久し振り
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第三章
第三章
「誰もな」
「お客さんは」
今はカップルがカウンターに一組、テーブルに二組、おばさんの二人連れがテーブルにいる。他はスーツのサラリーマン風の中年が三人程度あちこちに座っている。
そしてカウンターに。何かやけに小さい女の子がいるだけである。
「これだけだよな」
「いないんだよ」
俊は眉を顰めさせ口を尖らせて述べた。
「これが」
「いないっておい」
「だからいないんだって」
言葉は繰り返される。
「これがな」
「あれっ、けれど」
「携帯じゃ連絡があるんだよ」
それはあるというのだ。そうしてそのうえで携帯を見せる。するとそこには確かにメールの返信が入っていた。顔文字まで付いている明るい文章である。
「なっ、これな」
「確かにあるな」
「ここだってはっきり書いてあるよな」
「マジックってな」
「それでこの店にいるってな」
「ああ」
彼が見ても確かに書かれている。俊の言う通りである。
「それは間違いないな」
「けれどいないんだよ」
彼はまた言った。
「誰もな」
「けれど女の子が一人いるぞ」
カウンターのその女の子を見て俊に話す。
「ほら、あの娘」
「あの娘か?」
「そうじゃないのか?」
彼女ではないかというのだ。
「あの娘じゃな」
「全然違うんだけれどな」
あらためて言う彼だった。
「何もかもがな」
「結構大きかったんだよな」
「同じ年齢の女の子の中ではな」
大きいというのだ。
「確かにな」
「そういえばそう言ってたよな」
「ああ、じゃあやっぱり」
「あの娘じゃないよ」
カウンターのその娘を見ての言葉である。
「絶対にな」
「そうか。けれど一人でいる女の子って」
「だよなあ。あの娘しかいないし」
「どうなってんだ?」
俊は首を傾げさせてしまった。
「あの娘がひょっとして」
「あっ、おい」
彼はここでまた俊に声をかけた。
「そのカウンターの娘がな」
「んっ!?」
「あっ、お兄ちゃん」
その女の子は急に明るい声を出してきた。見れば黒く長い髪をツインテールにした小柄な女の子である。目ははっきりとしていて眉はやや下に下がっている。全体的に幼さが見える身体つきである。それがミニスカートとセーターといった格好からわかる。
「久し振りです」
「久し振りって」
「まさか」
俊は彼女の言葉を聞いてすぐに。驚きの声をあげた。
「杏ちゃん!?」
「はい、杏です」
にこりと笑って答える彼女だった。
「元気なんですね、お兄ちゃんも」
「なんですって」
俊がここで言ったのは言葉使いだった。
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