戦国異伝
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第百八十七話 舞い乱れる鳥その三
「内蔵助の言う通りじゃ」
「確かに、これだけの差があれば」
「それで」
「数が違う。しかも我等は武具もよい」
毛利家に比べてだ、織田家の具足も槍も天下一と言っていい。勿論刀もだ。
「弓矢も鉄砲も多く馬も多いわ」
「騎馬隊もですな」
原田が言って来た、今度は彼がだ。
「質は武田や上杉に及ばぬにしても」
「数はあるのう」
「はい、騎馬隊もまた」
「正面きって毛利と戦っても勝つ」
その三万の軍勢とだ。
「必ずな」
「では、ですな」
「誰もが思う」
そうした状況ならばというのだ。
「夜襲じゃ」
「それですな」
「それで来ますな」
「我等にそれで挑んで来る」
「間違いなく」
「それ以外にない」
まさにだ、夜襲以外にはというのだ。
「戦はせねばならぬ、さもなければ毛利の面子は丸潰れじゃ」
「それで備前の国人達が一斉に当家につく」
「隣の美作や猿夜叉殿が攻めておられる因幡も」
「そうした国々も」
「だからじゃ」
それ故にというのだ。
「ここはな」
「必ずですな」
「戦はせねばならない」
「毛利家にとっては」
「そういうことじゃ。毛利家は戦をせねばならぬ」
勝てる勝てない以前にだ、備前や因幡を失わない為にだ。
「毛利家の意地を見せる為にな」
「その面子を守る為に」
「何としても」
「だから来る」
毛利家の方からというのだ。
「間違いなくな」
「では殿」
ここで中川が信長にこう言った。
「すぐに物見をこれまで以上に出し」
「毛利の軍勢を見付けることじゃな」
「それが第一かと」
「その通りじゃ。まずは毛利の軍勢を見付ける」
実際にだ、信長もそうすると答えた。
「そしてじゃ」
「そうしてですか」
「後は見張るのじゃ」
毛利の軍勢とその動きを、というのだ。
「奴等は緑じゃ、山に入ると隠れるから余計に気をつけるのじゃ」
「緑、そうでしたな」
蜂屋がはっと気付いた感じで述べた。
「毛利家は服も旗も具足も緑です」
「その通りじゃな」
「はい、木の色だからこそ」
「山に入られると見付かりにくいのう」
「確かに」
山は木に満ちている、それでだった。
「では毛利は」
「おそらくそのことも使ってな」
「山から密かに我等に近付き」
「夜襲を仕掛けて来る」
間違いなくだ、そうしてくるというのだ。山にも隠れつつ織田家に近寄り。
「それを考えると山から隠れて布陣すべきであるが」
「あるが、ですか」
「では」
「その夜襲を受けたうえで破ってみせよう」
信長が笑った、ここで。
「そしてそのうえでな」
「備前や因幡の国人達の心をこちらに向け」
「なびかせますな」
「そうする、この一戦で備前と因幡、美作が手に入る」
その三国がというのだ。
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