が少しだけ他人に思えなくなってきた。
ダスクモン[…いいだろう。世話になる]
そう言って、壁に背を預けるダスクモンにはやては嬉しそうに問い掛ける。
はやて「んじゃあ、今日はご馳走たんまり作るで!!ダスクモンは今まで何を食べてたんや?」
ダスクモン[ダークエリアには食物はない。普段はダークエリアの純粋の闇と負の念を糧にしていた]
はやて「じゃあ、今まで食事をしたことがないっちゅうこと?」
ダスクモン[そうだ]
はやて「なら尚更腕によりをかけてやらにゃああかんな!!」
凄まじいスピードで、キッチンに向かうはやてを尻目に、ダスクモンは一冊の書物を見つめた。
そして、クラナガンでは何とか逃げることに成功した一輝達が、公園のベンチに座り込んだ。
一輝「全く…異世界に来て早々厄介事に巻き込まれるとはな……」
カリム「あの…すみません」
一輝「ああ?何であんたが謝んだよ?あんたは何も悪くねえだろ?大体、あの怪物は時空管理局とやらの杜撰な警備のせいだろ?」
カリム「………」
一輝「にしても、腹減ったな…」
レオルモン[僕もお腹空いたな…]
一輝「しゃあねえ。弁当食うか」
鞄から包みを取り出して、それを解くと、サンドイッチがあった。
一輝「ほらよ」
レオルモン[ありがとう]
サンドイッチを頬張るレオルモン。
一輝はサンドイッチをカリムに差し出す。
一輝「食えよ」
カリム「え?」
一輝「あんなに走ったんだから小腹空いたろ。」
カリム「あ、ありがとうございます…」
一輝「味は期待すんなよ。あんた、いいとこ育ちのお嬢様みてえだし。多分、あんたの口に合わな…」
言い終わる前にカリムがサンドイッチを口にした。
カリム「…美味しいです」
一輝「ん?」
カリム「これ、とても美味しいです。優しい味がします」
一輝「…お世辞が上手いじゃねえか」
ニヤリと笑って、水筒のミルクティーをカリムに差し出す。
自分の分とレオルモンの分も入れ、一輝とカリム、レオルモンは少しばかりはちみつの入ったミルクティーを飲んでリラックス。
六つあったサンドイッチは一人二つずつ食べた。
カリム「ご馳走様でした」
一輝「ああ、お粗末様」
カリム「とても美味しかったです。あなたのお母様が?」
一輝「いや、俺が作った。母さんも父さんも、俺の世界で起きたテロ事件で、ある二人とデジモンに殺された。」
カリム「あ…ごめんなさい…」
一輝「気にすんな。あんたは何も知らない訳だし。俺ももう気にしちゃ…いないわけじゃねえけど。運が悪かったんだと諦めた。けどあの二人のことは今でも憎いし。デジモンも嫌いだ」
カリム「デジモン?」
一輝「レオルモンみたいな生き物だ。こいつらはデータで構成されたプログラム生命体…。最初はレオルモンのこともパートナーでも嫌いだった。でもこいつ、俺を何度も助けてくれた。何度も何度も拒絶したのに」
レオルモン[だって僕は一輝のことをずっと待ってたんだ。僕は一輝を守るために生まれた。だから僕は君にどんなに嫌われても守るよ]
一輝「そうかよ…まあ、そんなわけで前よりはデジモン嫌いはマシになったんだ。敵の場合は容赦出来ねえがな」
カリム「…一輝さん」
一輝「取りあえず、今の俺の目的は父さん達の仇を見つけてその二人を一発ぶん殴る。こればっかりは例え女でも手加減出来ねえ」
カリム「………」
何と言えばいいのか分からないカリムは俯いて黙ってしまう。
一輝「…とにかく、あんたの家は何処だ?折角だし送っていくよ」
カリム「え?でも…」
一輝「またあんなガラの悪い奴に絡まれたらどうするんだよ。いいからここは人の好意に甘えとけ」
スッと手を差し出す一輝に、そっと手を重ねるカリム。
カリム「では…お願いします」
一輝「はい、お嬢様…なんてな」
微笑を浮かべてカリムに道を教えてもらい、彼女を送る一輝だが…。
一輝「ここがあんたの家…?教会みてえだけど」
礼拝堂のステンドグラスに目を細める一輝。
カリム「はい」
「騎士カリム!!」
カリム「シャッハ」
カリムや自分より少し年上そうな人物がこちらに向かってきた。
シャッハ「よかった…クラナガンで魔法生物が現れたと聞いた時は…と、そちらの方は?」
カリム「こちらは伊藤一輝さん。」
一輝「よろしく、多分カリムの姉貴さん?」
シャッハ「いえ、私は騎士カリムの姉ではなく従者のシャッハ・ヌエラです」
一輝「従者?まあいいけど、その魔法生物だけど、こいつ思いっ切り遭遇したぞ」
シャッハ「…何ですって?」
カリム「か、一輝さん!!」
一輝「安心しな、魔法生物は俺達が仕留めた。それよりも前にガラの悪い男にも絡まれてた。カリムの従者ってんならこいつから目を離すな、大事な主人なんだろ?」
シャッハ「返す言葉もありません…本当にありがとうございます……」
一輝「いいって、困った時にはお互い様だ。じゃあな」
カリム「あ、あの…どちらに…?」
一輝「え?そりゃ時空管理局ってとこに行くんだよ。俺は次元漂流者だからな」
シャッハ「次元漂流者…?」
一輝「ああ、何でこんなことになったのかさっぱりなんだけどな」
一輝はシャッハに全ての事情を話す。
全ての事情を知ったシャッハは時空管理局への報告を自分がすると言って、カリムとシャッハの好意で客室に案内された。
一輝「ふう…」
溜め息を吐きながら、客室のベッドに沈む一輝。
鞄から一枚のボロボロの写真を取り出す。
写真に今は亡き父と母が幼い自分と共に笑っていた。
一輝「……」
レオルモン[一輝…]
シャッハ「失礼します」
ノックの後に入って来たシャッハ。
トレーにはティーセットが載せられている。
一輝「ん?シャッハ…だったっけ?何だよ」
シャッハ「はい…あなたの処遇ですが…」
時空管理局に自分のことを話し、明日の朝にでも管理局が保護しようとしたところ、カリムがこの教会で保護すると言ったらしく、珍しくシャッハに対して我が儘を言ったらしく、根負けしたシャッハは自分がここにいることを認めたらしい。
シャッハ「普段は我が儘を言うような方ではないのですけれど…」
一輝「随分と懐かれちまったなあ…俺、大したことしてねえのに…」
シャッハが入れてくれた紅茶を飲むが、シャッハのように音を立てずに飲めない。
一輝「あれ?シャッハのように飲めねえ…」
四苦八苦してるとシャッハがクスリと笑っていた。
一輝「おい、笑うんじゃねえよ」
シャッハ「フフ…すいません…」
一輝「くそ…おい、どうやったらそうなるんだ?」
シャッハ「明日からここにいるのですから、今でなくても大丈夫ですよ。心配しなくとも明日から礼儀作法を叩き込んで差し上げます」
一輝「…上等だ」
互いに不敵な笑みを浮かべる。
シャッハは一輝の隣にある写真に気づく。
シャッハ「それは…ご家族の写真ですか?随分と古い物のようですが…」
一輝「ん?ああ、父さん達と最後に撮った家族写真だ」
シャッハ「最後…?」
一輝「カリムから聞いてねえか?俺の家族はテロで殺されたって」
シャッハ「殺された…」
一輝「ああ、まあ…もう7年も前の話だ。ある程度の区切りはつけた。後は仇を見つけて一発ぶん殴る。それで終わりだ」
シャッハ「復讐したいと思わなかったのですか?」
一輝「…復讐したら、父さんと母さんが生き返るのかよ?」
シャッハ「それは…」
一輝「昔は…そうだな、そいつらに俺の苦しみを沢山味あわせてやりたかった。でもな、復讐したらしたでまた次の復讐が始まる。復讐をしたら俺と同じ思いをする奴が出るんだからな」
シャッハ「……」
一輝「許す気なんざサラサラねえけどな。悪いな、変な話聞かせて」
シャッハ「いえ…騎士カリムがあなたを慕う理由が分かりました」
一輝「は?」
シャッハ「一輝さん、明日からよろしくお願いしますね」
一輝「ああ、こっちこそな」
シャッハが部屋を後にし、一輝も部屋の電気を消して、目を閉じた。
一輝「(そういや…あいつら元気かな…?大輔とジュン…)」
光が丘にいた時、仲がよかった姉弟を思い出した一輝だったが、しばらくして眠りについた。
後書き
ダスクモン、八神家に降臨。
この作品の八神家は闇にかなり縁がありますね。
ダスクモンは闇の書の闇と共鳴して召喚されました。
ダスクモンの成長期は多分同じデータのカスから生まれたクラモン系列だと思う。
レーベモンの成長期は微妙なものばかりだけれども。
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