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Fate/Fantasy lord [Knight of wrought iron]

作者:花極四季
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乾坤の神

 
前書き
前回のと比較して、最早別の小説と化しつつある。  

 

拝殿の奥深く、静かに瞑想をする影がひとつ。
その姿は神秘的で、征服するという意思を根こそぎ奪っていく。
決して侵してはいけないと本能が告げる程のそれは、神と呼ぶに相応しい。
同じヒトガタでありながらも、無意識に発する存在感が格の違いを否応なく告げる。

銅像の如く微動だにしなかった影が、僅かに揺れる。
それは、二重の要因によって引き起こされたものであり、その片割れが静かに姿を現した。

「………神奈子、お前も感じただろう?」

「ああ、人間でも妖怪でも、ましてや神でもない異分子の気配だ。しかしなんだあれは、有機と無機の半ばといった色をしている生命なんて、異常だ」

「そうだね。逆に言えば私達のような奴が異常と言うしかない事象が、自然に起こり得る訳がない。人間の欲望が生み出した哀れな犠牲者ってところだろうね」

呆れるようにそう呟く新たな影。
一目見れば、それが先程の影と同一の存在だと理解するのは易いだろう。
―――しかし、影が構築する肉体はどこからどう見ても少女のそれであり、神と呼ぶに相応しい造形を模してはいなかった。

「私達が知らない出来事は腐るほどあるの承知していたが………正直、判明する事象の大半が人間の欲望が絡んでいるのだと見せつけられるのは、辛いな」

「確定していないとはいえ、殆どはそうだからね。悲観するのは仕方ない。それに、そんな人間無くしてカタチを保てない自分自身も不甲斐なく感じているんだろう?」

「………そうだな。人間の総てがそうではないとはいえ、その少数派の殆どは現実を知らない子供だと考えると、なんの慰めにもならない。神なんて信じていない癖に、いざとなったら神頼みをする者達にさえも媚びを売らないと存在を保てない自分を幾度と呪ったことさえあった」

「これも一種のビジネスみたいなものだからね。相互関係を築くにしても、私達の場合相手を選り好みは出来ない。平等に、来る者は決して拒むことなく祝福する。その対価として彼らには信仰を注いでもらう。互いが利益を最優先にするが故に、人格は尊重されなくなる。だからこそ折り合いをつけて、妥協していかなくちゃいけない。それもこれも―――あの子の為にね」

神奈子と呼ばれた女性は静かに頷く。
その影が立ち上がり、光射す場所に足を踏み入れ姿を現す。
先の少女とは対照的に女性的な姿をしており、二人が並べば親子と見間違える程の差があった。
しかし二人は紛れもなく神であり、人ならざる者の頂点である。
それに、こうして憂い無く会話をしているが、二人はかつて敵対していたと言うのだから、不思議なものである。

「その事なんだが―――接触したようだぞ?」

「そうだね。んじゃあ拝みにいくかい?」

「そんな悠長にしてていいのか?悪意を一切感じないとはいえ、万が一ということも有り得るんだぞ?」

「いつまでも私達におんぶに抱っこさせる訳にもいかないしょ?心配なのは山々だけど、私達に依存し過ぎれば、自分ではなにもできない子に育ってしまう。ある程度のイレギュラーは捌けるようにならないと、ここじゃあ生きていけない」

「………わかった。少しだけ様子を見よう。だけどきちんと顔は出すぞ。どうせお前だって、そのイレギュラーに興味があるんだろう?」

「まーね。もしかすれば、私達の悲願達成に使えるかもしれないからね」

悪戯っぽく笑みを浮かべる少女―――諏訪子を見て、神奈子は複雑な気分になる。
人間の欲望のまま動く様を悲観している癖に、彼女も目的の為には手段を厭わない。
―――なんて、矛盾した在り方。都合の良いエゴ。
結局神であれ人であれ、意思がある以上我欲から離れることはできないのだろう。
そして、彼女の発言に意を示した私も、所詮その程度の存在に過ぎないのだろう。
だが、心を鬼にしてでも。この身を悪魔に捧げようとも。あの子を―――東風谷早苗を護れない。
だから―――すまない。
胸中でこれから利用するかもしれない存在に、深く詫びた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


太陽が真上に立つ頃、ようやく仕事が終わり、一息吐くことができた。
とはいえ別に疲労したとかではなく、単純に心に余裕ができただけの話。
故意ではないとはいえ、屋根を破壊してしまった事実が私を苦しめていた。
万事解決、とまでいかないにしろ、やれるだけの事はやったので、これ以上は自らに枷をはめるだけになってしまう。
そんな自虐を、凜は良しとしないだろう。
身に掛かる負荷を抑えるには、私自身が現状に納得するのが手っ取り早い。
それが無理矢理創られたものだとしても、そうでもしなければ無駄に辛いだけ。

「凄いですね。まるで新品同様です」

「流石に素材を劣化させてまで元通り、とまではいかなかったからな。不自然な部分もあるだろうが、こればかりは妥協してもらう他ない」

「いえいえ、ありがとうございます」

「――――――クッ」

「な、なんで笑うんですか」

「いやなに、まさか破壊した張本人に礼を言うだなんて思いもしなくてな」

忘れていただけだろう、そう思っていたのだが、彼女は予想だにしない返答をした。

「だって、故意ではないんですよね?だったら、怒る理由はありません」

「………もしかして、信じているのか?」

「嘘だったんですか?」

無垢な子供のような発言に、驚きと同時に呆れてしまう。

「あれは間違いなく本当のことだ。そうではなくてだな、初対面の男の戯言と呼ぶに相応しいそれを信じているという事実に問題があるんだ」

「別に、根拠もなく信用しているのではありません。貴方とこうして交流していく内に、信じるに値する人物だと判断したからこそです。………特に、ここに住んでいると貴方のような人が悪であるとは到底思えなくなるんです」

彼女の言葉の端に、どこか引っかかるものを感じるも、それを無視して話を続ける。

「―――ともかく。今回はいいが、次からはもう少し警戒したまえ」

「はい」

会話も一段落つき、そろそろお暇しようとした時、突如二つの気配が膨張し出す。
何時の間に境内に侵入した?今この時まで、これ程の存在感をどうやって隠していた?
目を丸くしている早苗を尻目に、自然な動作で彼女を背後に庇い、周囲を警戒する。
サーヴァント、いやそれ以上の力の波を感じる。
私一人では同時に太刀打ちはまず不可能、一対一でも相性が良くなければ敗北は必定。
敵意は感じないが、いざ襲われたことを考えて、常に退路を意識する。
こういうとき、現在の地理を一切知らない現状がとても辛い。

「―――そんなに警戒しなさんな。と言っても無駄だろうけどね」

そんな言葉と共に現れたのは、女性と少女だった。
だが、そんなものはなんの指針にも成り得ない。
器ではなくその中身を見れば、侮るなんて真似は愚行だと言わずとも理解できる。

「諏訪子様、神奈子様」

ふと、背後にいる早苗からそんな言葉が漏れ出す。

「知り合い、か?」

「はい」

嘘を吐く理由もないだろうし、本当のことだろう。
庇う姿勢を解くと、満足した風に少女が頷く。

「こんにちは、部外者さん。うちの早苗を護ろうとしてくれたことは感謝するよ」

「それも徒労だった訳だがな」

「いやいや、さっき早苗が怪我しそうになったのを助けてくれたから、これでいいのさ」

「………見ていたのか」

「肉眼ではないけどね。この周囲一帯は私の監視が広がっていると思ってもらえば結構」

つまり、私がここに来た瞬間から、この二人に私はマークされていたということになる。
しかし、何故今になって出てきた?
侵入者を撃退しに来たにしては対応が遅すぎるし、何よりも友好的と言えなくもないこの態度。
それに彼女の発言を信用するのであれば、私達の行動は終始監視されていた。それなのに今更出てきたというのには、何か意図があってのことだろうか。

「で、君達は私に用があるのかな?このタイミングでの登場は、そうとしか思えないが」

「その通り。ぶっちゃけた話、興味が沸いたんだよお前にね」

興味、ね。
正直なところ、妙な空気を感じる。
女性の方は普通だが、この少女の纏う雰囲気によって、私を捕食せんと舌なめずりしている風にさえ錯覚してしまう。
粘着する視線。虎視眈々と隙を伺う捕食者の如き有り様。
はっきり言おう。彼女は、危険だ。
絶対悪のような単純な定義に当て嵌まらず、それ故に質が悪い。
―――それこそ英霊エミヤのように、信念を貫く過程に払う犠牲を仕方ないと割り切るタイプだ。
同族嫌悪、とまではいかないが、共感すると言うことは、私達がより近しい存在なのだと暗に示しているのであり、恐らく彼女も私と同じ思いを抱いているであろう。
………少なくとも、目の前の少女は私を逃がす気はないらしい。
目的は定かではないが、大人しく従った方が合理的ではありそうだ。

「ふむ、ならば茶請けのひとつでも用意してもらいたいものだな。私を歓迎するということは、相応の待遇を期待して当然だからな」

「ああ、そんなの幾らでも用意してやる。その代わり―――とことんはな
束縛
さないから、そのつもりでな」

ニヤリと笑みを浮かべるその姿は、あまりにも少女が放つには似つかわしくない程に邪悪。
早苗はこの展開についていけてないのか、ポカンとした様子でこちらを見つめている。
女性の方は、申し訳なさそうな視線で私を見つめている。彼女も少女と同じ考えでこの場に赴いたのだろうが、彼女に比べて穏便に事を済ませたかったのではと推測する。
どちらにせよ、当面はこの少女を注視するのが最優先にするべきなのは変わらない。
さて、単なる談笑に終わるか、狐の化かし合いとなるか。せいぜい楽しみにさせてもらうさ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


あれから、境内の横にひっそりと建てられていた一軒家に案内されることになった。
神社に比べて質素な作りをしているが、本殿を引き立たせる為の措置なのだろう。
神社の形態には詳しくないが、本来境内の中に住まいとしての家は建てるものではない筈。
それは言わば衛宮家の土倉の中で生活しているようなものだ。普通では考えられない。
まぁ、柳洞寺に神殿を形成という後付け方法の例も無くはないが、順序が逆な時点で例えとしては些か不適切か。

「さて、一方的な質問はフェアじゃないし、まずはこちらの自己紹介といこうか。私は洩矢諏訪子、言ってわかるかは知らないけど、土着神―――まぁ、神様の一種だよ」

「私は八坂神奈子。私も神だが、まぁ山の神とだけ理解しておいてくれればいい」

まさか二人の正体が神とはな………。
私とは違い、サーヴァントではないのはこの圧倒的力の差で判断がつく。
敵に回すような真似はしたくないので、返答は慎重にしなければ。

「………エミヤシロウだ。私は―――なんと言えばいいのやら」

「別にありのまま答えてくれればいい。私が一番気になっている部分だから、濁すような発言は出来れば控えてほしい」

「―――なら、そうさせてもらう」

諏訪子に言われた通り、私は自分の存在をわかる範囲で説明した。
聖杯という聖遺物から生まれた、過去現在未来に於いて英雄として祭り上げられた存在の欠片、サーヴァントなる存在だということ。
生まれた経緯、理由、その目的。聖杯戦争の経緯は当然として、魔術師の存在も一応濁しておいた。
神相手に、と思われそうだが、早苗が一般人の枠に入る可能性がなきにしも非ずなので、念には念を入れて、ということだ。
神二人とこうして同じ屋根の下?に住んでいるのだから、非常識に対しての警戒は今更と思われそうだが、彼女達もいらぬ問題を押しつけられたくもない筈だ。
何事も深入りし過ぎれば面倒になるだけ。加減が大事という訳だ。

「………私達はこれでも長い年月を生きてきたが、そんなものを求めて争っているなんて初耳だよ」

「そうでなければ世界は大混乱だがな。一般人にそんなものがあると知られれば、秩序は崩壊の一途を辿る。ま、そういう意味もあるが、殆どの理由は独占欲から来るものだろうな。聖杯の存在を知る者が少なければ少ない程、自身の手に渡る可能性が高まるのだからな」

「それもそうさね。それにしても万能の願望機、か」

ふと、物思いに耽る諏訪子。
神の視点からして、聖杯の存在をどう捉えているのだろうか。
冬木のそれは性質が歪んでしまっているが、他の場所で行われている聖杯戦争は純粋な願望機として機能している筈。
それを鑑みれば、技術進歩が著しい現代で、未だ原理不明の事象に縋るその姿勢に親近感を覚えるのか、はたまた時代の波に逆らおうとする適応力のなさに哀れみを覚えるのか。
ただひとつ言えることは、人間はいつだって理解不明な代物に惹かれているということ。
理解できないからこそ興味が沸く。根源の渦にしろ聖杯にしろ、未知に惹かれるのが人間の性というもの。
だからこそ追求し、到達せんと努力する。そのサイクルによって現代の生活にまで発展できたのだから、馬鹿にはできない。
………まぁ、それも奇跡が存在すると知らない者が大半だからこそであり、そうでなければ独力でここまでは到らなかっただろう。

「質問いいだろうか。お前はその、サーヴァントなんだよな。と言うことは英雄としての功績を挙げた存在だと言うことだ。エミヤシロウなんて和名の英雄を、私は識らない。外国の英雄は土俵が違うから全然知らないが、日本のそれに関しては暮らしていれば自然と知識として身につく分、自信はあるつもりだ。―――ということは、お前は未来の英雄ということか?」

思考に没頭している諏訪子に代わり、神奈子が質問を出す。
別に隠す必要もないし、素直に答えることにした。

「ああ、そうだ。ひとつの英雄像に憧れた男の末路、とでも認識してくれればいい」

「………じゃあ、お前は一体何を為したんだ?他者から英雄と呼ばれるに値する所業を」


沈黙が部屋一帯を支配する。
こればかりは、そう簡単に答えられるものではない。
果てに見たものが決して間違いではなかったと納得したとしても、それは誇れるほど大層な所業でもなければ、寧ろ普通の感性からすれば結局異常であることに代わりはないのだから。

「―――すまない。答えられないのならそれでいい。お前のその表情を見ていたら、気安く訊くべきことではなかったのは充分見て取れる」

「そうしてもらえると助かる」

厳かな雰囲気を纏っていた彼女だが、先の会話で多少萎縮したのか、居心地の良い空間になっていた。
他人の不幸で喜ぶなんて最低だが、こればかりはどうしようもない。
常に熱量を持たない向かい風に煽られているのは、誰だって不快だろうし、勘弁してもらいたい。

「あのー、お茶菓子を用意してきましたのですが」

ふと、襖から早苗の声が響く。
和風旅館の従業員がやるような姿勢で襖を開き、卓袱台に形の整った饅頭と湯飲みを置いていく。

「これは、君の手作りかね?」

「そうですけど、よくわかりましたね」

「素材が新鮮な状態を保っているからな。添加物入りの梱包商品とはまた違った特徴があるものなんだよ」

何気なしに説明したのだが、何故か早苗の目がキラキラ光っていた。
まるで尊敬の眼差しのようなそれは、一応神の前だというのに色褪せることはなかった。

「おやおや、すっかり彼を気に入った様子だね、早苗」

「神奈子様!?いえ、そんな―――」

「隠さなくてもいいじゃない。早苗も年頃だからね、そういう気持ちが出てきても不思議じゃないさ」

「う、う~………」

楽しげに早苗をからかう神奈子からは、先程までの威圧が完全に消え去っていた。
どうやら神との上下関係は厳格なものではないらしい。
こうして見ていると、姉妹の戯れにさえ見えてくる。

「そういや、お前さんはどうしてここに?」

「ああ、それなんだが―――」

突如の話題変更に一瞬戸惑うも、直ぐにここに来た経緯を説明する。
聖杯戦争が終局して、消える筈だった自分が何者かの手によってここに飛ばされたこと。
マスターとの魔力供給を絶っている自分が何故か未だに現界していられる謎も含め、子細に語った。
途中参加の早苗も居たので、かなり曖昧な表現になってしまっていたが、どうやら通じたようで良かった。

「そういえば、訊くのをすっかり忘れていたのだが、ここは日本の何処なんだ?」

「――――――」

「神奈子?」

「いや、ちょっと考え事をな。………何を考えているんだ、奴は」

微かに聞こえた奴、という言葉に意識が強ばる。
彼女は、私をここに連れてきた存在と接点があるのか?
それともその可能性を持つ人物に当たりがついているのか?
問いただそうとするよりも早く、神奈子が口を開いた。

「いいか、落ち着いて聞いてくれ。ここは日本であって日本ではない。地球の中にありながら、その存在を隔絶したいわゆる第二の地球といってもいい世界。それがここ―――――幻想郷なんだ」

「げんそう、きょう?」

聞いたことのない単語に、眉を潜める。
魔術師と同じく、東洋の神秘の秘匿概念に当たる用語なのだろうか。

「もっと砕いて説明するなら、ここは幻想郷の外の世界を起点として、その存在が幻―――言い換えれば存在しないものとして扱われたあらゆる事象が集う場所なの」

「………つまり、君のような神が存在しているのも、幻想郷に住んでいるからなのか?」

「半分は正解。私達は信仰が薄れていくせいで存在を保てなくなったから、ここに移住してきたの。ここは妖怪がわんさかいるお陰で、神様だなんて胡散臭い存在も信用されるのよ」

「妖怪、だと?それはあれか、九尾の狐やらぬらりひょんみたいな」

「それで合ってるわよ。まぁ、浮世絵に書かれているようなゲテモノを想像してたら、ギャップに苦しむのは間違いないと思うけど」

意味深な言葉と共にほくそ笑む神奈子。
嫌な予感がしなくもないが、これでもあらゆる英霊と対峙してきた経歴がある。そう簡単には動揺はしない筈だ。

「えっと、それでシロウさんは、外から来たので何処にも行く当てがないんですよね」

「ん?まぁ、そうなるな。当てはなくとも、なんとでもなるさ。これでもサバイバル生活には慣れているし、寝ずに数日過ごすことだって不可能じゃないからな」

正確には余裕で可能な訳だが、そこは先程と同様の理由で濁しておく。

「そ、そんな!いけませんよ、外は危険がいっぱいなんですから!」

子供に言い聞かせるような口上で私に迫る。
ううむ、大丈夫な根拠を説明できない以上、煙に巻く手段が思いつかない。
何を言っても悪手になりそうに感じるし、どうするべきか。

「なら、しばらくはここを起点にして家捜しすればいいんじゃない?」

考え事をしていた筈の諏訪子が、饅頭を美味そうに食べながらそんなことを言い出した。

「そんな、迷惑になるぞ」

「迷惑なら言うかっての。幻想郷に来てからは有り体な刺激ばかりで飽き飽きしていたところだったからさ。それに、早苗もご執心のようだし」

「も、もう!諏訪子様まで」

ニヤニヤと顔を歪ませるその様を見ていると、神奈子の時に感じた感想と似たものが込み上がってくる。
幻想郷にいつ移住したのかは知らないが、この仲睦まじさは一朝一夕で定着するものではない。
これは幾年もの歳月を経て育まれた絆に違いない。
人間と神という垣根を越えた絆は、ただの交わりに比べて美しく見えた。

「いいのか?」

「お前が嫌だっていうならそれでもいいさ。だがな、お前は幻想郷のことを何一つ知らない癖に、それでも不用意に飛び出すことを是とする愚か者なのか?それが答えだよ」

「む――――――了解した。短い期間ではあるが、世話になる」

諏訪子の言葉に納得せざるを得なかった私は、多少尾を引きずりながらも承諾した。
早苗は自分のことのように喜び、神奈子は優しい笑みを向けてくれた。
そして最後に諏訪子が右手を差し出し、

「ようこそ、守矢神社へ。ようこそ、守矢家へ」

本当に嬉しそうに、そう答えた。
 
 

 
後書き

今回の変更点は、こんな感じ

二人の神&エミヤシロウ→乾坤の神
コンパクトになりました。話の展開的な意味では。

諏訪子のカリスマ度の上昇
あーうーとか、そんなんありませんよ。あ、最初からか。でも神奈子は前と一緒。なんだかんだで中立。だからこそ目立たない(酷

早苗にサーヴァントだと伝えていない
まだ幻想郷という場所だと知らなかったからの措置なので、いずれ近いうちにわかる かも しれませんね。

三人に自分が何を為して英霊となったかを伝えていない
冷静に考えれば、そう簡単に言えるようなもんじゃないわな。なんだかんだで初対面の相手に簡単に話せるほど軽い話でもなし。

神奈子と諏訪子が早苗に対しての思いを仄めかす
前ではだいぶ後の話でしたが、さわりだけは今の内にということで。

神奈子がエミヤシロウを連れてきた存在に感づく
その辺りの描写は語られていなかったけど、今回はそうはなりませんでした。

こんな感じでさぁ。話の展開とは別だけど、出来るだけ神奈子にも脚光を浴びせる努力をしていきたいです。常識人ってこうも扱いにくいものだとは………
 
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