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インフィニット・ストラトス ―蒼炎の大鴉―

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兼次、覚醒

 
前書き
この話は兼次視点です。 

 
キャノンボール・ファストでの攻防から3日、放課後に俺は第四アリーナに1人でいた。

ブザーが鳴り、ターゲットが多数、アリーナ内に出現する。

ファンネルを展開、6基を別々のターゲットに向かわせながらさらに別のターゲットをビームライフルとシールド内蔵ビームガンでロック、それぞれ撃ち抜いていく。

ビームの命中を確認する前にさらに別のターゲットをロック、ビームライフルで、ビームガンで、ファンネルで撃ち抜く。

設定では計600のターゲットが出現するようにしてある。

次々とターゲットを破壊していく中で焦りを感じる。

このままでは駄目だ。もっと速く、もっと正確に、もっと鋭く

そうでなければまた逃げられてしまう。3日前と同じ屈辱を味わうことになる。

その焦りは心を乱し、射線がずれる要因になってしまった。

結果は4分32秒。目標の3分30秒より遥かに遅い。

もっと強くならなければ…。

「頑張ってるねー。兼次くん」

突如後ろから話しかけてきたのは楯無さんだった。

「何の用です?ここは今日は貸し切りのはずですが」

「ちょっと様子を見にきただけよ」

「そうですか。では邪魔にならない所で見ててください」

再びターゲットを起動する。

出現するターゲットをビームで撃ち抜き、ミサイルで破砕していく。

まだ遅い。もっと速くだ。

もはや自身さえ何個破壊したかがわからなくなるほど続けた。

それでも目標の時間には達さない。

和也なら、サイレント・ゼフィルスの搭乗者ならもっと速くできるはずだ。

今和也と互角なのも機体の性能差によるものだ。同じ機体なら勝てない。

それにまだ俺はこいつの力を完全に発揮できてない。その証拠に俺はまだサイコフレームの輝きを見ていない。

サイコフレームが最大で稼働すると虹色に輝くと言われている。だが俺は通常の輝きである緑の光さえ見ていなかった。

どうすればサイコフレームが輝くんだ…?

開発者さえも発光条件はわからないらしい。ただ言えるのはサイコフレームが発光している時はHi-νは本来のスペックを遥かに上回る性能を発揮するということだけだ。それはデルタカイさえも一蹴できるほどと言われている。

そもそもサイコフレームとは何だ?搭乗者の脳波を強力に感知し、サイコミュ兵装に大きく反映する特殊金属材…。本当にそれだけだろうか?

もしそれだけなら単なるファンネルの制御装置にすぎないはず。機体の強化が起きるなら別の何かがあるはずだ。

まずサイコミュとは何だ?搭乗者の脳波で操作するシステムそのものだ。

ならファンネルに限らず搭乗者の思考、意志、感情が重要なのではないのか?

俺はどうしたいんだ?サイレント・ゼフィルスに勝ちたい?いや、俺は…強くなって和也を越えたい!

そう思った瞬間、胸部が緑の燐光を放ち始める。

何だこれは…。世界が…見える!!

この状態で再びターゲットを起動した。

ファンネル、ビームライフル、ビームガン、それぞれの兵装でターゲットを撃ち抜いていく。

まるで…ターゲットがどこに出現するか手に取るようにわかる。これがサイコフレームの力なのか。

全てのターゲットを破壊した時、タイムは3分を切っていた。

これは現実なのか?

4分切ることさえできなかった俺が3分を切った。今までの俺では絶対にできなかったことを達成できた。

これで…少しは和也に追い付けたかな。

―――――――――――――――――――――――――

Side楯無

まさか、あの短時間でここまで成長するなんてね。

600のターゲットを5分内で全て破壊することだけでも十分凄いのだが、兼次はそれを遥かに上回る3分内。楯無でさえこの数を全て破壊するには6~7分はかかる。

あの光…まるで兼次くんの意志を具現化したみたい。強くなりたいっていう彼の意志を。

そういえば和也くんも言ってたっけ。兼次くんのポテンシャルは自分以上って。

ふと和也が以前言っていたことを思い出す。

『あいつなら俺なんてすぐ追い抜いてしまうさ。あいつが持ってるセンスは俺なんかより遥かに上だからな』

いよいよ私もお役御免かな~。私より強い生徒が2人もいるんだもん。

でも、まだ譲れないよね。まだ会長としてやることがあるから。

――――――――――――――――――――――――――

サイコフレームが輝いた。でもまだ先があるはずだ。

まだ俺は虹色の光を見ていない。

まだ俺は強くなれる。いつかは虹色の光を見れるはずだ。

早いとこモノにしないとな。いつサイレント・ゼフィルスが来ても勝てるように。

再びターゲットを起動する。

ターゲットの出現パターンは数億通りらしい。さらに移動パターンは400通り。

だが、どのパターンでも関係なかった。全てが見える。出現パターンも移動パターンも。

予測射撃でターゲットの出現と同時に撃ち抜くことさえ今なら簡単なことだった。

それでも慢心はしない。

慢心は敗北を呼ぶ。ミッドウェー海戦で赤城、加賀、飛龍、蒼龍の4空母を失った帝国海軍のように。

さらに上へ、虹の彼方へ。


気が付けば6時前になっていた。アリーナのピットに戻ると楯無さんがいる。

「まだいたんですか。暇な人ですね」

「兼次くん、やったね」

一瞬何のことかわからなかったが、すぐにサイコフレームのことだとわかった。

「…はい!」

「じゃあそんな兼次くんにご褒美をあげようか」

何だ?ものすごく嫌な予感しかしない。

「そんなに身構えなくても大丈夫。ただのお菓子よ」

そう言って楯無さんは袋に入ったクッキーをくれた。

「いいんですか?」

「元々差し入れとして作ったものよ」

「ではありがたくいただきます」

俺はクッキーを持って寮に戻った。

夕飯を済ませ、シャワーを浴びたあと、勉強する。

途中で休憩を挟み、ここでクッキーを食べてみた。

「うまい…」

普通に店で買ったものよりうまかった。


 
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