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セイレーンの意地

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第一章

               セイレーンの意地
 イアソン達ギリシアの英雄が乗っているアルゴー号は航海を進めていた。その中でだ。
 テーセウスがだ、周りを見て仲間達に言った。
「そろそろアンテモエッサ島だな」
「あの島か、確か」
 英雄達の盟主であり今回の冒険の主導者であるイアソンがテーセウスのその言葉を受けて眉を顰めさせて言った。
「セイレーン達がいるな」
「そうだ、あの魔物達だ」
「河の神オケアノスの娘達だった」 
 そうした意味では神の血を引いている、しかしなのだ。
「手強い魔物だな」
「問題はその歌声だ」
 テーセウスが指摘するのはこのことだった。
「あの歌声を聴くとな」
「それに聴き惚れてだったな」
「先に進めなくなる」
 そうすることが嫌になるのだ。
「そしてアンデモエッサの島に留まりな」
「死ぬまでそこにいることになるそうだな」
「そうしたいか」
 かなり真剣な顔でだ、テーセウスはイアソンに問うた。
「ここで冒険を終わらせたいか」
「そんな筈はない」 
 間違っても、という言葉だった。
「私は何としても黄金の羊の毛を手に入れなければならない」
「そうだな、ではな」
「先に進む」
 これがイアソンの出した答えだ。
「セイレーンを退けてな」
「しかしだ」
 テーセウスはそれをよしとした、イアソンの考えは。
 だがそれと共にだ、イアソンにこうも問うのだった。
「セイレーンを避けてもな」
「ここを通らねばならないが」
「引き返すことになるが」
「それは出来ない」
 強い声でだ、イアソンはテーセウスに答えた。
「先に進む為にはな」
「ここを通るしかないな」
「セイレーン達のいる場所を通るしかな」
 まさにというのだ。
「それしかない」
「そういうことだな」
「そうだ、しかしな」
 それでもだった、イアソンもセイレーンのことをよくわかっているのでそrでだった。彼は強い声で言うのだった。
「セイレーン達の歌に勝つしかないが」
「どうするかだな」
「それでしたら」
 ここで一人の英雄が名乗り出た、その彼はというと。
 他の逞しい英雄達と違い細い、女性的ですらある。流麗な感じの美しい顔立ちだ。
 オルフェウスだった、その彼がイアソン達にこう言うのだった。
「私が」
「君の琴と歌でか」
「セイレーン達を退けるというのか」
「はい、そうしてみせますが」
 こう名乗り出るのだった。
「ここは」
「そうしてくれるというのか」
「ここは」
「はい、それでどうでしょうか」
「頼めるか、それでは」
「セイレーン達に勝ってくれるか」
「歌と琴でしたら」
 つまりだ、芸術ならというのだ。
「私も絶対の自信がありますので」
「アポローンとムーサの子として」
 共に芸術の神である、オルフェウスもまた神の血を引いているのだ。
「それ故にだな」
「このことでは誰にも負けるもりはありません」
 それも全く、というのだ。
「ですから是非共ここは」
「よし、わかった」
 ここまで聞いてだ、確かな顔で頷いたイアソンだった。そして。
 オルフェウスにだ、こう言ったのだった。
「それではな」
「はい、それでは」
「セイレーン達を退けてくれ」
 イアソンもオルフェウスの歌と竪琴のことは知っている、それはテーセウスも他の英雄達もだ。それでだったのだ。 
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