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第四章


第四章

「何かな。これってよ」
「どうかしたの?」
「いや、何かな」
 彼は言うのだった。
「不思議な感じがするな」
「不思議な感じって何かあるの?」
「これって普通のブレスレットだよな」
「そうだけれど」
 占い師に貰ったといってもだ。彼女は御守りに思っていた。それをそう思いながらそのうえでまた彼に対して言うのであった。
「御守りだと思って」
「御守りか」
「だから最低でもバイクに乗る時はね」
 そしてまたこのことを彼に話す。
「つけていてね。御願いだからね」
「そうだな。御前はバイクには絶対に乗らないからな」
「ああ。だから私と思って余計に」
「わかったよ、優子」
 ブレスレットに顔を向けての言葉だった。
「それじゃあ。有り難くな」
「頼んだわよ、絶対に」
「それはわかったけれどよ。ちょっとな」
「ちょっと?」
「どうなんだよ。心配し過ぎじゃないのか?」 
 首を傾げながら優子に言うのだった。
「ちょっとな。幾ら何でも」
「そう思ってもらってもいいから」
 優子にとってはそうだったのだ。彼女にとっては走輔はかけがえのない存在だった。だからこそ何としても失いたくなかった。それでこうまで言ったのだ。
「だから。絶対にね」
「よし、じゃあ本当にいつも身につけておくな」
 走輔は今自分の心にも誓ったのだった。
「それ、約束するぜ」
「本当によ。絶対にね」
「ああ、絶対にな」
 走輔は彼女の言葉にも誓った。そうしてそのうえでブレスレットを常に身につけるようになった。それから暫く経ったある休日。走輔は山道にいた。右手が岩山で左手が海のそこは急斜面とカーブが続く複雑な道だった。彼は今そこをレース仲間と一緒にいた。
「おい、何かやばいな」
「そうだな」
 バイクスーツ姿の面々が上を見上げて言っていた。
「今にも降りそうだな」
「今日は晴れだったんじゃなかったのかよ」
「もうすぐ終わるか?それじゃあ」
「おい、何言ってるんだよ」
 しかしここで走輔がその仲間達に言うのだった。彼は赤いバイクスーツである。体型がはっきりとわかる実に格好のいいスーツ姿だった。
「まだこれからじゃねえかよ」
「これからか」
「そうだよ、これからだよ」
 彼は仲間達と同じく上を見上げていたがそれでも平気な顔をしていた。
「これから。レースはよ」
「雨でもやるのかよ」
「マジかよ、それ」
「マジに決まってるだろ」
 彼の返事は彼の中では決まっていることだった。
「こんなので止めてどうするんだよ、一体」
「いや、このコースはかなりやばいからよ」
「止めた方がいいだろ、やっぱり」
「だよな」
 仲間達は曇った顔で彼に告げるのだった。
「事故とか起こしたらそれこそな」
「海に落ちるか」
 ここで皆その海を見る。そこはまさに崖でその下に青い海が白い波を立てていた。その青は空が曇ってきたせいか不気味な鉛の色になってきていた。
「それか岩にぶつかってな」
「終わりだぜ」
 岩は暗灰色だ。それを見てもやはり不吉なものがある。彼等は天候が悪くなってきたせいかどうにも不吉な考えにもなってきていたのだ。
「やばいだろ、もうな」
「雨だとどうしてもスピードも出ないしな」
「じゃあこれで最後にするか?」
 走輔は周りがあまりにも消極的なので遂に憮然としながらも折れた。
 
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