銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません
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第百九十話 増加装甲の絡繰り
前書き
大変お待たせしました。
小説改訂の息抜きに書きためていたものが完成しましたのでUPしました。
今回は、ミサイル艦と揚陸艦の話と増加装甲の絡繰りです。
宇宙暦795年 帝国暦486年 2月4日
■イゼルローン回廊 イゼルローン要塞
同盟軍と帝国軍との一進一退の攻防がなされる中、エッシェンバッハが指摘した通りに、ミサイル艦と揚陸艦の混成艦隊はイゼルローン要塞主砲トールハンマーの死角を通り要塞側面へと展開をはじめていた。その動きをオペレーターが逐次報告する声だけが司令室に響く。
「敵混成艦隊、要塞側面の攻撃ラインに乗りつつあります」
「敵艦隊の集結まで後30分ほどです」
その声を聞きエッシェンバッハが命令を出す。
「要塞内の全員に告げる。これより敵のミサイル攻撃が開始される、総員ショックに備えよ!」
既にホーランド艦隊がミサイル攻撃をする付近は第三層に至るまで無人化されたうえ万が一に備えて徹底的なダメージコントロール準備が整えられていた。更に商店や歓楽街などで働く民間人などは中央付近の軍事シェルターを開放して避難済みであり、万が一があっても民間人の生命を守れるように徹底的に考慮されていた。これまでの帝国であればこの様な事はほぼ無かったのであるが、テレーゼの命によりエッシェンバッハがそれを実行していた。
更にエッシェンバッハは各提督達に命令を出す。各提督は既にそれぞれの役割ごとに準備を済ましてその命令を聞く。
「ロイエンタール、ワーレン艦隊は当初の予定通り揚陸艦の要塞到着後にミサイル艦隊の撃退を行え」
『『はっ』』
「他の者は別段命があるまで現状維持をせよ」
『『『『『『『『はっ』』』』』』』』
今か今かと待ちわびるのは、同盟軍、帝国軍とも同じであったが、同盟軍は敵の目を誤魔化ししてやったりと歓喜をあげる寸前で有ったが、帝国軍は早く来い早く来いと手ぐすね引いて待ちかまえている状態で有った。
そして遂に同盟艦隊が攻撃陣系を取るやいなや、エッシェンバッハの顔が真剣な表情と成った。
「敵艦隊ミサイル発射しました!」
流石に話を聞いていても半信半疑なのかオペレーターの声は多少うわずっていた。
同盟軍ホーランド分艦隊二千隻のミサイル艦から雨霰のようにレーザー水爆ミサイルが次ぎ次ぎに発射されそのミサイルの爆発によりイゼルローン要塞の側面に大爆炎が輝いているように同盟側からは見えるが、当のイゼルローン要塞には爆炎の凄まじさに比べ殆ど振動らしき物は感じられなかった。
「敵ミサイル爆発、当方の損害有りません」
信じられないという風にオペレーターが報告を行う。
何故、レーザー水爆ミサイルの爆発にイゼルローン要塞が平気なのか?いや実際の所イゼルローン要塞の流体金属とは言えミサイルの飽和攻撃には耐えられないのである。それが何故損害がないのか、それは周到に準備された指向性ゼッフル粒子の層が要塞からホーランド艦隊に向かって五段階にも及ぶ目に見えない機雷原を形成しており、イゼルローン要塞の大規模コンピューターにより絶妙なタイミングでそれらを爆破してミサイル群をまきぞいにするという方法がとられていたからであり、非常に派手な爆発が見えた為にホーランド艦隊からすれば要塞上でミサイルが派手に爆発して見えたのである。
ホーランド艦隊旗艦ミサイル巡洋艦タイコンデロガ艦橋ではドヤ顔のウィリム・ホーランド少将が端から見れば非常に気持ちの悪い笑い声を上げながら唸っていた。
「ウゥハハハハハ、どうだ我が艦隊のミサイル攻撃の威力は、イゼルローンの鉄壁に穴が空くではないか!」
「はぁ」
そんな姿を隣の参謀長はあきれ顔で溜息をつきながら見ていたが、そんな事もお構いなしに笑うホーランドは矢継ぎ早に命令を放つ。
「ようーし、更にミサイルを連続発射せよ!このままイゼルローンへの進入路を削掘してしまえ!」
矢継ぎ早に打ち出されるレーザー水爆によりゼッフル粒子の機雷原は消滅していよいよイゼルローン要塞の流体金属層にミサイルが着弾しはじめる。しかしよく見ると、放たれるミサイルの数に対して流体金属層に突き刺さるミサイルの数が圧倒的に少なかった。それは直径二十kmの増加装甲の外縁に流体金属層から飛び出る形で堤防状の突起が作られ其処に老朽化のために廃棄予定で有った数千機のワルキューレが固定され対空レーザーとして運用されミサイルを打ち落としていたからである。しかもワルキューレはそれぞれの発射範囲だけを打ち続けるだけで有り、ミサイルを自動追尾することはない為、撃ち漏らしはあるが、それは許容範囲であり、複雑な電子機器の追加などを行うことなく安価に廃品利用が出来た為、予算的にも非常に優しい物であった。
それでも流石に二千隻の放つミサイルの量は半端ではなく着弾するミサイルが増え始め爆炎と共に流体金属が飛び散り蒸発し津波のように着弾点から同心円状に流れ出す。ここに至ってはイゼルローン要塞内も振動が発しはじめるが、皆騒ぐことなく落ち着いて行動を行っていた。
流体金属層が押し流され、その下の増加装甲に着弾をはじめ爆発と共にレーザー水爆の高熱で昇華したり蒸発した以外の残骸が飛び散るのであるが殆どがキラキラ光る物質と何やら同盟軍としては普段見慣れている色の残骸であり、噂に聞いたハイパーカーボンやチタンセラミック複合装甲らしき物ではないのであるが、遠距離からでは判らない状態で有った。
要塞司令部では、テレーゼがさも関心したかのようにエッシェンバッハに話しかけていた。
「元帥、流石ね。これだけの鉄壁の守りは古今東西無いでしょう」
「御意」
「しかし、考えたものね、スパイに知られないようにイゼルローンの装甲強化をするとは、しかもそれがパイクリートで、水は辺境宙域の灌漑のために輸送した中に混ぜて誤魔化し、それと共に各星系の古新聞を集めた物とは黒狐だって思い浮かばないでしょうからね」
(パイクリートとは水にパルプを混ぜた物で第二次世界大戦中にイギリスやアメリカで氷山空母計画が有りその原料として使われた物で千トンクラスの実験船はカナダで実際に建造されている。更にディスカバリーチャンネルの怪しい実験で新聞紙パイクリートの対弾実験を行いライフル弾を受けても壊れないという強度を見せている)
「実際の所、此処まで強度があるとは驚いております」
「フフフ、それだけでは無くあの残骸も良く役に立っているわよね」
宇宙に漂う深緑色の残骸をテレーゼが指さす。
「御意」
「イゼルローン回廊に浮遊する、叛乱軍の艦艇の残骸をサルベージしてズラッ並べて接着剤のパイクリートと混ぜて装甲板に転用したとは、想像も付かないでしょうからね。尤も叛乱軍の艦艇は攻撃力は強いけど防御はなおざりだから何処まで行けるか心配だったけど、流石に何層かに並べておけば結構丈夫よね。流石はブリガージンの首飾りよね、見事に孤高の女王(イゼルローン要塞)を護っているわ。叛乱軍に流した情報ではブリガージンの首飾りがあると伝えたけど、本来首飾りは体に密着するものだから、アルテミスの首飾りのように周りにまわっている方が変なのよね」
「御意、敵も密着して居るとは思っていないでしょう。装甲の強度は満点と言えましょう。尤も敵の侵入ルートの関しては装甲を薄くしておりますのでその付近は早く破られるかと」
「ええ、そろそろ敵も揚陸艦を出すよね?」
「御意、流体金属が捲れ上がり、増加装甲板に穴が空きつつありますので、そろそろかと」
エッシェンバッハの応えに満足したのかテレーゼは傍らのオフレッサーに話しかける。
「装甲擲弾兵総監、そろそろ卿の出番よね」
そう言われたオフレッサーは頬の向こう傷を触りながらニヤリと笑みを浮かべる。
「そうですな殿下、敵が要塞へ入りたいというのですからそれ相応の対応をしてやらねば成りませんな」
「そうね、例え玄関のノックにレーザ水爆ミサイルを撃ち込んで来るような招かれざる客とは言え、丁重にお出迎えして帝国流の至れり尽くせりのサービスをしなきゃ帝国の沽券に関わるわね、その為に装甲擲弾兵を五十万人も呼んだんだからねっ」
テレーゼがニコリとウインクするとオフレッサーが大笑いしながら応える。
「ガッハハハハ、そうですな。部下共々最近は訓練ばかりで腕が鈍りそうでしたからな精々歓迎してやるとしましょうか」
そんな遣り取りをエッシェンバッハは額に手を翳して苦虫を噛みつぶしたような顔で見つめ、ゼークト駐留艦隊司令官、シュトクハウゼン要塞司令官、グライフス総参謀長以下の面々は唖然とした顔で見つめていた。
「オフレッサー装甲擲弾兵総監、卿と装甲擲弾兵の活躍に期待するわ。けど無茶だけは禁物だからね」
「はっ、殿下のご期待に添える様に致しましょう」
そう言うと、オフレッサーは彼にしては珍しい程のバッチリ決まった敬礼をテレーゼとエッシェンバッハに行い、副官を連れて司令室から退出していった。
ホーランド艦隊では要塞からの迎撃が殆ど無く要塞表面が次ぎ次ぎに穴が空き侵攻可能と判断されたために、揚陸艦の出撃を命じる。
「よし、敵の反撃はもう無いぞ、今こそ要塞を奪取するときだ!この俺ウィリム・ホーランドがイゼルローン要塞をこの俺が奪取するのだ!未来の元帥ウィリム・ホーランドがだ!」
「閣下、揚陸艦隊出撃準備完了です」
参謀長が呆れながらも坦々と自分の役割を行いホーランドに準備完了を伝える。
「おう、揚陸艦隊出撃せよ!」
「揚陸艦隊出撃せよ」
オペレーターが復唱し揚陸艦隊旗艦サン・アントニオに命令を伝達すると揚陸艦隊司令官ハーベイ少将がスクリーンに現れ敬礼しながら応対する。
『諒解した、我々がイゼルローン要塞を見事に奪取して見せよう。敵の捕虜になるような間抜けなローゼンリッター共と違う所を見せてやろう』
『期待しているぞ』
ホーランドの不敵な笑みに同じく不敵な笑みで返したハーベイは進撃を命令した。
「全艦進撃、ホーランド艦隊の空けた穴に艦を突撃させよ。我等の手でイゼルローン要塞を攻め落とすぞ!」
「「「「「「おうー!」」」」」」
艦橋内に歓声が上がる。
その歓声をバックにしたかのように千隻の揚陸艦が十万人の陸戦隊員を乗せ最大戦速でイゼルローン要塞へと接近するが、危惧していた要塞側からの攻撃は一切無く、易々と第一層付近に次ぎ次ぎに接舷すると艦首の強襲揚陸用ハッチを接触させ高熱で要塞外面を溶かしきると、艦内から次ぎ次ぎに陸戦隊員が躍り出てくるが、其処で確実有ると想定していた帝国側の迎撃すらなく拍子抜けする。
その為に僅かな時間で陸戦隊十万人が要塞第一層の一点に集結していた。
「第三師団総員一万八千名異常なし」
「第四師団総員一万八千名異常なし」
「第七師団総員一万八千名異常なし」
「第九師団総員一万八千名異常なし」
「第十一師団総員一万八千名異常なし」
「第十九特殊連隊総員三千名異常なし」
「第二三三海兵連隊総員三千名異常なし」
「第五四志願兵部隊総員三千名異常なし」
「司令部直衛大隊千名異常なし」
次ぎ次ぎに点呼された部隊は多くの者達が軽口を叩きながら早速イゼルローン要塞中心部に向け進撃を開始した。尤もその先に如何なる未来が有るのかは神のみぞ知る状態で有ったが、その先にはオフレッサー率いる装甲擲弾兵五十万人が手ぐすね引いて待ちかまえているのであるからそれほど明るい未来では無い事は推して知るべしであろう。
後書き
本来であれば、要塞の増加装甲とかの材料を収集したり輸送すればフェザーンに知れ渡りますから、そこいらに転がってる残骸と以前の話で出てきた灌漑目的で輸送した水を一部流用するだけですからね、新聞紙も帝国では未だに紙の新聞が多く出ているので集めることも可能なはず。
中々登場しなかったブリガージンの首飾りの正体が氷の増加装甲だったわけです。
第五四志願兵部隊は自己設定ではフェザーンなどから移民してきた同盟語が堪能でない兵達で社会の底辺に居る貧困者と差別を受けている者達が社会的に地位を上げようと志願した部隊ですが、実態は今までの捨て駒だったローゼンリッターが捕虜になった為に急遽編成された捨て駒部隊です。
次回は、小説改訂の息抜きに少しずつ書きためますので、遅れるかも知れませんが御了承頂けたら幸いです。
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