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エクシリアmore -過ちを犯したからこそ足掻くRPG-

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第二十三話 一斉蜂起

/Fay

 わたしとローエン、パパとクレインさま、イバルとエリーゼで乗り分けたワイバーンで、なんとか日が落ちる前にガンダラ要塞前に着いた。

 ワイバーンなんかで近くに降りちゃったから、最初は兵士さんがいっぱい出て来て攻撃されそうになったけど。そこはすぐにクレインさまとローエンが止めてくれた。

 大勢の兵士さんの前に出て、ローエンが言った。

「各地の同志に伝令を飛ばしてください。要塞に駐留している兵は、守りを最低限残して、全て出撃の準備を」

 おおっ。イルベルト殿。参謀総長。では。ついに。やっと。

 ――聞いていた兵士さんたちが、さんざめく。

 ざわざわ。ドキドキ。ワクワク。オロオロ。ウロウロ。ハラハラ。

 期待と不安、恐怖と興奮、風に乗って肌を刺す。わたしじゃ竦んじゃう。
 でもクレインさまは全て受け止めて、肯いてみせた。

「決行する。イル・ファンに宣戦布告を出せ」

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ――――ッッッッ!!!!!!

 すごい……まだ戦支度さえ始めてないのに、号令一つでこんなに大きな声。クレインさまがトップだから? ローエンがいるから? それとも、そんなにナハティガル王がイヤだったから?

「出撃用意が整い次第出立します。フェイさんも皆さんと準備をお願いします」
「あ…うん。分かった」

 ローエンはクレインさまと一緒にガンダラ要塞に入って行っちゃった。

 そ、っか。わたしたちにとっても、いよいよなんだ。〈槍〉に囚われたミラさまと四大精霊を解放する。それからミラさまと一緒に断界殻(シェル)を開く。わたしとパパはそのためにココまで来たんだもの。

 準備する物なんてないけど、せめてちゃんと力が使えるか、すみっこで試すくらいしとこっと。




/Ivar

 準備しろ、と言われたものの、俺の荷物などこの二刀くらいだ。各種アイテムも一応は持ってる。つまり準備するものがない。せいぜい乗ってきたワイバーンの守りくらいだ。

 3頭のワイバーンの内、1頭が俺の前まで首を下げた。
 よしよし。悪かったな、強行軍をさせて。文句はあいつらに言ってやれ。この後も、イル・ファンに行くためにお前らを働かせるつもりらしいからな。

 ん? 何だ? 「強行軍には慣れている」? そうなのか。ア・ジュールは少し前まで内戦が多かったから、出撃回数は多かったというわけか(ちなみにア・ジュールの歴史はシャン・ドゥの宿にいたカーラという女に教えられた)。
 ――違う?
 メイス? お前たちを連れて来たあの女兵士か。あの女がお前たちを駆り出していたのか? どこへ――


「ヴィクトルっ、準備できましたよっ」
「あの男ならまだ来てないぞ」

 何だ、ルタスか。お目当ての男がいなかったからって俺を睨むな。

『もー、しょーがないなー。じゃーイバルで我慢してあげるー』

 待て。むくれるくらいなら、俺の隣に座るな。何がしたいんだお前らはっ。

「アルヴィン、戻りませんでしたね」

 ああ、傭兵か。今ここにいないんなら、あいつはア・ジュールに付いたんだろう。元々あちらの国のスパイだったらしいしな。

「そんなにあの男が気になるのか? いてもいなくても大差ないだろう」
「ありますよ!」『あるに決まってんだろイバルのバホー!』

 うわ、何でいきなり立ち上がる! 俺が何をした。当たり前のことを言っただけだろうが。

「一緒に旅して、何度も助けてもらったんです! イバルは気にならないんですか!? アルヴィンはシャン・ドゥでも自分がどうして戦うのかの理由、教えてくれました!」『自分の一番の弱点教えてくれたんだぞ! スパイのくせに、ウソツキのくせに、教えてくれたんだ!』
「う、うるさい! 貴様がハ・ミルに閉じ込められた遠因は、傭兵がリーベリーに侵入したからだろう! それをどうして頼みにするんだ!」
「う……イバルのいじわる!」

 ルタスは逃げていった。

 ああもう何なんだ! 決戦――ミラ様をお救いする決戦の直前に、おかしなことばかり言いやがって。
 俺は悪くないぞ。絶対謝ってやらないからな。





/Victor

 ローエンとの戦略最終打ち合わせも終わったところで、ワイバーンのいる場へ戻る途中、誰かとぶつかった。この小ささと軽さ。それに君影草の簪。

「どうした、エリーゼ。誰かにいじめられたのか?」
「ヴィクトル……」

 イル・ファンに行く前に涙とは穏やかではない。しゃがんで手袋でエリーゼの目尻をぬぐってやった。

「……ローエンから聞いたんです。ナハティガルとの、こと。妹さんのこと。ローエン、トモダチとケンカするんだって思ったら、わたし……」
「優しいな、エリーゼは」

 エリーゼは大きく首を振った。

「ヴィクトルに、どうしたらいいか聞きたくて、でも、行ったら、いたのがイバルで。どう話していいかわかんなくて、アルヴィンのこと言ったら、ケンカに、なっちゃいました」
「そうか。辛かったな」

 エリーゼは抱きついてきた。背中に腕を回して、軽く何度も叩く。エルが泣いた時はよくこうしてやっていたのを思い出す。

「ローエンを可哀想だと思うなら、その分だけローエンを応援してやりなさい。きっとローエンの力になる」
「そんなんで、いいんでしょうか」
「もちろんだとも。私がローエンだったら、それだけで無敵になれる」

 少々大袈裟だが、子供相手にはこのくらい分かりやすい言葉のほうが伝わりやすい。

 腕から離したエリーゼは、大人びた笑顔を浮かべていた。ああ、やはり君は笑っているほうが似合うよ。

 さて。ローエンの所に行くであろうエリーゼを見送って。
 エリーゼを泣かせた悪い巫子どのには少々灸をすえてやろうか。


 歩いていく。イバルがいたのはワイバーンの下だったから分かりやすかった。

「イバル。エリーゼのことだが」
「……告げ口したのか、ルタスの奴」

 告げ口か。ふむ。言われてみればそういうことになるな。

「まさかそれが理由でふて腐れているのか?」
「誰がふて腐れているか!」

 鏡を目の前に持ってきてやりたい。

「言っておくが俺からは絶・対! 謝らんからな! 俺は本当のことを言っただけだ。それをルタスが勝手に意地悪だと取ったんだ。つまり俺は悪くない!」
「前にも言ったはずだが? 正しければ何を言っても許されるわけではないと」
「ぐ」

 そこで詰まる程度には良識はあるわけだ。

「まあ確かに、エリーゼも前の暴言について君に謝っていない。ここで喧嘩両成敗とはいかないかね? イバル君。別にベタベタに仲良くなれと言ってるんじゃない。いつも通りのイバルでいいんだ」
「いつも通りの、俺……」

 灸をすえるつもりが、つい励ましてしまった。せっかくだからこれでイバルとエリーゼの仲が縮まれば、共鳴奥義に幅が出てより戦いやすくなるんだが。

「――――」
「――――」
「――そういえば、だが」
「ん?」
「このワイバーンたちが言っていた。自分たちを使う頻度はメイスという兵士が一番多かったと。行く先はいつも『ワタシのホーム』『ジルニトラ』としか言わなかったらしいが。行く道は覚えていると」

 ホーム、ジルニトラ……白い一兵卒の鎧を着込んでいた少女が、頻繁にワイバーンを使ってまで出入りしていた場所。

 まさか、アルクノアの本拠地!?


「お待たせしました。ヴィクトルさん?」
「いや、何でもない」

 ローエン、クレイン、それにエリーゼとフェイリオ。ふむ、これでメンバーは全員揃ったな。

 思案は後回しだ。今はこれから起こす革命に乗じてミラを救い出すことだけに専念しなければ。

「こちらの手勢はファイザバード沼野に大きく割きました。おそらくア・ジュール軍は量産型増霊極(ブースター)を使って、沼野の環境を適応させながら進撃するものと思われますので。アルヴィンさんの情報に救われましたな」

 エリーゼがむくれてイバルを見上げた。イバルは腕組みして「俺は知らん」態勢。やれやれ。

「我々はワイバーンで首都イル・ファンに先行しましょう。ファイザバードとガンダラ要塞にあちらが兵を割いた今、王都の守りは手薄のはずです」



 イル・ファンまでの組み合わせはさすがに変わった。
 私とフェイリオ、ローエンとエリーゼ。イバルとクレイン。クジなんかは使っていない、声かけだけで決まった組み合わせだ。

 イバルの一声で、3頭のワイバーンが地上を飛び上がった。これもまたイバルが先頭を引き受けてくれたおかげで、バランスよく乗れた。


「……フェイ。この世界は一体何だと思う?」
「この、世界」
「ただ過去に来ただけとも思ったが、私たちの影響で変わったこともいくつもある。それならばどこかで時歪の因子を見てもよさそうなものなのに、それすら見当たらない」
「パパは、ここが分史世界だって思ってるの?」
「確証がないから、まだどちらとも判断できない。分史世界であってほしくはないものだが」

 空を翔けて、誰にも聞こえないと分かっているからこそ、つい本音が口を突いて出た。

「俺はもう…どんな世界も壊したくない…!」
「パパ……」

 背中に寄り添う感触が、他でもないフェイのものなのに、どうしようもなく暖かかった。 
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