離れられない愛
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第二章
第二章
「そう、何があろうともそれはないから」
「私もそう思いたいわ」
しかしその声は弱々しいものだった。
「けれどね。それはもう」
「そんな、私は君がいないと」
「あなた」
フランチェスカはその夫に対してまた声をかけてきた。
「今まで有り難う」
「有り難う・・・・・・」
「私は先に逝くわ」
やはり死を感じている言葉だった。これは変わらない。
「けれどね。それでも」
「それでも。何だい?」
「私はいつもあなたと一緒にいたいわ」
こう夫に話すのだった。
「一緒にね」
「そう。一緒に」
「死んでも。それでも」
共にいたいというのである。
「いたいから。それだけ聞き遂げてくれるかしら」
「うん、いいよ」
ロレンツォも妻のその言葉に頷いた。若い頃の溌剌とした美しさがそのまま残った顔で。その顔には髭はない。若い頃の思い出をそのままにする為に剃っているのである。
「じゃあ。私達は」
「何時までも。一緒に」
こう言い残しそのうえでフランチェスカはこの世を去った。ロレンツォはそれを見届けるとすぐに家臣達に命じたのであった。その命令とは。
「まずは画家を集めてくれ」
「画家をですか」
「そうだ。そして彫刻家もだ」
それも集めよというのだった。
「それは同じでもいい。いいな」
「画家に彫刻家ですか」
「すぐにですね」
「このイタリア半島にいる優れた画家や彫刻家を全て集めるのだ」
彼はこうも告げた。
「いいな。すぐにだ」
「はい、それではすぐに」
「そう致します」
こうしてイタリア中から実際に著名な画家及び彫刻家が集められた。その中にはあのレオナルド=ダ=ビンチもいたしミケランジェロもいた。そしてラファエロも。何と彼等は同じ時期にロレンツォの屋敷に招かれることとなったのであった。
「全く。因果なことだな」
「本当にな」
ダ=ビンチとミケランジェロはお互いに顔を見合わせると早速不機嫌な顔を見せ合った。
「あんたと一緒の場所で仕事をするとはな」
「話を聞いて止めようかとも思ったぞ」
ミケランジェロはその鼻が曲がった赤い髪と髭の顔でダ=ビンチに言い返した。
「しかしわしは彫刻だ」
「わしは絵だ」
ダ=ビンチもその白い髭を長く伸ばした顔で言う。
「描かせてもらう」
「あんたのそれには負けんぞ」
ミケランジェロはもうライバル意識を見せていた。
「君にもな」
「私は絵でも彫刻でもありませんけれどね」
ミケランジェロに声をかけられた若い男が彼に返してきた。ミケランジェロに対しては睨んでいるがダ=ビンチには好意的な目を見せている。
「あるものを作らせてもらいます」
「あるものとは?」
「それは作られてからのお楽しみです」
その若者ラファエロは今はそれを言おうとはしなかった。
「しかし」
「しかし?」
「どうしたというのだね」
ミケランジェロだけでなくダ=ビンチも彼に問うた。
「いえ。この仕事は必ず実りのあるものになります」
ラファエロは二人に対して微笑んで述べるのであった。
「必ずや」
「そうだな。わしもそう思う」
「私もだ」
このことについてはダ=ビンチもミケランジェロも同じ考えであった。彼等も今回引き受ける仕事は必ず実りあるものになると確信していた。
「それではだ。早速取り掛かるか」
「あんたには負けんぞ」
ミケランジェロは早速ダ=ビンチにライバル心を剥き出しにしていた。ラファエロはそんな彼を苦々しい顔で見ていた。彼等の関係は仕事とは別にこのままだった。
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