戦国異伝
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第百八十五話 義昭の挙兵その九
「それを待つのじゃ、今は」
「さすれば」
「このまま」
「皆の者、臆することはない」
全く、と言う義昭だった。
「このまま守るのじゃ、兵糧もある」
「畏まりました」
「それでは」
兵達、最早殆どが闇の服に具足だった。その彼等は義昭に忠実に応えた。そのうえで室町第に籠城を続ける。
その彼等をだ、藁が囲み。
そして火が点けられる、火は確かに室町第には届かない。堀とその中の水によってそれは阻まれていた。
だが、だ。その熱と煙が第と彼等を襲う。その煙と熱さを受けてだった。
義昭は眉を曇らせてだ、兵達に問うた。
「この煙と熱はどうにかならぬか」
「はい、うって出て除こうにも」
「周りは織田家の大軍が囲んでおります」
「正門のところだけは藁がありませぬが」
「そこにも織田家の軍勢がおります」
それでだというのだ。
「とてもです」
「どうにもなりませぬ」
「何とかせい、このままでは蒸し焼きになってしまうぞ」
彼等に無理と言われてもだ、こう言う義昭だった。
「誰かうって出てじゃ」
「織田家の大軍にですか」
「そうして」
「そうじゃ、藁をどけよ」
煙と熱の素であるそれをだというのだ。
「堀の中に入れてそこの水で消してしまえ」
「しかしそれは」
「どうにも」
「ええい、何とかするのじゃ」
まだ言う義昭だった、声が感情的になりかん高くなっている。
「さもないとどうにもならぬわ」
「では門から」
「出て」
「早く兵を送れ」
無理と言われても無理で返す。
「よいな、すぐにじゃ」
「ううむ、では」
「天海様と崇伝様に」
闇の服を着ていない兵達は致し方ないといった顔で義昭に述べた。闇の色の服の兵達は一切言わなかった。
「お話しましょう」
「そうして決めましょう」
「なら早くせよ、このままでは煙に卷かれて死ぬぞ」
そして熱に焼かれてだ。
「よいな」
「はい、さすれば」
「何とか」
こうして話を決めてだ、そのうえでだった。
義昭は第の外に兵を送ろうとする、そして天海と崇伝にも人をやろうとしたしかし。
正門の前に青く全身を覆った南蛮のそれを思わせる具足にそちらの戦袍を思わせる青の陣羽織の者が馬に乗り出て来た。そしてその傍には。
「あの馬印、まさか」
「間違いない、織田信長ぞ」
「あの具足と陣羽織もじゃ」
「織田信長のものじゃ」
「間違いないぞ」
兵達がこう言い合いだ、すぐにだった。
義昭のところに飛んで行ってだ、彼に対して告げた。
「上様、大変です」
「織田信長が来ました」
「正門に来ております」
「今ここに」
「何っ、そんな筈がないわ」
義昭は彼等の言葉を聞いて飛び上がらんばかりに驚いて言った。
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