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僕の周りには変わり種が多い

作者:黒昼白夜
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入学編
  第7話 変わり種がやはり多い

壬生先輩に関して反応したのは十文字先輩だった。

「なるほど、警察の介入は好ましくない。だからといって、このまま放置することもできない。同じような事件を起こさない為にはな。だがな、司波。相手はテロリストだ。下手をすれば命に関わる。俺も七草も渡辺も、当校の生徒に、命をかけろとは言えん」

だが、僕の起こす行動の方向性は決まっている。

「一人で行くつもりか?」

「本来ならば、そうしたいところなのですが」

「お供します」

「さっきはCADがなかったから、花をもたせたが、待てとは言わんよな」

「あたしも行くわ」

「俺もだ」

司波さん、僕にエリカとレオが返答した。ただ、僕はそこで

「レオ。本当にいいのか?」

「なにが?」

「今回うまくいっても、警察のブラックリストにのるぞ」

「なーに。そうなれば、警察関係以外の道があるだけだ」

「そうか。その覚悟があるんだったらいいさ」

「それよりも、翔は合気術だろう? なぜかかわろうとする?」

「合気術は、護身が目的なので、たしかに戦わない。それにこしたことは無いけれど、この高校は襲われた。それはもうこの高校は、身をまもれる場では無いということだ。だから、戦わずにして勝つ。それがいいんだけど、あいにくと未熟者なので、攻撃は最大の防御ってやつでね」

という話でおちついたが、実際にブランシュが残ってるかは不明だ。警察が踏み込む可能性もあるから、逃げ出す準備をしていても不思議ではない。
ブランシュのアジトはどこかということになった。達也が

「分からない事は、知っている人に聞けば良い」

「……知っている人?」

「心あたりがるのか、達也?」

達也はだまって、出入り口の扉をひらいて、小野先生がドアの前で、困惑交じりの笑みを浮かべて立っていた。公安がこの情報をつかんでいたのか。

寸劇は少々あったが、地図データを小野先生から達也の情報端末へと送付された。その地図では、徒歩でも1時間とかからない、バイオ燃料の廃工場。達也と司波さんとで、作戦が建てられている。まるでテロリストが待っているのが当然のように。九重八雲先生から何か聞いているのかなと思って、そこはその作戦を聞いていた。

「そうだな。妥当な策だ。車は、俺が用意しよう」

「えっ? 十文字くんも、行くの?」

「十師族に名を連ねる十文字家の者として、これは当然の務めだ。だがそれ以上に、俺もまた一高の生徒ととして、この事態を看過することはできん。下級生ばかりに任せておくわけにもいかん」

「……じゃあ、」

「七草。お前はダメだ」

そのあとに、多少のやりとりはあったが、十文字先輩が「車を回す」と言って保健室を出た。そのあとレオが

「会頭と会長が十師属なのは分かったけどよ……遥ちゃんって、何者なんだ?」

本人に聞いても答えてくれないだろうから、師匠にでも聞いてみようか。

「その話はあとだ。行くぞ」

達也に続いて保健室を出ていった。



車は、オフロードタイプの大型車だったが、助手席には、保健室で盗み聞きしていた、剣術部の先輩がいた。

「よう、司波兄」

「桐原先輩」

桐原っていうのか。今度は覚えておくか。やられ役のモブキャラかと思っていたと、メタなことを考えていたが、車に乗り込んで、廃工場に向かった。



廃工場の入り口では、レオは車に硬化魔法をかけさせられて、入り口の門をぶちやぶった。そこから車で入って止まったところで、十文字先輩が

「司波、お前が考えた作戦だ。お前が指示を出せ」

「レオ、お前はここで退路の確保。エリカはレオのアシストと、逃げ出そうとするヤツの始末」

「……捕まえなくていいの?」

「余計なリスクを負う必要は無い。安全確実に、始末しろ。会頭は桐原先輩と翔で左手を迂回して裏口へ回って下さい。俺と深雪は、このまま踏み込みます」

居残りを指示されたレオも、エリカも、不平を鳴らすような真似はしなかった。レオが退路の確保というのは、キャスト・ジャミングされた場合の、防御方法に問題があるからだろう。エリカはその護衛というところか。

桐原先輩が、先に走り出したので、僕は自己加速の術式で、軽くおいかけていった。裏口を高周波ブレードでやぶった桐原先輩に、

「桐原先輩。気配とかきちんと読めていますか?」

「殺気なら、わかるぜ」

「殺気も出さずに、殺せる人も世の中にはいるそうです。僕がそういう人を見つけて、露払いをしますので、払い漏らしたのをお願いしてもよろしいですか」

聞き方によってはというか、そうでなくても、お前は格下だといわんばかりの内容だが、とりあえず、先行は自分がおこなうことになった。それでも、桐原先輩の闘気が出っ放しっていうのはやめてほしかったが、指摘をしたからといって、そういう訓練をつんでいなければ、闘気を消して、闘う意志の持続はできないものだ。

桐原先輩の前を普通の歩調で歩きながら、

「ここって、監視カメラも無いみたいですね」

「わかるのか?」

「わかりますけど……こういうのって、普通の魔法師の方が、敏感なんじゃありませんでしたっけ?」

「普通? そういう方が珍しいはずだが。お前は、自分が普通ではないと言っているのか?」

「そうですね。古流の流れをくんでいるので、現代魔法よりは、古式魔法よりになります」

「そうか。それは、いいが、さっきから止まっていない。あとどれくらい歩けば、相手にあたるんだ?」

「次の角を曲がったあたりに部屋でもあるのか、20人集まっていますので、その前で広域魔法をかけようかと思います。よろしいですか?」

「どの魔法だ?」

「氷炎地獄『インフェルノ』です。知っていますか?」

元々は、雪女用の魔法として覚えているものだ。雪女自身の体温を低くされると動けなくなるということが、伝わっている。

広域冷却魔法である『ニブルヘイム』だと、僕の能力では、二酸化炭素をドライアイスにまで作る温度へしか低下させられないので、その代わりに覚えたのが氷炎地獄『インフェルノ』だ。

今回のターゲットは人間なので、室温と体温をゆっくり低下させて、その低下させた熱エネルギーを別のエリアへ放出する、振動系の高等魔法だが、発火念力を先天性スキルともっている僕としては、単純温度低下のニブルヘイムよりは、コントロールが楽な魔法だ。

僕らを待っていたのか、それとも脱出路を確保していたのか不明だが、ブランシュの20名は体温の低下にともない、行動は抑制され、次々と倒れていく。気と呼んでいるが、現在魔法では生体波動という。それを読み取って、最後の1名が倒れたところで、魔法をキャンセルした。

角をまがる前で、魔法を行使していたので、後ろからきた十文字会長が近づいてきているが、

「桐原先輩。中にいるメンバーは全員倒れていますが、意識があるのもいるはずですので、まずは拘束しませんか?」

こちらが、手足をしばりあげて、身体を暖めるために、触れ合うようにさせてから、先にすすむのはやはり僕だが、大量のサイオン波を検知しているので、アンティナイトのキャスト・ジャミングを、達也がうけているのだろう。特別閲覧室のドアを破ったあの魔法なら、キャスト・ジャミングの影響も少ないと思うが、走ることにした。

サイオン波の総量がガクッと減ってはいるが、プシオンは減っていない。増えているのは、殺気といわれるものだろう。あいにくと、対人戦闘の経験がない僕には、人間の殺気はわからない。僕にわかるのは、妖魔と対戦した時の、こちらを殺そうとした気配に、似た感じがするということだけだ。中の気配は2名を除いて、倒れている感じだ。その現場へ近づく中で、その部屋と隔てた壁があった。

「ここに達也と、もう一人いるようです」

そういうと、桐原先輩は、手に持っていた刃挽きの日本刀に高周波ブレードをまとって、壁をきりさいて、中に入っていった。そこでひとこと

「よぉ。コイツらをやったのは、お前か?……やるじゃなえか、司波兄。それで、こいつは?」

「それが、ブランシュのリーダー、司一(つかさはじめ)です」

桐原先輩の怒気が膨れ上がるとともに、高周波ブレードにそそぎこまれるサイオン量も増えたようだ。キャスト・ジャミングが増量しているのに、不快な高周音が消え去らないが、聞こえてきたのは、

「テメエのせいで、壬生がぁぁ!」

「ぎゃああぁぁぁぁ!」

十文字先輩が入っていった後には、腕が切断された男と、その他大勢が、手足に穴があいていたところだった。

「やりすぎだ」

そう一言聞こえたが、達也のことなのか、それとも桐原先輩のことだったのか。



事件の後始末は、十文字先輩が引き受けてくれた。
僕たちの行為は、良くて過剰防衛、悪くすれば傷害・及び殺人未遂・プラス魔法の無免許使用だが、司直の手が伸びてくることはなかった。

現在、十師族の中の三番手が、十文字家。十文字家が関わる事件に、普通の警察が、関与できるはずもないのは、魔法師にとっての常識である。まあ、十師族がでてきてこなかった場合は、師匠の方で対応してくれるだろう、という読みはあったのだが、今回はその出番はなかった。

家に帰っても、残業で両親はいないのが、変なことを聞かれずに、僕にとっては救いだった。

家に帰って行なったのは今日の行動の整理だが、不可解だったのは達也が移動して、残ったはずの司波さんの周辺のプシオンの動き。十文字先輩が達也に

「残りは?」

「いません」

そのやりとりのあと、達也がCADを使用していたから、彼がプシオンの動きに影響を与えたのは確かなのだろう。達也が起動式を作り出してから、離れた場所で魔法式の効果が発動して終了するまで約0.3秒。その前には魂に付随するプシオンが離れつつあり、死を迎えようとしていたのに、その後はプシオンが急速に魂のそばに集まりだしたのは、死を脱したということだろう。達也が、わざわざ、時間がたってから行なうような、内容だとも思えないので、司波さんが殺しかけたのだろう。司波兄妹はそういう力の持ち主だということだろうと思うのだが、確信は持てない。

達也がおこなったと思われる魔法は、現代魔法はもちろん、古式にも思い当たる内容が無いことから、達也の固有スキルなのだろうが、さて、師匠にどう伝えるべきだろうか。



翌週の土曜日の早朝。九重寺の朝の練習を見に行くことにしてある。これは、達也にも伝えてあったことだ。今日は、エレメンタル・サイトと達也の特殊な魔法の口止めのレベルを聞くのが目的だ。

ブランシュの件は、翌日には、クラス内で話題に上ったくらいで、すでにおちついている。関係した生徒には、何も手がのびていないし、学校側では、再発防止などの対策も検討されているようだが、結論はいつでるのやら。

九重寺の門をまたいだところで、いきなり人が4人襲ってきたので、バックをして、門の外にでた。

「陸名くん。君もつれないねぇ」

「九重先生。お久しぶりです。けれど、僕が幻術をいきなり使ってもよかったのですか?」

「いいよ」

「はぁ。そうですか。それでは入らせていただきます」

門をまたいだら、またここの忍術使いの門人は襲ってきたが、今度は軽気功で相手の手刀にのって、いったん、相手の上をとびこえた。相手が気を扱えるレベルにはあるので、できる術だ。
相手の陣に入った瞬間に『裏気当』で1人を倒して、陣をくずしてぬけだす。サイオンがまざれば『裏当』と言うが、世間では結構ごっちゃになっている。

ここの門人は中途半端に気をもっているから、移動をしながら、『遠気当』で倒していったが、中の1人に別格がいて、こちらの気に対抗できている。そばによられて、裏拳を放ってきたので、それにあわせて手をとった投げ技と、あまりおこなわない硬気功によるけり技により、その相手が気絶したところで、

「どうでしたか? 九重先生?」

九重先生の横に立って聞いていた。残り半分となった門人の目の前からは、僕の姿は瞬間移動したようにみえただろう。

「てっきり、後ろにくるかと思ったのに、今日は横でみていたのかい?」

「今日は、1年に1回の纏衣の方を見せるつもりでしたので。ところで、1人別格な方がいましたね」

「そういえば、そうだったねぇ」

「……ところで、達也は今日もくると聞いているのですが、ここでまたせてもらってもよろしいですか?」

「彼の練習相手が少なくなったねぇ。君もまざって相手をしてくれないかい」

「達也とは体術に差がありすぎますので、遠慮しておきます。それに半分近く残っているじゃないですか」

「じゃあ、纏衣をもう一度、達也くん相手につかってみてもらえないかな」

「面倒です」

「相手をしてくれたら、もう纏衣を見せにこなくても良いと言ったら?」

「本当ですか?」

「本当だよ」

達也とは体術では、そこまでの差があるということだろう。

同時に、忍術使いからみて『纏衣の逃げ水』、他人に伝えなければ、自由に使えるということだ。まあ、師匠の方はとっくにOKがでているから、九重先生と対立しないために通っていたところだけど。実際におこなっているのは『纏衣の人形』で、九重先生は違いに気がついているはずだが、お互いに『纏衣』と言って、その後ろを省略することによって、違いはあっても他者には同じ術のようにみせる、という共通認識をしているはずだ、と師匠には言われている。

それよりも、妖魔などの、この世ざるものとの古式魔法としか認識されていない、霊能力者としての技が、今の達也に通じるのか、ちょっと楽しみだ。少なくとも今年いっぱいはかなりの波乱があるような、そんな霊感をおぼえるが、それを楽しみにしている自分に気がついていた。
 
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