一人より二人
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第二章
第二章
「それは・・・・・・」
「だって最近」
翔太は絶句する姉に対して言葉は続けた。彼のペースになっていた。
「奇麗になったから」
「そうかしら」
「そうだよ。だからわかったんだよ」
にこりとした顔で姉に言うのだった。スパゲティをフォークで食べながら。
「いいんじゃないの?」
次の言葉はこうであった。
「好きな人ができたらそれでさ」
「いいって」
一番気にかけていた翔太からの言葉だ。やはり戸惑わずにはいられなかった。
「どういうこと?いいって」
「だってさ。こういうのって僕が口出しすることじゃないし」
また姉に対して述べるのだった。
「好きにしたらいいよ、お姉ちゃんの」
「いいの?」
それを弟に対して断ろうとさえ思った。だが彼はそれに気付いているのかどうかわからないがそれより前に言ってきたのであった。
「それで」
「いいよ。お姉ちゃんもさ」
言葉は続く。
「もうそんな時じゃない。それに」
「それに?」
「僕だけじゃなくていいから」
こう述べるのだった。
「お姉ちゃんはお姉ちゃんの好きな人を好きになって。御願いだからね」
「それでいいのね」
「だからいいんだって」
今度は苦笑いになった。困ったような。
「それどころかそうなってもらわないと困るから」
「困るの」
「そう、困るんだよ」
こうも言うのだった。
「あんまり僕のことばかり気にかけて自分のことはいいなんて。そういうのって僕も嫌だから」
「だからいいのね」
「そうだよ。だから寮に入るんだし」
心配りはそこまで及んでいたのだ。あくまで姉を気遣っていたのだ。
「いいよ。というかそうして」
「わかったわ」
弟のその言葉に顔を上げた。それから笑顔で応えるのだった。
「じゃあ。そうさせてもらうわ」
「御願いだよ。もうお姉ちゃんも自由になって」
今度の言葉はこうであった。
「僕の為に必死にならなくていいからね」
「有り難う」
あくまで自分に心配りを見せる弟に礼を述べた。目を濡らしながら。
「じゃあ。いいのね」
「だからいいんだって」
また姉に対して告げたのだった。優しい顔で。
「そんなに気にしないでよ。お姉ちゃんだって幸せにならないといけないんだから」
「私も?」
「だってそうじゃない」
言葉は続く。あくまで姉を気遣うその気持ちが言葉になって出る。それであった。心がそのまま言葉となって出ているのであった。
「お姉ちゃんにはお姉ちゃんの幸せがあって」
「ええ」
「僕には僕の幸せがあるんだからね」
「そうなの」
「僕の幸せを今まで願って。頑張ってくれたんだから」
さらに告げる。彼の心をそのまま。
「幸せになって。いいよね」
「・・・・・・いいわ」
スパゲティが少し辛くなったように思えた。塩辛く。しかしそれは気のせいではなかった。本当に塩辛くなっていた。それでも美味しく感じた。弟の心をそのまま感じ取ったからだ。
華は光平と付き合うようになった。彼は華の思った通りの好人物であり華のことを優しく守って慈しんでくれた。彼女はこのことに感謝しながらもうすぐ家を出るという翔太を育てていた。彼は見事高校に受かり家を出ることになった。それが決まったがしかし。思わぬことが起こるのだった。
翔太が高校に合格しささやかな祝い事をした次の日。弟の幸せに喜びながら通勤し仕事にかかりだした華のところへ。電話がかかったのだった。
「はい・・・・・・え」
話を聞いて絶句した。その次に顔を蒼白にさせた。その翔太が事故に遭ったのだ。
「それで弟は・・・・・・はい」
心を何とか保ちつつ話を聞く。交通事故に遭ったという。通学中道を横切っているところに居眠り運転のトラックにはねられたのだ。無事を必死に尋ねる。しかし。彼女は入院先を告げられただけだった。
「それで・・・・・・そうなのですか」
とりあえず命は助かったということだけは聞き出すことができて安堵する。しかし。上司に詳細を告げて会社を早退させてもらった。それからすぐにその病院に向かうと面会謝絶だった。そしてそこで弟のことを詳しく教えられたのであった。
「生きてはいるんですね」
「・・・・・・はい」
初老の落ち着いた紳士といった外見の医師が出て来て彼女に告げた。しかしその顔は沈痛なものでありそれだけで弟の状況がわかるものであった。
「ですが意識はありません」
「意識が」
「頭部や脊椎、腰に損傷はなかったのですが」
華はそれを聞いてまずはまた安堵した。その辺りに怪我がなければまずは後遺症の心配はない。そのことにとりあえずはほっとしたのである。
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