戦国異伝
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第百八十五話 義昭の挙兵その十一
「一体」
「わかりませぬ、我等にも」
「この有様は」
「お二人も兵もおらず」
「最早室町第にも」
「どうすればよいのじゃ」
最早だ、義昭には考えが思い浮かばなかった、しかも。
ここでだ、表から別の兵が飛んで来て言って来た。
「上様、織田信長が門のところに来てです」
「何と言っておるのじゃ」
煙と熱にうだり苦しみながらだ、義昭は自分と同じ様になっている兵に問うた。
「あ奴が」
「はい、何でも降ればです」
そうすれば、というのだ。
「命は取らぬ、そして帝よりです」
「帝よりとな」
「都の乱を鎮める様に言われていると」
「あ奴がか」
「はい、ですから我等は」
「余が賊というのか」
そう言われていることがわかりだ、義昭はその蒼白になっていた顔を真っ赤にさせて叫んだ。
「馬鹿を申せ、余は将軍であるぞ。その余が何故賊なのじゃ」
「兵を挙げ都の民達の安息を乱したと」
「だから賊か」
「そして織田信長がです」
「それを鎮めるというのか」
「帝の文を受けて」
「何ということじゃ」
真っ赤になっていた義昭の顔が蒼白に戻った、そうして。
その場にがっくりと膝を崩れ落ちさせてだ、こう言った。
「余が賊となるとは」
「ですが帝は仰ったそうです」
「何とじゃ」
「織田信長に降り出家し今後一切世に出ぬのなら」
「お許し頂けるというのか」
「その様です」
兵は義昭に告げた。
「それでどうされますか」
「帝に賊とされしかも囲まれ兵達もおらぬのではどうしようもない」
死んだ様な目になってだ、義昭は言った。
「このまま蒸し焼きにされるだけじゃ」
「さすれば」
「山城の国人や寺社はどうじゃ」
最早そのことも察しがついた、しかしそれでも問うたのだ。
「動いておるか」
「いえ、全く」
「全くか」
「どの者も公方様の文に応えませぬ」
「そうか、それではな」
「降られますか」
「負けたわ」
呆然として出した言葉だった。
「最早な」
「では」
「幕府も余も終わったわ」
義昭は虚ろな声で言う。
「何もかもが」
こう言ってだった、義昭は信長に降ることにした。このことはすぐに信長に伝えられ信長は藁の火を消させた、そして。
信長は信行達と共に自身に降った義昭と会った、だが。
彼は魂が抜けた様に虚ろに何も見ずぶつぶつと何かを呟いているだけだった。項垂れ姿勢も抜け殻の様だった。
その義昭を見てだ、信行が信長に囁いた。
「兄上、これでは」
「うむ、わしの言葉もな」
「届かぬかと」
「致し方ない、それではな」
「はい、それでは」
幕府に残っていた僧侶がだ、義昭の代わりに信長に応えた。
「拙僧が」
「話をしてくれるか」
「はい、そうさせて頂いて宜しいでしょうか」
「頼む、ともかくな」
「公方様はですな」
「降られたからな」
それでだというのだ。
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