Angel Beats! the after story
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月夜のかぐや姫
月光が辺りを照らし、近くの川が美しく輝いている。私のいる小さな丘からは、無数の蛍が見える。その光景に心を奪われていると、足音が聴こえてくる。
私が招いた客。
「遅れてすいません。仲村さん」
月明かりに照られている彼女は、御伽草子からでてきたかぐや姫のように麗しい。
「遅れてなんかいないわよ椎名さん。悪いわね、遅くに呼びだしたりして」
「いえ、私も最近は寝つきが悪いのでちょうど良かったです」
座っているベンチにスペースを開け、手招きで椎名さんを座らせる。
「それはいつから?」
「そうですね、仲村さんたちが来てからですかね。あっ、仲村さんたちが原因だなんて思ってませんから」
あたふたしてる椎名さんはあっち世界では決して見れないため、珍しく思いつつも可愛くも思えた。
「本当に私たちが原因なんだけどね」
椎名さんが何かを言おうとしたのを手で制止する。
「今から、あなたは傍聴者よ。これから話すことを聴き、質問したいならしてもいいわ。でも、無駄なことには答えない。OK?」
我ながらの横暴さに苦笑が漏れそうになるが、これは大切なこと。
「よく分かりませんが分かりました」
了承を得て、何拍か置いて話し出す。
「私は、大学受験のために図書館を毎日のように通っていたわ。そんな時ふっ、と頭に一つの疑問がでてきたのよ」
ちゃんと傍聴者をしている椎名さんを確認し。
「私が思った疑問。それは……この世界は真か偽りかということよ。転生をしたと言っても、私たちが生きていた世界に転生で
きたかなんて、分からない。もしかしたらこの世界は、あっちの世界と似たように何者かによって創られた世界かもしれない。そんな疑問をね。だから、勉強の合間に調べまくったわ」
「何を調べたんですか?」
そうね、と月を見上げながら答える。
「歴史から私が覚えている範囲のニュースかしら。どれも、元いた世界と違う点なんてなかったわ。それでも、まだ一つだけ調べていなかったことがあったの。それを調べるのはトラウマを抉り出してることと同じだったから、最後にまわしてたわ。でも、知りたくて調べた。私たちが悔いを残し死後の世界に行く原因となったことを」
今思えば、よくやったわね私は。込み上げてくる吐き気を抑え、鮮明に思い出そうとしたんだから。
「でもね。どうやって調べていいか分からなかったの。この世界では、本当にこの年に月に日に時間に起きたかなんて分からないんだから。もしも起きてたとして、私の知っている時に起きてなかったら?そもそも、起きてすらいなかったら?と。だから、私は仲間に頼ったわ。国会議員にね」
国会議員と聞くと驚きの表情を浮かべる椎名さんを見る。まぁ、そうなるわね。
「名前は一応伏せとくわ。私の言ったキーワードに当てはまる事件、事故を調べさせてようやく連絡が来て、何時間も話し合ったわ。一つ目の事件『殺人強盗、長女を残し子供三人は惨殺』私の原因は存在した。『列車事故、トンネルの中に学生が七日間閉じ込められ死者多数。臓器提供者一名存在』音無くんの原因も存在した。『交通事故、高校の野球部一名がが違法薬物使用し車と衝突』日向くんのも存在した。…………だけどね。この悲劇的な事件、事故の中に私たちの名前が書かれていないのよ。その事件、事故を特集した雑誌、新聞、ニュースに私たちの名前は出てこなかった。あえて伏せているのかもしれないという可能性も考えたけど、私の事件以外の生存者の名前はちゃんとあった。……でも、事件、事故が存在したということで、この世界は真である確証になると思うのよ。つまり、私たちはこの世界で、第二世代ということになるのかもしれない。転生というのは、私たちに関する情報を全て世界から消し去り、また一から始めさせることなのかもしれないわね。ま、これは私のただの推測でしかないけど。」
一つ解決し幾つも謎が増える。嫌になるわね。
「難しくてよく分かりませんね」
ごもっともね。
「じゃあ、本題に入るわ。もう一つだけ調べさせたことがあるの、それは……椎名さんあなたのことよ」
「私のことですか?」
「ええ。これは、国によって掻き消されたことなの。彼には迷惑をかけたわ。でも、調べ上げてくれたわ。キーワードは『暗殺者、少女、C7』ダメもとだったけど存在はしたわ。それは、ある一人の少女の話よ」
「その少女は親によって国に売られ、言葉を覚えるも先に、人の殺しを学ぶといった教育を受けさせられた。対人格闘、人体急所、刺殺術、投擲術、逃走術などなど、現代版忍者みたいな英才教育を受けさせられたらしいわ。もちろん、その教育で命を落とす子たちもいたらしわ。その教育を受けたのは一人だけでなく、何人もいたの、そのうちの一人の少女はcode name7。略してC7と呼ばれていたわ。仕事は暗殺。国に対して不利益となる者、不正を働き続ける政治家、海外に裏ルート売買をしている者、危険宗教の創始者。数を挙げれば霧がないわね。少女は何も疑問も持たず、与えられた暗殺を完璧にこなしていった。感情が欠損し喜怒哀楽が無い、氷のような無表情で。だけど、そんな彼女にはちゃんとした感情が存在していた。それを見せるのは自分よりも年下の、同じ境遇の子たちにだった。優しい笑顔を浮かべ、仲良く暮らしていた」
この話は直井くんが教えてくれたことに私が肉を付けただけの物語。
「その通りだ。あの頃は何だかんだで楽しかったんだ」
私の隣にいたのは、旅館の従業員ではなく、幾つもの修羅場を越えて行った凛々しい彼女だった。
「だが、すぐに楽しい時間は壊された。ある日、私の弟、妹のような存在だった子供たちは、暗殺先で殺された。それも、私たちに暗殺を教えた者によって。その知らせはすぐに私の耳に入った。子供たちは盾にさせられたと。奴は私を感情の無い人形と勘違いしていて、目の前で偉そうに話したよ。もちろん、すぐにその首元を掻っ切ってやったさ。その日のうちに何十人も殺し、国の暗殺組織を半壊させたよ。それこそ、感情の無い人形のように」
「そして、生き残りの暗殺者によってあなたは殺されたと」
「ああ。酷く、残酷で、あさはかな少女の物語さ」
彼女の沈痛な表情は、私の心に深く突き刺さった。人の過去というのは、簡単に踏み込んではいけない。それが相手にとって、十字架なのかもしれないから。
「一つだけ聞いてもいいかしら?」
「なんでも聞いてくれて構わない」
思っていた疑問を彼女に問う。
「何であなたは私たちの戦線に入ったの?あなたぐらいの技術、力量なら一人で十分やっていけたはずよ。戦線に入ることはあなたにとっては、実力の全てを出し尽くせない足手まといぐらいにしか、ならないはずよ。だから教えて?何で戦線に入ったのかを?」
彼女は、あの日の出会いを思い出しているかのように、懐かしいさを醸し出す表情をしていた。
始めての出会いは、殺すか殺されるかの状況だった。日向くんは文字通り、ボロ雑巾みたいに切り刻まれるし、大山くんは腕を切り落とされるし。正直、恐怖だったわ。結局は、かなでの力を借りて不意打ちで勝ったようなものだけど」
「疲れていた……というのはもう答えてたな。それもあった。人を殺すのが嫌になったんだと思う。でも、それだけじゃ納得しないだろ?だからあの時は、恥ずかしくて言えなかったが、今なら言えるよ。…………こいつらは、殺ししか脳のない私を必要としてくれていた。力が有る無し関係なく、私を気に入ったと言ってくれた。仲間になってって言ってくれた。嬉しかったんだ、ものすごく。だから決めた。この罪深い、あさはかな力を仲間を守るために使いたいって心の底から」
感情をあまり見せない彼女なりの精一杯の言葉。彼女の堅い決意。今夜彼女を知り、近づけたことは、何物にも変えられない収穫だった。
「私たちも、椎名さんを心の底から守りたいと思っているわ。お互い様よ。だから、これからも守り合いましょ。椎名さん」
「承知した。このC7、与えられた椎名という名に恥じぬように全身全霊で守ろう。…………これからもよろしく……ゆりっぺ……」
雲に隠れていた月が再び顔を出し、椎名さんの顔を照らし始める。
一粒、二粒と彼女から流れ落ちてくる温かな涙は、溶け切れていなかった氷の表情を溶かすように流れ落ち、月に映える美しい笑顔に変わっていった。
「帰りましょ」
椎名さんに手を差し伸べ、椎名さんが掴み取り。お互いの存在を確認するかのように強く握りしめ、帰路についた。
後書き
はてさてこんにちわ騎士見習いです。今回は内容濃くする反動なのか、文字数はあまり多くありません!でも、椎名さん復活ということでよろしいかな?
今回は世界の秘密の入り口に入りました。この先どうなるかは私でも分かりません!この物語をきっかけに椎名さんはますます魅力的な女性になると思います。うん最高!
次回は、男たちの闘い!覗けるのか覗けないのか!
それと本編でクリスマスの話を書いちゃいましたが、読者の皆さんの声次第で違う誰かのクリスマスを描きたいと思ってます。
では、あらためまして読んでくださってありがとうございます。これからも世のリア充共に負けないようにがんばっていきますので応援よろしくお願いします。
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