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戦国異伝

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第百八十六話 国崩しその五

 その彼等の中を進んでだった、顕如は信長のいる本陣まで来た。そしてそこに用意された場においてだった。
 双方は会った、信長は再び顕如と対した。まずは顕如が言った。
「織田殿のお言葉承りました」
「左様か、それでは」
「降り申す」
 そうすると言うのだった。
「そして石山も明け渡します」
「そうしてくれるか」
「はい、しかし」
 ここで顕如は信長にこうも言った。
「この度の戦は全て顕如に責あること」
「だからと言われるか」
「責は全て顕如は背負います」
 それでというのだ。
「どの僧達にも門徒達にも罪はありませぬ」
「その者達にはというのか」
「咎なき様お願いし申す」
「この度の戦のことじゃが」
 信長は顕如の言葉にすぐに答えなかった。
「顕如殿が命じられたことか」
「いえ」
 それは違うとだ、顕如は信長に毅然として答えた。
「それは違いまする」
「あくまで当家の足軽達がしたことだというのじゃな」
「左様であります」
「こちらも命じておらぬ」
 本願寺に仕掛けろという様なことはというのだ。
「決してな」
「お互いにそうですな」
「当家はそちらと揉めるつもりはなかった」
 全く、というのだ。
「それはな」
「我等もです」
「しかし戦は起こりじゃ」
 それにというのだ。
「こちらに仕掛けて来るのは闇の具足や服を着た随分と鉄砲を持っておる者達ばかりじゃった」
「鉄砲ですか」
「雑賀衆は鉄砲を持っておるが」
 信長は雑賀も見ながら言う。
「しかし何十万の兵がそれに見合うだけの鉄砲を持っておるか」
「それは」
「当家位じゃ」
 何十万もの数の軍勢に見合うだけの数の鉄砲を持っているのは、というのだ。
「島津もかなり持っておるというが」
「では」
「本願寺は持っておるまい」
 こう顕如に言うのだった。
「雑賀衆は別じゃがな」
「しかし雑賀衆は」
 顕如も言う。
「あくまで紀伊、そして石山におり」
「近江や越前、加賀にはおらんかったな」
「左様です」
「そして闇の服もじゃな」
「本願寺の色は灰色」
 顕如はこのこともはっきりと答えた。
「闇などは」
「とてもないな」
「灰色以外の服や旗で動くことはありませぬ」
 それが本願寺だというのだ。
「何があろうとも」
「そうじゃな。お互いに仕掛けておらぬ」
「ではこの戦は」
「何者かが我等を争わせた」
 そうした戦だったとだ、信長は看破して言った。
「そう考えるが妥当であろう」
「では我等を争わせたのは」
「それが誰かはわからぬ」
 そこまでは信長でもわからなかった。 
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