ロックマンX~5つの希望~
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第五十五話 別れ
前書き
エックス達VSアクセル
目まぐるしく変わる景色を引きずりながら、エレベーターは天へと昇っていく。
熱帯林の緑が遠ざかり、茂みから飛び出した鳥達が点を描いていた。
聖書に語られる“梯子”は、時速数千キロメートルの速度で上昇している。
アイリス『軌道エレベーター・ヤコブ。コントロールシステム、オールグリーン…いよいよ宇宙ね…頑張って!!』
アイリスの激励の言葉がエックス、ゼロ、ルイン、ルナの4人の闘志を奮い立たせる。
パレット『皆さん。負けないで下さいね?アクセルを助けて…』
ルイン「勿論。スクイーズボム!!」
敵の弾を、引力の性質を持つ重力弾で吸収する。
ゼロ「雑魚が…邪魔をするな天照覇!!」
拳を床に叩きつけたゼロに向かっていくメカニロイドが、光に飲まれて消える。
エックス「ドリフトダイヤモンド!!」
冷気弾が放たれ、イレギュラー達の動きを封じると、新たな強化アーマー、イカロスアーマーのレーザーチャージショットを喰らわせる。
ルナ「てめえらなんざ、足止めにもならねえよ!!」
カマキールに変身すると同時にガードロイドを真っ二つにする。
瞬く間に敵を殲滅したエックス達が上空を毅と睨んだ。
宇宙空間に突入したようだ。
アイリス『後少しで頂上よ。準備はいい?』
アイリスの通信と同時に、宇宙への扉が開いた。
そこには、純白のボディのレプリロイド。
エックス「アクセル…」
アクセル「やあ、エックス。それにゼロも…待ち遠しかったよ。ずっと待っていたんだ。ルインとルナだっけ?君達も来てくれるなんて嬉しいよ」
ルイン「アクセル…イレギュラーハンターとしてあなたをイレギュラーとして処分します」
ルインの厳然な言葉にアクセルは笑みを浮かべる。
宿敵である2人と別方向の進化を遂げた2人が自身に戦いを挑もうとしていることに歓喜する。
ルナ「よう。アクセル…遊びに来てやったぜ?此処まで来るのに散々雑魚の相手をさせられたんだから、それなりの待遇を期待してもいいよな?」
挑発的な笑みを浮かべて言うルナにアクセルも無邪気な笑みを返す。
アクセル「勿論だよ。最高のおもてなしをするさ」
バレットを構えるアクセルにルナもバレットを構えた。
同時に放たれた銃弾がぶつかり合い、相殺される。
エックス「アクセル!!」
イカロスアーマーを解除し、チャージ速度を早めるヘルメスアーマーのヘッドパーツ。
ダメージを軽減させるイカロスアーマーのボディパーツ。
バスターの出力を向上させ、一段階のチャージショットが放てるようになるイカロスアーマーのアームパーツ。
そして最後に機動力を大幅に向上させるヘルメスアーマーのフットパーツを装着すると、かつてのガイアアーマーと同等かそれ以上のチャージショットの嵐がアクセルを襲う。
アクセル「へえ…」
アクセルはそれをローリングとホバーを駆使して回避する。
標的を失ったチャージショットは宇宙の闇へと吸い込まれた。
エックス「(速い…かつてのアクセルとは比較にならない…)」
アクセルはエックス、ゼロ、ルイン、ルナとは違い、ホバーを装備している為に防御が低い代わりに機動力が高い。
本来の力を取り戻したアクセルはかつてのアクセルとは比較することすら馬鹿らしいと思えるくらい速い。
アクセル「やるねえ、それじゃあ始めようか!!」
銃声が戦いの火蓋を切って落とす。
銃弾はルインに向けて放たれる。
アクセルが火力不足が気になってルナに連射性能を引き上げてもらったのはつい最近のことだ。
火力自体を上げると、あまり認めたくはないがアクセルの握力では反動に耐えられないため、連射によってそれを補っていたのだ。
一撃一撃の威力は低いが、あの正確無比な射撃の連射を受けたら、いくら何でも危険だ。
ルイン「手加減しないよアクセル!!」
今のアクセルに手加減は不要と感じ、OXアーマーを纏うと同時にチャージショットを放つ。
アクセルは余裕の表情でチャージショットをかわした。
ゼロ「一気にカタを着ける!!」
ゼロも強化形態を発現させ、紅いアーマーを今のアクセルとは対象的な漆黒のアーマーを纏うと同時に、通常時とは比較にならない機動力でアクセルに肉薄する。
かつてのアクセルなら見切れなかったであろう一撃。
しかし…。
眩い火花が散る。
瞬きするコンマ数秒のうちに、ゼロの一撃はかわされ、逆に肩を撃たれていた。
“Z”の文字を刻んだプレートが、弧を描いて、乾いた音と共に地面に落ちた。
ゼロ「ぐっ……」
アクセル「思ってたよりも速いね。まあ、僕には遠く及ばないけど」
潜在能力を解放されたアクセルは元々高かった機動力が強化状態のゼロでも相手にならない程にまで強化されていた。
ゼロの傷は関節をイカれさせる程ではないため、表情を歪めるだけに留める。
エックス「レーザーチャージショット!!」
ルイン「ダブルチャージショット!!」
ルインとエックスがダブルチャージショットとレーザーチャージショットを繰り出すが、性能が以前とは比較にならないホバーで、回避され、アクセルのバレットが光を放つのと同時に形を変えた。
ルナ「何!!?」
アクセル「驚くことはないでしょ?コピー能力の応用。今の僕ならDNAデータさえあればこれくらい出来るよ。他人に頼らなくてもね!!バウンドブラスター!!」
バウンドブラスター。
トリロビッチのDNAデータにより、使用可能となった反射エネルギー弾が壁と床に反射し、ルナを撃墜する。
ルイン「ルナ!!よくも!!」
ルインがアルティメットセイバーを構えてアクセルに突進する。
アクセル「ルインのは確か、キャプチャリングシステムだっけ?」
渾身のチャージセイバーをかわすと同時にバレットをルインに向ける。
バレットが形を変え、かつてアクセルが使用したギガランチャーに酷似したバズーカに。
パンデモニウムのDNAデータにより、使用可能になったのだろう。
アクセル「エックスのウェポンチェンジシステムやゼロのラーニングシステムもそうだし、DNAデータを組み込むのも色々あるんだねえ…ブラストランチャー!!」
ブラストランチャーの手榴弾がルインに炸裂する。
ルイン「うっ!!」
まともに手榴弾の爆発を受けたルインは地面に叩き付けられた。
エックス「ルイン!!」
アクセル「他人のことを気にしてる場合?ブラックアロー!!」
ボウガンを思わせる銃を向けると追尾性能を持った矢がエックスの腕に掠る。
エックス「それは…」
レイヤーが倒したカマキールのDNAデータにより使用可能になったブラックアローだ。
ルイン「っ…」
痛みに顔を顰めるが、死は逃れている。
ゼロもルナもエックスもダメージから回復し、構えた。
流石は伝説のレプリロイドと別方向の進化を遂げたレプリロイド。
アクセルはエックス達の実力に本気で恐れ入った。
アクセル「ふふ。でもこんなんじゃ駄目だね」
ルナ「くそ…、スピードが桁外れ過ぎる…こんなんアリかよ…」
彼女は唇を噛み締めながら、アクセルを見つめる。
純白のボディが、ヤコブの照明に照らされて神秘的な光を晒していた。
吊り上がった瞳が鮮血の如く不気味で、美しいのに何処か汚れていた。
エックス「アクセル…」
アクセル「そう、あんた達を超えるために造られた、進化したレプリロイドなんだよ」
ゼロ「何が進化だ…」
吐き捨てるゼロにアクセルは笑みを更に深くした。
アクセル「昔々、とっても優秀な2人の科学者がいた。1人はいい人で、もう1人は悪い奴だった。僕は悪い科学者…アルバート・W・ワイリーの正真正銘、最後の作品なんだよ。一応ね」
その言葉にエックスとゼロは呼吸を止めてアクセルを見入る。
アクセル「今まで沢山の科学者があんた達を目指してきた。じいさんがいなくなってから僕の開発を進めていたあいつもロクでもない奴だったなあ。正確には僕はワイリーナンバーズと言うよりワイリーナンバーズの技術が使われたレプリロイドってのが正しいかも。あいつが色々弄ってたし。でもまあいいや、今となってはどうだっていいことだし」
彼は投げやりに話を終わらせるとバレットを握り締めた。
ルイン「アクセル…」
アクセル「今の僕の最優先事項はあんた達を倒すことだからさ」
ルナ「そんなこと…させるかよ…」
バレットを握り締めながら立ち上がるルナにアクセルも笑みを深めた。
アクセル「じゃあ、まず君から鉄屑にしてあげる。その後、エックス達を殺してあげるよ!!」
狂った笑い声が静寂の闇に昇っていく。
冷たい空気の温度を更に冷まし、凍りつかせてしまう程に。
冷え固まった空気の中に、乾いた哄笑が虚ろに小霊する。
しかし、笑いが急に途絶えて、アクセルが頭を抱えて呻き出した。
アクセル「…た…す、け……て…」
ルナ「え?」
先程とは打って変わって掠れた声が彼から漏れる。
鮮やかな紅い瞳が濁り、苦しげに息を繰り返した。
アクセル「助けて…」
顔がくしゃくしゃに歪んでいた。
浮かぶのは狂気ではなく、苦痛と恐怖であった。
ルナ「アクセル!!」
アクセル「怖いよ…こんなの嫌だよ…僕……ああ!!」
乾いた銃声が響き、銃弾がルナの頬を掠った。
気がつけば、残酷な彼に戻っていた。
瞳に狂気が宿る。
アクセル「やだなあ、隙だらけじゃない。そんなんじゃ僕を倒せないよ?」
エックス「アクセルお前!!………」
激昂したエックスがハッと硬直した。
彼の瞳に宿るものが、彼の胸中を雄弁に語っていた。
彼を支配するのは、苦痛と恐怖、絶望であった。
“殺して”
“助けて”
双眸が必死に彼の本心を叫んでいた。
アクセル「ほら早く…こんなチャンスないよ?これで撃てなかったら…ハンター失格だよ…?撃てないっての?撃てなきゃ殺しちゃうよ?ほら…」
もう1つ銃声。
今度はエックスに向けられていた。
震える銃口から発射された弾は、エックスから大分離れた場所に飛んでいく。
彼の中で2人のアクセルがせめぎ合い、彼の支配権を得ようとしているのが分かった。
ルイン「アクセル…」
アクセル「いいから早くって言ってるだろ?早くしてよ!!伝説のレプリロイドって称号は偽物なの!!?皆を守るって誓いは口だけ!!?」
エックス達は武器を構えたまま動けなかった。
アクセルの気持ちに応えなければ、そう思っていながら、エックスもルインも、ゼロでさえ最後の一撃を出せないでいた。
誓ったはずなのに身体が動かない。
エックス「(俺達は、たった一人の仲間さえ助けられないのか…!!?)」
アクセルの意識は限界であった。
もう1人のアクセルが、自我を侵していく。
貧血で気が遠くなるような感覚が、寒気と共にアクセルに襲い掛かる。
倒れるわけにはいかない。
倒れたら…残酷な自分に戻ってしまう。
アクセル「早く…」
パァン……!!
迷いを断つ真っ直ぐな音がアクセルの頭を撃ち抜いていた。
ルナが放った一撃は、頭のコアを割り、頭部を貫く。
隙間を通したような、針の穴に通すかのような鮮やかな一撃であった。
ルナ「…ごめん」
アクセルは呆然と彼女を見つめている。
数瞬の間を置き、アクセルの身体が、糸の切れた傀儡のように崩れ落ちた。
後書き
アクセル撃破。
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