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愛撫

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第三章

「あなたは本当に変わらないわね」
「悪い男か」
「とてもね」
「カタギだがな」
「犯罪はしていないっていうのね」
「これでもモラルはあるつもりだ」
「そういう問題ではないわ」
 そう、法律とかそういう問題じゃなかった。この人は。
「人間として悪い男よ」
「そう言うか」
「ええ、本当にね」
「悪い男が嫌なら拒めばいい」
 これが彼の返事だった、ベッドの中で私と一緒にいてそこで煙草を吸ってその煙を部屋の中にくゆらせながら言う。
「俺は構わない」
「言うわね」
「拒むのなら拒め」
 また言う彼だった。
「それならな」
「拒まなかったらどうかしら」
「また来る」
 暗い部屋の中で私の横から言ってくる。
「それならな」
「言うと思っているのかしら」
 私は少し苦笑いになって彼に言った。
「私が」
「そうか、ならな」
「今度は何時来てくれるのかしら」
「それはわからない」
 平然とだ、彼は私に言ってきた。
「俺にもな」
「気が向いたままなのね」
「そうだ」
 とんでもないことを平気で言うと思った、彼の言葉を聞いて。
 けれどそんな私の気持ちにお構いなしに言う彼だった。
「また来る」
「明日かも知れないのね」
「二度と来ないかもな」
「その時私が他の誰かと一緒ならどうするつもりかしら」
「その時は帰るだけだ」
「私をその誰かから取り返そうとはしないのね」
「御前がそうしたければそうする」  
 これがこのことでの私への返事だった。
「それだけだ」
「素っ気無いわね」
「俺はこういう人間だ、それでもよかったらな」
「また来てなのね」
「こうする。それでいいな」
「本当に勝手で悪い男ね」
 私は思わず苦笑いになった、だが。
 それでもだった、こう彼に言った。
「けれど何時来てもいいわよ」
「ならそうする」
 彼は私に応えて煙草を吸い終わってからまた私を抱いて愛撫をしてきた。私は「久しぶりにその愛撫を楽しんだ。
 そしてだ、次の日にオフィスで親友に昨日の夜のことを話した。すると彼女は呆れた顔で私にこう言ってきた。
「相変わらずね」
「彼がかしら」
「彼もあなたもよ」
 どちらもだというのだ。
「そんな自分勝手な男がいてね」
「私もなの」
「そんな自分勝手な男を好きなのが」
「悪い男だけれどね」
「けれどそれがかえってなのね」
「忘れられないから」
 これまで何人かの人と付き合ってきた、けれどその中でも彼が一番印象的なのだ。その自分勝手さも愛撫のことも。
「だからね」
「嫌いじゃないのね」
「好きよ」
 私は彼女に自分の彼への感情をありのまま一言で話した。
「彼のことがね」
「そんな自分勝手で浮気者で無愛想な悪い男が」
「好きなのよ」
「今度は何時来るかわからないけれど」
「来た時はね」
 その時はだった。
「勝手にお部屋に入ってくるけれどね」
「追い返さないのね」
「そうすると思うわ、今度も」
「やれやれね。じゃあね」
「それじゃあっていうのね」
「あんたの好きな様にすればいいわ」
 呆れながらも認めている笑顔で私に言ってきた。
「これからもね」
「そうすると思うわ、自分でもね」
「悪い男ね」
「手の使い方が上手なね」
「そんな男だからこそなのね」
「好きなのだと思うわ」
 悪い男、けれど悪い男だからこそ魅力を感じていた。それで私は彼を拒まなかった。それはこの時だけじゃなかった。 
 また暫く時が経って彼が自分勝手に部屋に入ってきても拒まなかった。そうしてまた彼に抱かれ愛撫を受け入れた。そうしてまた彼を待つのだった。次に来る時を。


愛撫   完


                             2014・3・1 
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