ラオコーン
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第七章
「父上と同じく」
「何があろうともトロイアの同胞達に木馬のことを言います」
「例え信じられずとも」
「何としても」
「わかった、ではだ」
「そこまで言うのなら」
ポセイドンとヘラは頷き合った、そして。
ラオコーン達にだ、トロイアの方を指差してそのうえで言ったのだった。
見ればトロイアの方が燃え盛っていた、夜の闇が炎で赤くなっていた。その紅蓮に燃え盛る炎を見せて言うのだ。
「見よ、そなた達が守ろうとした街はだ」
「今滅んでいるわ」
「何と・・・・・・」
その燃え盛る街を見てだ、ラオコーンも息子達も唖然となった。そのうえで言うのだった。
「もうなのか」
「ギリシアは策を動かしたのか」
「そうだったのか」
「これは我々も想定しなかった」
ポセイドンがここでこう言った。
「トロイアの者達は早いうちから宴をはじめていたな」
「馬鹿な、幾ら何でも油断し過ぎだ」
歯噛みしてだ、息子達は苦しい声で言った。
「まだギリシアの者達は城壁の外にいたのに」
「それで勝利の宴をするなぞ」
「一体何を考えていたのだ」
「せめて、木馬の中を確かめて」
「我等の望みは適った」
ポセイドンはラオコーン達に顔を戻して告げた。
「トロイアは滅んだ」
「これで」
ヘラも言う。
「このことは終わったわ」
「つまりだ、もう御主達に用はない」
ポセイドンの言葉の色が変わった、強い言葉はそのままだがそれまであった強制するものはなくなっていた。
「命を奪う必要はなくなった」
「では」
「この蛇は返す」
こう言ってだ、トロイアが燃えたその時から動きを止め己の横に控えている巨大な海蛇にトライデントを向けた。
トライデントを向けられるとだった、蛇は大人しく引き返し海に戻った。そうして闇の海の中にその巨体を消した。
その蛇を見届けてからだ、ポセイドンはラオコーン達に言った。
「状況が変わった、我等に御主達を消す理由がなくなった」
「それでは」
「何処なりとも行くがいい」
好きにしろというのだ。
「ここで国と共に身を投げるなり国に戻るなりな」
「国に殉ぜよと言われるか」
「それは好きにするのだ」
またこう返すポセイドンだった。
「御主達のな」
「そう言われるか」
「より言えば私達はトロイアを滅ぼす考えではあったわ」
また言うヘラだった。
「けれど人には興味はないわ」
「それでは」
「国は滅んでも人は残るわ」
それでだというのだ。
「人を救うのなら好きにすればいいと言っておくわ」
「我々はその邪魔はしない」
ラオコーン達がトロイアの同胞達を助けることはというのだ、ポセイドンもそのことは言う。
「自由にしろ」
「そうですか」
「では我等はこれで帰る」
ポセイドンは海に、ヘラはオリンポスにだ。
「そうさせてもらう」
「もう我々の命は奪わないと」
「トロイアが滅んだのに何故御主達を口封じで消すのだ」
「その必要はなくなったと言ったわね」
神々はまた彼等に告げた。
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