ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~
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聖夜に捧ぐ『フローエ・ヴァイ・ナハテン』~クロスクエスト~
第七幕
前書き
今回はキャラ崩壊と糖分多量増しです。皆さん、ブラックコーヒーの準備を。要らんかもしれんけど。
「真夜美~? 起きてるか~?」
はっ、と目を覚ました時、最初に聞いたのは玄関の方から叫ぶ和人の声だった。あたりを見渡せば、そこはあの浮遊城にもにた異世界ではなく、慣れ親しんだ自宅の寝室だった。
夢、だったのだろうか。
あの奇妙な世界で戦ったのは。
「……違」
ふと横を見れば、一メートル少々の長方形の箱が、綺麗にラッピングされて置いてある。持ち上げると、予想した通りの重さ。真夜美が、和人のクリスマスプレゼントに選んだものが入っているとみて間違いないだろう。
ふと窓の外をみると、すでに夜だった。熱もいつの間にやら引いていた。
「真夜美?」
「……起」
「そりゃよかった」
ドアを開けて、和人が入ってくる。出かけていたのだろうか。ジャンパー姿だ。
「調子は?」
「大丈夫」
羽織っていたジャンパーを壁のハンガーに掛けながら問う和人に、真夜美は簡潔に答えた。
これからこのプレゼントを渡すのだ、と思うと、なんとなく緊張する。
「和人」
「ん? どうした?」
近寄ってくる彼にめがけて、倒れ込む。真夜美の頭が和人の胸に当たり、彼の表情が見えなくなるかかわりに真夜美の表情も和人からは見えなくなった。真っ赤になっているのを悟られずに済む。
「お、おい……」
「和人。
私は、あなたのことが好き。あなたのことが大好き。あなたのことを愛してる。
迷惑かけてばっかりかもしれないけど、それでもあなたのことを愛してるの。こんな体で、長く生きられないかもしれないけど。あなたの赤ちゃん、産めないかもしれないけど。結婚、できないかもしれないけど。本当は人間じゃない私だけど。
けど、私はあなたを愛してる。こんな私でも、あなたを愛していられる。あなたとなら、世界が終わるその時まで生きていける気がするの。
和人――――MerryChristmas.I Love you』
真夜美にしては本当に珍しく、ぶつ切りの語尾ではない言葉で、ずっとストレートに言えなかった感情をぶつける。
それと同時に、ラッピングされたプレゼントを、彼の手に預けた。
「真夜美……これって……」
「クリスマスプレゼント」
「いつの間に……あ、開けていい?」
「勿論」
和人が、ラッピングを丁寧にはがしていく。中に入っていたのはシンプルな箱。それを開けると、真夜美が彼に上げたかったプレゼントが姿を見せる。
それは――――剣だった。SAO時代の彼の愛剣と、そっくりなデザインの。
「……」
「……気入?」
「…………なんでや!」
おもわず、と言ったように叫んだ和人。
――――駄目、だった……?
しおらしく、そう聞いてみればよかったのに。
真夜美は素直にそう言えず、
「――――せっかく取ってきたんだから、受取っ!!」
「おわっ!?」
思わず和人をぶん殴っていた。
「もうっ! もうっ! この馬鹿和人!!」
「ご、ごめん! あの反応はさすがに悪かったって思う!
ホントのところ言うと……すげーうれしい。ありがとう、真夜美。俺も君を愛してる」
そう言って、何の気負いもないように唇を重ねてくるのだから――――
「……ずるい」
思わず、そう思わずにはいられない、真夜美であった。
***
「ふふっ、二人っきりのクリスマスも楽しいね、隆也」
「ああ」
クリスマスケーキを頬張りながら微笑む理奈を見て、隆也は微笑む。ああ何て可愛いんだろう。俺はこの笑顔を見れるだけで幸福者だ、と。
クリスマス・イヴ。SAO以前は友人たちと祝うことが多かったし、SAO時代はそもそも祝うことすらなかったと思う。去年はSAO事件以後の知り合いも含めた皆で祝った。
対する今年は、理奈と二人っきりのクリスマスだ。彼女も張り切ってケーキを作ってくれた。
二人前用の、小さなケーキ。その中に彼女の思いが詰まっているのかと思うと、もうなんか涙とか出てきそうになる。あ、ヤバイ……
「隆也? どうしたの?」
「いや……何でもない……」
思わず目頭を押さえる。
昔は、死ぬかもしれないような地獄――――不幸のどん底にあった。
今は、死ぬかもしれないような天国――――幸福の絶頂にある。
もし、昔の……地獄を経験している真っ最中の自分に、何か一言メッセージを伝えられるなら。
『諦めるな』
そう、伝えたい。
この幸福が、永遠に続けばいい――――
「理奈、クリスマスプレゼント」
「え? 何々?」
隆也は勿体ぶりながら、ちょっとイラつくほどきれいにラッピングされているプレゼントを取り出す。リアルに戻ってきて、ドロップしたのを確認した時点でこの状態だった。あの《天宮》とかいう男が、結局何をさせたかったのかはさっぱりだ。
だが――――
「わぁぁぁ……っ! これ、隆也と初めて会った時に巻いてたマフラーそっくり……! すごい! ありがとう!!」
「入手経路がちっとばかし怪しかったから不安だったんだが……よかった」
「うん!」
こうやって、喜んでくれている理奈の、満面の笑みを見れるのだから――――
自分は、本当に幸福者だ、と。
そう思った。
***
――――なんとか、間に合ったらしい。
――――ナイスおれ!
理央は内心でガッツポーズを取っていた。
現実世界に復帰するのと、友人たちと買い物に出かけていた朝田詩乃が帰宅するのは、ほぼ全くの同時刻だった。
いやぁ、ほんと危なかった。
あと二分ばかし遅かったら、家にいない…もしくは気を失っている…のがばれたかもしれない。
リアルワールドの敏捷値を全力で使って、広げたサイフやら貯金箱やらを片付け終わるのと、詩乃が部屋に入ってくるのも同時だった。やばいやばい。
ともかく――――
今、理央と詩乃は、無事何事もなく(?)クリスマスケーキを囲んでいた。
「MerryChristmas,理央」
「メリークリスマス、詩乃」
サイダーを入れたグラスを打ちつけ合う。本当はこういう時にはワインとかが似合うのだろうが、残念ながら二人ともまだ未成年である。
「楽しかったか?」
「うん、もちろん。みんな張り切って彼氏のプレゼント探して……」
「そこでお待ちかねのプレゼント渡しタイム」
「……早くない?」
「気にしない気にしない」
笑いながら、理央は(なぜか)丁寧にラッピングされた、小さな箱を取り出した。
「プレゼント。獲得に苦労したぜ……」
「獲得……?」
「か、買うのに苦労したってこと!」
言えない。
知らない男に付いて行って、そこでモンスターと戦って手に入れたとか若干過保護気味の詩乃には言えない。
「と、とにかく開けてみろよ」
「うん」
几帳面にも、リボンをほどき、赤い包装紙を丁寧にはがしていく詩乃。
そして中から出てきた、紫檀張の小さな箱を開けて――――
「わぁ……」
目を輝かせて、微笑んだ。
「気に入ったか?」
「うん。夢みたい……」
そこにあったのは。
かの浮遊城で、理央が詩乃に渡した、ペアリングを通したチェーンネックレスと、寸分の狂いなく同一のモノだった。
「すごい、どうやって……?」
「まぁ……オーダーメイド、かな……?」
嘘はついていないはずである。うん。
「あの浮遊城での思い出を、いつでも見れるようにしたいなって思ってさ」
「うん……ありがとう、大事にするね」
「お、おう」
珍しい、満面の笑みを浮かべた詩乃を見て――――
理央は、熱くなる頬をごまかし切れないのであった。
***
「ふぅん、神道でもクリスマスって祝うのかね?」
「分かりません。ウチは……というか、私は特別ですから」
美守唯奈は、ダウンのポケットに手を突っ込みながら境内の柱によりかかる恋人――――音瀬悠牙に答えた。
悠牙も忙しいだろうに、唯奈の突然の呼び出しに答えてきてくれたのだ。多少面倒臭そうな顔をしているのはこの際気にしない。というかそう言う性格の人だということは、四年も前に知っているし、そんなところも含めて彼の事が好きだから。
「悠牙君、クリスマスプレゼントです」
「おう?」
すすす、と彼の元へ近づいて、その手に小さなお守りをのせる。
それはちょっと西洋風の外見をした、しかし伝統的な作りのお守りだった。中にはきちんと護符も入っている。表には薙刀と音符のマーク。二年間を過ごしたあの浮遊城において、薙刀はユイナ、音符はユウガのトレードマークだった。
「一生けん命、作りました」
「おう」
「大事にしてくださいね」
「お、おう」
一言いうたびに、彼に少しずつ近づいていく。
「ちょ、ちょっと待った」
「なんですか?」
「あ、あのな……その……お返し、というワケじゃないし、というかそもそも俺はこっちを先にするつもりだったっつーか、というか連絡が来たのは都合がよかったつーか、それじゃお前を利用したみたいに聞こえ……ああああもうっ!!」
何が何だかさっぱり分からないが、とりあえず一人でもんもんと悩んだ悠牙は、ふいに懐から財布を取り出すと、中からなんと一万円札を取り出した。
「あ、あの、そんな大金……!!」
「良いんだよ。このくらいかけてカミサマの助力をいただかなければ……!」
何故か今どこかで、癖っ毛にマフラーの青年神がドヤァと笑った気がしたのだが、気のせいだったのだろうか。というかそんな知り合いいたっけ……ああ、クリスマスプレゼントを取り戻したくないか、と交渉しに来たあの《天宮》とかいう男の人か……というかなぜニヤリとかじゃなくて『ドヤァ』……?
そんなことを唯奈が考えている間、さい銭箱に一万円札を放り込んだ悠牙は、それからやけに長い間祈っていた。
そして祈り終ると、彼は至極真剣な表情でこちらを向いて。
「あ、あのな、唯奈」
「はい」
「その……こんなこと今さら言うのも何なんだけど……」
それから悠牙は、きっと精一杯勇気を振り絞って選んだのだろう、素敵な素敵な言葉を口にして――――
唯奈への、クリスマスプレゼントにしてくれた。
***
「MerryChristmas」
「メリー・クリスマスです!」
かちん、と音を立てて、グラスが弾かれあう。
衿希頗臨は、楽しそうな表情で笑う皇季桃華を見て、こちらまで嬉しくなって笑ってしまった。
クリスマス・イヴ。友人たちと買い物に出かけていた彼女が帰宅するのに、頗臨の《異世界》からのログアウトはギリギリ先んじた。結果、頗臨は彼女に、それ以前に起こっていた異常事態を察されることなく、桃華に「お帰り」を言えたのであった。
ケーキはハリンの手作りだった。昔はよく料理をしたので、多少はコツが分かっていたのもあって、自分でもいいできだと思っている。
「おいしいです~」
「そっか、よかった」
もぐもぐとケーキをほお張る桃華。それを見て笑う頗臨。
幸せだなぁ。
そう切に思う。
SAOは自分達の人生を変えたが、それが悪い方向へだったのか、と問われれば――――頗臨の答えは、『否』だろう。
確かに、たくさんの人を喪った。Lvがひどく高くて、《神殺し》なんて呼ばれていたけれど、結局はずっと孤独だった。
桃華は、そんな自分にも笑ってくれた。彼女は、自分の支えだった。そして、これからも、自分の支えであってくれると良いな、と願う。
「桃華」
「なんですか、頗臨君?」
彼女の名前を呼んで、やけに丁寧に装飾が施されたプレゼントを、手渡す。
「MerryChristmas。プレゼント」
「わぁぁっ! ありがとうございます!」
顔を輝かせてプレゼントを取り出す桃華。
「うわぁぁ……綺麗……」
取り出されたのは、一つの髪留め。頗臨が桃華に、あの浮遊城で渡した最初のプレゼントと、よく似た装丁のモノだった。
「大切に、しますね」
「うん。ありがとう」
心の底から嬉しそうに微笑む桃華を見て。
ああ、よかった。と、頗臨も思った。
この笑顔に――――僕は、救われている。
***
「紗奈ぁぁぁぁぁぁぁッ!! メリィィィィィィイクリスマァァぁああああああスッ!!」
「メリークリスマス! 雷斗君!」
テンションがおかしくなった陰原雷斗と、いつもと変わらずマイペースの華之美紗奈が、テーブルを挟んで騒いでいる。
「そう言えば凜君は?」
「どーせシノンのところだろ。それよりこれプレゼント。こっちもプレゼント。これもな。こっちも。まだまだあるぞー!」
「わぁぁぁぁっ!すごい!」
いったいどこから取り出しているのか、じゃんじゃんプレゼントを取り出してくる雷斗。それはお菓子だったり、高価な宝石だったり、なんかランニングマシーンらしきものだったり、株券だったり、色々よく分からない。
とりあえずそれを見てさも当然か何かのように喜ぶ紗奈が怖い。まぁこの男(とその親友)と長い間付き合いがあれば一般人的な感覚など消えてなくなるのかもしれないが。
つくづく雷斗がいてよかった、と思える。しかし騙されやすそうなカップルである。その時雷斗はそのIQを生かして彼女を救えるのだろうか。
と、そんなことを誰とも知らない《観測者》が思っていると、無限にも思えたプレゼントが最後の一個となる。
途端に、雷斗の歯切れが悪くなった。
「あーっと……その、だな……」
「……? どうしたの?」
「えーっと、だな。俺としては、SAOでリンが作ってくれたのと同デザインでもよかったんだけどさ。やっぱりあれは『思い出』にしまっておきたくて……だから、今回は、『新しく進む』っていう意味も込めて、違うのを選ばせてもらった」
そう言って、最後のプレゼントを――――すでに包装紙をはがして、紫檀のケースに入っているばかりのそれを、丁寧に、紗奈に差し出した。
その中に入っていたのは、ペアリング。裏側には、《RIGHT》《SANA》という文字が掘られている。
「……っ! ……雷斗、君……」
「で……その………あの、な」
それから雷斗が言った言葉は、あの二人だけの秘密である。
***
月村刀馬は、無事現実世界に帰還することに成功した。目を覚ますと、転移前と変化の全くない自室。
「……夢だったのか?」
少しだけ疑問に思わなくもないが、机の上に置かれた、やけに丁寧なラッピングを施された箱。サイズ的に、多分刀馬が望んだ《ソレ》が入っている。
刀馬は、これを日頃世話になっている桐ヶ谷時雨葉に渡す予定だった。SAO時代から現在に至るまで、彼女には何度も励まされてきた。大切な人だ。
「よし」
携帯端末を手に取り、慣れないメッセージを彼女に向かって送り――――
そして現在に至る。
「……で、何で琴音までいるんだ?」
刀馬の反対側に、時雨葉が座っているのは分かる。だがその隣に、友人である琴音が座っているのは謎だ。呼んでないし。
「だって、ジンの家でクリスマスパーティやるって言うんだから来ないわけないでしょ。楽しそうだし。悪い?」
「そりゃ……そんなことないけどさ。でもいきなり来たらびっくりするだろ!」
「まぁまぁ。琴音が一緒に来なかったら、お兄ちゃん家から出してくれなかっただろうから」
そう言って苦笑する時雨葉。それには納得である。彼女の兄、キリトこと桐ケ谷和人は、妹たちに対して過保護だ。多分どうにかなるだろうとは思っていたし、どうしてもだめ、という事だったらこちらから赴く予定だった。
だがまさか琴音と一緒に来るとは思っていなかったのだ。
マズイ。彼女の文のプレゼントは用意していない。多分片方だけに渡したらものすごいもめる。どうする。どうする――――
と、その時。
刀馬は、奇妙な違和感を感じて手の中を見た。
――――いつの間にか、そのプレゼントは、二つに増えていた。一つは最初からあったもの。もう一つは、巻かれたリボンの色が違うモノ。
「……」
身に覚えのない怪自体に絶句する。だがとりあえず、これで二人ともにプレゼントを渡せるようになった。
「……時雨葉、琴音」
「うん?」
「何?」
刀馬は、隠し持ったプレゼントを取り出す。
「その……ささやかだけど、クリスマスプレゼント。世話になってるからな……いつも、ありがとうな」
「ジン……」
「……どういたしまして。ね、開けてもいい?」
「ああ」
琴音と時雨葉は、それぞれ差し出されたプレゼントを開く。
――――琴音の方には、鍵を模した形のヘアピンが。
――――時雨葉の方には、槍を模した飾りがついたヘアバンドが。
それぞれ入っていた。
「わぁ……」
「ありがと。大切にするね」
「おう。これからもよろしくな」
それからクリスマスパーティははじまった。
感想を言うと――――非常に、楽しかった。
それに尽きる。
***
――――結局。
――――あの《天宮》という奴は、何がやらせたかった?
現実世界に帰還したアクトは、その一点について悩み続けていた。どれだけ知識と知能を駆使しても、《天宮陰斗》が成したかった事が理解できない。
感情も、戻ったわけではない。そもそも、期待はしていなかった。『あるいは』『だとしたら』といった気まぐれで彼の誘いに乗ったようなものだ。
アクトにしては珍しい『気まぐれ行動』も、今回は裏目に出たか――――
「……これも、何のために在るのか全く分からないしな」
手の中に在るのは一つの長方形のケース。中に入っているものは、アクトが使うには何の意味もないモノ。
売るか? いや、金には困ってない。
誰かにあげる? 誰に……? 知り合いは少ない。アスナか、リーファか、シノンか……いっそのことキリト……
その時だった。
家のチャイムが鳴った。
「……?」
玄関に出てみれば。
「あのっ、こんばんは、アクトさん」
そこには、浮遊城でソウと呼ばれていた少女がいた。
彼女はあの世界から解放されて、リアルで顔を合わせてから、どうやって突き止めたのか知らないがアクトの家に辿り着き、以後何度も押しかけてきている。その度に要らないと言っているのだが食事を作っていったり、掃除をしていったり。
「なんだ、お前か……どうした?」
「えへへ。クリスマスケーキ買ってきました。一緒に食べましょう!」
「……何で俺のところに来た? つまんないだろ?」
「え? アクトさんが呼んでくれたんじゃなかったですか!」
「はぁ?」
ますます訳が分からない。アクトにはこの少女を家に連れ込む理由が全くないのだが……。
「だってほら」
しかし少女が携帯端末に写した画面には、確かにアクトのモノと同一の異様にテンションの高い文と、メールアドレス。
だが――――こんなメール、送った覚えないぞ……?
「そう言えば、さっき家の前で変なお兄さんとすれ違ったんですけど……アクトさんのお知り合いですか?」
「は? 俺の知り合い? 何でまたそんな話に」
「だって……あの人、アクトさんの本名を知ってました。 って。」
「―――――ッ!?」
その瞬間。
アクトは、本気で《驚愕》した。一瞬のことで、すぐにどこかへ消えてしまったが、確かに。
――――馬鹿な……!? 何故、俺の最初の名前を、知っている……!?
その名前は、もう誰も知らない名前だった。というかソウも知らないはずなんだが。
「……お前はどうしてそれが俺の本名だと?」
「あのお兄さん、こういったんです。『 君……アクト君が待ってる。急ぎな』って」
「……名前は? 外見特徴でもいい」
「たしか、えーっと……《天宮》さん、って言ったかな。マフラーを巻いて、教会の司祭さんみたいな服の、髪の毛の長いお兄さんでした」
「……」
服装と髪型は違うが――――名前は、間違いなく同じだ。
あいつだ。
《天宮陰斗》だ。
「あの野郎……!」
問いただす。
何がやりたかったのか、問いただす。
アクトは家の外に駆け出そうとする。
「待ってください! あの人、振り返ったらいつの間にかいなくなってました!」
諦めた。
「はぁ……何だったんだ本当に……」
「珍しいですね。アクトさんがそんな反応するなんて」
「たまにはある。本当にワケが分からなかったら、《疑問》なんて感じなくても『疑問』に思うさ……そうだ」
そこでふと思い出して。
アクトは、手に持ったままの長方形のケースを、ソウに渡した。
「……?」
「やるよ。俺は要らないから」
彼女はおずおずとそれを開けて。
「わぁぁっ! すごい……あの、本当にもらっていいんですか!?」
「ああ……」
「すっごく嬉しいです! ありがとうございます! わぁぁ……アクトさんからクリスマスプレゼントだぁ……」
少女が取り出したのは、銀色のペンダントだった。虹色に輝く石が嵌められた。
それを見て目を輝かせる彼女のことを――――
ちょっとだけ、綺麗だな、と思ってしまった。
《感動》なんて、感じないはずなのに。
「……そうか……お前は……」
その時、アクトは《天宮》の望みを余すことなく理解した。
あの男は、一瞬だけとは言え、完全に失われていたはずのアクトの感情を呼び戻したのだ。それがお前へのプレゼントだ、と言わんばかりに。
――――余計な、お世話だ。
アクトはそう、心の中で呟いて。
それでも、ほんのちょっとだけ……今だけの《感情》を、楽しんだりもした。
***
「ただいま」
「お帰り、来人」
天城来人が帰宅すると、もうすでに北斗新羅は準備を終えていた。
これは彼は預かり知らない事であるが、あの奇妙な異世界から帰還したのは、実は来人が最速である。誰よりも早く帰宅した彼は、直後、突然の職員会議で招集されて、学校へと向かっていたのだ。
結局――――《天宮》とかいうあの変な男の導きで手に入れたクリスマスプレゼント以外に、新羅に何も用意してやれなかった。
「お風呂にする? ご飯にする? それともわ……」
「わりぃ、先に風呂いくわ」
「……」
疲れた。それに、手に入れた『あのプレゼント』を渡すときは、さっぱりしていたい。
閑話休題。
現在に至る。
「メリークリスマース!」
「メリークリスマス」
打ちつけられたグラスが、かちんと涼やかに鳴る。
中に入っているのはそこそこ高級なワインだ。すでに来人は成人。去年までは新羅が未成年だったので乾杯はサイダーだったのだが、今年からは酒である。
――――まぁそんなことはどうでもいいのだが。
「お疲れ様、来人」
「ホントだぜ全く。色々疲れた――――」
会議もさることながら、そう、あの異世界での戦闘が。
ほとんど永遠の『”宿敵”と書いて”友”と読む』とその親友がやってくれたのであまり出番はなかったが、それでも疲れた。
アバターのステータスは過去最高法だったのにもかかわらず、別人格は入っていないとかいうめちゃくちゃな仕様の体だったのもちょっと気になった。
まぁそんな苦労のかいあって――――
「新羅」
「ん? どうしたの?」
「あのな、クリスマスプレゼント何だが……」
そうして、背後に隠し持ったプレゼントを取り出す。
この中には、一対のエンゲージリングが入っている。
慎重に言葉を選ぶ来人。それを聞いて、プレゼントを見て、新羅が満面の笑みを浮かべてくれるように。
***
「アツヤ……受け取ってくれないの……?」
「やはり……だめ、なんですか……?」
「いや、どう考えてもおかしいという事に気付け」
「おかしくなんかない! 私正気だもん!」
「そうです! 早くどちらかを選んでください!!」
「いやおかしいだろ!! 何が『プレゼントは私』だ!!」
12月24日、22時30分ごろ。
盾神アツヤは――――恋人と友人に迫られていた。
目を覚ました時には、まだ何の異常もなかった。数十分後に恋人の姫乃臨花と友人の篠原綾瀬がやってきて、一緒にクリスマスパーティをした。
クリスマスプレゼント渡しは後にしようという事でとりあえず二人が風呂にいき、二人が上がってきてからアツヤが入って、そうして上がってきた時に――――
「だって……アツヤったら全く手だしてくれないんだもん」
「き、今日こそこれを以て、私と臨花のどちらを選ぶか決めてください……っ!」
「お前らどうした……? そんなキャラじゃなかったよな……?」
「クリスマスプレゼント何がいいかな、って調べてたら、《天宮》ってひとの《白亜宮》っていうブログにいきついて、『女性のあなたは『私がプレゼント』と書かれたタグをつけ、自分の体にリボンを巻いて彼氏の元へ突入してみましょう。大体の人は受け取ってくれるはずです。俺なら受け取るね』って書いてあったからやってみたの」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あの野郎……ッ!! 何考えてやがる……!」
「さぁ、早く! アツヤ!」
「ち、ちょっと待て!!」
とりあえず赤いリボンを巻いた臨花と、青いリボンを巻いたアヤセを押しのけておく。
状況整理。
臨花と綾瀬は《天宮》に騙されていると考えていいかもしれない。まぁ奴の言っていることはあながち間違いではないだろう。先ほどから自らの本能を押さえるのにかなり苦労している。
二人とも、客観的に見ても相当な美少女だ。自分にはもったいないくらいの。
頬を上気させ、うるませた目で上目使いに見てくる。その破壊力の何と凄まじい事か。一応は臨花に心を許した身でありながら、どちらを選ぶのかに凄まじく迷ってしまう。
――――いやちょっと待て!
何でもうどっちか喰う前提で話が進んでいる。
――――俺はこの状況を打破しなければならない……!
「二人とも、とりあえず落ち着いてくれ」
「えー……」
「むぅ……」
アツヤは二人を下がらせた。
だがすぐにでも再び飛びかかってきそうな二人を見て、「すぐに次の手を打たなければならない」とあわてる。
――――《天宮》の野郎……やってくれたな……ッ!
と、そこまで考えて。
彼が打開策を一緒に用意しているという奇妙な現実に気が付いた。
「臨花、綾瀬」
「なぁに?」
「……決心がついたのですか?」
「そうじゃねぇよ……」
がっくりと肩を落としそうになりながらも、アツヤはきれいに包装されたクリスマスプレゼントを取り出した。
「ほい、プレゼント」
「わぁっ!」
「えっ……くれるんですか?」
「そうじゃなかったら何だっていうんだ……」
二人とも神速でアツヤの手からそれを巻き上げると、開く。
中に入っていたのは、ブローチだった。臨花のそれは赤、綾瀬のそれには青の、大きな宝石がそれぞれ嵌っている。
「これ……この前三人で出かけた時に見つけた奴だよね?」
「欲しい、って言ったの……覚えて……」
「まぁな」
数日前、三人で買い物に行ったときに、臨花と綾瀬が揃って欲しがったのはこのブローチだった。故に、クリスマスプレゼントを何にするか、と問われた時にとっさに思いついたのは、これだったのだ。
「お前ら二人とも、俺にとっては大切だ。選べない。だから……しばらくは、これで我慢してくれ」
「我慢なんて……うれしいよ、アツヤ!」
「ありがとうございます。その……一生大切にします」
だから、と、二人揃って叫ぶ。
「「選べないならどっちももらって!」」
「結局解決してねぇェェェッ!!」
――――駄目じゃん!
――――やっぱり駄目じゃん!
どこかで、くせ毛の青年神が、『ドヤァ』と笑った気がした。
***
これにて、聖夜に捧ぐ全ての演目は終了となる。楽しんでいただけただろうか?
キミ達が本来歩んでいる世界が、そして『この世界』がこれから歩む未来が、どんな結果になるのかは分からない。
それを決めるのはキミ達自身。デウス・エクス・マキナは不要――――
キミ達に、幸福な聖夜が訪れることを祈って。
『フローエ・ヴァイ・ナハテン』
後書き
そんなわけでコラボ編終了です!!
いやー、今回は参加キャラが一番多かったからかなり混乱した。もしかしたら忘れている人がいるかもしれない……その場合は全力土下座!
刹「……」
因みにこのコラボ編で登場した全てのキャラクターたちは、『ハッピーエンド・ルート』というルートをたどっています。これは作者様方が書いていらっしゃる物語の正規の完結(自分は『グランドフィナーレ・ルート』と勝手に呼称しています)とは少々結末が異なり、ミヤビさんがリアルでも動けたり、アクト君が感情を取り戻しかけていたり、色々矛盾やキャラ崩壊が起こっているのはそう言う理由でして……というごまかし!
刹「……」
どうした刹那たん。さっきから無言……
刹「この馬鹿作者!!」(ざしゅぁっ!!
ぐはぁぁぁぁっ!? な、何故だ……何故聖夜にして斬られねばならんのか……まぁ復活するがな!
楽しんでいただけたでしょうか。さて、次回からは本編更新に戻ります。六門神編もいよいよ佳境! 終演は近い! ……のですが、更新がかなり遅くなります。ストックが終演。
刹「ともかく、コラボ編が無事に終われてよかったです。参加してくださった作者の皆様、本当にありがとうございました! それでは次回もお楽しみに!」
『神話剣』イラスト募集してます! 詳しくはつぶやきへ! よろしくお願いしま――――す!
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