魔法少女リリカルなのは平凡な日常を望む転生者 STS編
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第62話 帰る場所
前書き
こんにちはblueoceanです。
もう12月中旬。長期休暇も来週と年末が近づいてきていますが、そのせいか、仕事が忙しく中々すすみませんでした………
12時過ぎると眠い眠い………
「ディバインバスター!!」
なのはのピンク色の砲撃がヴィヴィオに向かって放たれる。
「………」
叫び続けたヴィヴィオだが、もう叫び疲れたのか小さな唸り声のような声を上げ、攻撃を避ける。
更にブラスターモードによって現れた一基のビットからも砲撃が繰り出されるが、ヴィヴィオはそれを避け、なのはに肉迫する。
「くっ………!!」
攻撃を受け止め、ビットの攻撃の隙に距離を取る。これの繰り返しが続く。
今のヴィヴィオ自身に深いダメージを与えるわけにはいかず、更に時間も稼がなくてはいけない。
「ヴィヴィオ、しっかりして!!」
声をかけ、正気に戻そうとするがヴィヴィオの反応は無い。ただ敵を殲滅する為に動き続ける。
「あうっ!?」
そんな中、声を掛けた一瞬の油断の内に、ヴィヴィオが飛ばしたボルティックランサーがなのはの足をかすめる。
「………」
その隙をヴィヴィオは見逃さなかった。動きが止まったなのはにすかさず追撃に出る。
「!?」
それを止めたのはなのはが展開したビットだった。
「………」
勢いは殺がれたものの、ヴィヴィオは再びなのはへと向かう。それをビットが止めようと攻撃を続けるが、全て避けられ、あっという間に間合いを詰められてしまった。
「!?」
しかしそれはビットのバインドによって止められてしまう。その隙になのはは立て直し再び距離をとった。
(もうこれでブラスタービットを二基………バルトさんごめん、私、無茶しちゃうかも………)
そう心の中で謝りつつ、再びヴィヴィオに砲撃を繰り返す。ビットが二基になった事で更に攻めづらそうにヴィヴィオはなのはの攻撃をしのいでいる。
「くっ………!!」
傷口から発生した痛みに耐えつつ、なのはは攻撃を続ける。全てはバルトの時間を稼ぐため。
「アクセルシューター!!」
今度は自身がよく使う誘導弾を拡散させ、ヴィヴィオを包み込むように発射した。
「………」
ヴィヴィオはそれをボルティックランサーで相殺しつつ、自分の拳で一個一個消していく。
「!?」
しかしなのはの狙いはそれだけではなく、ビットから跳ね返ったアクセルシューターがヴィヴィオの視界の外から襲った。
「……!!」
しかしヴィヴィオはあえて前へと進む。
「ヴィヴィオ………!!」
そんなヴィヴィオになのはは追撃出来ず、後退しながらアクセルシューターで勢いを削ぐ。
「バルトさん、早く………!!」
なのはは焦る気持ちを必死に抑えつつ、ヴィヴィオと戦うのだった………
「くっ………!!」
「はあああああ!!」
アルトアイゼンの左腕から連射される魔力弾を避けるクレイン。
(まさかロングレンジで対応してくるとはね………)
零治と似た様な抜刀術で挑んでくると思った桐谷は敢えてクロスレンジに持ち込まず、ロングレンジでの戦闘方法で戦っていた。しかしアルトアイゼンの唯一のロングレンジで攻撃できる武器は左腕のマシンキャノンのみ。当然ロングレンジを得意とする魔導師にとっては勝負にならないが、今戦っているクレイン、いや、零治のフォームに対しては有効だった。
(これ位の弾幕、簡単にかいくぐれるが………)
それでもクレインは一歩を踏み出せないでいた。その原因がアルトアイゼンのクレイモアにあった。
(無理に突っ込んでも必ず射程距離内に入ってもあの両肩の砲撃に………)
零治のこの戦闘スタイルにはロングレンジの技が少ない。ある技は殆ど強力なものであり、その分技を繰り出すまで時間がかかる。しかしそれは僅かな時間である。だが桐谷はそこを見逃さない。
「零治の奴とは何度も実戦に近い状態で戦ったことがある。零治と殆ど同じならこれほどやり易い相手はいない!!」
そう宣言するが、特に何かをするわけでもなく先ほどと同じ様に隙を与えぬよう射撃を続ける。
「面倒な………」
零治の場合、転移など同じ戦法をされても対応出来る方法は幾つかある。実際に同じ状況でも一気に形勢を逆転する事は良くあった。
クレインの場合は圧倒的に戦闘スキルが足らず、どう状況を打破するか、決めかねていた。
「これで戦うと言った以上変えるのは気が進まないが………仕方がないか………」
そう呟くとクレインは魔力弾を発射している桐谷の方へと突っ込んでいった。
「勝負に来たか!!………だが!!」
桐谷のクレイモアの射程圏内に入った所で攻撃方法を変更。直ぐに発射しようとした時だった。
「なっ!?」
肩のスラスター目掛けて投げられた刀と鞘が発射する前に突き刺さった。
「しまっ!?うおっ!!」
発射を止められずスラスターの中で爆発するクレイモア。その衝撃は凄まじく、何とか体勢をキープしたものの、その勢いに身体は膠着してしまった。
「もらった!!」
それを好機と見たクレインが大吾の大剣に似た魔力刃を展開し、桐谷に斬りかかった。
「ぐうっ!?」
「何と硬い装甲だ!!魔力でさらに補強でもされているのか?………!?」
「貫く!!」
大剣で斬られ、装甲に痛々しく斬り口が残っている中、関係無いと言わんばかりにステークでクレインを突き刺そうとした。
「くっ!!」
とっさに大剣を盾にした事でガード出来たクレイン。しかしステークはそれすらも貫く。
「何!?」
「貰った!!」
予想だにしない事態に驚いている中、桐谷はそのまま貫かんとクレインにステークを向ける。
「っ!!しかたが無い!!爆破!!」
そうクレインが叫ぶと砕いた大剣が光り、一気に爆発する。
「ぐおおおおおおお!!」
「くううううううう!!」
互いに爆発に巻き込まれ吹き飛ばされる。
「流石に自分を巻き込んでまで自爆することになるとは思っていなかった………損傷が少なくて済んだのは幸運だった………そして………」
そう呟きながら桐谷を見る。アルトアイゼンの装甲は見る影もなく、ボロボロだった。
「もう満身創痍だね。あの斬った損傷の影響が大きかったかな?」
勝ち誇った笑みを浮かべ、楽しそうに話すクレイン。
「………一つ良いことを教えてやる」
「何だい?」
「勝負の途中で勝ちと思えば負けなんだよ!!」
そう言うと光に包まれ、桐谷はアルトアイゼンよりも大きく分厚い装甲を持ったアルトアイゼン・リーゼとなった。
「………確かバルトマンとの戦いで1度見せているね………それが君の奥の手ってことかい?」
「さあな?………さあ、第二ラウンドだ!!」
(何だ………ここは………?)
何も見えない、何も聞こえない。静寂が包み込む世界に佇んでいる。
(俺は………誰だ?)
確認しようにも身体のどの部分も感覚が無い。暗闇の中、本当に自分は存在しているのか不思議な位何も無かった。
(これは死なのか………?もっと違ったような気がするけど………)
そんな事を思いながらも何故か意識だけはあった。だがその意識も徐々に薄れていくのが分かる。
(ああ………これは死ぬとかじゃ無い、消えていくんだ………)
何の痛みも恐怖も感じない、不思議と平気な自分がいた。
(ああ………)
どんどん薄れゆく意識の中、ふと自分の中に浮かび上がるものがあった。
(顔………?)
ふと浮かび上がってくる3人の顔。
(誰だっけ………?だけどとても大事な人の顔の様な気がする………あれ?他にも………)
その後にも3人よりも少し幼い顔が3人浮かび上がった。
(誰だ………?何で思い出せない………忘れちゃいけない………忘れられない筈なのに………)
薄れていた筈の意識が徐々に元に戻りつつあった。
(俺は………)
「それじゃあ皆、俺はここまでだ」
クレアの案内で零治の元へと向かおうとした4人に対して、カウンターに立っていたウォーレンが言い放った。
「えっ、どうして!?一緒に行こうよ!!」
「そうですよ、一緒にレイを……!!」
そう言いかけて星は消えかけているウォーレンの右手が目に入った。
「………時間切れだ。俺は近いうちに消え去る」
「そんな………せっかく会えたのだぞ?」
「もうお別れなの………?」
消えそうな声でウォーレンに近づきながら話す夜美とライ。
「充分さ。本来ならこうやって顔を合わすことだって叶わないはずだったんだ。それが何の奇跡か、短い間だったけどこうやって会えた事に俺は満足してる………」
「私達はもっとお話ししたかったです………」
星は涙を浮かべながらそう呟く。
「………嬉しい限りだな。だが今やるべきことを間違えるな、お前達がやらなくちゃいけないのは零治のアホを起こすことだ」
「だが………」
「俺だけじゃなく零治まで失うつもりか?俺が消えるのはもう決定事項だ。だが零治はまだ間に合うだろ?」
そんなウォーレンの言葉に3人とも意を決したのか、浮かべていた涙を拭い、戦闘の時の顔になった。
「それで良い。頼むぞ3人共、あの手のかかる相棒………いや、息子を救い出してやってくれ!!」
「はい!!」
「任された!!」
「だから安心して『お父さん』!!」
ライにそう言われ、口をポカンと開け、呆気にとられるウォーレン。
そして大きく笑い出した。
「はははは!!全くライは本当に素直だな!!」
まだ消えていない左手でライの頭を撫でるウォーレン。
「ありがとう、お前達と会えて本当に良かった。最後に……クレア!!」
「………何?」
「零治の身体で好き勝手やってくれたな」
「………」
「だがお前のおかげでこうやって娘達に会うことが出来た、感謝してる………本当にありがとう………」
「えっ………!?」
罵声を浴びせられると思っていたクレアはウォーレンの感謝の言葉に心から驚いた。
「じゃあ急げ、零治もおそらく時間が無い、頼んだぞみんな!!」
「はい、行って来ますお父さん!」
「我等が必ず連れて帰る、だから安心してくれ父よ」
「僕達に不可能は無い!!」
「………ああ、分かってる」
そう返事を返したウォーレンの言葉を聞いて、皆前を向く。
「………行きましょう!!」
そしてエリスの言葉で皆外へ出て行った。
「……………行っちまったか」
もう下半身が消えてしまっている中、ウォーレンは皆が出て行った方を見て呟いた。
「お父さんか……嬉しかったな………」
先程のことを思い出しながら1人呟く。
「……ああ。………分かってることだし、覚悟してたことだけど………やっぱり消えたく無いなぁ………」
消えそうなほど弱々しい声で呟くウォーレン。その頬には涙が流れていた。
「じゃあな………幸運を祈る」
ウォーレンは誰もいないカフェの中でそう呟き、静かに消えていった………
「くそっ、何処だよ!!」
なのはがヴィヴィオを抑えている間、ヴィヴィオを操っているであろうイクトを探すバルト。
部屋を出て闇雲に探すが、なのはのようにサーチャー等探索に適した技や能力を持っていないバルトは見つけるのに苦労していた。
「だから俺が囮の方が良かったんだよ………!!」
イライラが募り、愚痴を言わずにはいられなかった。
「くそっ、こうなったら………」
そう呟きながらバルバドスに魔力を込めた………
「………」
イクトはヴィヴィオと戦うなのはの映像を見ていた。
複雑そうに、そして何を思っているのか、ヴィヴィオに埋め込んだエリックの出力を一定まで上げた後、それ以上は弄らず状況を見ていたのだ。
「何で私はこうも心が揺れているの………?」
ざわつくような心の中の自分。その原因は何か分からないままずっとイクトは過ごしていた。
「だけど私はドクターの為に………」
そう自分に言い聞かせながら操作しようとするが、それでもやはり手が止まってしまう。
『ヴィヴィオ、もうちょっと我慢してね…………!!』
映し出されている映像になのはが懸命にヴィヴィオに声を掛けている。その光景を見ると再び心が揺れていた。
「私は何を迷っているの………?」
自分の事なのに自分自身の事が分からない。そんな思いを抱えながら映像を見ていた。まるで見つからない答えを映像から見つけようとしているみたいに………
『教えてやろうか………?』
「!?」
そんな1人言に答える声があった。
『やっと見つけたぜ!!』
そんな大きな声と共に大きな爆発音が響く。
「な、何よ一体!?」
「はぁはぁ………よう、久方ぶりじゃねえか………」
激しい呼吸ながらそう答えるバルト。かなりの疲労が見えるが、ふてぶてしい笑みは健在だった。
「バルト・ベルバイン!?どうしてここが!?」
「俺には……何かを探すとかそんなまどろっこしい…真似は出来ねえ。………だったら単純にぶっ壊しまくって見つければいいと………思ったからそうしただけだ」
そう言うバルトの後ろは先ほどまで綺麗だったゆりかごの広い通路は見る影も無く、まさかに爆撃の後の様な光景に変わっていた。
「まさか………」
「聖王器ってのはやっぱり普通とは違うな。威力も全然違うぜ………」
呼吸も落ち着き、いつも通りの口調に戻るバルト。
「ここ周辺を本当に力ずくで当たって見つけたってわけね………」
「その通りだ。………さて、説明も終わった事だし、早速だがヴィヴィオを止めてもらおうか………」
そう言ってイクトにバルバドスを向け、脅すバルト。
「嫌だと言ったら私を殺しますか?」
「いいや、俺の言う通りにすりゃあ殺しはしねえ」
「………私はドクターを裏切れません、殺すなら殺せばいい」
「ほう………大した忠義心だな。お前の兄妹だった奴等もそうやって道具の様に見捨てるあのクソ野郎のためによくもまあそこまで出来るな」
「当然です………だって私達はドクターに造られた………」
「戦闘機人ってか?頭でっかちだな………お前も見たろ?お前達と同じ境遇ながら家族の様に幸せに生きようとする次元犯罪者とその娘達の姿をよ」
そう言われ、イクトは何も言わず複雑そうな顔でバルトを睨む。
「何だ?不愉快そうだな」
「当たり前です、あの不完全な戦闘機人と比べないで!」
「不完全か………本当はどっちが不完全なんだろうな………」
「何ですって………?」
「お前もそれを肌で感じてるんじゃねえのか?」
再びそう指摘されまたも言い返せず睨み返すだけになってしまった。
「返す言葉が出ないか?」
「わ、私はドクターの為に存在してるの!!あの子達みたいに自由に生きている訳じゃ無いわ!!」
「それが戦闘機人らしいんじゃないのか?俺にとって戦闘機人の定義は分からねえが俺はあいつ等の方が人間らしいな」
「人間らしさなんて………」
「だが、それが無ければお前等はあのブラックサレナと同じ人形と変わらねえじゃねえか」
「そんな事無いわ!!私はあの人形達とは違って自分の意志でドクターの為に働いているの!!」
「そのドクターの考えにお前は疑問を抱いてるんじゃないのか?」
「な、何を根拠に………」
「その自分に言い聞かせている様な話し方だ。一生懸命自分の気持ちを隠して、押し留めて………いや、自分の気持ちの変化に気づいていない………もしくはそう思いたくないって所か?」
「自分の気持ちの変化………」
バルトの言葉に深く考えるイクト。
「お前、スカリエッティの戦闘機人達と会って羨ましく思ったんじゃないか?あいつらは普通の人間みたいに生活してたからな………そう言えばお前の他に戦闘機人を見た覚えが無いが………」
「………覚えていないのかしら?あなたが倒したクロネを含めて全員で5人居たわ。そう居たのよ………」
「俺が倒した奴以外はどうなったんだ?」
「ドクターの実験や仕事でどんどんいなくなったわ。気が付けば私だけ残ってしまった………ドクターは彼女達の事なんて覚えてないでしょうね………」
と悲しい顔でそう洩らすイクト。
「お前………姉妹がいるスカリエッティの戦闘機人達が羨ましいんだな………」
「そんな事………それに私はドクターの為に造られたのよ?」
「そうだとしてもそう思うって事はお前はただの道具とは違うって事だ」
「私は………」
その後言葉がでなくなってしまうイクト。
(………やりづれえ)
やはり変わったのか、以前のバルトは平気で脅してでも力づくで従わせたのだが、今ではそれが出来ないでいた。
「私は………どうすれば………?」
「それを俺に聞くのか?」
「だって………私にとってこんな風になるのは初めてなのよ………だからどうすれば良いのか分からないの………今まで通りドクターの言う通りにしていれば良いのかしら………?」
「だからそれは自分で決めるんだろうが………」
と頭を抱えながら呟くバルト。
「だからこんな気持ちになるのは私初めてなの!!私もどうすれば良いのか分からない!!ドクターの為とも思えるけどそれと同じ位、皆幸せに過ごす姿を見ると私も嬉しくなる………でもそうすればドクターを裏切る事になる…………私は、私は!!!」
「ああもうまどろっこし!!!今クレインの所に居て、そんなに悩んでるならクレインの所から離れてみれば良いだろ!!その後、会わなかったらまた戻れば良い!!!」
「ドクターは許してくれるかしら………?」
「知るか………ってか俺はお前の悩みを聞きに来た訳じゃねえんだよ!!いいから早くヴィヴィオのレリックを止めろっての!!」
「わ、分かったわ!!」
バルトに怒鳴られ、慌てて操作を始めるイクト。
「………あれ?」
「ん?どうした?」
「私の操作を受け付けない………?一体どうして………?」
『停止操作をしたと言う事はやはりイクトは私を裏切ったって事だね、やはり余計な感情を持たせたことが仇となったわけだね』
「ドクターの音声………?」
その後、正面の画面にクレインの顔が映し出されていた。
『悪いが、ゆりかごのエンジンでもある聖王を失うわけにはいかない、邪魔は刺せないよ』
「クレインの野郎、こうなる事も想定してたってか!!畜生!!!」
「ドクター、私は………」
『イクト、今までありがとう。だけどもう用済みだ。後は好きにするといい』
そうメッセージを残し、映像は消えてしまった。
「……………嘘だろ?」
バルトはヴィヴィオの事もそうだが、まさか本当にイクトが協力し、そして見捨てられるとは思っていなかった。
そしてその原因を作ってしまった事に残悪感を抱いたが頭を振って吹き飛ばした。
「イクト、何か………スマン…………」
俯き、落ち込んでいる様に見えるイクトにバルトは頬をかきながら申し訳なさそうに謝った。
「…そうだ………そうです、そうですよ!!」
まるで三段活用みたいな単語を並べて少しやけになっている様な口振りで顔を上げた。
「な、何だ!?」
「こうなったのも全部あなたが悪いんです、責任を取って下さい!!」
「せ、責任って………俺はどうすれば良いんだよ?」
「わ、私の面倒を見て下さい!!」
「はぁ!?」
あまりにも唐突な言葉にバルトは普段上げる事の無い様な高い声を上げた。
「私が満足するまであなたについて行きます!!」
「ちょっと待てって!!勝手に決められても俺だって色々と………」
「同意してくれれば、聖王を救うのに協力します。どうです?」
そう条件を問われ、断れず唸るバルト。
状況的には願ったり叶ったりだ。殆ど分からない状態のなのはとバルトだけでは今のヴィヴィオを救う手立てが無い。用済みだと捨てられたとは言え、今までずっとイクトがヴィヴィオのレリックコアの調整をしていたのだ。
(分かってる、分かってんだ………だが………)
事件解決後を想像して中々バルトは縦に頷けないでいた。
(くそっ、ラブコメは零治だけで良いのによ………)
そう思いながら深くため息を吐き、覚悟を決めた。
「………分かった、条件を飲もう。だから協力してくれ」
「分かりました。よろしくお願いします………ご主人様?」
「お前それは絶対に止めろ!!!!!」
「さあ、着いたわよ」
カフェを出てどの位時間が経ったのかよく分からなかったが、ずっと暗い何も無い空間をクレアについて行く形で進み、ある程度進んだ所で突然クレアが止まった。
「着いたって……ここは何も無いただ真っ黒なだけの空間じゃ………」
「そうね。………だけどここが有栖零治の精神世界。もう崩壊はほぼ完了して何も無いただの真っ暗で何も無い空虚な空間だけどなったの」
「それじゃあレイは………」
「言ったでしょ、もう手遅れだって」
淡々と語られず真実に次第に3人の顔にも絶望感が現れ始めた。
「嘘だ!!レイがそう簡単に………」
「ええ、実際かなり時間がかかったわ。でも身体を奪った私なら分かる。もうこの身体に有栖零治の精神は………」
「あ……ああ………」
その宣告は今まで星達を支えて来たものをへし折った。クレアの話を信じたのはこの特殊な場所にいるからこそだった。真っ暗ながら僅かに感じる零治の残滓。それがクレアが嘘をついていないと分かってしまったのだ。
「まだよ、まだ間に合う!!」
しかしそんな中エリスだけは諦めないでいた。
「僅かでも、私達に見えない様な塵でも………全部集めてみせる!!」
エリスの身体が光り、暗闇だった精神世界に光が入る。
「無駄よ………確かにある程度の塵となっていた精神が目覚め始めるかもしれないけど、それをほぼ修復できるほど人の精神は簡単じゃ無いわ。集め終える前にあなたが潰れる」
クレアの言う通り、エリスの集めるスピードは遅い。それなのにどんどん疲労が溜まっている様に見えた。
「何をしているの3人とも!!あなた達の声で零治を呼び起こすの!!!零治なら絶対にあなた達の声に応えてくれる!!!!諦める前に最後なで足掻きなさい!!!!!」
血を吐く様な叫び声を上げるエリス。しかしその声は3人を動かすのに充分だった。
「「「レイ~!!!」」」
聞こえているか分からない中、3人は涙声で必死に名前を呼ぶ。
「無駄よ………もう諦めなさい………」
クレアがそう言うが誰も諦めなかった。
「「「レイ~!!!」」」
遠くへ響くようにと自然に声が揃う。
しかし変化は無く、ただ虚しく声が響くのみ。
「孝介………あなたを待ってる大切な人が居るのよ………早く、来なさいよ………!!」
脂汗を掻きながら必死に残滓を集めようと頑張る。
だが、ずっと呼び続けても結果変化は無く………
「レイ………」
声はかれ、赤い目で星は名前を呼び続ける。
「レイ………会いたいよぅ………」
そう呟きながらもライも続けて呼び続ける。
「レイ………早くせぬかバカ者………」
夜美もかれた声で呼び続ける。
だがそれでも変化は無かった。
3人はそのまま俯いてしまった。
「………もう気が済んだでしょ?諦めて戻りましょう?戻っても私はもう敵対するつもりは無いし、クレインの協力も止める。だから………」
「!?待って!!」
クレアが話している中、いきなりエリスが割り込んだ。
「何よ………」
「見て………」
小さな光が暗闇から徐々に一点に集まっていく。
「これは………まさか!?でも完全にバラバラになった残滓がまた一点に集まるなんて事………」
『………音がする』
相変わらず何も見えない、聞こえない空間に佇む。しかしその中でも徐々に消えいく筈の意識がピタリと止んでいた。
『………声?』
聞こえない筈のこの暗闇の空間で誰かを呼ぶ声が聞こえる。
『懐かしい………何でこんなに落ち着くんだろう………』
不思議と心が落ち着き、安らぐ。
『呼んでる………誰を?』
声が泣き声に聞こえる。何故だろう、そのままではいけない様な気がする。
『行かなくちゃ………』
声の主が誰だか分からない、だけど行かなくてはいけない。
『俺は………あいつ等の元に戻るんだ!!』
「光………?」
自分達の目の前に光が集まっている事に気が付き、顔を上げた。
「あっ………」
小さな光の粒達は徐々に集まって行き1人の人間の形に変わっていく。
「まさかこんな事が………!!」
「よし!!後はこのままいけば………!!孝……零治、帰って来て!!!」
ここぞと言わんばかりにエリスの発していた光も更に光る。
そしてその光に導かれるかのように光の残滓が徐々に集まっていく。
「レイ………」
「レイ………帰って来て!!」
「帰って来てくれレイ!!!」
完全な人の形になった瞬間、その暗闇だった世界は視界が見えなくなるほどの眩しい光に包まれた。
「…………懐かしいこれは初めて会ったときの………」
光が消えると世界は一変し、そこは孝介と零治が生きた記憶が立ち並ぶ世界に変わっていた。
「これは私達が初めて会った………」
「これは僕とバッティングセンターに行った時の………」
「我と2人で買い物した時の記憶………」
「星、ライ、夜美………」
その声に3人はビクンと体が震える。
「ただいま………そしてありがとう、俺はまた3人に助けられた………」
「………ううん、お帰りレイ」
星がそう答えた後、3人は零治に抱き付いた、その存在を絶対に手放さない様に。
「そして、久しぶりだなエリス」
「ええ、孝介。………でも私は本当は貴方とは………貴方を死なせてしまった原因を作った私は決して貴方とは………」
「エリス………ありがとう」
「えっ!?」
「エリスのお蔭で俺は星達、そして大事な家族が出来た。こんな俺をここまで大事に思ってくれる大事な人達………お前が俺を転生させてくれなかったら叶わなかった事だ」
「!?何でそれを!!」
「先輩のカフェでの話、今俺自身が戻った事で頭の中に残っていた。………いや、これは俺の精神の中だからそう言う言い方はおかしいか………?ともかく!!お前が神様に願ってくれなかったらこうやって転生も出来なかったし、3人にも会えなかった………」
「そんな私は………私のせいで………孝介は………」
悔しそうに俯きながら呟くエリス。その目には涙が浮かんでいた。
「いいや、あれはエリスのせいじゃない、それに例えエリスのせいだったとしてももう、充分見返りは貰ってるよ。………俺は今本当に幸せなんだ、その幸せをくれたエリスに罪なんてものは無いよ」
「孝介………」
「だから………エリス、本当にありがとう!」
顔を上げ、零治を見たエリスに零治は笑顔でお礼を言った。
(………ああ、この笑顔だ。私が本当に見たかった顔は………)
自分にではなく、オリヴィエだけに見せた笑顔。それを見た瞬間、クレアの中の感情がねじ曲がってしまった。
(例え、隣にいてもらえなくても………大好きな人が見せる笑顔を見れれば、私も気持ちが変わったのかもしれない。それなのに、この世の終わりみたいに思って暴走して………)
そして最愛の者をこの手で殺し、その人の大事な人を殺し、狂気のまま殺された。
(惨めね………そんな事じゃ絶対に幸せになんかなれない事は分かっていたはずなのに………)
そう思いつつ、抱き付く3人を見る。
(おめでとう、3人共………)
そんな3人をクレアは心の内で祝福するのだった………
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