ローゼンメイデン〜エントロースライゼ〜
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第四話〜契りの指輪〜
前書き
読んでいただき、ありがとうございます。もう少しだけ、紫苑の話です。
(ここは、、?)
水銀燈が目を覚ましたところは鞄の中ではなく、ただ真っ白な空間。何度か来た場所ではあるが、認識するのにはいつも時間がかかる。時には認識出来ない時もある。以前も一度だけ、、、、。
(9秒前の白、、、。)
現実とnのフィールドの狭間の世界。何もない世界。自分すらも意識しなくては保てない。自分を認識した水銀燈の体は真っ白な世界に誕生した。
「私を呼んだのは誰?出てらっしゃい。」
いつからそこにいたのか、水銀燈の後ろに立っていたのは。
「やっぱりあなただったのね。めぐ。」
生前と変わらぬ風貌の柿崎めぐだった。
「ごめんね、死人が何度も顔を出して。」
「別に、ここはそういう世界よ。だからあいつにも会えたのでしょう?」
「水銀燈も会えた?あの人に。」
「ええ、誰かさんにはもったいないほどお人好しね。」
「うん、私もそう思った。だから、、、。」
めぐは言葉を言いかけやめた。自分らしくないと思ったのだろうか。
「で?何の用なのよ。」
「うふふ、特に用はないの。会いたかっただけ。」
「はぁ?何よそれ。」
「話しましょう?色々と。」
それからは他愛も無い話ばかりしていた。寒くなってきたとか、めぐの墓参りに行ったとか。
「それで?めんどくさかったでしょう?死んだ人をわざわざ見に行くなんて。」
「、、、そうね。もう見たくもないわ。」
しばらく話して満足したのか、めぐは一つ息を入れ、そろそろ行くわ。と言った。何もない空間へと歩いて行く。
「めぐ。」
「ん?なぁに水銀燈。」
「あなた、やっぱりこの世界に未練があるんじゃないの?あのにんげーー」
水銀燈の言葉を唇に指を当てて遮る。めぐはまたね、と言って白い世界へ消えて行った。
水銀燈が再び目覚めたのは、いつもの鞄の裏側。外からはもう聞きなれた、紫苑が食材を焼く音が聞こえる。鞄から出て食卓に向かった。
「おはよう、水銀燈。今朝の目覚めは?」
「まぁまぁね。」
紫苑との生活が始まってから既に数日がたっていた。彼は『学校』というところには行っていない。彼曰く、遺産が物凄くあるし働いて最低限は稼いでるから学校に行く必要がないらしい。自分には関係ないことだが。紫苑の働く花屋は定休日で今日は休み。いつもよりもずっと遅く起きた彼の顔はスッキリとしている。
「でも水銀燈、なんか嬉しそうだね。」
「え?」
「なんかいい夢でも見た?」
「そうね、確かに嫌な夢ではなかったわ。」
「どんな夢だい?教えてくれるかな。」
別に隠すつもりはなかったので、精神世界でめぐに出会ったことを話した。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ!え?じゃあ、めぐは生きてるのかい?」
そういえば紫苑はそういう世界を知らなかった。驚きを隠せないようだ。
「まあ、人間としての『死』ではあるわね。色々あって精神だけ漂ってはいるだけ。ホント、しぶといわぁ。」
「そうか、まだ、、、。」
少しでも会える見込みが立ったからなのか、紫苑は嬉しそうだった。しかし何かを思い出したような素振りを見せるとみるみる顔を赤くした。
「どうかした?林檎みたいになってるわよぉ?おっかしい。」
「い、いや、何でもない、、、。」
(じゃあめぐへの、僕のあの告白は、、、)
紫苑は溜息と共に頭を埋めたが、理由の分からない水銀燈はいつも落ち着いている彼のおかしな様子を楽しんでみていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
最期のつもりだった告白のことを恥ずかしんでいた僕だが、起きたことは仕方がないので、とりあえず考えないことにした。(とは言っても忘れられるわけはないが)今日は話したいことがある。水銀燈をテーブルに呼んだ。
「何よ、珍しく呼び出して。」
「うん、ちょっとね。」
ずっと考えていた。僕は勝手に指輪を嵌めて、形としては一方的に彼女のマスターになったのだ。個人的にその状態に納得がいかない。水銀燈に僕が本当にマスターに値するか聞きたいのだ。
「今更そんなことぉ?何考えてるのかしら。」
「まぁそうだね、今更かも。でもちゃんとしておきたいんだ。契約って大事なものなんだろ?君たちにとって。」
「、、、、。そうねぇ、貴方はこの水銀燈のマスターとしては少しふさわしくはないのかもしれないわね。」
「、、、そっか。」
「でも、」
「?」
「別に貴方の事は、、、その、、、き、嫌いじゃないわ。」
「水銀燈、、、。」
「勘違いしないでちょうだい!、、、まったく、何でこんなに丸くなったのかしらね。自分でも、びっくりだわ。」
すごく、嬉しかった。水銀燈が僕に対してなにか不満を持ってるんじゃないかって思っていたから。めぐと水銀燈の契約は、他の誰かが踏み込んじゃいけないものだから。僕は、二人の中に入りたかった。めぐの意識を感じてからずっと、、、。
(そんなに思いつめなくてもいいのに、、、。)
「え?」
また声だ。水銀燈のじゃない。しかも指輪から聞こえたような、、、。
「どうしたの?」
「また、聞こえたんだ。声が。」
「声?」
「うん、僕の頭に直接流れてくる感じで、優しい声が響くんだ。」
「なに?おかしくなったの?」
「いや、違うよ。ホントなんだ。今は指輪から聞こえたんだけど、、、、、うわっ!」
指輪が急に熱を帯びて輝いた。以前、水銀燈と初めて出会った時のように。その時、感覚的にだが僕は呼ばれているのかと思った。
「めぐ?」
「、、、かもしれないわね。」
水銀燈は立ち上がった。
「どこに行くの水銀燈?」
「ねぇ?この家に鏡はない?できるだけ大きな。」
「鏡?」
鏡がどうしたんだろう。疑問に思ったがとにかく家にあるか記憶を巡らせる。
「確か、物置部屋に古い姿見があったような、、、。」
「そう、なら案内しなさい。」
「え?でも指輪が、」
「いいから連れて行きなさい!」
「は、はい!」
僕は水銀燈を物置部屋へと運んでいく。そこは基本出入りしないために、あまり綺麗な環境ではないが早くに亡くなった僕の父と母の様々な外国土産が置いてある。ジュン君もそういう部屋を持っているようだけれど。
「けほっ、何よここ、、、埃くさい、ちゃんと掃除しなさいよね?」
「ごめん、ごめん。あんまりここは触らないから。」
(2人がいた頃のままにしたいしね。)
「、、、まったく、ホント優男ね。」
「え?」
「いや、何でもないわ。それより、姿見はどこ?」
「ああ、これだよ。」
大きな布を被せてあるその姿見は、布を外すとかなりの埃を舞い上げた。二人で咳き込んだあと、水銀燈は鏡に手を添えた。
「いけそうね。」
そう言うと、鏡が急に水面のように揺れ始め、鏡の中の僕たちの姿も消えてその奥には虚空だけが映った。
いきなりの出来事に僕は驚きを隠せない。
「な、な⁉︎」
「さぁ、入るわよ。」
「入るって言っても、、、。」
鏡に入るということなのだろうが、そんな素直に従えるはずもなく。鏡の前で僕はどもっていた。
(ここに、、、入るのか?)
「めぐに会いに行くんでしょ?」
水銀燈は僕に念を押した。此処を進めばまためぐに会える。でも目の前には別の世界が広がっている。進みたいのに勇気が出ない。
「ったくもう、じれったいわね。早く行きなさいよ。ほらっ!」
「え?うわあああああ‼︎」
水銀燈に背中を押され僕は鏡の中に吸い込まれた。後から水銀燈も続く。
その世界はただただ真っ白で、僕と水銀燈だけが形と色を成していた。二人共真っ逆さまに下へと急降下している。
「す、す、水銀燈‼︎お、落ちてる!落ちてるよ!」
「うるさいわねぇ。ここは9秒前の白というところよ。貴方が望む世界にこの世界も色を変える。ほら、願いなさい。貴方の行きたい場所を。」
願い?僕の?、、、、、僕は、会いたい。彼女に。めぐに!
「僕は、僕はめぐに会いたい!めぐのところへ連れて行ってくれ!」
僕の叫びは白い世界を震わせ、揺らした。やがて揺れは大きな波となり、僕と水銀燈はその波にさらわれて、、、、。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ん、、、。ここは?」
目を覚まして、目に入ったのは少し錆びれた天井。体を起こすと水銀燈も横で倒れていた。
「水銀燈?大丈夫?」
体を揺らして彼女を起こす。ゆっくりと起き上がり、水銀燈と辺りを見渡す。
「ここは、めぐの病室?」
窓の外には白い景色だけが映っていて、部屋の中には大きなベッドと棚、そして鏡と洗面台がある。ここは彼女の世界。316号室だ。
「どうやら無事にこれたようね。」
「うん、、、。でもめぐは?」
「いるんじゃない?あのベッドに。」
水銀燈はベッドを指さす。僕は少しづつベッドへと歩み寄った。ベッドはシーツがかかっていて、膨らんでいる。
「めぐ?」
僕は恐る恐る、シーツをめくろうと手を伸ばす。
「がおーー‼︎」
突然の大きな声とシーツがめくりあがり僕の体はビクついた。舞い上がったシーツがはらはらと落ちていき、その声の主が姿を現す。
「何てね?ふふ、びっくりした?」
生きていた時よりもまともに会う回数が多いというのも変だが、いつものパジャマを着ためぐは笑顔で僕らを迎えてくれた。
「まったく、死んでから元気になっちゃって。今日は二度目ね、めぐ。」
「ええ、そうね。」
にこやかに笑うめぐと目が合う。脳裏にはあの別れのつもりで言った告白。また思い出して、すぐに僕は目を逸らしてしまった。めぐはそんな僕をおかしく思ったのか、少し微笑んだ。
「ふふ、また会っちゃったわね。紫苑。」
「う、うん。」
「、、、、、、、、、。」
しばらく、沈黙が続いていた。やっぱりめぐもあの事を気にしてるのだろうか。そのうち耐えきれなくなった水銀燈。
「ああ‼︎もう!何やってんのよ!言いたいことがあるんでしょう⁉︎めぐも紫苑も!」
その言葉で僕は、はっとして本来の目的を話そうとした。
「めぐ、今日来たのは、、、」
「知っているわ。指輪を通して聞いていたもの。」
指輪?僕は指輪に目を向ける。
「貴方の事だから、私に気を使うとは思ってたわ。気にしなくていいのに。私があなたに水銀燈を頼んだのよ?」
「、、、、でも。」
いまいちはっきりしない僕を見かねて、めぐはため息混じりに言った。
「わかったわ、そこまで悩むならきちんとしちゃおうか。水銀燈?」
めぐはベッドを叩いて、水銀燈に合図を送る。水銀燈はそれを見て呆れたように言い放った。どこか嬉しげにも見えたが。
「またアレをやるの?好きね、ホントに。」
水銀燈がベッドの上のめぐの横に座る。
「ほら、紫苑も。」
なんとなく、同じ光景を見たことがある。そう、めぐの記憶を辿った時に。たぶんこれは、、、。僕は言われた通りにベッドへと座る。めぐは嬉しそうにシーツを僕らに被せる。
ーー病める時もーー
ーー健やかなる時もーー
ーー死が僕らを別つまで?ーー
ーーいいえ、死んでも一緒だわーー
この日、僕らは契約した。三人の心を、一つにして。
後書き
ついに、契約をした紫苑。次からはジュン視点に戻ります。
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