魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~
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空白期 第16話 「気づいた想い」
時が経つのは早いもので、あっという間に春が過ぎ日に日に夏らしくなってきている今日この頃。私は13時にしている待ち合わせに向けて準備をしている。今はどの服を着ていくか考えているのだが、全く決められないでいた。
「うーん……無難に黒とかがいいかな」
黒のシャツを手に取って体に合わせる。鏡に映っている自分は、なのは達に聞けば「フェイトちゃんらしい格好」とでも言われそうな感じだ。
「こういうのが無難といえば無難だよね。でも最近は温かくなってきてるし……」
今日の予定は、リンディさんやクロノへのプレゼントを買うことだ。
ジュエルシードを巡る事件で、私は母であるプレシアを失ってしまった。それに思うところがないわけじゃないけど、少なからず立ち止まらずに前に進めていると思う。もちろん、これはなのは達や面倒を見てくれているリンディさん達のおかげだ。今回の買い物はこれに関わってくるところがある。
私は、去年の終わりにリンディさんから養子にならないかという話をされていた。闇の書を巡る事件などでバタバタしてしまって返事をするのが遅れてしまったけど、私は彼女の子供になることを決め、現在はフェイト・T・ハラオウンになっている。
――リンディさんじゃなくてお母さんって呼ぶべきなんだろうけど……今までリンディさんって呼んでたから恥ずかしい。クロノも私のお兄ちゃんになったわけだから……嬉しくないわけじゃないけど、まだ慣れないなぁ。
「……って、考えてないで早く決めないと」
もうこのコーディネートにしてしまおうか……でも、もっと涼しげな格好のほうがいい気もする。黒だと熱くなりやすいし、色々なお店を見て回りそうだから汗を掻きそう。一緒に行く相手は、別に気にしなさそうだけど個人的に汗臭いとか思われたくない。
「白とか……水色とかの方が涼しい感じがするかな? でも見慣れてる感じのほうが変に思われることも少ないだろうし……だけど汗が」
鏡の前で迷走していると、扉を叩く音が聞こえた。今日はリンディさんやクロノはお仕事なので、必然的に私の部屋を訪ねてきたのはアルフしかいない。返事をすると、ラフな格好をした彼女が部屋の中に入ってきた。
「フェイト、ちょっと買い物に行くけど何か欲しいものとかある?」
「うーん……特にないかな」
「そう……にしても、確か出かけるのは午後からって言ってたよね。それにずいぶんと悩んでるみたいだし……今日はどこに出かけるんだい?」
「それは……特に決めてないかな。色んなお店を見て回るだろうから」
「そうなんだ。……あれ? ところで誰と出かけるんだい? 確か今日ってなのは達は任務だったよね? アリサ達かい?」
「ううん、アリサ達じゃないよ。今日はショウと出かけるんだ」
「ショウと? ……ちなみにどっちから誘ったんだい?」
「それは私だけど?」
「へぇー……フェイトが自分からショウにね」
ショウは私と同じ学校に通っているし、魔法関連でも付き合いがある。もちろんアルフだって何度か一緒に散歩したことだってあるので、面識がないというか交流がないわけじゃない。なのに……どうして彼女は感心や驚愕が交じり合ったような声を出すのだろう。
「えっと、何かおかしい?」
「いや、別におかしくないよ」
「本当に?」
「うん、フェイトも成長したというか女の子らしくなったなって思っただけ」
成長しているはともかく、女の子らしくなったというのはどういうことだろう。私の記憶が正しければ、男勝りだとか言われたことはないはずだけど。
「それってどういう意味? 私、変なところとかあった?」
「そういうんじゃないよ」
「じゃあ何?」
「いやさ、フェイトって内気なほうだから自分から誰か誘ったり苦手なほうでしょ。だからなのは達ならともかく、ショウをデートに誘うなんて驚きでさ。あたしの知らない間に成長してるんだなって思って」
えっと……今アルフ変なこと言わなかったかな。私がショウをデートに誘ったとかどうとか……デート!?
デートってあのデートだよね。いや、あのデートしか私はデートって言葉を知らないけど。というか、私がデートに誘った!?
「ア、アルフ何言ってるの!?」
「ん? あたし変なこと言ったかい?」
「言ったよ! わわ私がショ、ショウを……デ、デートに誘ったとか!?」
「え? 今日は2人で出かけるんだよね? 話を切り出したのはフェイトだってさっき言ってたし……どう考えてもフェイトが誘ってるじゃないのさ」
確かに今日はショウと出かける。ショウ以外には誰もいない……つまり2人っきり。
リンディさんやクロノが喜びそうなものを知っていそうなのはエイミィが浮かぶけど、彼女は残念ながら仕事で忙しい。なのでショウにお願いしたわけだけど……客観的に見れば、私がデートに誘ったとも言える。状況を理解してしまった私の脳内はパニックを起こし始め、羞恥心で体中が熱くなった。
「デ、デ、デ……デート。ショ……ショウと……あぅ」
「あのさフェイト、もしかして自覚なかったのかい?」
呆れたように問いかけてきたアルフに私は全力で首を縦に振った。それを見た彼女は、さらに呆れた顔を浮かべる。
「いつもよりどれを着ていこうか迷ってたのに自覚がないとか……」
「そ、そんなこと言ったって……!?」
ど、どうしよう……急に「今日の予定はなしで!」なんてこと言えるはずもないし。でも私、デートなんてしたことないし……何着ていけばいいんだろう。というか、今の状態で行ったら何かやらかしそうだし、変な子だって思われるんじゃ……。
「ど、どうしようアルフ!?」
「どうしようって……どれ着ていくか決めて、楽しんでおいでとしか言えないよ」
「そ、そんな……」
「そんなってね……何だかんだで良い機会じゃないのさ」
「何が良い機会なの!?」
「何がって……」
アルフは先ほど以上に呆れた顔を浮かべて大きなため息をついた。脳内であらゆる思考が走り回っているせいか、彼女が何を考えているのかさっぱり分からない。
「あのさフェイト……こういうことにあまり口を出すべきじゃないと思うんだけど、今後のために言っとくよ。フェイト、あんたってショウのことが好きなんだろ?」
当たり前のことを言うように放たれた言葉に、私は収束砲撃をもらったとき以上の衝撃を感じた。
――え……私がショウのことを好き?
好きか嫌いかと言われれば、もちろん好きだ。でもそれはショウが友達だからであって……アルフが言うような特別なものではないはず。なのにどうしてこうも心が揺れているのだろう。もしかすると私は本当に……、そう考えると顔がこれまでに感じたことがないほど熱くなった。
「なな何言ってるの!? た、確かにす、好きとは思うけど……そ、それは友達だからであって!?」
「まあそういう好きもあるようには思えるけど、フェイトのショウに抱いてる好きはそれ以外にもあると思うよ。クロノとかユーノと接してるときとは反応が違ったりするしね」
自分ではどう反応が違っているのかよく分からないけど、少なからず慌てたりするようなことが多かった気がする。からかってくる人がクロノ達といるときに比べて多かったからというのが理由な気もするけど。
でも…………クロノ達とは明確に違ってるところはあるよね。ショウが誰かと付き合ってるだとか、一緒に何かするってだけで衝動的に声を出してたりしてたし。よくよく考えてみれば……はやてとかにほんのわずかばかりではあるけど、嫉妬めいた感情も抱いてた気もする。
「それにあたしはフェイトの使い魔だからね。繋がりがあるからフェイトの気持ちに気づきやすいのさ」
「……ということは……やっぱりそうなのかな」
「だと思うよ」
アルフは距離を詰めると、私と目の高さが同じになるようにしゃがみこんだ。私の頬にそっと手を当てると、優しげな笑みを浮かべてさらに続ける。
「正直に言えば、フェイトが誰かと……ましてや男とイチャつくのに思うところはあるよ。でもね、あたしが1番に望むのはフェイトの幸せなんだ。フェイトが幸せならそれだけでいい……」
「アルフ……」
「……それに、どこの馬の骨とも分からない奴よりはあいつのほうが安心だからね。愛想が良いほうじゃないけど、まあ可愛げがないわけじゃないし。性格的にフェイトを振り回したり、自分勝手な要求ばかりしなさそうだから相性も良さそうだしね」
相性が良いという言葉に刺激されて一瞬で行われた想像――いや妄想に私は恥ずかしさを覚え、アルフから視線を逸らしてしまった。するとアルフは、何を思ったのか急に私を抱き締めてきた。
「ア、アルフ!?」
「もうフェイトは可愛いねぇ。フェイトに好かれてるあいつは宇宙――いや次元世界一の幸せもんだよ」
「それは……いくら何でも言いすぎだよ」
というか、まだ自分の気持ちだってはっきりしてないのに。ショウに他よりも特別な感情を抱いてるのは認めるしかないけど、それが『恋』と呼べるものなのかは微妙なところだし。そもそも付き合ってるわけでも……でも今日がきっかけでそういう未来になる可能性もゼロじゃない。
「えっと、確かここじゃおめでたいことがあると赤飯を炊くんだっけ。リンディさんに言っとかないとね」
「え……ちょっアルフ、アルフの中ではどこまで話が進んでるの!?」
今日は一緒に出かけるだけで、別に告白とかするつもりはない。というか、そんなことをする勇気なんてあるはずがない。あちらからしてくる可能性は限りなく低いし……でもしてきたら私は……。
「フェイトの花嫁姿……ぐす……きっと凄く綺麗なんだろうね」
「は、花嫁!? ア、アルフ、話が飛躍し過ぎだってば。私、まだ結婚できる歳じゃないから!」
などと必死に否定するものの、私の脳内では結婚式や結婚後の妄想が繰り広げられていた。こんなことをしている時点で、第3者からすれば私は恋する乙女なのかもしれない。
「あはは、ごめんごめん。考え出したらいつの間にかね」
「もう……大体……ショウと付き合うことになるかも分からないんだから」
「それは大丈夫だよ。フェイトは可愛いんだし、あいつだって少なからず好意持ってるはずさ。それに、フェイトを傷つけるような真似したらあたしがタダじゃおかないし」
「ダ、ダメだよそういうのは! ショウには幸せになってほしいし、選ばれるならきちんと選んでもらいたいし……」
そこまで言ってから、自分が恥ずかしいことを言っていることを自覚した。アルフの顔を見ていられなくなった私は自然に俯く。
「フェイト……あたし、全力でフェイトのこと応援するからね!」
「う、うん……ありがと」
「まず始めに、今日の服決めないとね。ずいぶんと温かくなってきてるし……こういうのがいいんじゃないかな?」
「えっと……少し派手というか露出が多くないかな?」
「あいつのことメロメロにするんだろ? なら少しは頑張らないと」
「今日1日でどうこうなろうとか思ってないから!」
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