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第三章


第三章

「嬉しいわ」
「嬉しい!?」
「ええ、嬉しいけれど」
「そいつが横にいて嬉しいんだ」
 それが如何にも不思議といった感じの桃李だった。
「そんなに無愛想で目つき悪いのに」
「そう?黒猫って皆そうじゃない」
 美佳にしてみればそうらしいのである。
「そうでしょ?だからいいじゃない」
「そうかな。こいつってさ」
 桃李はそのタマを見ながら言うのだった。相変わらず憮然とした顔をしている自分の飼い猫をである。彼はやはり無愛想なままであった。
「全然可愛いくないしな」
「可愛いじゃない」
「まあそう言うのならいいけれど」
 美佳のその言葉を受けはしたのだった。
「美佳ちゃんが言うんならね」
「そうなのね」
「うん。それでだ」
 ここまで話して話題を変えるのだった。
「どうかな。ケーキの味」
「美味しいわよ」
 その問いにはにこりと笑って答えた美佳だった。
「私チーズケーキ好きだしね」
「それお袋が作ったんだよ」
「お母さんが作ってくれたの」
「うちの家ってお菓子はお袋が作ってるんだ」
 そうしているというのである。そしてこれは本当のことである。
「だからいつもね。お菓子は」
「自分のお家で作ったのを食べてるのね」
「うん。まあ俺はお菓子は作られないけれどね」
 自分のことには少し苦笑いになるのだった。
「残念だけれど」
「お菓子作られないの」
「他のは作られるけれどね」
「えっ、お料理できるの」
 それを聞いた美佳は意外といった顔になって彼に応えた。
「男の子なのに」
「そいついるじゃない」
 ここでまたタマを見て言うのだった。
「タマがさ。結構味に五月蝿いんだよ」
「猫ちゃんが?」
「そうなんだよ。それでなんだよ」
 そのことも彼女に話すのだった。実はタマは無愛想な癖に味に五月蝿いのである。それで手の込んだ人間が食べるような料理を好んでいるのである。
 それで彼も自分で料理を作るようになったのである。全ては彼のせいであるのだ。
「料理身に着けたのは」
「猫ちゃんに料理を食べてもらう為になのね」
「不本意だけれどね」
 今の言葉は憮然としたものだった。
「本当にね」
「不本意なの」
「そうだよ。何で俺が作らないといけないんだって」
 実際に今は憮然とした顔になっていた。
「そう思ってさ。普通の煮干とかキャットフードとか食べないから」
「食べないの」
「食べないんだよ、これが」
 そのことも言った。
「凄い腹立つけれどね」
「それでなのね。何かこの子って」
 美佳はまたタマに目をやった。そのうえでの今の言葉だった。
「毛並みもいいし」
「いいかな」
「いいじゃない」
 こう言うのだった。
「とても。何かストレスも感じてないようだし」
「これでストレスを感じてたら洒落にならないよ」
 彼もまたタマを見て話した。
 
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